第94話 タロウ、男を見せる…か?
人混みを割って現れたのは、いかにも下っ端という感じのガラの悪い兄ちゃん達だった。
そいつら、変なイチャモンを付けてきたんだ。
「おい、おい、いったい誰の許しを得てこんなところで甘味料を売っていやがるんでい!」
って。
おいら、呆れたよ。いい歳して、何て物知らずなんだろうって。
「誰に断ってって。
兄ちゃん、ここは自由市場だよ。
場所代さえ払えば、誰が何を売ろうと勝手でしょう。
誰に断る必要があるっての。」
だから、自由市場について教えてあげたんだ。
ちゃんと、役所のお兄ちゃんが教えてくれるはずなのに。
何で今更こんなイチャモンを付けるんだろうね。
「誰が、おめえみてえなガキんちょでもわかることを聞くか!
てめらが、そこで売ってる『砂糖』と『ハチミツ』はな。
俺達、『スイーツ団』のシノギなんだよ。
勝手に売られちゃ困るんだ。
とっとと店をたたまねえと痛い目に遭わせてやるぜ。」
最初にイチャモンを付けてきた兄ちゃんがそう言っておいら達に凄んで見せると。
「おうっと、店をたたむ前に今日の売り上げを全部置いて行ってもらおうか。
俺達のシマを荒らしたんだ、そのくらいの迷惑料は必要だよな。」
別の男が、売上金を置いていけって脅してきたよ。
「ねえ、おばさん。
この兄ちゃん、あんなこと言っているけど。
『スイーツ団』って知ってる?
ここで、『砂糖』なんかを売ったらダメって言ってるけど?」
おいらは、試しに近くにいたおばさんに尋ねてみたんだ。
すると、おばさんは首を傾げながら…。
「『スイーツ団』? わたしゃ、聞いたことが無いね。
だいたい、『砂糖』や『ハチミツ』は誰が売ってもかまわないはずだよ。
お酒と違って、お上の販売許可が要る訳じゃないからね。」
やっぱり、『スイーツ団』ってのは裏でコソコソと悪さをしてる連中なんだね。
最近現れたということもあるかも知れないけど、巷にいるおばさん達にはまだ知られていないみたい。
「ほら、兄ちゃん。
『スイーツ団』なんて、誰も知らないみたいだよ。
『砂糖』を売っちゃいけないって決まりも無いみたいだし。
商売の邪魔だから、あっち行ってよ。
兄ちゃんみたいな、ガラの悪い人がいるとお客さんが怖がっちゃうよ。」
おいらが、兄ちゃん達を追い払おうとすると、周りにいたお客さん達から笑いが漏れたよ。
「こら、ガキ! 舐めた事を言ってんじゃねえぞ。
ここで『砂糖』なんかを安い値段で売られちゃ、俺達のシノギの邪魔なんだよ。
こちとら、ガキだからといって見逃しちゃやらねえぜ。
あんまり、調子こいてると、幼女趣味のスケベ爺に叩き売ってやるぞ。」
あっ、キレた。兄ちゃんの一人がもの凄い剣幕でまくし立てて来たよ。
「ねえ、ねえ、奥さん、聞きました?
あのチンピラ達が砂糖の値段を吊り上げているみたいですわよ。」
「ええ、聞きましたとも。
最近の甘味料の値上がりはこいつらが原因みたいですわね。」
「いやだわ、やっと番外騎士団のゴミ共がいなくなって清々したのに。
なんで王都って、こんなに次から次へと、ゴロツキが湧いて出るのかしら。」
周りにいたお客さんの中から、今度はそんな声が聞こえた来たよ。
噂好きのオバチャンみたいな感じの人もいるから、『スイーツ団』のこともあっという間に広がるね。
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今まで、陰でコソコソと脅しをかけて『砂糖』なんかの値段を吊り上げていたのに。
こいつら、バカだから自分たちが元凶だって言い触らしてやんの。
しかも、堂々と『スイーツ団』って名乗ってるし。
少しは、頭の切れる人がいれば、今の状況はとっても拙いと分かるはずなんだけど。
ここにいる下っ端三人の中には頭のキレる人はいても、頭の切れる人はいなかったようで…。
「おまえら、こんなガキんちょを相手に何を悠長なことをしてるんだ。
こんな、ガキんちょなんか、こうやって脅せばいう事聞くだろうが。」
一番後ろにいた男、多分、下っ端の中では兄貴分だろう男が、いきなり剣を抜いたんだ。
「「「「キャッ!」」」」
剥き身の剣を目にして、お客さんの中から悲鳴があがってその男の回りから人混みが引いたよ。
すると、おいらの後ろで…。
「ほら、用心棒、あんたの出番よ!
何、隅っこにコソコソ隠れてるのよ!」
アルトの声が響いたと思ったら。
ドシッ!
おいらの前にタロウが放り投げられてきて、しりもちをついる。
「イテテ、俺、パンチパーマは苦手なんだよ。
相手がパンチというだけで、震えちまってよ…。
何で、異世界なのに、ここはパンチが多いんだよ。」
お尻を撫でながら立ち上がったタロウは、そんな愚痴を零してたよ。
「うん、こんなガキんちょが一人で店を広げてるのはおかしいと思ったが。
まだいたのか…、って、おめえ、どこかで見た顔だな…。」
その兄ちゃんが、マジマジとタロウの顔を睨んでいると…。
「アルト、勘弁してくれ!
俺、こういうスジもんはホント苦手なんだよ。
こいつ、この間の美人局のヤーさんだぜ。」
そんな弱音を吐いて、アルトに助けを求めるタロウ。凄い、情けないよ…。
「うん? 美人局だあ?
おめえ、あんときの!
この間、俺様の女に手を付けたと思ったら。
今度は俺様のシノギにちょっかい掛けるたあ、良い度胸しているじゃねえか。
この前は金で勘弁してやったが、今日はそうはいかねえぜ。
てめえを、剣の錆にしてやりゃ、そのガキも有り金おいて逃げ出すだろうからな。」
ビビっているタロウをカモだと踏んだ兄ちゃんが、剣をぶら下げながら近づいて来たんだけど…。
「奥さん、聞きました美人局ですってよ。」
「ええ、聞いてましたわ。
あの子、頼りなさそうで、モテそうもないもんね。
ハスッパな娘から声を掛けられると、簡単に騙されそう。」
「あらそう、気弱そうで可愛いじゃない。
モテないんだったら、私が摘まませてもらおうかしら。
うちの旦那、歳のせいか最近元気ないのよね。」
周囲にいるおばさん達の中からそんな声が聞こえて来たよ。
目の前に美人局の犯人がいるのに、被害者のタロウの方がディスられるってどうなの…。
それはともかく…。
「タロウ、そんな地回りをしているような連中は見掛け倒しよ。
タロウの敵じゃあ無いから、しゃんとしなさい。
危なくなっても、私は助けてあげないからね。」
「えっ、そんな、殺生な…。
俺、人に剣を向けたこと無いんだぜ。
緒戦から、こんなヤーさんみたいのが相手かよ…。」
アルトからそんな叱咤が飛ぶと、タロウは渋々腰の剣を抜いたんだ。
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「ほう、良い度胸だ。
得物を抜いたからには、タマを盗り合う覚悟は出来ているんだろうな。
まあ、俺様としても、無抵抗な人間を嬲り殺すより。
少しは抵抗してもらった方が、殺りがいがあるってもんだ。」
剣の間合いに入ると、いきなりタロウに向かって剣を振り下ろす美人局の兄ちゃん。
タロウはというと。
「ひぃ、怖ええええ。」
って泣き言を零しながら、必死に剣を剣で弾き返したよ…、目を瞑って。
撃ち合うこと、一合、二合、先に焦れてきたのは美人局の兄ちゃんだった。
「ええい、無駄な抵抗をしねえで、さっさと冥途へ行きやがれ!」
へっぴり腰のタロウが剣戟を全て弾き返すものだだから、兄ちゃんは相当イラついているみたいだったよ。
そのうち、タロウが…。
「うん? このヤーさん、めちゃくちゃ、剣速が遅い?
それに、なんか、剣戟が軽いぞ…。」
そんな呟きを漏らすと、それが兄ちゃんに耳に届いたみたい。
「こんのガキっ! ちょっと、手加減してやればでっかい口叩きやがって。」
激怒した兄ちゃんが、大上段に振りかぶって、力任せに剣を振り下ろしたんだ。
いや、剣速が遅いって言われているのに、そんな大振りをしたら…。
相手が大したことないと分かって少しは落ちついたようで、タロウはするりと剣を避けたの。
今までは剣を受けていたのに、不意に避けられたものだから。
剣を空振った兄ちゃんは、前のめりにつんのめったんだ。
そこをすかさず、タロウは剣の柄で兄ちゃんの後頭部を打ち抜いたの。
「キュゥ…。」
変な声を上げて地面に倒れ込んだ兄ちゃん、そのまま動かなくなったよ。
どうやら、気を失ったみたい。
「うわあぁ、死ぬかと思ったぜ。
このヤーさん、見掛け倒しでホントに良かったぜ。
マジもんだったら、絶対に死んでた。
しっかし、俺、やっぱり、人は殺せねえや。
このヤーさんが、上手い具合に気を失ってくれて助かったぜ。」
ホッとした声を上げたタロウ、そこへアルトが。
「それで良いのよ、簡単に人殺しを出来る方がどうかしているわ。
あんたの感性はごく正常よ。
それにね、こいつらには簡単に死んでもらったら困るの。
色々と聞きたいことがあるし、お仕置きもしないといけないからね。」
それって、簡単には死なせないってことだよね。
死ぬよりも辛いお仕置きを味あわせるって。
すると、
「やべえ、アニキがやられちまった。
アニキを一撃でのす奴が相手じゃ命が幾つあっても足りねえぜ。
おい、ずらかるぞ!」
残りの下っ端二人が脱兎の如く走り出したんだ。
もう、清々しいほど潔く逃げを打ったよ、アニキを置き去りにして。
「逃がす訳ないでしょう!」
アルトがそんなのを見逃す訳もなく…。
バリ!バリ!バリ!
「「うぎゃーーーー!」」
何時もの如く、アルトのビリビリが二人を直撃したんだ。
逃げることに失敗し、ぷすぷすと煙をあげる二人。
さあ、これから楽しいお仕置きタイムかな。
お読み頂き有り難うございます。