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第775話 二度あることは三度あるとは聞くけど、まさか…

 パルチェちゃんが妹が欲しいと強請ったと聞かされたオベルジーネ王子。

 ならば期待に応えないといけないと、おいら達を残してさっさと寝室へ籠ってしまったよ。

 フルティカさんだけではなく、メイドのレイカさんまで連れて…。


 翌朝、顔を艶々させたフルティカさんがソファーで王子とイチャついてたよ。


「ダーリンったら、凄すぎです。

 私とレイカ姐さんの二人を相手に夜明けまでぶっ通しだなんて。

 おかげでお腹の中タプタプですわ。

 これなら、パルチェのお強請りに答えられそうです。」


 そんなことを言いながら、フルティカさんは自分のお腹を撫でてたの。

 こいつら、徹夜で子作りしてたのか。そんなんで大丈夫なのか、今日も朝から魔物狩りをする予定なのに…。


「任せてちょ。ボクちん、種まきは生き甲斐だしぃ。

 両手に華だなんて、男のロマンじゃん。

 たとえそれが二晩、ぶっ通しでも全然苦にならないよ。」


 チャラ王子の奴、心配するのも馬鹿馬鹿しいくらいに元気溌剌だったよ。

 こいつ、見かけによらず随分とタフだよね。

 タロウなんて、シフォン姉ちゃんが顔を艶々させている時はたいていゲッソリとしてるのに…。


 すると、二人の後ろで控えていたレイカさんがやはり艶々の顔で。 

 

「御屋形様、相変わらずの種馬振りで御座いましたね。

 まさか、一睡もさせて戴けないとは思いませんでした…。」


 少し呆れつつ、チャラ王子のタフさに感心してたんだ。

 しかし、種馬って…。それ、決して誉め言葉じゃないよね。


「そりゃ、ボクちん頑張っちゃうよ~。

 子供が欲しいと言われたら、奮い勃つに決まってるじゃん。

 男冥利に尽きるしぃ。」 


 でも、王子は褒められていると思ってるようで、自信満々でそんなこと言ってたよ。


           **********

 

 やがて、リンカちゃんに連れられたパルチェちゃんがやって来て膝の上に陣取ると、王子はパルチェちゃんを構うのに夢中になり。

 レイカさんとリンカちゃんは朝食の準備に部屋を出て行ったよ。


「そうそう、先日、姉さんから便りがありました。

 最近、宿のお客さんが増えているそうですよ。

 ダーリンから噂を聞いて泊りに来たというお客様が多いそうで。

 姉さん、ダーリンにとても感謝してました。」


 思い出したように伝えるフルティカさん。


「ボクちん、普段あちこち飛び回ってるしぃ。

 結構、顔が広いんだぁ~。

 なるべく宣伝するようにしてるからねぇ~。

 お役に立ててなによりだよ~。」


 フルティカさんの生家が営む宿はお姉さんが継ぐらしいけど、どうやら、オベルジーネ王子はその宿を宣伝をしているらしい。

 しかし、フルティカさんちって宿場町の宿だよね。宣伝したからと言ってわざわざ泊りにいくものかな?


 あるとすれば、急げば次の宿場まで行けるところを、こいつの勧めに従って敢えてフルティカさんちの宿に泊まる。

 まあ、良い宿だと宣伝さえしておけば、そんなことくらいはあるかも知れないね。


 その時のおいらはそう思っていたんだ…。


 朝食を済ませるとさっそく魔物狩りに出掛けることになったんだけど。


「かえっちゃ、いやぁ~。」

 

 パルチェちゃんが王子にしがみ付いて、泣きながら引き留めようとしたの。


「パルチェ、ゴメンねぇ。 でも、パパ、これからお仕事なんだ。

 パルチェやママが危ない目に遭わないよう、怖い魔物を退治しないとね。

 三日したら帰ってくるから、それまで良い子で待っててくれるかな?」


 涙目のパルチェちゃんの頭を撫でながら、優しく諭す王子。


「ほんとう? かえってくゆぅ?」


「ああ、本当だよ。

 パパだって、パルチェと一緒に居たいから。

 頑張って早く帰ってくるよ。」


「じゃあ、やくそく。」


 王子に言葉に頷いたパルチェちゃんはそう言って小指を王子に差し出したの。


「おう、約束だよ。」


 王子が指切りを交わすと、パルチェちゃんも何とか納得したみたいだった。

 パルチェちゃんに対しても、ちゃんと父親をしているんなって感じたよ。


「パピー、いってらっしゃい。はやく、かえってきてね。」


 何とか泣き止んだパルチェちゃんに見送られて、おいら達は再び魔物狩りに出発することになったの。


          **********


 その日も、前日同様、街道周辺の狩りをしながらクコさんの領地とは反対方向へ進むことになったんだ。

 アルトとリュウキンカさんに上空から魔物を探してもらって狩り続けること約半日、そろそろお昼の時間かなと思っていると。


「ねえ、チャラ王子、こんな所にまた別の領地があるけど。

 この造り、どこかで見覚えがあるんだけど、気のせいかな?」


 二度あることは三度あると言うけど、まさか、三つ目があるとは思わなかったよ。


「ニャハハ、そう遠回しに言わなくても良いじゃん。

 ご想像通り、ボクちんが作った村だよぉ~。

 って、なに、みんな? その汚物を見るような目は?」


 どうやら、チャラ王子の返事を聞いた途端、おいらだけじゃなく周りの目も軽蔑の眼になったらしい。

 「これ、絶対に別の女を囲ってるね。」、「小さな子供が出てくると見た。」なんて、タルトとトルテのささやきが聞こえたよ。

 うん、おいらも即座にそう思ったよ。

 おいらの父ちゃんやタロウだってお嫁さんが沢山居るから、それをもって軽蔑するつもりはないけど…。

 このチャラ王子のは何か違うと思う。コソコソと隠れてしているような気がするし、何処かやましいところがある気がする。


 案の定と言うか、王子はリュウキンカさんに今日狩った魔物を出してもらうとお供の騎士と一緒に担ぎ出したよ。


「マロンちゃん、ここでもジーネと呼んでちょ。王子はナシだよ。」


 三度、そんな念押しまでするし…。


 そして、魔物から領地を護る堅固な門の前まで来ると。


「若旦那、お帰りないやし。

 これはまた立派な『馬鹿』ですね。

 魔物狩りをしながら帰ってこられたんですか。

 流石、若旦那だ。こんなの俺達じゃ太刀打ちできないですわ。」


 出迎えてくれた門番が、ジーネが担ぐ魔物を見て感心してたよ。

 その目からはジーネに対する偽りのない尊敬の念が感じられたんだ。


 そして魔物を防ぐのには十分な厚みがある土壁の内側に足を進めると、おいらの目に花壇のような街並みが飛び込んできたよ。

 基本的な街の造り自体がクコさんやフルティカさんの領地と変わっているんだ。

 領地の中央を貫く通りは綺麗な石がモザイク模様に敷き詰められてて、道の両側には可愛い雰囲気の建物が並んでた。

 圧巻なのは、街のあちこちに植込みが作られ色彩豊かな花が咲き乱れているの。

 それもてんでバラバラに植えられている訳ではなく、とても良く配色が考えれているんだ。

 まさに街全体が調和のとれた一つの花壇みたいだったの。


 そして、その一画にある真新しい宮殿のような建物。

 おいらがマイナイ領に建てた離宮同様宮殿と呼ぶにはやや小振りだけど、とても瀟洒な造りで上級貴族のお屋敷って感じだった。


「これが領主のお屋敷なの? この領地の領主にしては立派過ぎるような…。」


「まさか、この規模の所領でこんな豪邸に住んだら失笑されちゃうじゃん。

 領主の屋敷はほら、あそこだよん。」


 チャラ王子の指差す先には、クコさん、フルティカさんの屋敷と瓜二つの控え目なお屋敷が建ってたよ。

 これじゃ、どっちが領主のお屋敷か分からないなと思いながら歩いていると。

 中央の通りに直交する一本の道を越えた途端、街並みの雰囲気が一変したんだ。

 何と言うか、庶民的な街になった? おいらが育った辺境の町みたいで、親しみが持てる街並みだったの。

  

「なんか、街の雰囲気が急に変わったね。

 庶民的になったと言うか…。」


「そりゃ、そうじゃん。

 この街の表側はお客様をおもてなしする空間だしぃ。

 ちょっと、非日常的なんだぁ~。

 この道から先が、ここの住民の生活空間だから。」


「おもてなし?」


「そだよぉ~。

 この街は貴族や豪商といったお金持ちの保養地として造ったんだぁ~。

 と言っても、まだ完成して間もないんだけどねぇ。」


 こんな森の中に保養地? わざわざ、こんな所まで来る物好きが居るのかな。

 おいらがそんなことを考えている間にも、領主のお屋敷は間近となってきて。


「カレンお嬢様、若旦那様がお戻りになりましたよ。」


 どうやら、屋敷の庭で遊んでいた女の子が、柵越しに王子を見つけたみたい。

 屋敷を囲む柵の中からそんな声が聞こえて間もなく、門扉が開いて女の子が二人現れたんだ。

 お洒落なドレスを身に着けた三歳くらいの幼女と、子供用に仕立てられたメイド服姿の五歳くらいの少女。

 共に何処かで見覚えのあるサラサラの金髪をしていたものだから。

 おいらだけじゃなく、オラン、タルト、トルテの疑惑の目が一斉にチャラ王子に向けられたよ。


「おとうちゃま、おかえりなしゃいませ。」


 先ずは幼女が舌足らずの言葉でチャラ王子を迎えると。


「若旦那様、お帰りなさいませ。」


 メイド姿の少女が礼儀正しく頭を下げたよ。


「カレン、ネネちゃん、ただいま。

 二人ともきちんと挨拶が出来ていい子だね。」


 二人の礼儀正しい姿に相好を崩した王子は、愛おしそうに二人の頭を撫でたよ。


 そんなチャラ王子達を目にして。

「あの二人、絶対に姉妹ですよね。」、「多分、十中八九。きっと前と同じパターンです。」

 おいらの後ろでタルトとトルテがヒソヒソと小声で話してた。


「カレン、母さんは屋敷の中かな?」


 カレンちゃんの頭をナデナデしたままで、王子は母親の居場所を尋ねたのだけど。

 カレンちゃんは母親の所在を知らないみたいで、メイド姿のネネちゃんにヘルプの視線を送ってたんだ。


「奥様でしたら、今、宿屋の方へ行かれてます。

 おそらく、帳場かと。」


 カレンちゃんに助けを求められて、代わりにネネちゃんが答えると。


「そっか、じゃあ、父さんも宿屋の方へ行ってみるよ。

 二人も付いておいで。」


 その返事を聞いた王子は。カレンちゃんと手を繋いで今来た道を引き返し始めたんだ。

 もしかしてあの宮殿みたいな建物が『宿屋』なの?

 じゃあ、出掛けにフルティカさんが言ってた宿と言うのも…。

お読み頂き有り難うございます

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