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第778話 あの妹も大概やることがムチャクチャだよ…

 殺意を抱くほどオベルジーネ王子を嫌悪していたというウルピカさん。

 だけど、何故か、今は仲の良い夫婦に見えるし、カレンちゃんという娘さんまでいる。

 そのことを不思議に思って尋ねたところ、王子はチャラい口調で『流れ弾が中った』と、意味不明なことを言ったんだ。

 あまりに戯けた返答だったせいか、ウルピカさんは機嫌を損ねた様子で王子をマジ殴りしてたよ。


「昨日、フルティカに会ったのならお気付きでしょうが。

 妹は主人にベタ惚れで御座いまして…。」


 うん、それはおいらにも分かったよ。二人でダーリン、ハニーって呼びあって、他人目(ひとめ)を気にせずイチャついてたもん。


 ウルピカさんの両親が経営する宿に逗留した王子は初日から、レイカさんとチカさんの二人をお持ち帰りし。

 それからずっと、二人と夜を共にしていた訳だ。

 やがて二人が妊娠して夜のお相手が出来なくなると、すぐさま今度は玉の輿狙いのフルティカさんが王子に夜這いを掛けた訳で。

 逗留初日からフルティカさんが妊娠するまで、王子は一晩たりとも一人寝をしたことが無かったそうなの。


 王子が節操無く女性と関係を持つことを知っているフルティカさんは、その時危機感を抱いたらしいよ。

 酷い悪阻(つわり)で自分がお相手を出来ない間に、王子が今度は他所(よそ)の女性に走るのではないかと。

 フルティカさん達の町を離れて、他の街で『お持ち帰りできるお姉さん』を漁るとか…。

 チャラい言動の王子の事だから口では責任を取ると言いつつ、出て行ったら忘れられてしまうのではないかと。


「今なら、そんなことをする人ではないと、主人を信頼できますが。

 当時まだ十三歳の妹は、そこまで主人を信じ切れなかったのでしょうね。

 一人寝に耐えられなくなった主人が町から出て行くのではと怖れるあまり…。」


「怖れるあまり?」


「私を人身御供に差し出すという暴挙に走ったのです。

 一服盛って、私を主人の部屋に放り込むという…。」


 フルティカさんが酷い悪阻で王子の夜の相手が出来なくなって間もない晩のことらしいけど。

 夜、帳簿付けを終えて帳場からリビングに戻ってくると、そこでフルティカさんが待っていたらしい。 

 フルティカさんは、「遅くまで大変だね。」と労いの言葉を掛けると、ウルピカさんに一杯のジュースを差し出したそうなの。

 柑橘系の甘いジュースで、フルティカさん曰く「疲れがとれる。」とのことだったらしい。

 柑橘類を使ったジュースが疲労に効くってことは巷でも言われており、ウルピカさんは何の疑いも無く飲んだそうなの。

 でも、それはフルティカさんの罠で…。


「そのジュースを飲んでしばらくすると、体が火照って、意識が朦朧としてきたのです。

 次に気付いた時には、既に日が昇っていて…。

 何故か、主人が隣に寝ていました。私も、主人もあられもない姿で。」

  

 下腹部に微かな痛みを感じたウルピカさんはすぐさま状況を確認したそうだよ。

 掛け布団を捲って、シーツに付着した色々なモノを見た時、ウルピカさんは気が遠くなったらしい。

 それから、チャラ王子をベッドから蹴り出したんだって。


「ボクちん、ぐっすり寝てたらいきなりベッドから蹴落とされてびっくり仰天だったよぉ~。

 しかも、何故か、ベッドの上にはウルピカちゃんがいるし…。」


「私、最初は主人が欲望のまま夜這いを掛けて来たのだろうと思いました。

 ですが、それから直ぐにそこが主人の宿泊している部屋だと気付いたのです。

 そして、ウルピカからジュースを貰った後の記憶が無いことに。」


 ウルピカさんが飲まされたのは、『レディー・キラー』と呼ばれるお酒らしい。

 とてもアルコール分の高いお酒を甘い柑橘系のジュースで割ったもので、口当たりが良いため女性でも飲み易いお酒なんだって。

 その癖、とても強いお酒だから酔いの回りが早く、女性を酔わせて悪戯する目的でしばしば利用されるみたい。


「ボクちん、フルティカちゃんだと信じて疑わなかったからね。

 ベッドの上で憤怒の形相で仁王立ちをするウルピカちゃんと見て青褪めちゃったよ。

 流石に、これはシャレにならないって…。」


 流石のチャラ王子もウルピカさんを食べちゃったのは拙いと思ったらしい。

 自分に対する対応から嫌われているのは明らかで、どう考えてもウルピカさんにその気が無いと分かったから。

 平民の女性を無理やり手籠めにした貴族は、ちょん切られて島流しだっけ。


「でも、その時、私、少しだけ主人を見直したのですよ。

 まさか、下級とは言え貴族の主人があんなことをするとは思いませんでしたから。」


「何をしたの?」


「決まっているじゃん。

 その場で、土下座して平謝りしたよ。」


 チャラ王子の言葉を聞いたウルピカさんは、その光景を思い出したかのように「ぷ、ぷ」っと笑い。


「本当に予想外でした。

 貴族の主人が平民の娘に対して、床に頭を擦り付けて謝るのですもの。

 貴族ってもっと尊大で、自分の過ちを認めないものだと思ってましたから。」


 それから、ウルピカさんは王子の部屋にフルティカさんを呼びつけて詰問したそうだよ。

 昨夜、何の目的で、一体何をしたと。

 それで、お酒のこととか、王子が出て行かないか不安だったとか聞き出したらしい。


「ボクちん、大切なモノ奪っちゃったし、謝って済むことじゃ無いと分かってたからねぇ。

 ウルピカちゃんのためにも領地を用意するからと提案したんだぁ。」


「ええ、その時はお断りしたのです。

 話しを聞く限り、その件に関して非があるのは妹ですし。

 主人が平謝りする姿を見て気が済みましたから。

 野良犬に噛まれたと思って忘れると伝えたました。」


 その時のウルピカさんは、実家の宿屋を継ぐつもりなので領地なんて要らないと返答したらしい。

 妹のフルティカさんを幸せにするという約束さえ守ってくれるのなら、それで良いと。


「だから、ボクちん、必ずフルティカちゃんを幸せにすると誓ったんだぁ。

 それが嘘じゃない証として、フルティカちゃんに用意する領地の計画を全て説明したよぉ。」


 領地の細かな計画図面とか、領地で生産予定の絹地とかを見せて事細かに説明したそうだよ。

 それを貰う予定のフルティカさんの方はそれまで余り気にしてなかったみたいで、初めて計画が明かされたんだって。


「それは、普段の軽薄な言動からは想像できないほど良く練られた計画でした。

 私、主人なら妹を任せても大丈夫なのではと、この時初めて思ったのです。」


 女性関係にだらしないのは頂けないものの、思ったより働き者で頭も切れるとウルピカさんは王子の評価を上げたらしいよ。


          **********


 それから、二ヶ月程過ぎた頃の事らしい。

 ウルピカさん、無性に酸っぱいものが食べたくなり、気付くとピクルスを摘み食いしているようになったんだって。

 その少し前から『ルナからのお客さん』が来なくなり、これはもしやとウルピカさんは思っていたそうだよ。

 そのうち、吐き気が襲って来たそうで…。


「主人は百発百中だなんて言ってますけど…。

 まさか、本当に一回きりの関係で()ててしまうとは思いもしませんでした。

 マロン様はご存じないかも知れませんが、子供というは普通そう簡単にできるものでは無いのですよ。

 中には夫婦になっても子宝に恵まれない事すらあるのですから。」


 フルティカさんの姦計で王子の部屋に放り込まれた、そのたった一回でウルピカさんはカレンちゃんを身籠ったらしいの。

 その時も、ウルピカさんは王子に何かして欲しいとは思わなかったそうだよ。

 ウルピカさんには継ぐ予定の宿屋があるので、女親一人でも子供の一人くらい十分に養えると思っていたから。


「私がカレンを身籠ったことを知ると、主人はまた私の前で土下座したのです。

 お腹の子供のために領地を造るのでどうしても貰って欲しいと。

 私が宿屋の経営をしたいのなら、最高の宿屋も付けるからと。」


「ボクちん、ウルピカちゃんが宿屋の仕事に生き甲斐を感じているのは知ってたしぃ。

 ここに良い温泉が湧いているのも知ってたからねぇ。

 ここの経営を任せるのはウルピカちゃんしかいないと思ったんだぁ~。」


 王子は、用意周到なことにも領地関する計画書を用意してあったそうなの。

 今居る領地の計画図やら、宮殿のような宿屋の設計図、それに顧客の見込みとか。


「それでも、私は乗り気じゃなかったのです。

 私が嫁に行ってしまえば、誰が実家の宿を継ぐのかと。

 何も貴族様だけが家を大切にしている訳では無いですから。

 平民だって代々続いてきた仕事をおいそれと途絶させる訳にはいきませんよ。」


 特に、ウルピカさんの実家は宿場町でたった一軒の宿屋らしいし、無くなったら旅人が困るからね。

 でも、側で話しを聞いていた両親は、王子の申し出は受けるように勧めたらしいよ。

 宿なら誰か出来の良い使用人に譲って続けてもらうからと。


「それでも、私は渋っていました。

 商売が傾いた訳でもないのに、生まれ育った家を他人手に渡すのは釈然としなくて…。

 そしたら、主人はなんて言ったと思います?」


「なんて言ったの?」


「そりゃ、決まってるじゃん。

 他人手に渡すのが嫌なら、もう一人子供を作れば良いじゃんって。

 ご両親はまだ若いんだから、孫が育つまで現役で宿の経営が出来るはずだしぃ。」


 その時のウルピカさんは十六歳、フルティカさんは十三歳。

 この大陸じゃ、二十歳までに第一子を儲けるのが普通だから、その時は三十半ば過ぎでもおかしくないね。

 それを聞いた両親は大乗り気になってしまったそうで、申し出を受けるよう強く勧めたらしい。


「いつも間にか外堀を埋められてしまって…。

 もう、お断りできる雰囲気じゃなくってしまいました。

 まあ、女癖が悪いことを除いたらそこまで悪い人ではないと解りましたし。

 主人のお気遣いを有り難く頂戴することにしたのです。」


 そんな訳で、ウルピカさんはチャラ王子の『妾』になったんだって。


「妾だなんて失礼だなぁ~。

 ウルピカちゃんだって、フルティカちゃんだって、もちろんクコちゃんだって。

 三人ともボクちんにとっては大事なお嫁さんだよぉ~。

 みんな、一番愛してると自信持って言えるしぃ。」


 チャラ王子はまた調子の良いことを口走ったんだけど。


「はい、はい、有り難うごう御座います。」


 クコさんは適当にあしらうと。


「それより、あなた。

 父が宿の後継ぎはまだかと急かすのです。

 カレンももう三つ。

 手も掛からなくなったので次をお願いします。

 二日ご滞在なのでしょう。

 御自慢の百発百中、本領を発揮してくださいね。」


 次の子供が欲しいと催促してたよ。


「ウルピカちゃんから催促されるなんて感激しちゃったしぃ。

 ボクちん、ご期待に沿えるよう頑張るしかないじゃん。

 今晩は、とことん付き合ってもらうからねぇ~。」


「はい、はい、期待してますよ。

 と言うことでマロン陛下、今日はこの貴賓室でお休みください。

 屋敷では、睡眠の妨げになるやも知れませんから。」


 そんな訳で、おいら達は宮殿のような宿屋の貴賓室に泊ることになったんだ。

お読み頂き有り難うございます。

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