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第802話 これからずっと、こんなしんどい思いをするなんて…

 ウレシノがオランの子を身籠ってから半年ほど過ぎ、そろそろお腹が目立ち始めた頃のことだよ。

 その日、おいらはお腹に微かな違和感を感じたの。

 丁度その日は、王都の広場で市井の人々と一緒に昼からお祭り騒ぎをしてたんだ。

 女王の執務をサボって遊んでいた訳じゃ無いよ。偶々、お休日だったから、在庫処分を兼ねて積載庫に溜まっていた『酔牛』のお肉を盛大に振る舞うことにしたの。

 休日なので王都の広場に出店している屋台も多かったからね。お肉系の料理を扱っている全てのお店に、精肉済みの『酔牛』のお肉を無料で配り、なにがしかの手間賃を払って調理してもらったの。

 それを広場に集まってる人々に無償で配布することにしたんだけど、そこに王都の酒屋さんが気前よくお酒を提供してくれて。いつの間にかお祭り騒ぎになっちゃったの。


 そんな訳でおいらも暴飲暴食気味だったから、少しお腹を壊したのかなってくらいに思っていたんだ。…その時は。


 そして一夜明けて…。


「マロン、しっかりするのじゃ。死んではダメなじゃ。」


 睡眠中に体を揺すり起されて、うつらうつらとしていると。おいらを抱きかかえるようにして、オランが必死に呼び掛けてきたの。


「ふぁぁ…、なに? どうかした?」


 焦燥するオランの呼び掛けに寝惚けまなこで答えると。


「マロン、気が付いたのじゃな。

 良かったのじゃ。心配したのじゃ。」


 オランは安堵の表情を見せたよ。

 朝っぱらからいったい何をそう焦っているのかと思いつつ、おいらは開ききらない目を擦ろうと手を上げて…。


「何っじゃ、こりゃあ!」


 血塗れの自分の手を見て、思わず叫び声を上げちゃったよ。

 眠気が醒めて改めてよく見ると、おいらが寝ていたシーツが血の海になっていたんだ。主に下半身の辺りを中心に。

 もちろん、着けていた真っ白な寝間着もおいらの血で赤く染まっていたよ。


「私が起きたら、マロンの周りが血の海になっていて焦ったのじゃ。

 顔は真っ青じゃし、心配しとったのじゃ。」


 どうやら、その時のおいらは血の気を失い青白い顔をしていたみたいなの。


         **********


 おいらが目を覚ますと、オランは従者控え室に控えるウレシノとカラツを呼んだの。

 従来、控えているのはウレシノ一人だったけど、身重のウレシノに無理をさせられないのでカラツと二人で控えてもらうことにしたんだ。


 おいら達のベッドの惨状を見ても、ウレシノはなんら動揺した様子を見せなかったよ。

 それどころか、優し気な微笑みを見せて。


「あらあら、これは大変。すぐに着替えを用意致します。

 カラツ、あなたはお風呂の手配を。

 先ずはお風呂で汚れを落として戴きます。」


 カラツに指示を出すと、ウレシノは着替えを取りに控え室に戻ったの。

 カラツはウレシノの指示通り浴室の担当者にお風呂の準備をさせるため部屋から出て行った。


 二人が一旦いなくなると。


「しかし、これ、いったい何処から出血してるんだろうね?

 怪我をした様子はないんだけど…。」

 

 おいらはベッドの上で立ち上がり、ワンピース型の寝間着の裾を捲り上げ出血元を探ったんだ。もちろん、オランの目の前で…。

 すると、不意に下腹部に悪寒が走り、内股に沿って冷たい物が滴り落ちたの。


「マロン、凄い出血なのじゃ。

 何処か、怪我をしているのじゃろう。

 痛いところがあるのじゃないのか?」


 慌てふためくオラン。おいらはオランが指差した内股を覗き込み…。


「きゃっ!」


 すぐさま捲り上げた裾を下したよ。パンツが、とても他人様にお見せできるシロモノじゃなかったの。

 幾ら毎日一緒にお風呂に入っているとは言え、血塗れのパンツを見せるほどおいらはデリカシーを欠いてないよ。


 オランと二人動揺していると、ウレシノが着替えを抱えて戻って来たよ。ほどなくしてカラツもお風呂の準備が整ったと知らせてくれた。


「さっ、マロン様、お風呂で汚れを落としましょう。

 オラン様、今日は一緒のご入浴を遠慮して戴けますか。

 マロン様にお話しすることが御座いますので。」


 どうやらウレシノは、おいらの出血について説明するつもりらしい。おらんが一緒だと何か差し障りがあるのかな?

 一方でウレシノはカラツも一緒にお風呂に入れと指示してた。おいらと同い年のカラツも他人事じゃないだろうって。


 浴室に入るとウレシノは、おいらの体を丁寧に洗い流した後、三人並んでお風呂に入ったの。


「マロン様、お腹は痛く無いですか?」


「大量出血で動揺してて、気にしている余裕が無かったけど…。

 そう言えば、昨日からこの辺りが痛かったんだ。

 でも、お風呂に入ったら痛みが引いたような気がする。」


 おへその下辺りを撫でながら答えると、ウレシノはニッコリ笑い、「それは良かったです。」と呟くと。


「先ずはおめでとうございます。

 今日の出血、あれが『ルナからのお客さん』です。

 マロン様は大人の体になりました。

 これで待望のオラン様の御子を儲けることも出来ますよ。」


 ウレシノの説明では、女の人の体が成熟して赤ちゃんを作る準備ができると定期的にこんな出血を起こすらしい。

 その周期は、他人によって多少のばらつきがあるもののほぼ二十八日周期とのこと。その周期がルナの満ち欠けと同じなので、『ルナからのお客さん』と呼ばれているらしい。


「ええっ、こんなのが毎月あるの? 出血多量で死なない?」


「大丈夫ですよ。今日のようにシーツ一面に広がると大出血に見えますが。

 実際は命に関わるほど多い訳ではありませんから。」


 とは言え、人によっては貧血症状が出ることもあり、と同時に下腹部に強い痛みを感じることもあるんだって。


「二日目、三日目が最も出血量が多くなります。

 体調を崩すといけませんので、狩りをはじめ激しい運動はお控えください。

 今回は初めてですので、お仕事も休まれて安静にされた方が宜しかと。」


 ウレシノから宰相に報告しておくので、七日ほど仕事を休んで安静にしているようにだって。

 お腹の痛みは温めると多少治まるそうで、痛みが酷い時はお風呂に入って温まるように言われたよ。

 ウレシノはお風呂につかりながら、『ルナからのお客さん』について一通り教えてくれたんだ。


 因みに、『ルナからのお客さん』に関することは、殿方には話さないのがマナーらしい。それでオランには一緒にお風呂に入るのを遠慮してもらったんだって。


           **********


 『ルナからのお客さん』がやって来て二日目。

 ウレシノの言葉通り朝から出血が酷く、加えて下腹部が今まで感じたことが無い種類の痛みに襲われたよ。

 大怪我をした時のような激痛ではなく、なんと表現しすれば良いのか分からない不快な痛みに。


 不快な痛みに我慢できず『妖精の泉』の水を飲んだけど、全く痛みは治まらなかったの。こんなの初めてだ。

 おいらがそのことを愚痴っていると。


「その水、万能薬みたいに言ってますが…。

 怪我や病気を治す効能があるのですよね。

 マロン様のそれ、そもそも怪我でも、病気でもございませんし。」


 怪我でも病気でも無い症状には効かないのではと、ウレシノは言うの。

 とにかく安静にしているのが一番だと。


 ウレシノの助言に従い、貧血気味で大人しくベッドに臥せっていると不意に来客があったよ。


「ウレシノちゃんから聞いたよ。

 マロンちゃん、アノ日なんだってね。

 お初、おめでとう。これで大人の仲間入りだね。」


 何処でウレシノと会ったのか、マリアさんとシフォン姉ちゃんがお見舞いに来てくれたんだ。


「おめでたいの? おいら、無茶苦茶しんどいんだけど…。

 大量に血を失ってフラフラするよ。」


「それは女に生まれた宿命だと思って諦めてちょうだい。

 そんなマロンちゃんの憂鬱が少しでも晴れるように、プレゼントを持って来たわよ。」


 と言って、マリアさんは何やら一抱え程ある四角い包みを積み上げたの。表面の包み紙はツルツルしてて初めて見る素材で出来ていたよ。そこには「横漏れせず、多い日でも安心」と大きく書かれた。


 マリアさんが包みの一つを開封すると、その中には更に手のひらサイズの小さな包みが沢山詰まっていたよ。

 マリアさんはその中から小さな包みを一つ取り出すと、封を切って中身を広げて見せたの。

 なにやら、両端に丸みがある短冊状の何か。真ん中の部分が僅かに膨らんでて、短冊の中央付近には羽があったよ。


「じゃじゃーん、惑星テルルの技術の粋を集めた生理用ナプキンよ!」


「生理用ナプキン? 何それ?」


 生理というのは、惑星テルルでの『ルナからのお客さん』の呼び方らしい。


「マロンちゃん、今、オマタはどうしている? 出血して困るでしょう?」


「うん、布を何重にも重ねてオマタに充てている。

 何か、ごわごわするし、出血でジメジメして気持ち悪い。」


「でしょう。これを使えばそんな悩みは解決よ。

 これ、惑星テルルで開発されたオマタあてなの。

 吸水性高分子ポリマーで出血を閉じ込めて逆流を防ぎ。

 表面はサラっとシートでオマタに優しくジメジメしないのよ。」


 マリアさんはそう言うと、オランを部屋から追い出し、実際に着けてくれたの。

 パンツの裏側にペタッと張る仕組みになっていて横ズレしない工夫がされてたよ。


「これ、薄くて肌触りが柔らかい。

 布を重ねたモノより、ずっと良いよ。」


「そうでしょう。パッと見にはとてもそうは思えないでしょうけど。

 これ、永年の研究と高度な技術の結晶なのよ。

 この大陸ではあと五百年は作ることが出来ないんじゃないかな。」


 これ、使い捨てで一日二、三回交換するそうなんだけど、土の上にでも捨てれば自然に分解して土に戻るらしい。

 マリアさんはエコだと自慢してたよ。

     

 マリアさんは、そんなお便利なアイテムを山ほど持って来てくれたんだ。

 女性には必需品ってことで、惑星テルルに居た頃、マリアさんがひたすら備蓄していたらしい。

 人類移住計画が成功したとしても、この手のアイテムを作るのは後回しになるだろうとマリアさんは懸念したみたい。それでコッソリ溜め込んでいたんだって。

お読み戴き有り難うございます。

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