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第817話 冒険者ギルドはとてもフレンドリーだった

 シフォン姉ちゃんのお店から出てきたら、側面にカラフルなイラストを描いた馬車の車列に遭遇したよ。

 広場を周回して進行方向を変えた車列はソッチカイの建物に吸い込まれて行ったの。

 どうやらSTD四十八の馬車だったらしく、広場では若い娘さん達が黄色い声を上げて見送ってた。


 その様子をぼうっと眺めていると。


「STD四十八の御仁たちは、相変わらず人気者で御座るな。

 今回は初の全国ツアーだったそうで御座るが…。」


 まだ、店先の掃除をしていたセーナン兄ちゃんがそんなことを言ったの。


「全国ツアーってなに?」


「何でも、半年かけてこの国の主要な街で公演して巡ったそうで御座るよ。

 全国と言っても、この国は広いし、ほんの一部しか回れんで御座ろうが。

 それにしても、かなりの遠方まで行ったようで御座るし。

 全国的な知名度はあるので御座ろう。」


 アルトは、知名度が上がったらハテノ領と王都だけじゃなく各地で公演することを当初から目論んでいたけど。どうやら、それが実現できるほどSTD四十八の知名度は高まったみたいだね。


「拙者も、不本意ながら一枚噛ませてもらい。

 儲けさせてもらったで御座るよ。」


 セーナン兄ちゃんはSTD四十八のフィギュアを大量に受注したらしい。『全国ツアー限定バージョン』だって。

 「正直、野郎のフィギュアは気が乗らなかった。」って、セーナン兄ちゃんはボヤいてた。

 趣味に走っているセーナン兄ちゃんは可愛い女の子のフィギュア以外は作りたくないんだって。マジに最初断ったらしいけど是非にと懇願されて、セーナン兄ちゃんは渋々仕事を引き受けたらしい。

 その分、大分吹っ掛けて儲けさせてもらったと言って笑ってたよ。

 そう言えば、以前、おいらの国で公衆浴場の開設記念公演をしてもらった時も、STD四十八のフィギュアを作ってたね。あの時は、実用性重視の実物大人形も作ってたけど、今回は作らなかったのかな?


             **********


 一際背が高い建物にも興味があったので、次はソッチカイの本部を訪ねることにしたんだ。

 建物の間近まで近寄って気付いたのだけど、どうやら馬車の駐車場は地下にいあるらしい。建物正面の両脇二ヶ所にスロープ状の進入路が設置されていたよ。それぞれが入口出口の一方通行になってた。


 何処の冒険者ギルドでも共通で、正面入り口の扉を潜るとそこは広いロビーになっているのだけど。

 このギルドでは目を疑うような光景が広がっていたよ。

 かつては常に薄暗く、昼間から酒を飲んだならず者冒険者が管を巻いていたんだけど…。

 現状はと言うと。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。

 今日はご依頼ですか? それとも受注で御座いますか?」


 扉を潜って直ぐの所に立っていた若い女性職員が、にこやかな笑顔で迎えてくれたんだ。どうやら案内係らしい。

 かつてのギルドは職員だってガラの悪いオッサンばかりで、若い女性職員が出迎えてくれる日が来るなんて夢にも思わなかったよ。

 しかも、採光を重視して建て替えられたのかロビー全体がとても明るいし、目の届く範囲に昼間から飲んだくれている冒険者は見当たらなかった。ホント、えらい変わりようだよ…。


「お邪魔してゴメンね。どっちでもないんだ。

 久し振りにこの街を訪ねてきたのだけど。

 大きな建物が建っていたから見物に来たの。」


「いいえ、お気になさらず。

 六階建の建物は珍しいので、見物にいらっしゃるお客様も多いのですよ

 当ギルドのロビーは一般開放しておりますので。

 お気軽にご利用ください。」


 などとフレンドリーな笑顔で案内をする女性職員。


「有り難う。じゃあ、少し見せてもらうよ。」


「どうぞ、少しと言わず、ごゆっくりしていってください。

 あちらには売店も御座いますし。

 この街や近隣の村々の特産品など取り揃えておりますので。

 お土産等のご用命がありましたら、お気軽にお申しつけください。」


「お姉ちゃん、上には昇れないの?」


 高いところに興味があるのか、妹ミンメイが尋ねると。


「最上階が展望お食事処となっております。

 今の時間はまだ開店前で御座いますが。

 昼食時と夕食時は営業しておりますので。

 是非とも、ご利用ください。」


 何でも晴れた日なら、六階からはるか魔物の領域まで見渡せるそうで、運が良ければ空を飛び行くワイバーンが見られると言ってたよ。展望お食事処は割と評判が良いそうで、公演がある日は大概満席になっているみたい。


 このギルド、以前は部外者の立ち入りを拒むが如く威圧的だったのに、かつての面影を欠片も残ってなかったよ。

 女性職員さんのご好意に甘えてホールの中を眺めていると。


「これは、これは、マロンお嬢様では御座いませんか。

 お久しぶりで御座います。」


 カウンターの奥から出てきたオジサンが声を掛けてくれたんだ。


「あっ、組長じゃん。お久しぶり。元気にしてた?」


「おかげさまで、息災にしております。

 マロンお嬢様こそお元気そうで。

 もう立派な淑女で御座いますね。

 今日はアルト様はご一緒じゃないのですか?」


 おいらをお嬢様と呼ぶこのオジサンはこのギルドの組長。アルトに手酷くとっちめられて以来、ご機嫌取りのため、おいらを『お嬢様』呼びしているの。このオジサンはおいらが隣国の女王になったことは多分知らないと思う。


「最近羽振りが良いみたいだね。

 この建物を見てビックリしたよ。」


「これもアルト様とマロンお嬢様のおかげで御座います。

 あの時、俺達を堅気に戻してくださったからこその現在ですし。

 駅馬車、『山の民』の商品、ダイヤ輸送の護衛と。

 全部、お二人から与えて戴いた仕事ですから。」


 アルトが世話した仕事は今でも順調みたいだった。

 加えて、この街が活気づくに連れ騎士団だけでは警備が心許無くなったため、騎士団の補佐業務がギルドに委託されたそうなの。当初ボランティアで無償奉仕していた門番の仕事が評価されたみたい。

 騎士団の指揮下に入って、毎日定時に街の巡回警備をしたり、門番として街の出入りを監視したり、イベントの際の会場警備なんかを請け負っているらしい。従来無償でしてたことに新たな仕事を加えて、有償で請負うことになったんだって。

 その他、従来からしていた宿泊施設や風呂屋なんかも繁盛しているらしい。


「それにしても六階建って凄いね。

 こんな背の高い建物初めて見たよ。」


「外から見ると六階ですが。

 実際のところ、二階から四階までは吹き抜けなんですよ。」


「吹き抜け? そんな大きな空間使って何してるの?」


「アルト様からSTD四十八の興行を任されましてね。

 その拠点となる公演会場を創ったのです。

 二、三階部分は傾斜を着けた一般観覧席で。

 四階部分は個室の特別観覧席になってます。」


 おいらが女王になってから、アルトは基本ウエニアール国に滞在しているからね。

 STD四十八の興行に付き添うことが難しくなったんで、ギルドに委託したみたいなの。

 もちろん、興行当日の仕切りは以前同様に妖精ノイエがしているみたいだけど、経理とかの事務仕事を始めとして、公演のスケジューリングとかツアーの手配とか裏方作業を一括して引き受けているみたい。

 と同時に街の復興に伴い中央広場で憩う人達も目に見えて増えたらしく、とても野外公演を出来る雰囲気じゃなくなったんだって。

 それで思い切って公演会場を屋内に作ることにしたらしい。その結果がこの背の高い建物みたいなの。

 一階がギルド業務とロビー、二~四階が公演会場で、五、六階がギルドの事務所なんだって。六階はその眺望を活かして、その一部がさっきお姉さんから聞いた展望食事処になっているらしい。

お読み戴き有り難うございます。

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