第85話 お仕置き第一弾! 砂糖を採りに行くよ!
その日、番外騎士団の駐屯地を灰燼に帰したアルトは、新たな『ハエの王』生み出すために魔物の領域へ向かったの。
途中、『シュガートレント』の林に寄ると聞いていたんで、おいらも連れて行ってもらう事にしたんだ。
アルトは、
「『虫』の魔物が多い場所は、『病原菌』がうようよいるから外に出す訳には行かないけど。
『ハエの王』を生み出す間は、『積載庫』の中で大人しくしていられる?」
と言っておいらを連れて行くことを渋っていたけど。
「うん、大丈夫だよ。
おいらだって、赤ちゃんじゃないんだから、ちょっとくらいの時間は大人しくしていられるよ。
シュガートレントの林って、おいらの町の近くには無いんだ。
折角行くんだったら、キャラメルのお仕置きだけじゃなくて、少し多めに狩って砂糖を確保しようかなって。」
おいらが、シュガートレント狩りをしたいと言うと、アルトは同行を許可してくれたよ。
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そして、着いたのは魔物の領域の手前にある『シュガートレント』の群生地。
ぱっと見、普通の大木に見えるけど全部トレントなんだって。
丁度、その時、額に反りのある剣のようなモノを生やした虎が現れたんだ。
砂糖が入ったシュガートレントの実、別名『シュガーポット』を取りに来たんだと思うの。
「ああ、マロンは見るのはじめてかしら。
あれは、サーベルタイガーね、額に生やしたサーベル型の角で敵と戦う魔物よ。
初期レベルが五の魔物ね。
よく見ておきなさい、シュガートレントがどうやって獲物を狩るか。」
アルトは、おいらと縄で拘束して足元に転がしたキャラメルに言ったんだ。
おいらが眺めていると、サーベルタイガーはシュガートレントの幹に前足を掛けて後ろ足で立ち上がり…。
シュガートレントによじ登ろうとした瞬間、シュガートレントの枝が目に留まらぬ速さで動いたんだ。
動いた枝は八本、先端が槍のように鋭く尖ったそれは、サーベルタイガーの四本の足をそれぞれ二本ずつ外さずに捉えたの。
「ギャアアアア!」
サーベルタイガーは甲高い叫び声が上げてもがくけど、四肢に食い込んだシュガートレントはびくともしなかったよ。
そうこうするうちに、地面から根っこがニョキニョキと這い出してきて蛇のようの絡みついたんだ。
それからはあっという間だった、サーベルタイガーは見る見るうちに干乾びちゃったよ。
そして、骨と毛皮だけになると根っこは、それを地面に引きずり込んで消えていったの。
「おい、待て!
まさか、俺をあんな目にあわせようって言うのか。
冗談じゃねえぞ!」
足元に転がっているキャラメルがサーベルタイガーが捕食される様子を見てアルトに苦情を言うけど。
アルトは、それには取り合わず。
「トレントの仲間は、ああやって、獲物のカスを地中に処分するのよ。
いかな知恵のない魔物や動物だって、死骸が残っていれば警戒するでしょう。」
おいらに、サーベルタイガーの死骸を地面に引きずり込んだ理由を説明してくれたよ。
その実、足元に転がるキャラメルの恐怖心を煽るために聞かせてるんだよね。
現に、キャラメルってば顔面蒼白にして震えているもの。
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「マロン、丁度良いわ。
あのシュガートレント、あなたが狩って見なさい。
今、最低でもレベル五のサーベルタイガーを狩ったところだからね。
あのトレントも最低でもレベル五にはなったはずだわ。」
アルトがそのシュガートレントを指差して、おいらに倒せって。
ちょうど、サーベルタイガーがドロップした『生命の欠片』を取り込んだところだったよ。
「うん、やってみるね。」
おいらは返事をして、シュガートレントに近づいて行ったんだ。
すると幹のすぐ近くまで近寄ったところで、やっぱり八本の枝が襲って来たよ。
狙って来たのは、肩と肘、それに膝とくるぶし、それぞれその付け根にある腱だね。
八本ほぼ同時に襲ってきたにもかかわらず、おいらの『回避』は器用にも全部避けたよ。
しかも、巧く攻撃の死角になる位置に、おいらの立ち位置を変えてくれるし。
おいらは、丁度目の前にあったシュガートレントの幹に愛用の錆びた包丁を軽く当てたよ。
きちんと、『クリティカル発生率百%』と『クリティカルダメージ三千%アップ』は働いてくれて…。
バキ!バキ!バキ!
って引き裂くような音をたてながら、シュガートレントの大木は倒れたんだ。
時間の無駄だから、おいらはすかさずシュガートレントの全てを積載庫に仕舞ったよ。
これで、本体だけでなく、『シューポット』も『スキルの実』も『生命の欠片』も全部回収できるからね。
アルトが『ハエの王』を生み出している時の暇つぶしに、詳しく見ることにしたんだ。
すると、
「おい、そのガキはいったい何なんだ。
シュガートレントの攻撃を躱して、そんな包丁の一撃で仕留めるなんておかしいだろうが!」
転がされているキャラメルがそんな風に喚き散らしているけど。
アルトは、そんなキャラメルに。
「ほら、八歳児でもあんな風に倒せるのよ。
あんたにチャンスを上げるわ、縄を解いてあげるから。
シュガートレントに勝ってみなさい、そしたらそのまま開放してげるわ。
レベル五十だって威張っていたのだから、拳と膝が砕けてても戦えるでしょう。
相手は、たかだかレベル四よ。
まあ、勝てなくても死ぬ前に助けてあげるから安心なさい。
あんたに、ここで死なれると困るからね。」
アルトは、サディスティックな笑みを浮かべながらそう言うと…。
キャラメルを持ち上げて、シュガートレントの前に放り投げたの。
何時もながら感心しちゃうよ、あの小さな体で良く大人の人間を放れるもんだ。
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「うわあぁ!やめろ!バカ言ってんじゃねえぜ!
膝が砕けて立ち上がれねえのに、どうやって戦えと言うんだ!
やめろ!やめてくれ!」
キャラメルがアルトに抗議している間にも、シュガートレントの枝は素早く伸びてきて。
「ギャアアアア!」
シュガートレントの枝は、正確にキャラメルの手足の腱を貫いたの。
そして、キャラメルが抵抗できなくなると、根っこがニョキニョキ伸びて来て…。
根っこが絡みつくと、生命力を吸い取られていくのを感じたのか、キャラメルの表情が更に恐怖で歪んだよ。
そこに、…。
バリ!バリ!バリッ!
アルトのビリビリがトレントを襲い、トレントは縦に引き裂かれて討伐されたよ。
それと同時に枝と根っこも動きを止めて、カラメルは開放されたんだけど…。
「痛てえよ…、もう勘弁してくれよ…。
俺が何でこんな目に遭わねえといけねえんだよ。
羽虫や愚民どもにちょっと迷惑かけただけじゃねえか。
そんなことで、貴族の俺がこんな仕打ちを受けるって変だろう。」
涙に鼻水、その他色々垂れ流しながら泣き言を言うキャラメル。
手足の腱をズタボロにされてもう動けない状態なのに、全然反省の色が見えないのが凄いね。
まるで貴族なら何をやっても良いみたいに思ってやんの。
でも、さすがレベル五十だと威張るだけの事はあるね、トレントにズタボロにされてちゃっんと正気を保ってる。
このまえ、ハニートレントの餌にした冒険者なんか、完全に壊れちゃったものね。
反省の色が見えないキャラメルに、アルトは心底呆れた顔つきで言ったの。
「呆れたわ。
いったい、なんで、苦労人の父親からこんな傲慢な子供が出来るのかしら。
いちど、あの父親にもコンコンと説教をしてあげないといけないわね。」
あっ、モカさんにとばっちりが行った…。
シュガートレントに生命力を吸い取られて大分やつれたキャラメルを『積載庫』に再度しまったあと。
おいらは、追加でシュガートレントを狩らせてもらったんだ。
たっぷりと『シュガーポット』を手に入れてホクホクのおいらにアルトは言ったの。
「さあ、気が済んだら、新たな『ハエの王』を創りに行くわよ。」
ということで、いよいよ魔物の領域に出発だよ。
お読み頂き有り難うございます。
 




