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第771話 その近辺にまつわる哀れな『勇者』達のおはなし

 今の落ち着いた雰囲気からは想像できないけど、十代の頃はヤンチャしてたと言うレイカさん。

 オベルジーネ王子が一人森で領地を開拓する間滞在した宿で、王子の人恋しさを慰めていたそうだ。

 ライカさんの懐妊が判明したのは、王子が宿に滞在している期間だったらしいけど。

 目の前のチャラ王子がリンカちゃんの父親かどうかははっきりしないらしい。

 王子以外のお客さんの相手もしてたそうだし、何よりも王都で派手に遊んでいた直後って要因が大きいらしい。


 レイカさんは否定的だけど、オベルジーネ王子はリンカちゃんを自分の娘だと思っていて。

 レイカさんとリンカちゃんが、路頭に迷わないよう、生活に困らないよう最大限の配慮をしているみたい。

 それが、レイカさん母親の今の境遇なんだって。


 でも、その話には一つ腑に落ちないことがあってね。


「今聞いた話じゃ、フルティカさんが関わって来ないよね。

 ジーネは何でこの領地を造ったの?

 そして、何でフルティカさんが領主代行で、レイカさんがメイドなの?」


 何よりも、パルチェちゃんと言うチャラ王子の娘はいつ出来たんだよ。

 その辺の経緯は全然説明された無いんだけど。


「ああ、それ、玉の輿願望のあった私が欲を出したものだから…。」


 恥じらいの表情を見せてフルティカさんが会話に加わってきたの。


「どういうこと?」


「父さんは金払いの良いダーリンを諸手で歓迎してたけど。

 私は最初、ダーリンにあまり良い印象は持って無かったの。

 どうせまた、しょうもない『勇者』が来たんだろうって…。」


 フルティカさんの住んでいた宿場町の周辺は、軽蔑の意味を込めて『勇者たちの夢の跡』と呼ばれているらしい。

 もちろんこの国でも、『勇者』って単語は『愚か者』とか『身の程知らず』とか、この大陸共通の意味で使われていて。

 およそ人格を表現する言葉の中では、もっとも侮蔑的な言葉とされているものだよ。

 『勇者』>『阿保』>『馬鹿』みたいなイメージで使われてるの。まあ、阿保と馬鹿の序列は国や地域によって違うみたいだけど。勇者は愚か者を評する言葉としては不動の一位なんだ。


 何でそんな不名誉な俗称が付けられたかと言うと、開拓途上で放棄された新領地開拓予定地が点在しているかららしい。

 なんでも、継ぐ家の無い貴族の次男坊、三男坊が貴族の地位にしがみ付くために開拓に挑んで挫折したものなんだって。

 別に貴族の地位を維持したいのなら、『図書館の試練』をクリアして更に王宮官吏の登用試験に合格すれば良いのだけど。

 試練をクリアする能力が無いため、一か八かで領地の開拓に挑む者が何年かに一人居るらしいの。


 フルティカさんの故郷は比較的王都に近い宿場町とのことだけど、何故か宿場地の周辺は手付かずの平原らしく。

 何れかの貴族の領地となっている訳でもないんだって。


 因みにこの国の領地制度は少し特殊で、手を加えていない土地の領有は認めてないらしい。

 おいらの国でもそうなんだけど、普通、領地の境は川とか山脈とか、場合によっては道幅の広い街道とか、そんなモノが領地の境界となっている場合が多いの。

 そして、境界の内側は原野だろうと手付かずの森だろうと、特定領主の領地となってるんだ。


 でも、この国は違っていて、一定の規格を満たす堀と土塁・石垣で囲まれている範囲内のみが領地と認められるんだって。

 その他の土地は国有地なんだけど、王宮に届け出さえすれば身分を問わず自由に開拓することが出来るそうで。

 その開拓地が一定の要件を満たせば、貴族の位が与えられてその土地を領有することが認められる仕組みになっているの。


 これは、貴族が自らが統治できる範囲を超えた土地を領有することを防止するための制度なんだって。

 魔物からきっちり領民を護るため、堀と土塁・石垣を整備できる範囲に領地を限定してるそうだよ。

 加えて、川みたいな自然物を境界に他の領地と接していると、領地争いの原因にもなるって理由もあるみたい。

 他の国では氾濫により川の流れが変わると、その両岸の領主がしばしば領地争いを起こすらしい。おいらの国でどうかは知らないけど。

 その点、この国では人工的に造った堀と土塁・石垣で囲まれた範囲内だけが領地だから争いの余地が無いんだって。

 しかも、開発の届け出をする際に、既に他の貴族が構える領地と一定距離を取る必要があるらしいし。


 街道沿い、平坦な土地、しかも王都から比較的近いって理由から、その地域は貴族のボンボンが開拓に挑むそうだよ。

 そして、ことごとく失敗しているらしい。


「普通、それだけの好立地、放置されるはずがないじゃん。

 なのに先人達が開発しなかったのには、たいてい相応の訳があるのにぃ。

 『図書館の試練』もクリアできない愚か者は、そんなことすら気付かないしぃ。」


 その言葉を発した時、オベルジーネ王子は呆れてものも言えないって顔をしてたよ。

 それはおいらも思ったよ。何百年もの間、開発されなかったのだからそれなりの理由があるはずだと。


「その訳って気付き難いものだったの?」


「うんにゃ、少し調べれば分かるよ~。

 てか、現地を見ても分らないような奴らばかりだから『勇者』って呼ばれるんだしぃ。

 人も馬も水が無ければ死んじゃうんだよ~。」


「水が無いの?」


「うん、それが一番の理由だけど~。それだけって訳でもないんだぁ~。」


 どういう地形の関係か、その辺り一帯はサラサラの砂地で、近くに川も無く、深い井戸を掘っても水は出て来ないらしい。

 遥か昔、街道を造る際もオアシスのような湧水地を結ぶようにして敷いたらしく、地図で見ると街道は不自然に蛇行してるそうだよ。

 そして、サラサラの砂地に掘るそばから崩れてくるので堀を造るのは難しく、砂を積み上げて土塁やら土壁やらを造るのはもっと難しいんだって。

 よしんば、そこをクリアしたとして、その領地で領民はどうやって生計を立てるのかって話。

 水が無ければ農業は出来ないし、宿場町としてやっていくのも難しいよね。旅人に提供する水が無いんだもの。


「そんな土地、無理に決まってるじゃない。」 


「それを無理だと理解できないのが、『勇者』クオリティじゃん。

 そんな輩に限って『俺なら出来る』って、根拠の無い自信を持ってるしぃ…。

 まさに、『勇者』の呼び名に相応しい愚行だよね。」


 まあ、人には得手不得手があるから、『図書館の試練』をクリアできないからって貴族として失格ということは決してなく。

 頭を使うことは苦手でも、体力に自信のある貴族の子弟が領地開拓に成功して立派な領主になっている例も過去数多にあるらしい。


 成功するか否かの決め手は、地元を良く知る人のアドバイスを謙虚に受け入れるかどうかみたい。

 元々、『図書館の試練』の試練をクリアできない頭脳だから、知識を持つ人に頼れば良いというの。

 水資源が豊富で飲み水、灌漑用水が不足しない土地、地味が豊かで実りが多い土地、そんな土地の所在を教えてもらうんだって。

 それともう一つ、どんな辺境でも厭わないで受け入れる度量らしい。

 そんな都合の良い土地は長い歴史の中で、とっくに何れかの貴族の所領になっているはずだからね。

 よっぽど辺鄙な田舎じゃないと見つからないらしい。逆に人口の少ないこの国では人里離れた辺境まで行けば結構あるんだって。


 反対に失敗する輩に共通するのは、『俺様タイプ』で妙に自尊心が強く、他人の言うことに耳を貸さないところだって。

 王子は、『図書館の試練』の試練をクリアできない頭脳なんだから、せめて識者に頼れば良いのにと再三言ってたよ。

 そしてもう一つ、王都で面白くおかしく育ってきたボンボンで王都から離れるのを厭うタイプだって。

 辺境に行く者を都落ちと蔑み、自ら出向くことなど考えもしないらしい。


「そんな輩にとっては、王都に近いあの一帯は魅力的に見えたんだろうねぇ~。

 何故か、先人の失敗を顧みようとしないんだよ~。

 もっと田舎に行けば、格段に領地開拓が楽な場所が幾らでもあるのにねぇ

 地味の良いところ、鉱物資源があるところ、水が豊かなところ。」


 王子は、この一帯を開発する前にもの凄く調べて有望な土地だと確信してたらしいよ。

 クコさんを妊娠させる前から、いずれこの森に幾つかの領地を造ろうと思っていたそうだから。

 クコさんが身籠って、数年計画が早まったんだって。


 それで、領地開拓を放棄した貴族のボンボンの末路なんだけど…。

 ほぼ全員が、領地開拓の作業中に不慮の事故で亡くなったことになっているんだって。

 しかも、先祖代々の墓所に入れてもらえず、開発途上で放棄された土地に葬られているそうだよ。

 一族の恥晒しとして除名されて、墓碑銘の無いお墓が建てられているみたい。哀れだね…。


         **********


「そんな訳で、私の故郷の周囲には開発途上で放置された土地が沢山あるのです。

 ダーリンを最初に見た時、これはまたチャラい男が来たなと思いました。

 どうせ親のスネを齧って資金を提供してもらい、途中で投げ出すんだろうって。」


 銀貨がごまんと詰まった布袋をドンと宿屋のカウンターに置いた王子を、フルティカさんは冷めた目で見ていたそうだよ。

 特に、レイカさんを半年買い占めると聞いて呆れたらしいよ。大切な領地開発資金を女なんぞに注ぎ込むなんて言語道断だって。

 フルティカさんは、チャラ王子は早々に尻尾を巻いて逃げ出すと思っていたらしい。


 それがどうして、こんなイチャラブになったのかと言うと…。


お読み頂き有り難うございます。

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