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「わたくしは自分の立場と価値を理解しております。ですから、貴方に執着することはありえません」


 立ち姿の凛々しい王女然とした少女が冷静に言い放つ。


「あ……」


 言われた公爵令息は悲しげに目を潤ませた。




〰️ 〰️ 〰️



 コニャール王国には貴族子女専用の学園があり、十五歳以上の貴族であれば希望者は入学でき三年間学ぶこととなる。男爵子爵は学費も寮費も無料なので、大抵の貴族は入学する。


 広大な敷地に清雅な校舎が三棟立ち並ぶ。学び舎は学年別の建物だ。その三棟の一階部分と二階部分から伸びた廊下と繋がる一際立派な建物は共同舎と呼ばれており、そこには教師室や講堂に食堂、ダンスホールなど学年を問わずに使用する部屋が設けられている。

 一階はエントランスと第一ダンスホール、二階はフロアー全体が食堂である。寮生は三食、通学生は昼食にこの食堂を利用する。大きな窓に白を基調とした明るく清潔感のある室内と広いバルコニーにテラス席が設けられていた。


 三学期が始まったばかりで外はまだ寒くテラス席には人はいない。

 窓の近くの丸テーブルでは数名のご令嬢が昼食後のお茶を楽しみながら朗らかに雑談していた。


 その席に五人の生徒が近づいた。一番先頭にいてどちらかといえば普通な顔立ちの男子生徒がご令嬢たちの一人に声をかける。銀髪を後ろに一括にした男子生徒の深緑の瞳は一際美しい女子生徒に向けられている。


「エトリア様。少々よろしいでしょうか?」


「セイバーナ・ヨネタス公爵令息様」


 テーブルに座るご令嬢の一人が肩にかかっていた自分のダークブロンドの髪を背に払い紫の瞳を強く細める。


「エトリア様にどのようなお話かは存じませんが、そのように威圧するかの如くお連れ様を伴っていらっしゃることはいかがと思いますわ」


「ヘレナ。口出しするな」


 ダークブラウンの髪を短くした体が大きい男がヘーゼルの目を見開いて威圧した。

 ヘレナはその威圧に全く動じることなく平素に答えた。


「レボール・ホヤタル侯爵子息様。わたくしを呼び捨てはお止めください。わたくしたちはすでにそのようなご関係ではございません」


「ヘレナ様も大変ですわね。

それにしても、口出しするなと仰るのでしたら、後ろの皆様もご同席なさるべきではないのではないかしら?

ヘレナ様はまさにホヤタル卿のお言葉を先にご指摘なさったのですわ」


 新緑の髪のご令嬢は茶色のクリクリなびっくり眼を態と隠さない。


「貴様らも徒党を組んでいるではないかっ!」


「「「まあ!!!」」」


 公衆の面前で女性たちに向かい『貴様ら』と使うなど紳士としてありえない。自分でも気がついてしまったレボールは目をおよがせる。


「わたくしどもは最初から同席しているのです。

割り込んでいらしたのはそちらでしょう?

せっかくの楽しい時間を邪魔だてされれば、それは直接受けている被害ですわ。当事者ですもの、口出しではございませんわね。

『貴様ら』などという罵りに近いようなお言葉もいただきましたし、ね」


 メリアンナは茶目を三日月にして相手を小馬鹿にしていると表した。


「メリアンナ嬢。相変わらず口が達者ですね」


 濃紺の髪を肩まで伸ばした男子生徒は眼鏡の奥の赤茶色の瞳と細い唇を引くつかせた。


 オレンジの瞳の可愛らしいご令嬢が小首を傾げればピンクブロンドの髪が揺れる。


「テリワド・オキソン侯爵子息様はレボール・ホヤタル侯爵子息様が呼び捨てを止められたからメリアンナ様を『メリアンナ嬢』とお呼びしたのかしら? それなら、『エイドルド侯爵令嬢』とお呼びするべきなのでは?」


 暗に『貴族の知識とマナーは大丈夫ですか?』と嫌味を言っている。


「ケイトリア。君も随分だね」


 薄い金色の髪を耳の下で切りそろえた男子生徒は薄い金色の瞳で睨む。


「サジルス・ツワトナ公爵令息様。いらしたのですね」


 これも『影が薄くて見えなかったわ』と嫌味が込められている。


「あら? ケイトリア様とツワトナ公爵令息様はまだご婚約関係でございました?」


「ヘレナ様。残念ながらそうなのです。公爵家同士はしがらみも多くて。わたくしどもも今週中には解消できる予定なのですが」


「「「オホホホ」」」


 ケイトリアがわざとらしく困り顔をすれば、それに合わせるようにご令嬢たちは優雅に笑った。男子生徒たちは唇を噛んだり目をギラつかせて怒りを表していた。

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