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第798話 妖精さんもそれなりに楽しんでいるみたい

「でも、この国の妖精さんは協力的だね。

 妖精さんって、基本、人の社会には関わらないって思ってた。」


 妖精さんが人前に姿を現すこと自体が稀で、妖精さんの加護が得られた人はこの上なく幸運だと言われているし。

 逆に下手に妖精さんに関わるとロクなことが無いとも伝わっている。

 後者は我欲から妖精さんにちょっかい掛けて手酷いしっぺ返しを受けたおバカが居て、それを戒めとして広めたんだろうけどね。トアール国の愚王のような…。

 ともかく、この国以外では妖精さんって人間社会とは距離を置いているって印象なんだよね。 

 こんな沢山の妖精さんが人前に露出しているのは、おそらくこの国だけだと思うよ。


「まあ、母さんがこの国の王祖と約束したからね。

 母さんったら律儀に約束を守っているのよ。」


 と答えたのはペピーノ姉ちゃんと一緒に行動してる妖精のイチゲさん。

 母さんと呼ばれているのは、ウニアール国建国の時から王族に協力している妖精のレンテンローゼーンさんだよ。

 約束ってのは、子々孫々この国の王侯貴族が道を誤らないように指導監視するということ。


「レンテンローゼーンさんと王祖様って余程仲が良かったんだね。

 何万年もその役割を果たしているんだもの。」


「まあね。この国の王祖が生まれた時から母さんが世話していたみたいだし。

 育ての親として、愛娘の願いを聞いてあげたいんでしょう。」


「そう言えば、おいらの国じゃ、王都周辺に妖精さんの森は無かったみたいだけど。

 おいらの国が建国された時に助けてくれた妖精さんってどうしちゃったんだろう。」


「ウエニアール国の王祖イブはマロン様のお気に入りだったからね。

 マロン様が直々に建国の手伝いにやって来たみたいね。

 沢山の妖精を引き付けれて。

 そして、図書館を管理するミネルバだけ残して引き上げたらしいわ。」


 そもそも、王祖のイブさんは王都の周辺に妖精の森を作って妖精の協力を仰ぐ必要性を感じなかったんだろうって。おいらの国とトアール国の境界に妖精の始祖アカシアさんが住む妖精族の本拠地があるし。年老いたマロンさんの様子を伺うため、イブさんはその森を頻繁に訪ねていたらしいの。何か問題があればそこで相談してたのだろうと、イチゲさんは言ってたよ。


 イチゲさんの話では、この国を除けば全ての国で妖精さんが立ち去ったそうだよ。

 元々、マロンさんは国を興す補佐として妖精さんを派遣した訳で、ある程度国の礎が固まったら『始まりの森』に引き揚げてくるよう指示してたらしいの。

 妖精さんが余りにも干渉し過ぎると、人の主体性・自主性を損なうからと。

 他の国では、マロンさんの指示に従って妖精は立ち去ったし、その指示を知らされてた王祖達も引き留めなかったそうなの。


 以前、アネモネさんから聞いた通り、この国の王祖さんはレンテンローゼーンさんに頼み込んだ訳だ。

 この国の王侯貴族が民を虐げる存在にならないよう子々孫々まで厳しく指導監視して欲しいと。

 王祖は世襲制の悪影響を懸念してたそうだし、何より人間って存在を過大に信頼してはいなかったらしいから。

 まあ、乱暴者のアダムに嫌悪感を抱いて、アダムの国から一番離れた場所に建国したくらいだからね。


 すると、おいらとイチゲさんのやり取りに耳を傾けていたこの部屋のチューターさんが、会話に加わったの。


「妖精って、気が遠くなるほど長い年月を生きるでしょう。

 やっぱり、退屈しちゃうのよね。

 その点、このチューターって役目は良い退屈凌ぎになるわ。」


 どうやら、チューターさんもおいらの最初の問い掛けに答えてくれたみたい。

 イチゲさんが言ってた王祖との約束とは関係なく、人に協力するチューターさんなりの動機について。


「退屈凌ぎってことは…。

 チューターさんはこの役割を楽しんでいるの?」


「ええ、とても楽しいわ。

 ここに居れば話し相手に事欠かないですもの。」


 チューターさんはとても楽し気に答えると。


「それにね。

 私達妖精が何のために生まれたのか知っているかしら?」


「惑星テルルの知識を後世に伝えるためでしょう。」


「あら、知っているんだ。」


 おいらがその事実を知っていたことに、チューターさんは一瞬目を丸くしたしてた。

 惑星テルルのことを知るのは、この大陸でもごく僅かな人だけだものね。

 チューターさんはそれから直ぐに微笑んで。


「それなら話が早いわね。

 私を訪ねて来る人達は、知識を求めてくる人ばかりだから。

 私の存在意義を示せると言うものよ。妖精冥利に尽きるわ。」


 このチューターさん、図書館での役割に生き甲斐を感じているみたい。

 長い年月を無為に生きる訳ではなく、マロンさんが本来妖精さんに求めた機能を果たせるって。


「まっ、こんな感じで。

 ここでチューターをしている妖精は、皆が自発的に役割に就いているの。

 多かれ少なかれ、知識を伝承することにやりがいを感じている妖精たちなのよ。」


 知識欲が強く好奇心旺盛な妖精は、大陸中を自由気ままに飛び回っている個体が多いのだけど。

 稀にこのチューターさんみたいな妖精もいるそうで。

 レンテンローゼーンさんは、そんな妖精さんを集めてチューターさんをお願いしたそうだよ。

 

        **********


「まあ、一言で妖精って言っても人間と一緒で個性があるし。

 誰一人として同じ妖精は居ないわ。

 母さんは、そんな同族達を適材適所で配置しているの。」


 王族の指導教育や貴族の監視、それにチューターさんって役割もあるけど、自由気ままに飛び歩いて情報ネットワークを構成してくれる妖精さんもとても重要なんだって。


 ペピーノ姉ちゃんとやり取りをしていて、他国の情報にとても詳しくて感心していたんだけど。

 どうやら妖精さんネットワークを駆使して情報を集めているらしい。

 妖精さんと親しくしているこの国ならではの強みだね。


 おいらの国もそうだけど、この大陸はムチャクチャ広いから他国の情報が伝わるのに数ヶ月、下手をすれば一年以上掛かるものね。

 それでも伝われば良い方で、大切な情報でも伝わらずに漏れていることもあるようだし。


 おいらもアルトから色々教えてもらっているけど、基本おいらから尋ねないと教えてもらえないからね。

 レンテンローゼーンさんは、妖精さんネットワークを通じて得られた情報を取りまとめ、日々王族に伝えるようにしているみたい。

 

「それ良いね。

 おいら、最初にペピーノ姉ちゃんに会った時に驚いたんだ。

 国交が殆ど無いのに、おいらの事に凄く詳しいのだもの。」


 妖精さんネットワークのことは幼い頃にアルトから教えてもらったけど、そんな使い方は思い付かなかったよ。

 てか、そんなことをアルトに頼んでも、「面倒だから嫌」と断られそうだね。


「マロンちゃんもアルトに頼んでみたら?

 誰か、妖精ネットワークの情報を定期的に報告してくれる妖精を紹介して欲しいって。

 マロンちゃんだって一国の女王なのだもの。大陸中の情報は広く握っておかないと。」


 その時のおいら、きっと羨ましそうな顔をしてたんだろうね。イチゲさんがそんなアドバイスをしてくれたよ。

 アルトは面倒臭がってやりたがらないだろうけど、情報に通じている妖精を紹介することくらいはするだろうって。


 そうだね。トアール国の辺境にあるアルトの森も妖精さんネットワークに組み込まれているみたいだし。

 誰か、適当な妖精さんを紹介してもらおうかな。

 案外、トレント狩り用の森と隣接しているアルトの森も妖精さんネットワークに組み込まれているかも知れないね。

 あの森に住む妖精さんも増えてきたし。


 その晩、おいらはイチゲさんからのアドバイス通りアルトに頼んでみたの。


「あら、マロン、ちゃんと王様しているじゃない。感心、感心。

 良いわよ。別に他の妖精を使わなくても、私が教えてあげる。

 安心しなさい。

 王都にある森にも最近ちょくちょく同族が立ち寄るようになってるから。

 大陸内の情報はバッチリ把握しているわ。」


 意外なことに、アルトは自ら協力すると言ってくれたよ。

 おいらが想像していた通り、アルトの新しい森も妖精さんネットワークに組み込まれてるみたい。

  

お読み戴き有り難うございます。

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