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第770話 この人がヤンチャしてたなんて想像できないよ…

 フルティカさんのお屋敷でメイドをしているレイカさん。

 どうやらフルティカさんの実家で営む宿屋で働いていたらしい。

 そこでオベルジーネ王子と出会ったようだ。


「お館様、ご無礼を承知で申し上げます。

 女性の恥ずかしい過去を他人様にお話しするのは如何なものかと。

 少々、デリカシーに欠けるのではございませんか。」


 おっとりとした表情を崩さぬまま、レイカさんは王子に抗議していたよ。


「ちっとも恥ずかしいことなど無いじゃん。

 ボクちんとレイカちゃんの記念すべき出会いの瞬間だよ~。

 職業に貴賎なんて無いんだし。

 マロンちゃんもそんなことでレイカちゃんを蔑むことはないでしょう。」


 なんで、そこでおいらに話を振るかな…。


「どんな仕事でも、一所懸命に生きてる人を蔑んだりしないし。

 ましてや職業で差別するなんて以ての外だよ。」


 おいらの返答が期待に沿えたのか、チャラ王子は『ほら見ろ』って感じでレイカさんを見てたよ。


 おいら、市井の人達の中で育ったから、就いてる仕事で人を見下すなんてしないよ。

 どんな仕事でも、真面目に打ち込んでいる人がいるって知ってるから。

 まあ、『お持ち帰りできるお姉さん』がどんな仕事かは知らないけどね。


      **********

 

「ねえ、『お持ち帰りできるお姉さん』ってどんな仕事か知ってる?」


「さあ、私も初めて聞く仕事なのじゃ。

 部屋に持ち帰ってどうするのじゃろうか?」


 オランと二人でコッソリそんな会話をしていると。


「マロン様、宿場町とは旅人が休憩したり、一夜の宿を取るために立ち寄る町です。」


 後ろに控えていたタルトが耳打ちするように呟いの。


「おいらだって、そのくらい知ってるよ。」


「宿泊客の中には、遠方の珍しい物を買い付けるため、長旅をしている人も多いのです。

 何ヶ月も旅をしていると家族、特に奥様や恋人が恋しくなるらしいですよ。」


 今度はトルテがそんなことを教えてくれたよ。


「その気持ちわかるのじゃ。

 私も、マロンと暮らし始めて三ヶ月も経った頃。

 少し家族が恋しい時があったのじゃ。」


 トルテの言葉に相槌を入れるオラン。

 おいらの前じゃそんな素振り一切見せなかったのに、やっぱり家族が恋しかったんだ。


「お持ち帰りできるお姉さんってのは。

 そんな旅人の寂しい気持ちを慰めてあげるお仕事ですよ。

 対価と引き換えに一夜限りの奥さんや恋人を演じるのです。」


 トルテの言葉に続けて、タルトがおいらの疑問に答えてくれたよ。

 なるほど、旅を続けている人の寂しさを癒してあげる職業なんだ。


「心のケアなんて、素敵な仕事じゃない。何処にも恥じる理由なんて無いじゃん。」


 おいらがそんな言葉を口にすると、何故か、レイカさんは微妙な顔をしてたけど。

 チャラ王子の方は我が意を得たりって表情で、満足そうな笑みを浮かべてたよ。


「マロンちゃん、分かってるじゃん。大切な職業だよねぇ~。

 色々溜まったものも抜いてくれるしぃ。」


 王子がその言葉を発した途端、おいらの後ろに控える二人から『チッ!』って舌打ちが聞こえたんだ。

 その二人から、「あの色ボケ王子…。」、「フォローしたのに台無し…。」と声を潜めた会話が聞こえたよ。

 そして、おいらの目の前ではレイカさんの拳骨を食らったチャラ王子が頭を抱えてた。

 どうやら、その王子の言葉には看過できない失言があったらしい…。


「色々溜まったものとは?

 いったい何が溜まると言うのじゃ?」


 周囲の気拙い様子に気付いて無いのか、オランがそんな疑問を口にすると。


「オラン様。それはアレですよ、ほら、アレ。」


 トルテが咄嗟に答えるけど、適切な言葉が見当たらないみたい。

 なぜそんなに慌てているのかと首を傾げていると。


「ストレスですよ、ストレス。

 長旅をしていると悪路があったり、食べ物が口に合わなかったりと。

 色々とストレスが溜まることが多いのです。」


 トルテに代わってタルトが説明したくれたの。


「そう、ストレス。

 ストレスが溜まって荒んだ心を癒すのもお姉さんの仕事なんです。

 膝枕をして、頭を撫でてあげるとか…。」


「それなら分かるのじゃ。

 私も幼少の頃癇癪を起すと、母上が膝枕をして頭を撫でてくれたのじゃ。

 そのおかげで気分が落ち着いたのじゃ。」


 今の気性穏やかなオランからは、癇癪を起している姿なんて想像できないけど。

 小さい子供は自分の気持ちを言葉にするのが難しいからね。

 言いたいことが上手く伝わらくて、オランにも癇癪起こす場面があったのかも。


 おいらも父ちゃんと旅をしてた頃、父ちゃんに膝枕してもらうのが好きだったな…。 


「そっか、人恋しい時に限らず、色々と心が弱った人を癒してあげるのが仕事なんだね。

 やっぱり立派な仕事じゃない。

 そういう仕事、もっと普通の呼び名があったよね、セラピスト?」


 おいらがそう言うと、レイカさんは「ええ、まあ…。」と言葉を濁して微妙な顔をしてたよ。

 何か、違ったかな?


         **********


「元々、宿場に宿は一つしかないしぃ。

 フルティカちゃんちの宿屋に泊ることは決めてたんだけど~。

 先にお昼を食べようと食堂に入ったら、そこにレイカちゃんが居るじゃん。

 ボクちん、即行でレイカちゃんの手を引いてフロントへ行っちゃったよ~。」


 レイカさんに一目惚れしたオベルジーネ王子は昼食を取るのも忘れて、フロントへチェックインしに行ったらしい。


「ええ、私も驚きましたとも。

 半年間毎晩、私を買い占めたいと仰るのですから。

 しかも、全額前金で…。

 あんな大金を見たのは、生涯最初で最後でしたよ。」


 生涯最初で最後って…、レイカさん、まだ二十代前じゃない。これからもっと大金を見る機会あるかもよ。


「父さんもビックリしてましたわ。

 ダーリンがいきなり新入り娘の手を引いて来たものですから。

 何か難癖を付けられるのではと警戒したそうですよ。

 そしたら、半年間連泊したいとか、毎晩レイカさんを買い占めたいとか。

 全く予想外のことを仰るのですもの。」


 その上、半年分の宿泊費とレイカさんのお持ち帰り料を即金で支払ったものだから。

 宿屋の主、フルティカさんのお父さんは腰を抜かすほど驚いたらしい。

 因みに、レイカさん、ちょうどその日が宿の酒場に立つ初日だったんだって。

 フルティカさんのお父さん、金払いの良いチャラ王子を揉み手で歓迎したらしい。


「そんな訳で、半年間、御館様のお世話をさせて戴く訳になったのですが。

 お買上げ戴いた期間の半年を待たずに、リンカを身籠ってしまい…。」


「だから、リンカちゃんはボクちんの娘だから責任を取るって言ったじゃん。」


 そうか、一夜限りとは言え奥さんなんだから、膝枕だけしている訳じゃ無いんだ。


「ですから、常々申し上げているではございませんか。

 リンカが御館様の娘かどうかは分からないと。

 御館様が森に行っている昼間に、別のお客様を取ることも御座いましたし。

 御館様と出会うほんの数日前までは、王都でかなりヤンチャをしてましたので。

 お相手した殿方の中には、金髪の方もおりましたし…。」


 おっとり落ち着いた雰囲気のレイカさん。

 今の立ち居振る舞いからは想像できないけど、十代後半の頃はかなりのイケイケだったそうで…。

 夜な夜な家を抜け出しては繁華街に通い、悪い友達とイケナイ遊びをしていたそうだよ。

 イケイケとか、イケナイ遊びとか、初めて耳にする言葉で意味が分からないけど。


「元々、あの町に流れ着いたのも、親から勘当されて王都に居難くなったからですし。

 『バイリン・ギャル』なんて不名誉な通り名が親の知るところになり、逆鱗に触れまして。

 まあ、事実無根なのですが…。」


 その『バイリン・ギャル』って言葉、シフォン姉ちゃんから聞いたことがあるよ。

 悪い遊びが過ぎてヤバイ病気をテンコ盛りに持っている若い娘さんのことらしい。

 実際は派手に遊んでいる若い娘さんを揶揄してそう呼ぶらしいけど、シフォン姉ちゃんは本当にテンコ盛りになってて。

 まさか、我が身に降り掛かるとは思いもしなかったとか、自嘲気味に言ってたもん。

 レイカさんの場合、派手に遊んでいたのは事実で、ヤバイ病気持ちは事実無根だったみたい。


「結局、どういうことなの?」


 タルトとトルテにこっそり尋ねると。


「沢山の殿方の奥さん役を演じたため、誰の子なのか分からないとのことです。

 その中には、あの王子以外にも金髪の殿方がいたそうで。

 リンカちゃんの綺麗な金髪も、王子の娘だって決め手にはならないようです。」


 タルトがそんな風に答えてくれたよ。


          **********


「半年分のお手当てを前払いで頂戴しているのに。

 酷い悪阻(つわり)で御館様のお相手が出来なくなり…。

 残りの期間分、手当てを返せと請求されるものと予想してました。

 ところが御館様はそんなことは気にしなくても良いと仰られ。

 それどころか、更に半年、買い占め期間を延長してくださり。

 リンカを産むまで、お客を取らずに済むようにしてくださったのです。」


 その時、レイカさんはチャラ王子の事を何と慈悲深い人なんだと感激したそうだよ。


「だって、お腹の子はボクちんの子供かも知れないしぃ。

 そんなレイカちゃんに他の男の手垢がつくなんて癪じゃん。

 それに、身重な体で無理して欲しく無いからねぇ~。」


 レイカさんはお腹が大きくなってお客さんが取れなくなったら、宿屋を追い出されると思ったそうで。

 行くあてが無くて、途方に暮れていたそうだよ。

 流石に勘当された身で、「誰の子供か分からない子を孕んだから助けてくれ」と親に泣き付く訳にはいかないって。

 火に油を注ぐ結果になるのは目に見えているから。


 寄る辺ないレイカさんにとって、チャラ王子の取り計らいは涙が出るほど有り難かったんだって。


「御館様の温情で、路頭に迷うことなくリンカを産むことが出来ました。

 しかも、リンカを不自由なく養えるようにと、御館様は仕事まで用意してくださったのです。」


 結局、レイカさんはチャラ王子の逗留している宿屋でリンカちゃんを産み、今もこうしてメイドとして仕えているんだって。

 なんか良さげな話に聞こえるけど、それってちょっと辻褄があわないよ。


 だって、今までの話の中にフルティカさんやパルチェちゃんが全然出てこないんだもん。

 まさかこの領地、レイカさんにメイドの仕事を与えるために造ったとは言わないよね。

 そのためにフルティカさんとの間にパルチェちゃんまで作って…。 

お読み頂き有り難うございます。

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