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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第五章 王都でもこいつらは・・・
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第98話 餌をぶら下げたら釣れたのは…

 『メイプルトレント』を乱獲した翌日。

 朝も早くから、おいら達はマーケット広場にある掘っ立て小屋を訪ねたの。


「おはようございます。

 今日も露天のご要望ですか?」


 腰の低い受付のお兄ちゃんが愛想よく出迎えてくれたよ。


「ええ、今日は倍の区画を使いたいの。

 それに今日だけじゃなくて、少しここで露店を続けようかと思ってね。

 取り敢えず、十日ほど使わせてもらおうかしら。」


 アルトがお兄ちゃんに広場を使用する希望を伝えると。


「繁盛しているようで何よりです。

 役場としても、広場で露店を開く方が繁盛するのは大歓迎ですよ。

 昨日、人が沢山集まっている場所があるなと見てましたが。

 あれは、妖精さんのお店でしたか。

 そう言えば、何かトラブルがあったようですが、大丈夫でしたか?」


 このお兄ちゃん、意外とちゃんと仕事をしているようで、一応広場の様子をチェックしているんだね。


「ええ、心配ご無用よ。

 ちょっと、営業妨害してきたおバカさんがいただけのことよ。

 とっ捕まえて、少しお仕置きしてあげたわ。」


「そうですか、大事が無ければ良かったです。

 ですが、悪質な嫌がらせがあるようであれば、衛兵に相談した方が良いですよ。

 この広場にも、衛兵の詰め所があるので相談に乗ってくれますよ。」


「あら、心配してくれて有り難う。

 気分が良いから、これあげちゃうわ。

 取っておきなさい。」


 王都へ来てからロクな人間と会っていないせいか、アルトは気遣いしてくれたお兄ちゃんが気に入ったみたい。

 『砂糖』、『ハチミツ』、『メイプルシロップ』を一つずつ渡していたよ。


「これは申し訳ない。

 私、所帯を持ったばかりなのですが。

 女房が、甘味が値上がりして困るとボヤいてましたね。

 こんなに頂けると喜びますよ。」


「そう、それは良かったわ。

 じゃあ、奥さんに言っておきなさない。

 甘味料の値段は十日もしないで、元に戻るから安心しなさいって。」


 砂糖なんかを嬉しそうに受け取るお兄ちゃんに掛けられたアルトの言葉。

 その言葉の意味を理解できず、お兄ちゃんは首を傾げてたんだ。

 そんなお兄ちゃんに、アルトは続けて言ったの。


「まあ、理由はそのうち分かるわ。

 それよりも、昨日も言ったけど。

 トラブルがあっても手出しは無用よ、自分達で解決できるからね。」


 その言葉に、お兄ちゃんはますます困惑していたよ。

 それから、おいら達は広場の使用料を払って、昨日の倍の広さの敷物と木札を受け取ったんだ。

 木札には、今日の日付と十日分使用料支払い済みって書かれてた。

 倍の広さだと一日の使用料が銅貨二十枚なんだけど、十日まとめて借りると一割引きだって。


    ********


 掘っ立て小屋の事務所を出ると、おいら達はまた昨日の場所、他の露店からは少し離れた場所に来たの。

 もちろん、荒事になった時に周りに迷惑を掛けないようにわざと離れた場所に露店を出してるんだよ。


 今日は、昨日の倍の広さの敷物の上に、これ見よがしに三種類に甘味料を積み上げたよ。

 その数、一種類三百個。

 どれも一つがおいらじゃ抱えちゃうくらいの大きさだから、敷物全体に大きな山が三つできちゃった。

 その横には、昨日と同じ『どれでも一個銀貨一枚』と大書した看板を立てといたよ。


 すると、待ち構えたように一人の若奥さんがやって来たの。

 娘さんが、メイプルシロップを掛けたパンケーキが大好きだと言っていた若奥さん。

 この若奥さんのボヤキがきっかけで『メイプルトレント』を狩りに行くことになったんだ。


「本当に、メイプルシロップを持って来てくれたんだね。

 有り難う、娘が喜ぶよ。

 近所の奥さん方にも宣伝しといたから、今日も沢山買いに来ると思うよ。」


 そう言って、大きな布袋に『メイプルポット』を三つも買い込んでいったよ。


「しっかし、異世界物のラノベじゃ、大概甘味料は貴重品のはずなんだがな。

 主人公が、大根とジャカイモから麦芽糖を作って大儲けするとかあるけど…。

 この世界じゃ、簡単に手に入るんだもんな。

 砂糖はおろか、地球じゃ高級品のメイプルシロップまで。

 これじゃあ、異世界チート、麦芽糖の出番なしじゃん。」


 積み上げられた、『砂糖』、『ハチミツ』、『メイプルシロップ』の山を見て、タロウがまたボヤいてた。

 でも、言うほど簡単じゃないよ。

 おいら達は一人で一体、トレントを狩れるけど、普通の冒険者じゃ一体狩るのに十人掛かりだからね。

 それに、買う方だって一つ銀貨一枚だから、やっぱり高級品には違いないよ。


 タロウとそんな話をして居る間にもお客さんは集まって来たよ。

 さっきの若奥さんが宣伝してくれたおかげか、朝からメイプルシロップ目当てのお客さんが詰めかけてきたよ。


 でも、砂糖やハチミツを買いに来た人ももちろん沢山いて。


「昨日、噂を聞いて駆け付けたんだけど。

 あんたら、もう店じまいしちまった後でね。

 最初はガセネタ掴まされたのかと思ったんだけど。

 広場の隅っこに、『スイーツ団』とか言うゴロツキが首から掛けた看板を見てね。

 もしかしたらと思って、今日は朝から来てみたんだよ。」


 なんて言っている昨日買い損ねた人や


「昨日は偶然通り掛かったもんで持ち合わせが無くてね。

 砂糖を一つしか買えなかったもんだから。

 ハチミツも欲しいし、砂糖ももう少し欲しいと思ってきて来てみたんだ。

 メイプルシロップまで売ってるなんて、来てみて良かったよ。」


 と言って買い足していくおばさんもいたよ。


      ********


 そんな感じで、朝から大繁盛。

 お昼前には、全部補充しないといけないと思っていたら。


「ああ、あんた達、申し訳ないが、ちょっと聞いてはくれないか。

 儂は、この町で食料品の店を構えている者なんだけど。

 今、この町の店は何処も厄介な事情を抱えていて、ここにある三品は安く売れないんだ。

 普通の露店で売るような数だったら、こんな風に口出しはしないんだけどね。

 こんな風に大量に売られちまったら、儂らは商売あがたりになってしまうんだよ。

 少し、手控えてくれると有り難いんだが。」


 最初にクレームを付けた来たの『スイーツ団』の連中じゃなくて、善良そうなお爺ちゃんだったよ。

 『スイーツ団』の被害者で、甘味料を高く売りつけられているお店のご主人だね。


 すると、アルトが。


「ああ、悪いわね、商売の邪魔しちゃったみたいで。

 でも、その願いは聞けないわ。

 安心しなさい、何時までも続けてあなた達を潰しちゃおうなんて思っていないから。

 十日も我慢してもらえば、その『厄介な事情』ってのを元から潰してあげる。

 『スイーツ団』を潰したら、私達の露店も引き上げるからね。

 けれども、あなた達が『スイーツ団』と闘う気があると言うのなら。

 今すぐこの露店をたたんで、あなた達に安くこの三品を卸してあげても良いのよ。」


 そう言って、おいら達が出している露店の目的を説明したんだ。

 その上で、王都のお店が、『スイーツ団』と手を切って、元の値段で三品を売ると言うのであれば。

 アルトが従来の値段で希望するお店に卸すって言ったのだけど…。


「いや、儂等ではあいつらには敵いませんわ。

 仕入れ先をあんたらに代えた日には、どんな嫌がらせを受けるか。

 あいつらに逆らって、冒険者からこっそり仕入れていたお仲間は袋叩きにあってね。

 その上、酷い嫌がらせを受けて、とうとう潰れちまったんですよ。」


 やっぱり、荒事に慣れていないお店のご主人は、『スイーツ団』に歯向かうことには尻込みしていたんだ。

 そんなお店のご主人の浮かない顔を見て、アルトは言葉を続けたの。


「ええ、その話は聞いたわ。

 だから、私達が、『スイーツ団』の矢面に立っているんじゃない。

 こうしてれば、あいつらの標的は私達になるでしょう。

 私達に任せておきなさい。

 あいつらが出て来たら、返り討ちにして、その裏にいる組織ごと捻り潰してあげるから。

 それまでの間は、甘味以外の物を売ってればいいわ。

 甘味料が売れなければ、あいつらから仕入れる必要も無いでしょう。」


 アルトが笑顔を見せながら自信満々に告げると、店のご主人もアルトに賭けてみる気になったみたい。


「分かりました。

 儂等が不甲斐ないばかりに、他所様のお力を借りることになり面目有りません。

 仲間内に伝えておきますので、『スイーツ団』の始末の方をよろしくお願いします。」


 お店のご主人はアルトに頭を下げて帰って行ったよ。


 当然、アルトと店のご主人の会話は、周りに集まってるお客さんにも聞こえる訳で。

 大分たくさんの人が、最近甘味料の値段が上がったことのカラクリを正確に理解したみたいだった。


「その『スイーツ団』とか言う連中、本当にとんでもない奴らだね。」


 なんて声がお客さんのそこかしこで上がってたよ。

 そんな風に、『スイーツ団』に対するヘイトが高まっていた時に…。


「おい、おい、オメーら。

 こんなところで、大々的に店をおっぴろげやがって。

 舐めたマネをしてくれるじゃねえか。」


 おバカがお客さんをかき分けてやって来たの。

 周りにいる人達がみんな敵だとも思わずに…。


 ホント、おバカさん。

お読み頂き有り難うございます。

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