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第829話 簡単な話では無かったよ…

 おいら達はライム姉ちゃんの娘ユズちゃんがもう五歳になっていることに気付き、急ぎ領都を訪ねたの。

 レベルが母親から娘に遺伝することを教えておかないと、無用なトラブルを起こすかも知れないからね。

 幸いにして性格温厚なユズちゃんは他人に暴力をふるうようなことはしておらず、レベルの解禁に伴うトラブルは今のところ回避されてるとのことだった。

 おいら達は、問題が起こる前にライム姉ちゃんのレベルがユズちゃんに遺伝していることを知らせる事が出来たよ。おいらの説明を聞いたライム姉ちゃんは言ってたよ。従来以上に他人に対し安易に暴力をふるわないように躾けると共に、レベルに合わせた力加減を覚えさせると。


 知らせたいことはだいたい伝えたかなと思っていると。


「マロンちゃん、それってカズヤ陛下にも教えておいた方が良いんじゃないかな。

 カズヤ陛下とネーブルにも娘が居るし、ネーブルもそこそこ高レベルだったよね。」


 おいら達の会話を聞いていたライム姉ちゃんの夫レモンさんが助言してくれたよ。

 そう言えば、ネーブル姉ちゃんに騎乗用のウサギを強請られた時、ウサギに襲われても撃退できるようレベル二十まで上げさせたっけ。おいらが飼い慣らしたウサギを一匹分けてあげたんだけど、ウサギだって魔物だから自分より弱いとみると襲い掛かってくるからね。

 確か、ウルシュラ姉ちゃんにもカズヤ兄ちゃんが『生命の欠片』を渡していたよ。カズヤ兄ちゃんに敵愾心を持つ貴族も多いから、とばっちりで命を狙われるようなことがあったらいけないからって。


「そう言えばそうだね。分った、王都まで行ってくるよ。

 それなら、いっそのこと国全体に周知した方が良いのかな。

 この領地の騎士なんてみんな女性で、いずれ母親になるんだろうから。」


「それはどうかな? 僕は余り拡げない方が良いかと思うけど…。

 何にせよ、一度、カズヤ陛下と相談した方が良いと思うよ。」


 レモン兄ちゃんは何か気掛かりがある様子で、悩まし気な表情でカズヤ兄ちゃんと良く相談をするようにと言ってたんだ。


         **********


 そんな訳で、ライム姉ちゃんとレモン兄ちゃんも加えて、今度は王宮へやって来たよ。

 カズヤ兄ちゃんの臣下に当たるハテノ辺境伯夫妻が同行していることから、珍しく正規の手続きを踏んで王宮に入ったのだけど。


 内密に会見したいとお願いしたら、王様の執務室に通されたよ。そこには予めお願いしておいた通りネーブル姉ちゃんとウルシュラ姉ちゃんも同席してた。


「マロン陛下に、ハテノ辺境伯、火急の用件とはまた穏やかでは無いな。

 いったい、何があったと言うのか?」


 カズヤ兄ちゃんに会見を申し込む際に、『火急の用件』と伝達を頼んだものだからカズヤ兄ちゃんは慌てた様子だったよ。


「実はマロン陛下から重要な情報がもたらされました。

 レベルに関してなのですが。

 レベルは母親から娘に遺伝するとのことです。」


 ライム姉ちゃんがハテノ辺境伯としてカズヤ兄ちゃんの問いに答えると。


「なんとっ! それは真か?」「何ですって!」


 カズヤ兄ちゃんとネーブル姉ちゃんからほぼ同時に驚きの声が上がったんだ。


「はい、本当で御座います。

 娘のユズで確認したところ、確かにレベルが遺伝していることが判明しました。」


「では、セトカにも私のレベルが遺伝しているのですか?」


 「真か?」と尋ねられてライム姉ちゃんが肯定で返すと、ネーブル姉ちゃんが前のめりになって尋ねて来たよ。


「はい、おそらくは。

 五歳になったら確認できるはずです。」


「何故に五歳なのですか?」


「マロン陛下からお知らせくださった情報に依ると。

 親から引き継いだレベルは、満五歳の誕生日以降段階的に解禁されるそうです。

 力の加減が出来ない幼子が、レベルの上昇に体を少しづつ適応させていくためとか…。」


 ネーブル姉ちゃんの問い掛けに答えて、ライム姉ちゃんは母親から娘にレベルが遺伝する際の発現の仕方を説明してたよ。満五歳から毎年レベル十ずつ解禁されて、満八歳の誕生日を迎えると限定が解除されるって。


「ふむ、段階的にレベルの上限が解除されると言うのは確かに助かるが…。

 何とも不思議な話だな。まるで、誰かに仕組まれたような親切な仕様ではないか。」


 ライム姉ちゃんの説明を聞いて、カズヤ兄ちゃんはそんな感想をもらしたの。


「うん、それ正解。 アルト、マリアさんを出してもらえる?」


「ええ、了解。」


 おいらのお願いに応えて、アルトはおいらの隣にマリアさんを降ろしてくれた。

 アルトの『積載庫』から人が現れるのは毎度のことなので、カズヤ兄ちゃん達に驚いた様子は無かったけど。


「マロン陛下、そちらのご婦人は何方であるか?

 何処となくマロン陛下に似ているようだが、御一族の方であろうか?」


 マリアさんの容姿を見て、カズヤ兄ちゃんはおいらの親族かと思ったみたい。


「血縁と言えば、血縁かな。

 多分、おいらの国の王祖のお母さんに当たる人。」


「はーい、マロンちゃんの遠いご先祖のマリアでーす!」


 おいらの説明に底抜けにお気軽な言葉で自己紹介をしたマリアさん。


「遠いご先祖?」


「そう、遠いご先祖。

 この国の王祖アダムを作ったのもマリアさんだよ。

 マリアさんの血は引いて無いようだけど。

 マリアさんがレベルの仕組みを人体に組み込んだんだ。」


「はあ?」


 おいらの言葉に、カズヤ兄ちゃんは「こいつ何を言ってんだ。」って顔つきで問い返してきたよ。


「まあ、そうよね。

 四十万年も前からこの大陸に居たなんて。

 普通なら、誰も信じないでしょうね。」


 そう話し出したマリアさんは、詳しく話すと一日や二日じゃ済まないから掻い摘んで説明するとしたうえでこの大陸で暮らす人々の歴史を話し始めたよ。


「そんな訳で、無用な争いを起さないために。

 当初は女王が治める国を各地に創ったの。

 王祖が男性の国は、今でも在る国ではここだけね。

 そして王統を女系に保つため母親から娘にだけレベルが遺伝するように仕組んだの。」


 小一時間ほどこの大陸の歴史について話したマリアさんはそう締め括ったんだ。


「俄かには信じられませんが…。」


「まあ、一国の王様がこんな荒唐無稽なことを鵜呑みにしたら資質を疑われるわね。

 もし、興味があるようなら、証拠を見せて上げても良いわ。

 この国とマロンちゃんの国の国境地帯にある私のラボにご招待するから。

 気が向いたらマロンちゃんに伝えてちょうだい。

 今、私はマロンちゃんの国の王都で暮らしているからね。」 


 おいら達が見せてもらった映像を見ながら詳しく解説するとマリアさんは言ってたけど、確かにアレを観たら誰しもが納得すると思う。


「マリアさん、レベルの遺伝の件を気に留めてなかったみたい。

 昨日、おいらの赤ちゃんを見て思い出したらしいよ。

 おいらも知らされたばかりなんだ。

 それで取り急ぎ、ライム姉ちゃんとカズヤ兄ちゃんの耳に入れておこうと思ったの。」

 

「そうなのよ。まさか、失伝しちゃっているとは思わなくてね。

 昨日、マロンちゃんとこのキャロットちゃんを見ていてハッとしたの。

 そう言えば、現時点ではレベルを持っている女の子は稀だと聞いた気がしたから。

 マロンちゃんはレベルの遺伝について知っているのか心配になってね。」


 マリアさんは、なんで今頃になってレベルの遺伝について明かそうと思ったかを話してくれたんだ。


        **********


「それで、マロン陛下はレベルの遺伝について広く周知しようと仰せなのですが。

 カズヤ陛下はどう思われますか。

 私は情報を知らせる対象を極一部の者に限った方が良いのではと思うのですが。」


 レモン兄ちゃんはこの情報は公にしない方が良いと、カズヤ兄ちゃんに対して進言したんだ。


「それはどうして?

 レベルの遺伝について明かすでしょう。

 その上でレベルを集めた女児が家を継ぐようにすれば良いじゃん。

 そしたら今みたいに親殺しなんて悪しき習慣は無くなると思うよ。」


「マロン陛下は王侯貴族の男系主義を甘く見過ぎです。

 レベルの遺伝について明かそうものなら、今度は親殺しではなく女児殺しが多発しますよ。

 多分、八歳の子供を殺めるのは容易いですから、親殺しに比べていっそう多発するはずです。」


 レベルの高い嫁を貰った上で沢山子供を産ませ、女児は八歳になったら殺害してそのレベルを男児に与えるって。しかも、親は一人だけど、娘は何人でも作れるから、娘殺しは多発するだろうと。

 母親となる高レベルの女性が必要だから各家一人は女児を残すかも知れないけど、多くの女児は殺されことになるだろうとレモン兄ちゃんは懸念してた。

 そうやって高レベルの娘を王侯貴族の中で融通し合いながら、産まれた女児を男児のレベル上げする糧にするんだって。

 男系主義に凝り固まった醜悪な貴族ならそのくらいやりかねないと、レモン兄ちゃんは指摘してたよ。


「私もレモン殿の懸念は当たっていると思う。

 長きにわたり男児が家を継ぐという習慣が根付いてるからな。

 女児にレベルが遺伝すると知れようものなら。

 女児を殺して男児に『生命の欠片』を与える愚か者が必ずや出て来るであろう。」


 それが一つの家の中で行われるならまだしも、例えばキャロットを誘拐して殺害しレベルを奪おうとする輩が出て来る懸念があるって。

 実際、マリアさんから聞いた話では、娘を殺してレベルを奪うって蛮行も過去にあったらしいしね

 キャロットが八歳になればレベル七十二になる訳だけど、所詮は八歳児、不意を突けば容易く殺害できそうだものね。

 おいらを弑してレベルを奪うより断然簡単だね。


「とは言え、貴領の騎士のようにレベルが高い女性には知らせておかねばならぬだろうな。

 レベル三十とか、四十の幼児など怖すぎる。

 力の加減が分からぬ幼児がその力をふるおうものなら、惨劇になるのが容易に想像できるぞ。」


 話し合いの結果、レベルを持つ女性にのみ情報を開示したうえで緘口令を敷くことにしたよ。

 現状トアール国ならレベルを有する女性は、ネーブル姉ちゃんとウルシュラ姉ちゃん、それにハテノ辺境伯と配下の騎士だけ。

 その人達だけ、レベルの遺伝について情報を開示すればいいだろうと、カズヤ兄ちゃんは言ってた。

 ネーブル姉ちゃん、ウルシュラ姉ちゃん、ハテノ辺境伯は既に知らせたから、後はハテノ領騎士団のお姉さん達だけだね。

 

 勿論、おいらの国でもそれに倣うことにしたよ。

 情報が良からぬ輩に漏れて、キャロットや、将来産まれてくるだろう騎士の娘さん達が殺害されたら困るからね。

 幸いにして、レベルを分け与えた女性は全て把握しているから、その人達だけに情報開示することにした。勿論、厳重に口止めした上でね。

お読み戴き有り難うございます。

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