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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記
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第88話 良いこと尽くめじゃないね

 無事に『ハエの王』を生み出した帰り道、やっぱり途中で一泊することになったんだ。

 魔物の領域はとても広いので、さすがのアルトでも一日では王都まで帰り着かないみたい。


「まあ、魔物の領域が広いと言っても、『虫』の住処が遠いだけなんだけどね。」


 そんなことを呟いたアルト。

 おいらは、不思議に思って尋ねたんだ。実は、往きの時から疑問だったんだけど。


「なんで、『虫』の住処ってそんなに遠いの?

 魔物の領域ってあれだけ広いし、何も住んでいないような場所もあったよ。」


 空いている場所があるなら、そこに『虫』の魔物が住んでいても良さそうなのにね。


「そんなの、決まっているじゃない。

 あんなキモくて、病原菌を持っているなんて迷惑な存在、近くにいて欲しくないでしょう。

 『魔王』が誕生すると、その配下の種族の魔物は庇護を求めて『魔王』のもとに集まって来る習性があるの。

 その習性を利用して、先代の『ハエの王』を魔物の領域の奥深くに誕生させたのよ。

 そうすれば、私の森から『虫』の魔物が遠のいてくれるでしょう。」


 なんと、『虫』の魔物が、魔物の領域の奥深くに棲んでいるのもアルトが作為的にしたものだったよ。

 話しを聞いていると、アルトってやりたい放題だね。


「まさか、人間が魔物の領域のあんな奥深くまで調べているとは思わなかったわ。

 『ハエの王』の住処が人に知られていたなんて大誤算よ。

 それで、討伐なんてされちゃったのだもの、困ったもんだわ。」


 そうだね、おいらも今回初めて魔物の領域を訪れてそれは感じた。

 よくキャラメルはこんなに遠い『ハエの王』の居場所を知っていたなって。

 それについては、モカさんからも聞いてはいたんだ。

 魔物の脅威度を知るために、どんな種族に『魔王』が存在するかは常に調べているんだって。

 『魔王』が存在すれば、その魔物は脅威度が低いからね。

 きちんと調べて、その『魔王』には手出し無用の勅令を出すんだって。

 キャラメルのようなアホな事をする者が出て来るなんて想定外だったみたい。


     ********


 その晩、おいらと一緒に眠るために、アルトが部屋の中に入ってきたんだ。


「ちょうど良いから、これの分け前をあげておくね。

 直ぐに腐っちゃうから、私が出したら速やかに『積載庫』に仕舞うのよ。」


 そう言ってアルトがおいらの目の前に出したのは…。


「なにこの巨大な桃は? パンの実くらいの大きさがありそうだよ。

 こんな大きな桃、初めて見たよ。」


 おいらは、目の前に山のように積まれた巨大な果実を見て尋ねたの。


「それ、桃じゃないわ。それが王家の秘宝、スキル『高速連撃』の実よ。

 さっ、早く仕舞って、一時間で腐っちゃうわよ。」


 アルトに急かされて、おいらは慌ててそれを『積載庫』に仕舞ったよ。

 その数は丁度二万個あったの。


「レベル十相当分をあげておくわ。

 これは本当に貴重な『実』だからね。

 絶対に他人に見せたり、持ってることを言ったりしたらダメよ。

 それに、この『実』はドロップ後一時間で腐るものだから、本来所持していることは有り得ないの。

 マロンが持っていることが知れたら、芋づる式に『積載庫』の事までバレる恐れもあるしね。」


 王様やモカさん、それにアルトも言ってたね。

 『高速連撃』はレベル差をひっくり返すバランスブレイカーなスキルだって。

 他国に比べてレベルが低いおいら達が住む国の王族だけど。

 王族が『高速連撃』を持っているので、他国の王族に対抗できていたって。


「その『高速連撃』ってそんなに凄いスキルなの?」


 おいらが素朴な疑問を投げかけると。


「それは、そうよ。

 スキルレベルを十まであげると、剣とか槍とかで攻撃する時の攻撃速度が三百%アップ。

 つまり、同じレベル同士の闘いならば、相手が一回攻撃する間にこちらが四回攻撃できるのだもの。

 それに、常に先手が取れるのが大きいわ。

 幾らレベルが上の相手だってこの間のマロンみたいに、先手を取って剣を持つ拳を潰しちゃえば何とでもなるでしょう。

 『高速連撃』を上げておけば、多少のレベル差なんてひっくり返せるのよ。

 もっとも、マロンの持っている『完全回避』と『クリティカル』のコンボほどじゃないけどね。

 マロンの持っている三つの組み合わせは本当に掟破りよね。」


 そんな答えを返してくれたアルト、今の人間の認識では『高速連撃』が最強のスキルなんだって。

 それにこれ、攻撃速度が速くなるというのは、むやみやたらに振り回すのと違って。

 その人の能力で可能な最高の攻撃した場合の速度が通常より早くなるんだって。

 『高速連撃』でいう最高の攻撃というのは、剣なら剣技として最高の攻撃という意味らしよ。


 だから、おいらと違って必ずしもクリティカルになるという訳では無いみたい。

 クリティカルの場合、当たり所とか当たる時の角度とかが影響して来るからね。

 そう考えるとおいらのスキルは本当に反則だよね。

 適当な攻撃でも必ず急所に、必ず最適な角度で当たるんだもん。


「でもね、『高速連撃』のスキルレベルを上げるにはネックがあるのよ。

 このレベルは、悠久の時を生きる私達妖精でも中々上がらないわ。」


 珍しく弱音に近いことを言うアルト。


「うん? 腐りやすいってこと?」


「まあ、直接的にはそれが一番大きな理由かな?

 賞味期限がドロップ後約一時間だものね。

 私達妖精にとっては、その大きさが最大の障害なのよ。

 だって、私達の背丈位の高さがあって、横幅は私達の体躯の何倍もあるのよ。

 こんな大きなモノ、どうやって一時間で食べろと言うの。

 まあ、必死になって食べるけど。

 甘くて、とろけるような食感でとても美味しいからね。

 でも、一日一個が限界よ。

 それでもレベル十まで上げるのに五十年以上かかるの。」


 どうやら、妖精族の小さな体がネックになるみたい。

 仮に一日一個食べたらその日は他に何も入らないって、さすがにそれじゃあ苦行だって言ってる。

 三日に一つだとレベル十まで上げるのに百五十年、長寿の妖精族でも長いと感じるみたい。


 おいら達、人間だったら一日一つを1時間以内に食べるのは楽勝だね。

 でも、毎日二つは無理そうだよ。

 だって、普通の桃の何倍もの大きさがあるんだもん。


     ********


 取り敢えず、おいらは『積載庫』の中から一つだけ取り出して食べてみたんだ。

 桃と同じような味がしたけど、桃よりもはるかに甘みが強くて、口に入れるととろけるような食感だった。

 桃は桃でも、完全に熟して腐る寸前みたいなトロリと溶ける食感…って、まんまか。

 ドロップ後一時間で腐るんだから。


 おいらの小さな体じゃ、一つ食べたら満腹になったよ。もう何も入らないって感じ。

 もう少し体が大きくなれば、一日二個食べられるかも知れないけど今は一つが限界だね。


 スキルを確認すると、今まで空き枠だったスペースにちゃんと『高速連撃』と入っていた。


『高速連撃:レベル一 攻撃速度五%増加』って説明があったよ。


 おいらが、ポッコリと膨れたお腹を撫でていると…。

  

「ねえ、中々食べでがあるでしょう。

 私も一つ食べてうんざりしたわ。

 まあ、とても美味しいのがせめてもの救いね。

 私達は永い寿命があるから気長にスキルレベルを上げることにするわ。

 『積載庫』の中で時間を止めておけばいつまでも腐らないからね。

 マロンも取り敢えずは他人の倍以上の速さになるレベル六を目指して頑張りなさいよ。」


 アルトがおいらをみてそう言ってた。 


 初めて希少スキルと言われるスキルを手に入れたけど…。

 これ、育てるのが大変そう。

お読み頂き有り難うございます。

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