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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記
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第86話 新たなゴミスキルと愚か者の最期

 アルトは、新たな『ハエの王』を生み出すべく魔物の領域の奥深くを目指して飛んでいるんだ。

 アルトの『積載庫』の中から眺める外の景色は、おいら達の住む辺りと大して変わりは見られないね。

 しいて言えば、地面は草ぼうぼうで、鬱蒼とした森があちこちにあって、道が見当たらないくらいかな。


 アルトに聞いた話だと、『魔物の領域』ってのはおいら達人間が勝手にそう呼んでいるだけみたい。

 魔物の数が多くてそれ以上人間の領域を広げられなくなった外側をそう呼んでいるみたい。

 現状では、魔物の被害を考えると、人が村や町を造ってもとても割に合わない場所っていう事らしいの。


 だから、生えている木とかはあまり変わらなくて、眺める景色はあんまり変わり映えしないんだって。

 しいて言えば、羽の生えた獅子や翅の生えた巨大な蛇が空を飛んでいることくらいかな。

 外を眺めていたら、巨大な蛇が大きな口を開けて迫ってきたんでビックリしたよ。

 アルトがビリビリを食らわせてから突然消えたんで、きっと一撃で仕留めて『積載庫』に仕舞ったんだね。


 しばらく、外の景色を眺めていると、日が傾いて来て。

 小高い岩の丘、ほとんど草木が生えていない所で、アルトは止まったんだ。


 すると、アルトがおいらが入ってる『積載庫』の部屋に入って来て。


「今日はもう日が暮れるから、『ハエの王』を生み出すのは明日にしましょう。

 ここは、周りに魔物もいないから、外に出ても良いわよ。

 狭い積載庫の中にこもりっきりだと息が詰まるでしょう。」


 そう言われて、アルトと一緒に外へ出ると。

 目の前には広大な魔物の領域が広がり、空は夕焼けで赤く染まってたよ。


 おいらが、目の前の景色に見惚れていると、何やら足元でプチプチ音がしたんだ。


「何この雑草、種を飛ばすの?」


 おいら、思わずそう呟いちゃった。

 プチプチと言う音は、サヤが弾けて中に入った雑草の種が飛ぶ音だったの。


「あ、それ。それは、『カタバミ』の魔物ね。

 私が知る限りこの世界で最弱の魔物よ。

 その種にはごく微弱な毒があって昆虫なんかを捕食するのよ。」


 アルトがそう答えている間にも、雑草の近くでは種にあたったイモムシが苦しそうにもがいていた。

 それから、地中から根っこがニョキニョキと出て来て動きを止めるたイモムシに絡みついたんだ。

 本当だ、他の植物型魔物と同じ捕食行動をとってるよ。

 これを見ないとの雑草と見分けがつかないよ。


 その雑草が魔物だと聞いたおいらは、試しに一株倒してみたの。

 すると、そこにはおいらの小指の指先ほどの赤い実が幾つも転がっていたんだ。


「一応、それがカタバミの魔物がドロップする『スキルの実』何だけど。

 渋くて食べられた物じゃないわ。

 やっぱり七日ほど追熟させると甘酸っぱくなって、一応食べれれるようになるんだけどね…。」


 何時になく、歯切れの悪いアルトの言葉に、おいらはどうしたのかと思って尋ねたよ。


「なんか、その『スキルの実』に問題でもあるの?」


「それがね、長い年月を生き、多くの情報を集めている妖精族でも訳の分かんないスキルなのよ。

 究極の『ゴミスキル』と言われているわ、『金貨採集量増加』…。

 って、マロン、もしかしたら?」


 首を傾げながら、おいらの問い掛けに答えていたアルトだけど。

 話しているうちに、あることに思い至ったみたい。


 うん、おいらも今、それに気付いたよ。


「ねえ、もしかして、『金貨採集量増加』って魔物を倒した時に採れる『生命の欠片』が増えるんじゃ?

 どうして、魔物が持っている『生命の欠片』以上に採れるのかは謎だけど。」


 そう、何故か不思議なことに、おいらの『積載庫』の中では『生命の欠片』が『金貨』って表示されてるんだよね。

 おいらがそう言うと。


「そうよ、きっとそれよ。

 ちょっと待っててね。」


 おいらの言葉に相槌を打ったアルトは、その辺中にビリビリを放って一帯のカタバミを倒したの。

 そして、赤いスキルの実を根こそぎ回収し…。


「はいこれ、七日時間を進めたから食べ頃だと思うわ。」


 積載庫レベル二の能力、『時間の任意経過』を使ったんだね。

 アルトは、食べ頃に追熟されせた沢山の『実』を、布袋に詰めて差し出してきたの。


「これ、もらっちゃって良いの?」


「ええ、かまわないわよ。

 実験台にするようで申し訳ないけど。

 『金貨』の表示があるマロンの方が、効果の検証をするのに確実だと思うわ。」


 おいらのスキルの空き枠は二つ、一つは『高速連撃』の実がもらえることになっているから…。

 このスキルが役立たずの『ゴミ』でも別にかまわないね。


 おいらは、さっそく食べてみたよ。

 食べ頃に熟した赤い実は甘酸っぱくて、結構おいしかった。

 指先ほどの小さな実なんで、あっという間に食べきったよ。


 そして、。


「うん、アルトの言う通り、『金貨採集量増加』のスキルが付いたよ。

 今、レベル六まで上がってる、金貨採集量増加百二十%アップだって。」 


「ふむ、その上昇パターンだと、レベル十になったら三百%アップになるわね。

 これが、本当に『生命の欠片』が多く取れるのなら、とんでもないスキルよね。

 マロン、一度、適当な魔物を狩って試してみると良いわ。」


 そう言ったアルト、魔物の領域にいる間に手頃な魔物を見つけたら狩らせてくれるって。


「でも、アルト、おいら、こんな魔物見たこと無かったけど。」


「そう言えば、マロンの町の周囲では見なかったわね。

 じゃあ、何株か持って帰りましょう。

 カタバミの魔物は最弱だけど、繁殖力が強いからあっという間に増えるわよ。

 庭にでも植えて、毎日狩っていればあっという間にスキルレベルが上がると思うわ。」


 アルトはそう言うと、まだ残っているカタバミを生えた地面の土ごとごっそりと『積載庫』に入れたんだ。

 高レベルの積載庫って色々なことが出来て便利で良いね。


    ********


 そして、翌日。


 魔物の領域の奥深く、『虫』型の魔物がうようよいる領域に入って来たの。

 『ハエ』とか、『蚊』はいっぱい飛んでるし、地面では茶色い平べったい物体がカサカサと動いている。

 ハッキリ言って、あんまり見たくない光景なんですけど。


 積載庫にある窓からそんなキモい風景を眺めていると。

 アルトは移動をやめて、宙に停止したんだ。


 目の間に迫った巨大な『ハエ』の顔、おいら、流石に目を背けたね。


「ほら、餌よ、これを食べて育ちなさい。」


 『ハエ』にそんなこと言っても…。

 と思ったけどその言葉と共にアルトは、キャラメルを『ハエ』の前の地面に放ったんだ。

 トレント生命力を吸われて良い具合に衰弱したキャラメルは、屍肉が好きな『ハエ』のお気に召したみたい。

 さっそく、一匹の『ハエ』がキャラメルにたかると、アルトは周囲にビリビリを放ったの。


 他の『虫』が集るのを防いでいるみたい。

 おそらく、この一匹に『生命の欠片』が全て引き継がれるようにとの用心のためだと思う。


「ぎゃあ、やめろ!

 本当に、貴族であるこの俺を、こんな虫けらの餌にするつもりか!

 てめえ、高貴な貴族の血を何だと思っているんだ!」


 そんな叫び声を上げるキャラメル、あんなにやつれているのにまだそんな大声を出せるんだ。

 そんなこと言っても、ムダ、ムダ。

 アルトにとって人間はみんな同じ、貴族が特別なんてこれっぽっちも思ってないよ。 

 でも、最後の最後までそんな傲慢なことを言えるって、いっそ清々しいくらいのクズだね。


 アルトが以前言っていたように、魔物の領域に蔓延る病原菌は本当に質が悪いようで。

 『ハエ』が媒介する病原菌も、非常に強力なモノみたい。


 ぎゃあ、ぎゃあ、騒いでいたキャラメルは、次第に動きが鈍くなって、そのうち寝ちゃったよ。

 そして、しばらくすると、顔から血の気が全くなくなり、ピクリとも動かなくなった。


 すると、目の前に山ほどの『生命の欠片』が現れたんで、キャラメルが逝ったのが分かったよ。

 『ハエ』は『生命の欠片』の山に飛び移ると、それを体に取り込んでいた。


 これで、無事『ハエの王』が誕生して、一件落着だね。


 おいらは、その時はそう思ったんだ。

 でも、次の瞬間、おいらの予想もしていない展開になったの。

お読み頂き有り難うございます。

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