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第786話 孫の顔が見られて嬉しそうだったよ

 翌朝、伝言一つ残して狩りに出て早六日、そろそろ帰らなければと思っていると。


「ロコト、今日から少し遠出しますよ。」


 朝食の席でクコさんがお出掛けすることを告げんだ。


「なになに、またカレンちゃんちに行くの?

 楽しみだな~。」


 普段、領地を囲む壁から外へ出ることがないからだろうね。ロコト君にとって、遠出と言えばウルピカさんの領地へ納品に行くことを示すみたい。カレンちゃんとも仲良くなっているようだし、とても嬉しそうにしてたよ。


「ゴメンね、ロコト。今日はカレンちゃんちじゃないの。

 これから行くのは、お祖父ちゃんの家よ。

 カレンちゃんちより、ずっと遠くにあるの。」


「お祖父ちゃん?」


 クコさんの返事を聞いて首を傾げるロコト君。どうやらお祖父ちゃんって言葉の意味が理解できないらしい。


「ああ、ここの領民は若い世代ばかりだからね。

 お祖父ちゃんと言っても分からないか。」


 オベルジーネ王子はそんな呟きを漏らすと、小声で教えてくれたよ。

 この領地の領民は王子自ら各地を訪ねて募集してきた人々なのだけど、部屋住みで燻ぶっていた次男坊、三男坊を集めてきたらしいんだ。

 農家でも、商家でも家を継げるのは長男一人だけ。大商人なら幾つも支店を作ってそこの支配人に次男や三男を充てることが出来るけど。そんなの稀でほとんどは家の片隅で冷や飯を食べることになるそうだよ。

 それでも王都をはじめ大きな町では、求人がそこそこあるので家を出て働くこともできるけど。田舎の農村部だとたいていの場合、本家の一室を宛がわれて長男の下で農作業に従事する事となるらしい。

 王子はそんな農村部を回って領民を勧誘して来たんだって。家と畑を与えるからと、次男坊、三男坊に宣伝して。

 そんな経緯からこの領地の領民は最高年齢でも四十代半ばで、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんは存在しないらしい。


 そんなロコト君に。


「お祖父ちゃんってのは、お父さんのお父さんよ。

 分かる? ロコトはお母さんとお父さんから生まれてきたのよね。

 当然、お父さんを生んだお母さんとお父さんがいる訳なの。」


 クコさんが噛んで含めるように説明すると…。


「それ知っている。

 お祖父ちゃんて、うだつの上がらない下級貴族って人でしょう。」


 ロコト君の言葉を聞いてクコさんは頭を抱えていたよ。

 オベルジーネ王子の作った設定がモロ裏目に出たからね。

 ロコト君、王子からは貧乏貴族の次男坊か三男坊と聞かされていたはず。

 継ぐ家が無いから自力で新しい領地を開拓したものの、領地収入だけでは生計を維持できないので出稼ぎに出てる。

 そんな設定だったものね。


 クコさんはどう説明したものかと、王子に視線で助けを求めてたよ。


「ロコト君。お祖父ちゃんの前でうだつが上がらないとか言ったらダメだからねぇ。

 いつも言ってるでしょう。年長者には敬意をもって接しなさいと。

 お祖父ちゃんの前に出たら、礼儀正しく挨拶をして、丁寧な言葉遣いをするんだよぉ。

 そうすれば、きっとお祖父ちゃんもロコトのことを可愛がってくれるから。」


 王子は、お祖父ちゃんが国王だと明かさなかったよ。何を考えてるのか下級貴族って設定も訂正しないし…。


「旦那様、それでよろしいのですか?」


 額に手を当てたまま王子に問い掛けるクコさん。


「良いの、良いの。

 ボクちんが教えた通りに接してくれれば良いから。」


 王子は、相手が誰であろうと年長者には敬意をもって接するようにずっと教えてきたと言い。

 例え相手が王様だろうと媚びることなく、平民だろうと横柄になることなく、等しく丁寧に接するように育ててきたつもりなんだって。


「旦那様がそう仰るのならこれは以上は言いませんが…。

 知りませんよ、本当に…。」


 自分の子供が初めて国王に会う事になるのにあっけらかんとしている王子を、クコさんは呆れ顔で見詰めてたよ。


         **********


 それからしばらくして、クコさんとロコト君が身形を整え終えると王都へ向けて出発することになったよ。

 この時、初めてリュウキンカさんがロコト君の前に姿を現したんだ。

 クコさんや周りの人達からお伽話として聞かされていたのだろう。ロコト君はリュウキンカさんを見て凄く興奮してたよ。

 そしてオベルジーネ王子に尊敬の眼差しを向けていたんだ。伝承では妖精の加護を受けられる人は極限られた心の綺麗な人だと言われているからね。

 

 リュウキンカさんとアルトの『積載庫』に分乗して王都へ向かった訳だけど、さして時間は掛からずお昼前には到着したよ。

 例によって王城の正門を飛び越えたリュウキンカさんとアルトは、そのまま王様の執務室へ直行したんだ。


「王様、オベルジーネ王子を連れて戻ったのだけど。

 この場で降ろして良いかしら?」


「これはリュウキンカ様、お帰りなさいませ。

 倅がご面倒をお掛けしております。

 もちろん、かまいませんとも。

 ちょうど今、手透きになったところですし。

 来客の予定もございませんから。」


 王様がリュウキンカさんの問い掛けを首肯すると、王子達をその場に降ろしたんだ。

 予め注意されてたのか、ロコト君は王子の後ろでクコさんと手を繋いで大人しくしてたよ。


「おや、クコ殿ではないか。久しいのう。

 ということは、そこの子がロコトか?」


「はい、陛下。ご無沙汰ばかりして誠に申し訳ございません。

 ロコト、お祖父様です。ご挨拶させて戴きなさい。」

 

 恭しく頭を下げて挨拶したクコさんは、ロコト君は一歩前に立たせたの。


「お初にお目に掛かります、お祖父様。

 ロコトで御座います。よろしくお願い申し上げます。」


 これも予め教えられていたのか、挨拶の言葉を述べたロコト君は礼儀正しく一礼してたよ。


「おお、礼儀正しい良い子だ。

 だがな、ロコト、初めましてではないぞ。

 そなたは覚えてないであろうが。

 生まれたばかりのそなたを何度も抱っこしたのだから。」


 いや、生まれたばかりのことを覚えている訳無いだろうに…。想定外の返しをされて、ロコト君もどう返答してよいものか困っているじゃん。


 すると王様は。


「よくぞ参ったなロコト。

 そなたの成長した姿を見られて嬉しいぞ。」


 満面の笑みを湛えてロコト君に歓迎の言葉を掛けたんだ。

 

「私もお祖父様にお目に掛かれて嬉しいです。」


 王様の気持ちは伝わったようで、ロコト君も嬉しそうに返答してたよ。

  

        **********


「して、クコ殿、今日はどのような御用かな?

 勿論、用事など無くともかまわんのだが。

 初孫のロコトの顔を見られるのは嬉しいからのう。」


 王様はもっと気軽に遊びに来て欲しかったと伝えてたよ。

 

「父ちん、今日はボクちんがお願いしてクコちゃんを連れて来たんだぁ~。

 クコちゃん、ようやくウンと言ってくれたしぃ。

 ボクちんの妃になってくれるってぇ~。」


 王子は相変わらず緊張感のない言葉でとても重要なことを告げたんだ。

 孫に示しがつかない息子のチャラい言葉を耳にして、王様は一瞬苦い表情を見せたんだけど。

 王子の言葉の重要さに気付いたようで、王様はハッとした表情を見せたんだ。


「でかしたぞ、オベルジーネ。良くクコ殿を説得してくれた。

 これはめでたい。おい、誰か! 今日は宴だ。

 今すぐ、宴の用意をするよう伝えるのだ!」


 王様は大喜びで、宴の準備を命じてたよ。


 何の問答も無くクコさんの嫁入りを喜ぶ王様に、却って不安になったのか。

 

「ええと…。陛下、それでよろしいのでしょうか?

 私のような者が、オベルジーネ殿下の妃になど。」


 クコさんは恐る恐るそんな問い掛けをしてたの。


「何を言っておるのだ。反対などする訳無かろう。

 ペピーノなど初めて会った時から、そなたを妃にと推しとったのだ。

 儂も賛成しておったのに。

 そなたは荷が重いと申して領地に引き籠ってしまい、残念に思っておった。

 こ奴には、さっさと説得してこいとせっついておったのだぞ。」


 どうやら、オベルジーネ王子にクコさんを説得するよう、王様は常々催促していたみたいだよ。

 ロコト君の出産育児のために王宮に滞在したのは二年半ほどだと聞いてたけど。

 その間、クコさんはペピーノ姉ちゃんだけでは無く、王様の仕事も手伝っていたみたい。

 王様はクコさんのおかげで大分楽をさせてもらったと言ってて、その仕事振りにとても感心してたんだって。

 王様もいつしかクコさんを手放すのは惜しいと思うようになってたんだって。

 

 そんな訳で、クコさんの嫁入りはあっさりと王様に受け入れられたんだ。

 

お読み頂き有り難うございます。

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