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第821話 思いがけず、みんながお祝いをしてくれた

 ワイバーン討伐後、ミンメイに貴族の義務を説いていると、ペンネ姉ちゃんが血相を変えて屋上に駆け昇ってきたよ。


「マロンちゃん、無事? 怪我なんかしてない?」


「おいらはこの通り、かすり傷一つ無いから安心して。

 それよりペンネ姉ちゃんは大丈夫なの? そんなに息を切らせて。」


 ゼイゼイと荒い呼吸をしているペンネ姉ちゃんの方が、よっぽどしんどそうに見えるもん。

 しかも、ほとんど下着みたいな格好しているし…。


「お気になさらず。

 階段を全力疾走したので息が上がっているだけです。」


「そんな慌てなくても良かったのに。」


「慌てもしますよ。

 マロンちゃんに怪我でもあれば、私の首が跳びますもの。」


「それで、そんな姿で駆けてきたんだ。」


「ええ、演劇の後で歌を披露するスケジュールになってまして。

 ステージ衣装に着替えてリハの最中だったんです。

 そこへギルド長さんが飛び込んできて。

 マロン様が屋上でワイバーンに対峙していると言うのですもの。

 生きた心地がしませんでしたよ。」


 下着なのかと思ったらステージ衣装なんだ、それ。上下ともに超ミニでおへそ丸出しって、殆ど下着じゃん。


「心配させてゴメンね。

 でも、怪我も無いし、ワイバーンも討ち取ったから安心して。」


「まあ、マロンちゃんですから。

 ワイバーンの一匹や二匹に後れを取ることは無いでしょうね。

 とは言え、一応女王様なのですから、少しは自重してくださいよ。」


 ペンネ姉ちゃんとそんな会話を交わしていると、ギルドの周りに人が集まって来たよ。おいら達が居る屋上を指差してなにか騒いでた。


 そのうち、バタバタと階段を駆け上がってくる足音が近付いて来て…。


「ワイバーンはどうなったのですか!」


 屋上に姿を現したスフレ姉ちゃんが開口一番、そう尋ねてきたの。

 その後ろから十人ほどの騎士が続々と屋上に上がって来たよ。


「あっ、スフレ姉ちゃん、ご苦労様。ワイバーンなら倒しちゃった。」


「えっ、マロン様? いらしていたのですか?」


 そう言えば、騎士団の詰め所には顔を出してなかったか…。


「うん、休暇がもらえたから。ついこの間からね。」


「ギルドの職員からワイバーンの襲撃があると知らされて。

 詰め所に待機していた者全員で出動したのですが…。

 ギルドまで来てみると、野次馬が集まってまして。

 突如としてワイバーンが消えてしまったと騒ぎになっていました。

 それで、こうして上がって来たのですが…。」


「騎士スフレ、お疲れさまです。

 ワイバーンを討伐した旨、下の群衆に告知して安心させてあげて。

 そして、野次馬達を速やかに解散させてください。」


 スフレ姉ちゃんから街の人々の状況を聴き、ペンネ姉ちゃんは隊長らしく指示を飛ばしてた。


「了解です。

 マロン様がいらしたのなら、ワイバーンが消えたのも納得です。」


 そう答えると、スフレ姉ちゃんは速足で階段を下って行ったよ。

 スフレ姉ちゃんの告知で安心したのか、ほどなくしてギルドの前に集まった野次馬も散開してた。


         **********


 人混みが無くなったのを確認して、おいら達もギルドをお暇することにしたのだけど。


「おや、誰かと思えばマロンじゃないかい。

 久し振りだね。」


「おばちゃん、久し振り。二年振りかな。」


 鉱山住宅に住んでいた頃、ご近所さんだったオバチャンとギルド前の広場で出くわしたんだ。


「ギルドから出てきたということは。

 もしかして、さっきのアレ、マロンが退治してくれたのかい。」


「ワイバーン?

 うん、あんな危ない奴を野放しに出来ないからね。

 びっくりしたよ。

 屋上からの眺めを楽しんでたら、襲ってくるんだもん。」

 

「マロン、あんた、相変わらず強いね。

 そのちっこい体の何処にそんな力があるのやら。」


 因みに、このオバチャン、とても声が大きいんだ。おいらとオバチャンの会話は近くにいる人に筒抜けで…。


「おまえ、マロンか?

 しばらく見ないうちに、すっかり大人の娘になっちまって。」


 子供の頃から馴染みの串焼き屋のおっちゃんが声を掛けてくれたよ。


「おいらも十六になったもん。これでも一児の母なんだ。

 覚えているかな、オラン。おいらの旦那さんだよ。」


「オラン嬢ちゃんだろう。もちろん覚えているさ。

 しっかし、嬢ちゃんかと思っていたら、男だったんだ…。」


「私は一度だって自分が女だと言ったことは無いのじゃ。」


 串焼きのオッチャンの言葉を聞いて、オランが憤慨していると。


「悪い、悪い。ほれ、串焼き奢るからヘソを曲げるなって。」


 おっちゃんはそう言って串焼きを二本差し出してくれたんだ。


「それで、マロン、いつ母親になったんだ?」


「ついこの間。まだ半年も経っていないよ。

 ここへも、出産祝いも兼ねて産休を貰えたんで来たんだもの。」


 おいらが串焼き屋のおっちゃんの問い掛けに答えると。


「なに、あのマロンが母親になったって?

 そりゃ、目出てぇや。何か、お祝いをしねえとな。」


 隣りの屋台でパンを売っていたニイチャンが会話に加わり…。


「それじゃあ、今日はお祭りだね。

 ワイバーンも、マロンが倒してくれたことだし。

 お祝いと感謝の気持ちを込めて、祭りといこうじゃないか。」


 例によって周りの筒抜けの大声で、オバチャンがお祭りだと煽ったんだ。


「そりゃ良いね。

 あの小っちゃかったマロンが母親になったんだ。

 こんな目出度いことはねえや。」


 広場で屋台を出している中でも古参の人達がこぞっておいらのお祝いをしようって声を上げたんだ。おいらの都合なんてお構いなしで…。

 このオッチャン達、おそらく面白可笑しく騒げればそれで満足なんだろうね。


「じゃあ、私しゃ、仲間内に声を掛けておくよ。

 タダ飯、タダ酒にありつけるってね。」


 言い出しっぺのオバチャン、楽し気に広場を立ち去ったよ。きっとお祭りの情報を拡散しに行ったんだろうね。


「それじゃ、これを使って街のみんなに振る舞い料理を作ってちょうだい。

 あと、これ、酒代ね。なるべく沢山、お酒も用意して。」


 おいらは串焼き屋の屋台の後ろに、テーブルいっぱいに山積みしたお肉と銀貨が入った布袋を出したよ。


「何だよ、マロン。

 マロンのお祝いなんだから気を遣う必要ないぜ。」


「だって、この街、人が増えているでしょう。

 みんなに楽しんでもらうには、料理だって、お酒だって沢山必要じゃない。」


 正直、この大きな街でお祭りをするのに、屋台のオジサンだけに負担させるのは申し訳ないよ。


「なあ、マロンよ。有り難く受け取っておくとして…。

 これは一体何の肉だ? ウサギとイノシシは分かるが…。」


「ああ、残り二つは酔牛とベヒーモスだね。

 滅多に手に入らないお肉らしいけど、ムチャクチャ美味しいよ。」


「酔牛とベヒーモスって、…。

 王都の一流料亭でも滅多に手に入らない高級食材じゃねえか。

 良いのか? こんなにいっぱい…。」


 流石肉料理のプロ、串焼き屋のオッチャンは酔牛とベヒーモスと聞いて目を丸くしてたよ。


「お金を出して買ったもんじゃないから、気にしないでいいよ。

 それ全部、おいらが自分で狩ったお肉だもん。」


 おいらの返答を聞いて、集まっていた屋台のオジサン達が硬直しちゃったよ。


「自分で狩ったって…。

 マロン、お前、どんだけ強くなっちまったんだ。」


 串焼き屋のオッチャン、感心を通り越して呆れていたよ。


       **********


 そして、その夜。


「今日はこの街で育ったマロンが母親になったお祝いだ!

 みんな、存分に楽しんで行ってくれ。

 ここにある屋台の飯は全部タダだからな。

 マロンが寄付してくれた高級肉もあるし、酒もたんとあるぞ。」


 串焼き屋のオッチャンの威勢の良い掛け声とともにお祭りが始まったんだ。

 おいらが住んでいた頃とは様変わりで、中央広場に収まり切れないほどの人が集まっていたものだから今更ながら驚いたよ。

 主役のおいらのことなんてお構いなしで、街のみんなはお祭りを楽しんでいたの。


 その様子を見て…。


「マロン様、この街の方々に好かれているのですね。

 マロン様のためにお祝いをしてくださるなんて。」


 ウレシノが感心した様子で呟くと。


「本当ですね。

 皆さん、マロン様が隣国の女王と知らないのでしょう?

 知っていたら、あんなに気安く接する訳無いですもの。

 呼び捨てだし…。」


 カラツがそんなことを尋ねてきたよ。


「うん、知らせて無いし。

 ライム姉ちゃんや騎士のみんなにも口止めしてある。

 この街で過ごす時のおいらは元孤児のマロンで。

 冒険者の父ちゃんが帰って来てくれたマロンだからね。」


 この街で必死に生きていた孤児が無事に母親になったのが嬉しかったんだと思う。

 今日、祭りをしようと言い出したのは、父ちゃんが行方不明になっていた三年間、何かと気に掛けてくれた人達だから。


「ホント、人情味溢れる良い町ですね。

 一介の孤児に気を掛けてくれる町なんてそうありませんよ。」


 ウレシノがそんな言葉で感心してたよ。

 いや、この町、領主も統治を放棄した無法地帯だったんだけど…。まあ、領主を当てに出来ない分、街の人々の助け合いが必要だったのだろうし。そもそもこの町は閑散とした過疎地で、孤児なんておいら一人だけしか居なかったから気に掛けてもらえたのだと思う。


 そんな事情はともかくとして…。


「うん、おいらもそう思うよ。

 おいらにとっては、この町が故郷だと思ってるし。

 この町が大好きなんだ!」


 何時か、女王を退いたらこの町に帰ってくるつもりなんだ。オランと二人でのんびり過ごすの。

   

お読み戴き有り難うございます。

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