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第811話 生きていて欲しいと願っていたから…

 領主のライム姉ちゃんから『カレッジ』の創設についての支援を取り付けると。

 おいら達は、ライム姉ちゃんも連れて辺境の街に戻ることになったんだ。

 カレッジを設置する予定地の視察を兼ねて、ライム姉ちゃんはにっぽん爺を交えてもう少し詳細に計画の内容を打ち合わせしたいんだって。


 ただ、その前に…。


「キャロット妃様!」


 プティー姉に会わせようと、パターツさんとグラッセのお爺ちゃんを呼んでもらったら。

 いきなり駆け出したパターツさんがガバッと抱き付いたよ。…マリアさんに。


「ええっと…。感動しているところ申し訳ないけど…。

 私はマリア、キャロット妃さんじゃないから。」


 ひしっと抱き付いて離れようとしないパターツさんに、マリアさんが申し訳なさそうに告げたの。


「へっ?」


「いや、キャロット妃ってのはマロンちゃんのお母さんでしょう。

 生きていて欲しいって気持ちは分かりますが…。」


 その言葉を耳にして顔を上げたパターツさんは、マリアさんの姿を眺めて気落ちした表情を見せたよ。

 そして…。 


「そうですね。キャロット妃様もご存命なら三十代半ば…。

 最後にお目に掛かった当時の姿のはず御座いませんものね。

 ですが、心の片隅で願っていたのだと思います。

 キャロット妃様が、今も何処かで生きているのではと…。

 マリア様が在りし日のキャロット妃様に生き写しでしたもので、つい…。」


 そっか、マリアさんとおいらが似ていると言われるけど、母ちゃんの幼馴染みのパターツさんから見てもマリアさんは母ちゃんそっくりなんだね。


「ふーん、マロンちゃんと似ているとは言われるけど…。

 二代続けて先祖返りだったのかしら。」


「失礼ですが、マリア様は?

 私もグラッセ一族の末席に名を連ねた身。

 一族の女性でマリアと名乗る者は記憶にないのですが。」


 パターツさんはグラッセ侯爵家の分家の生まれで、侯爵令嬢だった母ちゃんの遊び相手として幼少の頃から姉妹のように育てられたらしいからね。グラッセ一族に連なる人々のことについてもさぞ詳しいのだろう。

 おいらの母ちゃんの生き写しのような姿をした女性が、一族に思い当たなかったので尋ねることにしたみたい。


「あなたの記憶の中には無いでしょうね。

 それに、私、マロンちゃんの一族に直接繋がっている訳じゃ無いし。

 私と血が繋がっているのは王家の方。遺伝子的には王祖のイブが私の娘だし。」


「はい?」


 マリアさん、嘘は言ってないのだけど…。

 余りに突飛な内容だから、パターツさんは理解が追い付かないみたいで尋ね返していたよ。


         **********


「あの…、お母様。お話しに割り込んで恐縮ですが…。

 私のことをお忘れではございませんか?」


 マリアさんの言葉が理解できずに首を傾げているパターツさんに、プティー姉が声を掛けたの。

 元々、パターツさんとグラッセのお爺ちゃんをこの部屋に呼んでもらったのは、プティー姉に会わせるためだもの。


「あら、ゴメンなさい。私としたことが。

 マリア様が余りにもキャロット姫様そっくりだったもので…。」


 パターツさんは気拙そうな顔でプティー姉に謝ってたよ。

 二年振りに会いに来た自分の娘に見向きもせず、マリアさんに突進しちゃったからね。


「無理もございませんわ。

 マリアさん、マロン様にも良く似ていらっしゃいますもの。

 でも、実の娘も無視しないでくださいね。」


「そうだぞ、パターツ。

 儂は孫のプティーニの声が早く聞きたかったのに。

 お前がいきなりマリアさんに抱き付くものだから。

 孫に声を掛けることが出来なかったではないか。」


 自分を無視されたことに苦言を呈するプティー姉とパターツさんの行動を非難する非難するグラッセのお爺ちゃん。

 二人共、プティー姉を無視してマリアさんに抱き付いたパターツさんを白い目で見てたよ。


「本当にごめんなさい。

 プティーニ、良く来たわね。会えて嬉しいわ。

 しばらく見ないうちにすっかり大人びちゃって。

 もう、立派なレディーね。」


 おいらより一つ年上のプティー姉、女性的な柔らか体系で胸は相応に大きく、ウエストはきゅっと締まっているの。

 おいらと違って何不自由なく育てられたから、発育が良いんだよね。

 特にこの二年くらいでもの凄く大人っぽくなったんだ。


「お母様も、お爺様もお元気そうで良かったです。

 マロン様のお供でしばらく辺境の街に滞在することになりました。」


 プティー姉が当分ハテノ領に滞在することを明かすと。


「そうだわ、私、新規事業の打ち合わせで辺境の街に赴きます。

 パターツさんも、グラッセ卿も同行してください。

 私の補佐をお願いします。

 その後は、パターツさんにはマロン陛下のお世話係。

 グラッセ卿にはダイヤモンド鉱山の監査を命じます。

 マロン陛下、二人の滞在を許可願えますか?」


 ライム姉ちゃんは二人に辺境の街への帯同を命じると、おいらの屋敷に二人を滞在させたいと願い出たの。

 まあ、仕事は方便で、パターツさんとグラッセのお爺ちゃんがプティー姉と一緒に過ごせるようにとの配慮だね。

 おいらも初めからそのつもりだったし、快く二人滞在を認めたよ。父ちゃんの屋敷、部屋は余っているからね。


       **********


「それは良いや。パターツさんと言ったっけ。

 しばらく、あの街に滞在するのなら教えてあげるよ。

 何で、私とマロンちゃんが似ているのかって。」


 パターツさんがしばらく辺境の街に逗留すると聞いて、マリアさんは暇を見て説明すると言ってたよ。


「それ、是非とも私も聞かせて戴きたいですわ。

 妖精さんを創り出したとか、王祖の母親だとか。

 マリアさんの話は理解できないことばかりなのですもの。」


 ライム姉ちゃんもマリアさんの来歴について話を聞く気満々だったよ。

 カレッジの創設の会話の中で、話が進まないからって軽く流されちゃったからね。

 どうやら、ライム姉ちゃんはマリアさんの過去が気になってモヤモヤしてたみたい。


「そう、じゃあ、カレッジに関する打ち合わせが片付いたらラボに案内するわ。

 妖精さんを百体くらい覚醒させたいし。

 ラボに保存してある映像を見てもらった方が理解しやすいでしょうからね。」


 ああ、見終えるのにまる二日掛かるあの映像を見せるんだ…。


 ところで…。


「えっ、マロン姫様が御子を授かったのですか。」


 揺り籠に中で眠るキャロットを紹介すると、パターツさんはとても驚いていた。

 乳母をしていたパターツさんには、自分の腕の中で眠っていたおいらの姿をつい昨日のように思い出すらしくてね。

 おいらが子供を儲ける歳になっていたとは、俄かに信じられなかったらしい。


「今日、ここを訪問した目的は幾つかあったんだけど。

 おいらの赤ちゃんも披露しようと思ってね。

 可愛いでしょう。」


「はい、マロン姫様の赤子の頃によく似ておられます。

 そうですか、キャロット様と名付けられたのですか。

 きっと、キャロット妃殿下もお喜びのことでしょう。」


 ヒーナルの簒奪で離宮を逃れた時のおいらが丁度今のキャロットくらいの大きさだったらしいよ。

 パターツさんはおいらの乳母をしていたし、一年間おいらを抱えて父ちゃんと旅していたから。

 今でもおいらが赤子の時の姿は目に焼き付いていると言ってたよ。

 今のキャロットは、そのころのおいらそっくりだって。


 そんな訳で、ライム姉ちゃん、パターツさん、グラッセのお爺ちゃんを伴なって辺境の街に戻ることになったんだけど。

 それを聞いてたレモン兄ちゃんも一緒に行くと言い出したんだ。マリアさんの来歴に強い関心があるんだって。

 そうなると、幼いユズちゃんを置いてくことは出来ないからね。結局、ハテノ辺境伯一家総出で辺境の街を訪れることになったんだ。

お読み戴き有り難うございます。

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