第8話 スキルって、ホント、不思議・・・
「君、人の話をよく聞かないで、失敗するタイプだね。
ものの見事に異世界に順応できないタイプの若者が来たもんだ。
あんまり、残酷な事は言いたくないが、…。
今の軽はずみな行動で、君は貴重なスキルを一つ、無駄にしてしまったよ。」
おっしゃんが落ち着くの待って、にっぽん爺はそんな言葉を口にした。
「何だよ。
あんなくそ不味い実を、たった一かじりしただけで大袈裟な。」
「君は、自分の能力値の見方は分かるかな?」
「おう、さっき、そこのガキんちょから、聞いたぜ。」
「そこにあるスキルの欄を見てみなさい。
何か、書いてあるだろう。」
にっぽん爺の呆れを帯びた言葉を聞いても、悪びれた様子もないおっしゃん。
そんなおっしゃんに、にっぽん爺はスキルを確認するように言ったの。
「おおっ!
スキルがあるじゃん、『クリティカル発生率アップ』だって。
カッコいいじゃん。」
スキルを見て、そんな風に喜んだおっしゃん。
おいらはにっぽん爺と顔を見合わせて肩を落としたよ。
「なあ、君、そのスキルは、この世界で一番のゴミスキルと言われているモノだ。」
「なんでだよ!
格上の敵に挑むなら重宝するスキルだろ、『クリティカル』。
その発生率が上がるんだ、何がゴミだよ!」
スキルをゴミとけなされたおっしゃん。
にっぽん爺の話を遮り、食って掛かったの。
ほら、また、最期まで話を聞かない…。
「そうカッカとしなさんな。
君のそのスキル、レベル一だから一%アップとなっているだろう。
それは、クリティカルの発生率に一%加算される訳では無いぞ。」
にっぽん爺がその言葉に続いて説明してくれたのは。
剣の達人と言われている人でも、クリティカルが出るのは千回の剣戟で一回くらいなんだって。
おいらには、良く分からないけど、これを0・一%と言うそうなんだけど。
『クリティカル発生率アップ』の一%と言うのは、発生率が一・一%になるんじゃなくて。
0・一%の発生率が一%増えるんだって、にっぽん爺の説明じゃ、0・一0一%。
「という訳で、クリティカルの発生率なんて本当に微々たるものだ。
それな、レベル十まであげて三百%アップと言われてるが。
剣の達人でも0・四%と言う事だ、いわんや素人なんてどうなる事やら。」
この『クリティカル発生率アップ』だけど、レベル十まで上げたと言う記録が図書館にもないんだって。
余りのバカバカしさに、誰も上げようとしなかったんじゃないかって。にっぽん爺は言ってた。
だから、三百%アップというは、他のレベルの上がり方から予想したものだって。
にっぽん爺の言葉を聞いておっしゃんは顔を青くしているけど…。
本当に拙いのはこれからだよ。
「でだ、ゲームのように幾らでもスキルを増やせるのなら。
ゴミスキルの一つや二つあっても良いのでだけどね。
この世界では、人が身に付けることが出来るスキルは生涯で最大四つ。
しかも、一度身に付けたスキルは取り消しが利かないときている。
君は貴重なスキルを一つ無駄にしてしまったのだよ。」
「マジかよ…。」
そんな呟きを漏らして、項垂れてしまったおっしゃん。
自分の軽はずみな行動で、取り消しの付かない事になったのがやっとわかったみたい。
「まあ、そんなに暗くなりなさんな。
まだ、三つもスキルを覚える余地があるじゃないか。
その三つを有意義なスキルで揃えれば良い。」
そんな励ましの言葉を掛けられたおっしゃん。
「そうだな、失敗の一つくらいでくよくよしてもしょうがないもんな。
あと三つ、スゲースキルを揃えて、挽回して見せるぜ!」
顔を上げてそんな気勢を上げたよ。
立ち直り早いな…。
くよくよしないのは良いけど、少しは反省しないと同じ失敗を繰り返すよ。
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気勢を上げるおっしゃんに、にっぽん爺は申し訳なさそうに言ったの。
「それなんだがな…。
スキル自体にランクはないんだが…。
巷ではやはり格付けがあって、有用なスキルの実はとても高いのだ。
そして、そういう実ほどレベルの高い魔物がドロップするんだよ。
とてもレベルゼロの一般人には倒せないような魔物がね。
特に戦闘系のスキルは手に入らないと思うよ。」
それは、おいらも知ってる。
スキルの実は、おいらが持っているゴミスキルと言われる物以外はお店で買うの。
一番安い『食物採集能力アップ』の実でも、銀貨三枚くらいするんだ。
おいらの稼ぎではとても買えないよ。
因みに、おいらの持っているスキルは、全部『ゴミスキル』だよ。
シューティング・ビーンズが落とした『スキルの実」ばっかり食べてたから。
タダで食べ物が手に入るんだもの、食べないと勿体ないじゃない。
苦いだろうって?
ふ・ふ・う・ん、そこは工夫次第だよ。
戦闘系のスキルなんて、バカ高いらしくて。
こんな田舎町では売ってないって、にっぽん爺が言ってた。
そう言えば、おいらもお目に掛ったことないよ。どんなスキルがあるんだろう?
しかも、スキルの実って曲者で…。
スキルレベルを上げる毎に、必要な数が三倍になってくの。
レベル一を獲得する時は一つ食べれば良いけど。
レベル二にするには三つ、レベル三にするには九つ食べないといけないの。
スキルレベルを上げるのに必要なお金はどんどん増えて行くんだ。
「なんだよ、その廃課金仕様。
スキルレベルを上げるためには、課金しろってか。
なあ、本当に自分で魔物を倒して、スキルの実を取る事は出来ないのか。」
「課金って…、いい加減そのゲーム脳的な考えは捨てなさい。
いいかい、一番安いスキルを落とすのはトレントと言われている魔物だが。
レベル三くらいの強さだと言われている。
それなりの冒険者が十人掛かりでやっと倒せる魔物だよ。
それを君が倒せるのかい。」
あっ、トレントより弱い魔物がスキルの実を落とさない訳では無いよ。
ただ、落とす実が、シューティング・ビーンズ同様、ゴミスキルばっかりと言うだけ。
「ちぇ、マジかよ…。
あー、つまんねー。萎えるわー。」
そんな言葉を吐いてふてくされちゃったよ、おっしゃん。
別に、採集系のスキルでも役立つんだったら良いじゃない。
何で、そんなに戦いたのかな…。
お読み頂き有り難うございます。
同時に、第5話から第8話を投稿しています。続けてお読み頂けると幸いです。