第809話 オランに浮気疑惑が浮上してた
ミントさんに請われたその日のうちにアルトにお願いし、おいら達はハテノ辺境伯領の領都にやって来たんだ。
二年振りに訪れた領都は益々賑やかになっていて、順調に復興していることが窺えたよ。
屋敷を訪問すると直ぐに領主ライム姉ちゃんに面談することが出来たの。
「あら、マロンちゃん。いらっしゃい。
休暇が取れたのかしら?」
「ライム姉ちゃん、お久しぶり。
おいら、お母さんになったんだ。
宰相が出産の疲れを癒すにようにって長期休暇をくれたの。」
「ええっ! お母さんって…。」
おいらの返答を聞いて、ライム姉ちゃんは目を丸くしてたよ。
おいらがお母さんになったって信じられない様子だった。
「マロンちゃん、今幾つだっけ?」
きっと、ライム姉ちゃんの目にはおいらが子供に映っているんだね。
小っちゃいおいらが子供を産むなんて信じられないって顔をしてたんだ。
「今? この前、十六歳になった。
おいらの国、王族の血を引くのはおいらだけだからね。
早く子供を作れって宰相が煩いから、おいら、頑張ったよ。」
「それは…。本当に頑張りましたね…。
その体じゃ大変だったでしょう。」
「大変だったけど、無事に生まれて来てくれたし。
こうして長期休暇も貰えたからね。
頑張った甲斐があったよ。」
おいらの言葉にあわせるように、後に控えていたウレシノがキャロットを寝かした揺り籠を持って前に進み出たの。
「こちらがマロンちゃんの赤ちゃんですか?」
「うん、おいらの子。女の子で名前はキャロットだよ。
おいらの母ちゃんの名前を貰ったんだ。」
「まあ、可愛い赤ちゃん。本当におめでとうございます。」
揺り籠の中を覗き込んだライム姉ちゃんは、キャロットの顔を見てやっとおいらが母親になったことを信じたみたい。
「この子が、マロンちゃんとオランの娘さんかい。
あの小さかったオランがもう父親になるなんて…。
私も歳をとるはずだよ。」
ライム姉ちゃんと並んで揺り籠の中を覗き込んでいたレモン兄ちゃんが感無量って感じで呟いていた。
実兄のレモン兄ちゃんは、オランの幼少時を知っているからね。年の離れた弟が父親になったことに感慨ひとしおだったんだろうね。
「オランなら去年からお父さんになっているよ。
キャロットはオランの二人目の子供だし。」
「マロン、そんなことは言わなくとも良いのじゃ…。」
おいらがレモン兄ちゃんの勘違いを正すと、オランは気拙そうにしておいらに非難の目を向けてたの。
「うん? どういうことだ?
この子がマロンちゃんの第一子だよね?」
レモン兄ちゃんはオランに疑惑の目を向けて…。
「オラン、お前、シトラスから悪いことを吹き込まれていたみたいだが。
よもや、女王陛下の伴侶でありながら浮気した訳ではあるまいな。」
「違うのじゃ。子作りの手解きを受けただけなのじゃ。
マロンだって、認めていたことなのじゃ。
と言うか、マロンが決めてしまったのじゃから。」
にじり寄りながら問い詰めるレモン兄ちゃんに、タジタジと後退りしながら答えるオラン。
レモン兄ちゃんはと言えば、今度はおいらの方に目を向け。
「オランはああ申していますが、本当ですか?」
「本当だよ。
キャロットの乳母をしてもらっているウレシノにお願いしたの。
昨年、オランの子を産んで、こうしてお乳が出るから助かるよ。」
おいらがレモン兄ちゃんの問い掛けに答えると、アルトがカラツと手を繋いだ幼子を『積載庫』から降ろしたの。
「この子がもう一人のオランの娘ソノギちゃんだよ。」
おいらが幼子を紹介すると。
オランはカラツからソノギちゃんを受け取り、背後から両肩に手を掛け自分の前に立たせたの。
「ソノギ、この伯父さんはパパのお兄さんなのじゃ。
ご挨拶するのじゃ。」
「ソノギれしゅ。」
一歳を過ぎ少しだけ喋れるようになったソノギは、何とか自分の名前だけ言い終えるとチョコンと頭を下げたの。
その愛らしい仕草に、その場の空気が和んだよ。
「この金髪、オランそっくりではないか…。
おお、よち、よち、自己紹介が出来るなんていい子だ。」
レモン兄ちゃんなんて、オランを叱責していた時とは打って変わって相好を崩すと、ソノギちゃんの正面にしゃがんで頭を撫で回してた。
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「それで、今日は赤ちゃんを紹介にいらしてくださったのですか?」
一頻りソノギちゃんの頭を撫で回してレモン兄ちゃんの気が済むと、ライム姉ちゃんがおいらに尋ねてきたの。
「それも目的の一つだし。
プティー姉をパターツさんとグラッセ爺ちゃんに会わせたいってこともあったけど。
別件で、ミントさんがライム姉ちゃんに相談したいだって。」
「ミント様が?」
「ええ、実は私達、辺境の街に図書館を造りたいと思いまして。」
今まで沈黙していたミントさんが図書館の話を持ち出したの。
「図書館ですか?」
「はい、こちらに居るマリアさんが膨大な蔵書を寄贈してくださることになりまして。
せっかくですから、図書館を造って広く市井に開放しようかと。
幸い建物はカズト様が提供してくださることになりまして。」
そう切り出したミントさんは図書館の設立計画の概要を説明してくれたんだ。
「はあ、図書館を開設することは問題御座いませんが…。
ミント様は私共にどのような相談があるのでしょう。」
「蔵書と建物は、私達の方で無償提供しますので。
ハテノ辺境伯には図書館の運営をお願いしたいのです。」
司書の派遣とか、施設のメンテナンスとか、新書の取集とかそんな仕事をして欲しいとミントさんは依頼したんだ。
「この領地に図書館を開設してくださるというのは願っても無いことです。
私にも是非とも協力させて戴ければと…。
で、そちらにいらっしゃる方が蔵書を寄贈してくださるマリアさんですか。
とてもお若いように見受けられますが、図書館を造れるほどの書物をご所有で?」
「マリアさんは凄いのですわよ。
王都に在る図書館と同じ蔵書を一揃え寄贈してくださるそうです。」
「はい?」
ミントさんの言葉を耳にして、ライム姉ちゃんはキツネに摘ままれたような表情で聞き返してきたよ。
「ですから、王都の図書館と同程度の蔵書を保有されているですよ。」
実際のところ、マリアさんの『積載庫』には。まだ十セットではきかないくらいあるらしいけど。
「失礼ですが、マリア様はどちらの家の方なのでしょうか。」
膨大な蔵書を保有していると聞き、貴族のご令嬢と思ったみたい。書物って、市井の人じゃ手が出ない高価な品だしね。
「マリアさんは辺境伯もご存じのタロウの奥さんですよ。」
「タロウ君って。あのタロウ君ですか? 少し頼りない感じの?」
「そうだよ。マリアさんはタロウの四番目のお嫁さんだよ。…人としては。」
他に人外のお嫁さんが二人いるけど…。
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マリアさんが膨大な蔵書を保有しているってことに、ライム姉ちゃんはイマイチ納得してない様子だけど。
そこで躓いていると話が進まないので、無理やり話を進めさせてもらったよ。
惑星テルルの話から始めると時間が幾らあっても足りないし…。
「新設する図書館では、ウニアール国の図書館を倣ってチューターさんを置く予定です。」
「チューターさん? 初めて耳にする言葉ですが…。」
「書物に記された知識についての質問に答える指導役のことですね。」
新設予定の図書館でも、三つの試練を付して試練に合格しないと上の階の蔵書は閲覧できない仕組みにする予定なの。
上階の知識を得ようと欲する者は試練に合格する必要があり、今居る階の知識は十分に理解していることが求められるのだけど。
そうなると自力で理解できないところを指導してくれる者がいた方が良いものね。その役を果たすのがチューターさん。
「そのチューターさんって役職の適任者は見つかるのですか?
一階の内容はともかく、二階、三階となると相当難しい質問に答える必要があるのでは?」
ライム姉ちゃんはそんな博識の人が居れば既に何処かに雇われているのではと言ってたよ。
ライム姉ちゃんの懸念はもっともで、それを想定して既に対策も立ててあるんだ。
お読み戴き有り難うございます。




