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第799話 そろそろ帰国しないとね…

 そして夕刻、図書館が閉館時刻を迎える頃。

 玄関ホールで、ペピーノ姉ちゃんは図書館から帰ろうとする利用者達を呼び止めていたの。

 それも、貴族の子女では無く市井の民の利用者を。

 集められた人達は何故呼び止められたのか見当もつかない様子で相互に顔を見合わせて首を傾げたいたよ。


「皆さん、今日はとても喜ばしいお知らせが有ります。」


 然して多くもない平民の利用者を前にそう切り出したペピーノ姉ちゃん。


「それはもしかして…。」


「ペピーノ様、以前から仰っていたことが実現するのですか?」


 何人かの娘さん達は薄々気付いている様子で、そんな声が漏れてたよ。

 多分、ペピーノ姉ちゃんが託児所に居室を与えて勉強させている娘さん達だろうね。


 そんな娘さん達にまるで『正解』とでも告げるように、ペピーノ姉ちゃんは笑顔を向けて。


「近々、私の兄、オベルジーネが正式に王太子に指名されます。

 それと同時に妃を迎えることになりました。」


 ペピーノ姉ちゃんの言葉に集められた人達は息を呑んで、続く言葉に耳を傾けていたの。。

 

「さて、妃となる女性ですが農民出身の方です。

 貴族以外の出自の方が王族の妃となるのはこの国が始まって以来のこととなります。

 そして、その方はこの図書館で机を並べた私の親友でもあります。」


 そして、ペピーノ姉ちゃんはクコさんの来歴やオベルジーネ王子との馴れ初めなどを話し始めたんだ。

 農民ながら五歳の時から自発的にこの図書館で学んでいたこととか、十四歳で『図書館の試練』を三つともクリアしたこととか。更には『図書館の試練』に苦戦している貴族の子息子女を指導して合格に導いたこととかに至るまで。

 現在は領主代行を務める傍ら、ペピーノ姉ちゃんの筆頭補佐官として働いていることも紹介してた。


 その上で…。


「クコさんはその優秀さから、貴族の中でもファンが多いです。

 私はこの場に集まった皆さんの中から第二、第三のクコさんが出てくることを期待しています。

 私もそのための支援は惜しみませんし、優秀な方が居ればどんどん登用するつもりです。

 今後の皆さんの研鑽に期待します。」


 ペピーノ姉ちゃんは図書館を利用している平民を激励するメッセージを発したんだ。

 ペピーノ姉ちゃんの熱意が伝わったようで、お知らせが終わるとその場に歓声が沸いてたよ。

 王太子妃って、この国の最高権力者に限りなく近い立場だからね。それが庶民の中から出たってことが図書館を利用している人々の発奮材料になったみたい。ペピーノ姉ちゃんの狙い通り、その場に集まった人達は皆一様に目を輝かせていたよ。


         **********


 その翌日、ペピーノ姉ちゃんの言葉通り、王宮では居並ぶ貴族を前にオベルジーネ王子の立太子が宣言されたんだ。

 

 そして。


「さて、オベルジーネも正式に王太子となったことでもあるし。

 これを機に妃を娶ることになったので紹介しよう。」


 王様がそう告げた瞬間、謁見の間がざわついたよ。

 後で聞いた話では召集状にはオベルジーネ王子の立太子とピーマン王子の王籍離脱と婿入りについてのお披露目があろとしか記載されてなかったそうで。軍務卿、財務卿とその側近、そして宰相とその側近くらいにしか妃の件は知らなかったことから、多くの貴族にとっては寝耳に水だったみたい。


 軍務卿、財務卿それぞれの派閥の貴族が、自派閥から王太子妃が出るのではと期待に胸を膨らませていると…。

 クコさんがペピーノ姉ちゃんに手を引かれて姿を現すと、またもや謁見の間がざわついたよ。


「財務卿令嬢でも、軍務卿令嬢でも無いではないか…。」

「あんな娘、見たこと無いぞ。」

「もしや、何処ぞの国の姫であろうか?」


 下馬評には全く上がっていなかったクコさんの登場に多くの貴族が戸惑いの声を上げていたんだ。

 進行担当の貴族が謁見の間のざわめきを収めると。 


「第一王女筆頭補佐官を務めておるピュアスプリング子爵のクコ殿だ。

 わずか十四歳で『図書館の試練』を全てクリアした鋭才での。

 王家に新風を巻き起こしてくれるものと期待してる。

 皆の者も二人を盛り立ててくれ。」


 王様がクコさんを紹介すると、案の定、不満や落胆の囁きが聞こえた来たよ。

 けれども、そんな不満の声をかき消すように各所から拍手が聞こえ…。


「クコ様万歳!」

「クコ様、おめでとうございます!」


 そんな歓声と共に謁見の間が拍手喝采に包まれたんだ。

 どうやら、集まった貴族達の中にも『クコさん親衛隊』のメンバーが少なからず存在したみたいだね。

 軍務卿や財務卿のご令嬢を推す人達からの不満の声はすっかりかき消されちゃったよ。


 クコさんの王太子妃としての輿入れは、その日のうちに王都の民にも告知されたんだって。

 なんと謁見の間でのお披露目の時間にあわせて、街の広場でも告知板に掲示されたみたい。

 市井の民が王族に嫁ぐのは、長い王国の歴史でも初めてのことだけあって王都は歓声に沸いたそうだよ。

 クコ妃の物語はサクセスストーリーとして瞬く間にウニアール国に広まったそうで。

 ペピーノ姉ちゃんの狙い通り、これ以降、庶民の間で図書館を利用する人が急増したらしい。主に玉の輿狙いの若い娘さんが…。


          **********


 その後、予定通りピーマン王子が王籍を離脱し、レクチェ姉ちゃんに婿入りすることが公表され。

 ピーマン王子とその取り巻きが新たな領地の開拓に成功したこともお披露目されたんだ。

 併せて新たな領地の領主となる人達への男爵叙爵のセレモニーも行われてた。


 新たに男爵に叙せられた元ピーマン王子の取り巻きは五人だけど。

 見違えるほど立派になった五人の姿に謁見の間からは感嘆の声が漏れてたよ。

 僅か一年ほど前まで、五人とも王都の貴族の鼻つまみ者だったものね。素行が悪いだけじゃなく、皆が皆ブヨブヨに肥え太って不健康そのものって体型だったし…。

 それが、今では引き締まった体形で顔付まで凛々しくなってるのだもの。その場に居合わせて貴族が驚くのも無理は無いと思ったよ。


 特に五人の父親は息子の晴れ姿に涙を流してた。連中、王都で不祥事を起こして流刑同然で辺境へ送られたんだもの。

 しかも内々では、領地開拓に失敗したら全員不慮の事故で辺境に骨を埋める予定になってたみたいし。

 そんな息子さんが、立派に更生した上に新たな領主として貴族に列せられたんだもの。自然と涙が出るのも頷けるよ。


 そして、それから数日後。

 ウニアール国との国交正常化交渉をはじめ予定してスケジュールも恙なく終了し、おいら達は帰国することになったんだ。


「ピーマンよ、儂は嬉しいぞ。

 そなたをこのように見送れる日が来るとは思わなんだ。

 これからレクチェ殿を支えて領地を盛り立てて行くのだぞ。

 何よりも、レクチェ殿と仲良くな。」


 王宮の庭で出立するピーマン元王子の手を取って、王様は僅かに涙を浮かべていたよ。

 立派に更生して婿入りするピーマン元王子を前にして、感無量だったんだろうね。。

 一時は王族の恥として処分することが検討されてたのだから、無理もないことだと思う。

 王様としても、流石に自分の実子を手に掛けることは気乗りしなかったんだろうね。


「レクチェ殿も、ピーマンのことよろしくお願い申す。

 不出来な息子で申し訳ないが、領地経営に役立ててもらえればと思う。

 いずれ子を成したら、是非とも孫の顔を見せて欲しいと願っておる。」


 次いで王様はピーマンの横に立つレクチェ姉ちゃんの手を取ると、満面の笑顔で見送りの言葉を掛けたんだ。

 そんな王様の丁重な見送りに、レクチェ姉ちゃんはとても恐縮してたよ。


 そして、最後に。


「此度のマロン陛下の助力には心から感謝している。

 儂も半ば諦めていたピーマンを更生させた上に、良き伴侶まで世話してくれたのだからのう。

 この恩は生涯忘れぬと誓おう。」


 おいらの手を取って感謝の言葉を掛けてくれたんだ。

 その後、ペピーノ姉ちゃんやオベルジーネ王子、それにクコさんやロコト君に見送られておいら達はウニアール国を後にしたの。


 半月ほどの滞在だったけど、疎遠になっていた二国間の国交も正常化する道筋が出来たし、オベルジーネ王子やクコさんといったウニアール国の次代を担う人達の交流も図れたんでまずまずの成果だったと思う。

 個人的にはレモンシルクの繭玉が大量に手に入ったので、大満足だったよ。

 そういえば、ヒュドラの卵もあったね。国に帰ったら早速王宮でヒュドラ酒を造らせようかな…。

お読み戴き有り難うございます。

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