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第819話 まさか、連中にこんな使い途があるなんて

 王都のソッチカイから引き継いだ冒険者が百人くらい居て、更生して堅気の仕事をしているのは三十人くらい。組長さんはそう教えてくれた。組長さんの言に従えば、堅気の仕事を拒んだ連中は七十人くらいになる。

 でも、おいらが見た限りでは、そのうち五十人くらいのチャラいニイチャンはほぼ更生したとみて良いんじゃないかと思ったよ。確かに、若い娘さん達を誑かすしか脳は無いかも知れないけど、STD四十八の後釜となるべく精進しているみたいだからね。


「うん、良いんじゃない。

 若い娘さん達を騙して貢がせるような事さえしなければ。」


「へえ、その辺はご安心ください。

 連中が悪さをしないように、四六時中監視を付けていますので。」


 チャラいニイチャン達に対する感想を漏らすと、組長さんも頷いていたよ。連中、息をするように娘さん達を騙そうとするので、ギルド本部に住まわせて監視無しには外出できないようにしているんだって。


「じゃあ、こいつらのことは良いとして…。

 まだ二十人くらい居るんじゃない、堅気の仕事に馴染まない輩が。

 それはどうなっているの?」


「ああ、根っからならず者共ですね。

 そう言う輩には、ならず者ならでは仕事をさせています。

 カズト様から良い活用法をご教授いただきましてね。」


 宿屋などギルドが経営する幾つかの施設の家主であり、風呂屋の泡姫さんの技術指導や制服のデザインをしていることもあり、にっぽん爺は組長さんと懇意にしているらしい。ならず者の処遇に頭を痛めていた組長さんに、にっぽん爺が何かアドバイスをしたらしい。 

 

「ちょうど今、稽古の最中みたいなのでご覧になってください。」


「稽古?その連中にも何か見せ物でもさせているの?」


「まあ、そんなものです?」


「でもならず者でしょう? イケメンでもないみたいだし。

 そんな連中の出し物なんて見に来るお客さん居るの?」


「それはそれ。何とかとはさみは使いようって言うじゃないですか。

 ならず者のままでも、使いどころはあるもんですぜ。」


 組長はおいらの問い掛けにそう答えると、今度はギルド本館の二階へ案内してくれたんだ。


       **********


 やって来たのは、二階にある公演会場の入り口前。そこには今日の夕方から催される演目の立て看板が置かれてたよ。


「『インチキ霊媒師と正義の女騎士』?」


「はい、今一番人気の舞台演劇、『正義の女騎士』シリーズ最新作です。」


「シリーズということは幾つもあるの?」


「ええ、もちろん。

 このシリーズは領主様のご好意で現役騎士様が出演するんでさぁ。

 それが大人気で。」

 

 ギルドの建物の二~四階をぶち抜いて造った公演会場を遊ばせないため、手探りで色々な出し物を増やしているらしい。演劇もその一つなんだって。


 今は、夕方の開演に向けて最後の通し稽古をしている最中みたい。組長の先導で静かに会場に入ると。


「ご当主様、大変残念なことでは御座いますが、ご子息の早逝はやはり祟りで御座いますね。」


 薄暗い部屋の中で落胆した表情の当主役に向かって、怪し気な男がそう告げている場面だった。


「霊媒師殿、それは真か? 息子の早死にが祟りだと申すのか。」


「ええ、そうですとも。

 五十代前の当主が殺した野良猫に祟られておりますぞ。

 ご子息の早逝だけでは御座いませぬ。

 最近、持病の水虫が悪化して夜も眠れないのではございませぬか?」


「な、なんと…。何故、それを知っておる。儂の水虫のことは内密であったのに。

 儂の水虫悪化も祟りだと申すのか?」


 秘密にしていた水虫のことを言い当てられて、当主役はギクリとした表情を見せたよ。


「そのようなこと。高名な霊媒師の吾に掛れば見通すなど容易いこと。

 ご当主様の奥方が庭師と通じているのも祟りのため。

 放って置くと、今後も不幸なことが続きますぞ。」


 ちょっと幾ら何でも怪し過ぎるって、普通、自分のことを高名ななんて言わないもん。


「そ、そんな…。霊媒師殿、何とかならないのでしょうか?」


 怪しいことこの上ないにも関わらず、当主はインチキ霊媒師の巧みな話術にハマって焦っている様子なの。


「安心召されよ。過去の因縁を断ち切る手段を吾は心得ている。

 そんな時にはこれじゃ。」


「流石、高名な霊媒師殿。ところで、それはなんで御座いますか?」


「これか、これは霊験あらたかな魔除けの壺じゃ。

 これを家に置けば、先祖の悪行を贖罪することが出来る。」


「それは素晴らしい。それで、それは如何ほどでお譲り戴けるので?」


「これは貴重な物でのう。そんな安く譲る訳にもいかんのじゃ。

 そうじゃのう、一つ銀貨一万枚なら譲っても良いがのう。」


 なんだこれ? これってインチキ教団がやっていたツボ売詐欺じゃない…。


「うっ、高い…。だが、それで先祖の因縁が断ち切れるのであれば…。」


 まあ、銀貨一万枚あれば、一家四人家族が三、四年生活できるからね。

 だけど、当主役はインチ霊媒師の術中にハマって壺を買おうとしている様子だったよ。


 すると…。


「但し、これ一つで祓い清められるのは積もり積もった五十代の祟りの一代分だけじゃ。

 過去の因縁を全て祓い清めるためには、五十個買うてもらう必要があるのじゃぞ。」


 インチキ霊媒師がそう言うと暗くなっていた舞台の奥に明かりが灯されたんだ。

 そこには、沢山のツボが積み上げられていたの。多分、五十個。


「五十個と言うと銀貨五十万枚…。それは幾ら何でも。」


「そうじゃろうか? 今後、子々孫々まで祟りは続くのじゃぞ。

 今後、この一族で何人の子孫が早逝することじゃろうな。」


 逡巡する当主に、ここぞとばかりにたたみ掛けるインチキ霊媒師。


「うっ、それは…。」


「祟りを銀貨五十万枚で断ち切れるのだぞ。安い物では無いか?

 もし、どうしても払えないと申すのなら。

 そうじゃのう、特別に銀貨十万枚までならまけても良いぞ。

 あくまで気の毒な境遇の其方だけ特別にじゃ。」


「おお、銀貨十万枚で良いのですか。それであれば…。」


 五十万枚から十万枚まで八割引きを提示されて、当主は安いと錯覚した様子だったよ。

 実際のところ、どうせ二束三文のツボってオチだろうから、とんでもない詐欺なんだろうけど…。


「では、契約といこうか。」


 インチキ霊媒師は契約書とペンを取り出して、当主にサインを迫ったんだ。

 すっかり騙された当主が契約書にサインをしようとした時のことだよ。


 チャンチャチャーン、チャチャラーン、チャチャチャチャー


 舞台裏に耳長族の楽団が居るのだろうね軽やかな音楽が鳴り響き。


「そこまでだ、悪党め。ご当主、サインしてはなりせぬぞ。

 その男は、ツボ売り詐欺として王都から手配書が出ているお尋ね者です。」


 聞き覚えのある声が、当主のサインに待ったを掛けたんだ。


「だっ、誰だ! 難癖を付けるのは。」


 インチキ詐欺師が誰何すると、舞台の左袖付近に光が灯り騎士服に身を包んだ五人の女騎士が浮かび上がったよ。


「我等はこの領地の安寧を護る騎士団。

 詐欺師よ、王都よりの手配書に基づき捕縛する。

 大人しくお縄につけ。」


 手配書をかざして、捕縛を宣言したのはペンネ姉ちゃんだったよ。どうりで聞き覚えがある声だと思った…。


「ふふふ、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。

 たかが五人の騎士で何ができる。返り討ちにしてやるわ。

 出会え、出会え、曲者であるぞ!」


 インチキ霊媒師が叫ぶと右側の袖からならず者がぞろぞろと駆け出してきたよ。

 そして、騎士団とならず者の激しい剣戟が始まったんだ。


         **********


 剣戟は迫真の演技で、切り伏せられたならず者役が積み上げられたツボの山に突っ込んで、盛大に砕け散るシーンは大迫力だった。


「凄い迫力だね。」


 本気で斬り結んでいるとしか思えない迫真の演技に感嘆していると。


「それはそうでしょう。ならず者役には本気で剣を振れを指示してありますから。」


 親分は真面目な顔でとんでもないことを言ったよ。


「それ大丈夫なの?」


「ああ、騎士様には手加減をするようお願いしてありますから。

 実はあのならず者役が、残りのならず者冒険者なんですよ。

 連中、見掛け倒しでがむしゃらに剣を振り回しているだけですから。

 日頃、魔物狩りで実戦経験を積んでいる騎士様に比べれば赤子みたいなもんです。」


 そう言えばそうだね。大概の冒険者ってのは『強いのが大事なのではなく、強く見えるのが大事』な連中だからね。堅気の人を恫喝して強請り(ゆすり)集り(たかり)をするために、舐められたら負けだと思っている輩ばかりだった。


「カズト様が言うんでさぁ。

 ならず者稼業しか能が無いなら、その特性を活かせば良いじゃないかと。

 それで考えてくださったのが、勧善懲悪モノの演劇の悪役ですわ。

 まさに適材適所ですな。」


 組長さんがそんなことを言っている間にも、ならず者役は次々と倒されて行き、最後、インチキ霊媒師が悪足掻きするんだけど。


「成敗!」


 って言葉と共に、ペンネ姉ちゃんが一刀のもとに斬り捨てるの。


 それで終劇かと思ったんだけど、ペンネ姉ちゃんを中心に五人の騎士が舞台の真ん中に立ち、そこが照らされたんだ。


「ストップ詐欺被害。この領地のみんなは騙されない。

 先祖の因縁を騙ってツボを売ろうとするのは、霊感商法という詐欺の常套手段です。

 先祖の因縁をネタにお金を要求されたら、それは詐欺です。

 迷わず騎士団にご連絡してください。」


 観客に向かって訴え掛けるように、ペンネ姉ちゃんが大きな声で宣言したんだ。

 ペンネ姉ちゃんったら良いこと言うなと、おいらが思っていると。


「『正義の女騎士』シリーズを、カズト様は『防犯演劇』と呼んでいます。

 王都や他国の大きな街で実際にあった犯罪を題材に台本を作って。

 この領地に住む人達が同じ犯罪に巻き込まれないように啓蒙するそうです。」


 と、組長さんはこの劇の趣旨を説明してくれたよ。


「それで、ペンネ姉ちゃん達、現役の騎士が協力してくれるんだ。」


「はい、この劇の企画段階でカズト様がご領主様に協力を持ち掛けてくださいました。

 ご領主様も乗り気で、快く協力してくださったんでさぁ。」


 最近、ハテノ辺境伯領の復興に伴い人の出入りが増えていることもあって。良からぬ輩が入り込むのではと、ライム姉ちゃんはかねてから懸念したいらしいの。

 実際にあった悪質な犯罪の手口を領民に知らしめるのは有意義だと、ライム姉ちゃんは即決で協力を約束したそうだよ。

 ライム姉ちゃんの領主館にある公演会場でも定期的に上演しているらしいよ。

 他にも演目は既に九つほどあるんだって。悪役も今見たならず者冒険者だけじゃないみたい。『イケメン酒場と正義の女騎士』とか、『スカウト詐欺と正義の女騎士』とかでは、さっきのチャラいニイチャンが悪役で登場するらしい。


 ただ、あまり真面目な堅苦しい劇だと領民が敬遠するのではと配慮したそうで、勧善懲悪モノにして正義の女騎士が悪を斬るって劇の形に仕立てたんだって。

 特に人気なのは、劇の終盤に必ずある騎士団と悪役側の用心棒の大立ち回りらしい。模造剣ながらマジに撃ち合う迫真の剣戟が観客から大受けなんだって。厳つい顔で必死に剣を振る用心棒役と女騎士の撃ち合いは迫力満点だったからね。

  

 てなことで、王都では役立たずのならず者冒険者も、ここでは噛ませ役としてそれなりに人気があるらしい。今では『悪役商店』ってユニットを組んで売り出し中なんだって。


 まさになんとかとハサミは使いようって訳で、王都のソッチカイを吸収したメリットもそれなりにあるらしい。

お読み戴き有り難うございます。

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