第754話 何か、また、チャラいニイチャンが出てきたよ…
ピーマン王子とレクチェ姉ちゃんの縁談は、王様もすんなりと受け入れてくれたよ。
二人の間に合意が出来ていて、おいらの承諾も取り付けていたので反対する理由も無かったみたい。
「いやぁ、今日は何とめでたい日だ。
あのピーマンが見違えるほど逞しくなり、嫁さんまで見つけてきたのだからな。」
王様は感無量って感じで二人を祝福してた。
「ピーマンがこんなに真面になったのは全てマロン陛下のおかげよ。
感謝しないとダメだからね。」
「分かっておりますとも。
一足先に戻ったペピーノから報告を受けてはおりましたが。
正直、これほどとは思いもしませんでした。
こんなに見事に更生させて頂き感謝の念に堪えません。」
王様、最初にアネモネさんから報告を受けた時は気が遠くなったそうだよ。
アネモネさんが目を離した隙に開拓予定地から逃亡した挙げ句、おいらに無礼を働いたって聞かされたそうだからね。
一時は全員を闇に葬らなければならないかと覚悟するほどだったらしい。
王様はとてもご機嫌で改めておいらに謝意を表すと、ゆっくり滞在して欲しいと言ってたよ。
ピーマン王子の結婚のお披露目や五人の叙爵の式典にも参加して欲しいって。
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でもって、滞在二日目の早朝。
日課にしている魔物狩りに行くべく、王宮前の広場に居たんだ。
おいらとオラン、それとアルトの三人で、タルトとトルテが起きてくるのを待っていたの。
今回は荒事になる予定は無いので、ジェレ姉ちゃんとルッコラ姉ちゃんは国でお留守番。
代わりに近衛騎士団長のムース姉ちゃんと補佐のヴァイオレットを連れて来た。
二人は近衛騎士団の事務方で、普段は文官みたいな仕事をしてもらっているんだ。
今回はヒーナルが王位簒奪を図ってから疎遠になっていたウニアール国との関係改善を図る目的で訪問しているから。
荒事担当の二人では無く、ウニアール国の事務方と折衝できる能力がある人材を連れて来たの。
あとは、メイドのウレシノとカラツ姉妹ね。
ノノウ一族のメイドは器用に何でもこなすからムース姉ちゃんの手伝いをしてもらうんだ。
と言うことで、ウニアール国滞在中の狩りのお供はタルトとトルテの二人だけ。
約束の時間より大分早く王宮から出て来ちゃって、二人を待っていると…。
「おや、こんな所で美少女発見。しかも、二人も。」
声の主は軽薄そうな雰囲気のニイチャンだった。
後ろには護衛らしき屈強そうな騎士を二人従えていたよ。
歳の頃は二十歳くらいで、スラっとした長身のニイチャン。
瘦身だけど決して貧弱な体つきでは無く、鍛えて贅肉をそぎ落としたように見受けられるの。
「ねえ、ねえ、カノジョ達、こんな早くに何処へ行くの?
良かったら、これから一緒にモーニングでも食べない?」
見知らぬニイチャンは、おいら達を朝食に誘って来たんだ。
ただ…、下心が有りそうで、ついて行く気にはなれなかった。
何処となくオラン兄のシトラス王子やノノウ一族のチランを彷彿とさせる感じなんだもん。
まあ、長く伸ばした金髪に胡散臭い笑顔、加えてチャラい口調が共通しているせいかもしれないけどね。
「うん? これから魔物を狩りに行くんだけど…。
ニイチャン、誰?」
まあ、護衛がいるってことはそれなりの身分の人だとは思うけど。
「ボクかい? ボクは名乗るほどの者じゃないよ。
それより、君達みたいな可憐な少女が魔物狩りとは驚いたよ。
特にそちらのお嬢さんは深窓のご令嬢といった雰囲気じゃん。
大丈夫なの?」
深窓のご令嬢と言って目を向けたのはオランだったの。
悪かったね、おいら、深窓のご令嬢に見えなくて…。
その時。
「陛下、遅れて申し訳ございません。」
「タルトったら幾ら起こしても起きないんだもの。」
トルテとタルトの二人が息を切らして走って来たんだ。
「陛下? お嬢さんたち何処から来たのかな?
外国から賓客が来るとは聞いてないんだけど…。」
そう尋ねたニイチャンは気拙そうな表情をしてたんだ。
「何ですか、この方? もしかして、ナンパ男?」
タルトはおいらに駆け寄ってきて尋ねたの。
その時にはトルテも、おいらを護ってニイチャンの前に立ち塞がってた。
「名乗るほどの者じゃないって。
朝ごはんに誘われたんだ。」
「むむ、怪しい奴。
こちらはウエニアール国女王マロン陛下にあらせられます。
知らずに声を掛けたのなら見逃して差し上げますので。
さっさと立ち去りなさい。さもなければ…。」
警戒感も露わにタルトが剣に手を掛けて見せると…。
「タンマ、タンマ」
ニイチャンは両手を上げて降参のポーズをとって害意が無いことを示すと。
「ウエニアール国の幼王がご来訪とは知らなかった。
噂に違わず、愛らしい君主だ。
私はウニアール国第一王子オベルジーネと申します。
以後、お見知りおきを。」
そう言って恭しく片膝をつくオベルジーネ王子、…オランの前に。
「そなた、誤解しておるようじゃが。
マロン陛下なら隣にいる御仁じゃぞ。
私はオランジェ、マロン陛下の伴侶だ。
ちなみに、こんな形でも男じゃ。」
珍しく不機嫌そうな口調のオラン。久々に女の子に間違えられて気分を害したみたい。
するとオベルジーネ王子は、一瞬「これは無い。」って感じでおいらを見て…。
「これはご無礼をしました。
ようこそお越しくださいました。マロン陛下。
お目に掛かれて光栄に存じ上げます。
オベルジーネに御座います。」
仕方ないなってオーラ丸出しで、おいらに挨拶したんだ。
どうやら、オベルジーネ王子はオランのような女の子が好みのようだね。
**********
でもなんか意外だったよ。
アネモネさんから聞いたところでは、第一王子はとても優秀らしいんだ。
ちゃんと『図書館の試練』をクリアしたのは勿論のこと、率先して王都周辺の魔物狩りはするし、民にも親切にしているとのこと。
それに十五歳の時から自発的に領地開拓に取り組んで、幾つもの領地を持っているそうなの。
とても、目の前のチャラいニイチャンがそんな優秀には見えないんだけど…。
「ところで、さっき魔物狩りに行くと言ってたけど?」
オランをナンパしようとしていたことを誤魔化すように、オベルジーネ王子は話題を変えてきたの。
「うん、国に居る時は毎朝トレント狩りをしているんだ。
体を鈍らさないためと素材確保のためにね。」
「へー、ウエニアール国の幼王は勤勉だね。感心、感心。
常日頃から魔物と戦えるように備えておくことはとても良いことだと思うよ。」
おいらの答えを聞いて、オベルジーネ王子は至極真っ当な反応を見せたよ。
言葉はチャラいけど言ってる内容は真面だった。
「時に、何処へ行って魔物を狩るつもりだい?」
「うん? 適当にその辺で。
王都の外に行けば、ウサギくらいはいるでしょう。」
「あー、それは残念。
この周辺は僕が毎朝狩場にしているからね。
魔物なんて殆どいないよ。
女の子一人でも安心して歩ける街道が売りだから。」
近郊の街や村から、女の子一人でも安心して遊びに来られるようにするのが、オベルジーネ王子の目標らしい。
そのために常日頃から魔物と盗賊を狩っているんだって。
これも十五の時から続けていて、今ではほぼ目標を達成しているらしいの。
「じゃあ、少し遠出をしないとダメか。
まあ、最初からアルトに乗せてもらう予定だから。
少しくらいの遠出なら問題ないよ。」
王都の周辺じゃ、精々ウサギくらいしかいないだろうと思ってはいたんだ。
ただ、ウサギに乗ってウサギ狩りをすると、騎乗するウサギが怯えちゃうのでアルトの『積載庫』で運んでもらうことにしてたの。
「なら、ボクの狩りを手伝ってもらえないかい。
これから王都から少し離れた領地周辺の魔物狩りに行くんだ。
そこなら、少しは骨のある魔物もいるよ。」
何でもオベルジーネ王子は定期的に自分が開拓した領地周辺の魔物狩りに赴いているらしい。
もちろん、各領地に騎士を召し抱えていて常に魔物を間引かせてはいるそうだけど。
新規に開発されて領地にいる騎士は、みな若くレベルも低いため十分ではないらしいの。
狩場に案内してくれるのなら有り難いと思っていると、そこへ。
「もう全員集まっているかしら?」
また、新たな妖精さんが姿を現したんだ。
王族の一人一人に監視役の妖精さんが付いているらしいから、この妖精さんがオベルジーネ王子の担当なんだろう。
「おはよう、リュウキンカちゃん。今日も可愛いね。」
息をするようにチャラい言葉を吐くオベルジーネ王子。
「もう千年も生きているのよ。
二十歳やそこいらの若造に可愛いと言われても嬉しくないわ。」
リュウキンカさんはチャラい言葉をサラっとスルーすると。
「あら、アルトじゃない。久しぶり。
母さんから来ているとは聞いてたけど…。
あなたがいるってことは、その娘がウエニアール国の女王かしら。」
アルトの存在に気付いて声を掛けて来たんだ。
そのアルトは、オランとおいらが間違われないようにか、おいらの肩の上に乗ると。
「リュウキンカも元気そうね。
この娘が女王のマロンよ。小さい頃から手助けをしてきたの。
隣りは伴侶のオラン。これでも一応男の子だからね。」
間違われないように予め教えたのだろうけど、『一応』と付けられてオランはがっくりしてたよ。
「おいら、マロンです。よろしくね。
オベルジーネ王子から魔物狩りに誘われたんで。
同行させてもらうことにしたんだ。」
おいらが挨拶をして、同行する旨を伝えると。
「えっ?」
リュウキンカさんは驚いた様子で、オベルジーネ王子を睨んだの。
「何か拙い?
おいら、大抵の魔物なら討伐できると思うよ。
ワイバーン、ベヒーモス、なんならワームでも。」
おいらの言葉に、リュウキンカさんはまたまた驚きを露わにして。
「あら、まだ幼いのに強いのね。
アルトがスパルタ教育でもしたのかしら。」
「失礼な、私はマロンに無理強いしたことなんてないわよ。
マロンが自力で強くなったの。出来る子だから。」
そうかな? ギーヴルとか、ワームは無理やり押し付けられた気がするけど…。
「そう、まあ、私が心配しているのはそっちじゃないんだけど…。
まあ、付いてくると言うのならダメとは言わないわ。」
リュウキンカさんは、何か歯切れの悪いことを言ってたよ。
アルトが居るから、おいら達が危険な目に遭うとは初めから思ってないとかも呟いてたし。
どうやら、懸念しているのは何か別の事みたいだったの。
お読み頂き有り難うございます。




