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第750話 あまりのことに目が点になったよ…

 さて、無事に街道整備の拠点となる施設を建設し終えたピーマン王子達だけど。

 まずは王都で三日ほど休息を取ってもらい、現場の疲れを癒してもらったんだ。

 四ヶ月も監禁同然で酷使されたものだから、連中、色々溜まっていたみたいでね。

 それなりの銀貨を謝礼に渡すと、我先にと『新開地レジャーランド』に向けて飛び出していったよ。


 その様子を見たペピーノ姉ちゃんは。


「全く、サカリの付いた犬じゃあるまいし…。」


 なんて呟いて呆れていたけど。


「うん? ニイチャンは行かなくて良かったの?」


 何故か、おいら達の目の前にピーマン王子がポツリと残っていたの。

 おいら、てっきり、ピーマン王子が真っ先に飛び出していくかと思ってたのに。


「ああ、余はあのような遊びに興味は無いのでな。」


 もう十八なのに大人の遊びに興味が無いときっぱりと言い切ったピーマン王子。

 それに続けて真剣な眼差しをおいらに向けて。


「それより、そなたに少々頼みたいことがあるのだ。」


 そんなことを言ったんだ。

 そう言えば少し前に、ペピーノ姉ちゃんが今後の身の振り方を考えるようにと指示してたのだけど。

 その時のピーマン王子は何か心に秘めたモノがある様子で返事をしてたね。

 

「うん? どんな頼みか知らないけど。

 おいらに出来る事なら協力しても良いよ。

 取り敢えず話してみて。」

 

 おいらの返答を聞いたピーマン王子は、すぐ側にいるペピーノ姉ちゃんを見て気拙そうな顔をしたんだ。

 そして、おいらの袖を引いて部屋の隅まで引っ張ってくると、ペピーノ姉ちゃんに聞こえないように耳打ちしたの。

 そのコソコソした様子から面倒事に巻き込まれたら嫌だなと思っていたんだけど。


「うーん、取り敢えず許可は出すし、仲介もするよ。

 でも、それ以上は無理、おいらじゃ力になれないよ。

 お膳立てはしてあげるから、あとは自力でなんとかして。」


 その頼みは危惧したほど面倒なことじゃなかったよ。

 ただ、おいらにも出来ることと出来ないことがあるからね…。


「おお、それで十分だ。

 お膳立てさえして貰えれば、後は余の力で何とかする。

 そのくらいの甲斐性は示さないとな。」


 そう言ったピーマン王子はとても嬉しそうだった。

 おいらの返答はピーマン王子を十分に満足させるものだったらしい。


 それから三日後、『新開地レジャーランド』で十分英気を養った仲間達を引き連れてピーマン王子は王都を去ったんだ。

 向かったのはウニアール国辺境にある領地開拓予定地。

 まずは当初王様に命じられた領地開拓をやり遂げるんだって。

 この四ヶ月の実習で色々と自信がついたようで意気揚々と帰って行ったよ。


             **********


 そして、半年ほどが過ぎ…。


「マロン、丁度良いところで会えたわ。」


「あれ、アネモネさん?

 久し振りだね、おいらに何か御用かな?」


 日課のトレント狩りの後、王都の広場で買い食いをしているとアネモネさんから声を掛けられたんだ。


「用があるのは私じゃなくてこいつよ。

 マロンの所へ連れて行くようにせがまれてね。」


 そう返答するとアネモネさんは『積載庫』からピーマン王子を降ろしたの。


「ここに来たということは領地開拓が終わったの?

 随分早かったじゃない、まだ半年しか経っていないよ。」


「おお、そなたに貰った加工済み石材に建築キットがあったのでな。

 おかげで自分でも信じられない速さで開拓が進んだぞ。」


 誇らし気に言ったピーマン王子は小麦色に日焼けして益々精悍な顔つきになっていたよ。

 初めて会った時のだらしなく弛んだ頬の肉なんて欠片も見えなかった。


「本当にたった半年で領地開発が終わったの?

 手抜きじゃなくて?」


 おいらは半信半疑でアネモネさんの方に尋ねてみたよ。


「信じられないのも分かるわ。

 付きっ切りで監視していた私ですら目を疑ったもの。

 でも嘘じゃないの。

 しかも、一ヶ所じゃなくて五ヶ所も開拓したのよ。

 これだけのことが出来るなら、最初から真面目にやれば良かったのに…。」


 どうやらおっつけ仕事ではなく、きちんと仕上げてきたらしい。

 しかも、ここを去る前に言っていた目標を見事に達成したんだって。

 五つの領地を造って、連中の中から五人を貴族にするって目標。

 まあ、王宮への報告と正式な判定はこれからみたいだけど。


「それで、ここを去る前に頼んだことをお願いしたいのだ。

 よもや忘れてはいないだろうな?」


 ピーマン王子は急かすような口調でおいらに要求してきたの。


         **********


 そんな訳で翌日…。


「えっ、マロン陛下?」


 伯爵家のお屋敷二階のテラスに降り立つと、おいらに気付いたレクチェ姉ちゃんが慌てて飛び出して来たよ。


「ゴメンね、急にやって来て。」


「いえ、マロン陛下でしたら何時でも歓迎しますが。

 今日は如何なされました?」


 レクチェ姉ちゃんは一国の女王の来訪に戸惑った様子で尋ねてきたの。


「うん、今日はレクチェ姉ちゃんと話をしたいって人を連れて来たんだ。

 少し時間を取ってもらえるかな?」


「はあ? 私と話がしたい人ですか?

 立ち話もなんなので、先ずは部屋をご用意しますね。」


 要領を得ない様子のレクチェ姉ちゃんに促されて、おいらは屋敷の中に招き入れられたの。

 この時部屋に通されたのは、おいらとアルト、それにアネモネさんの三人。


 応接に腰を落ち着けると。


「私の御用があるのはそちらの妖精さんですか?

 ええと、アルト様は以前から存じ上げていますし…。

 もうお一方は、以前お目に掛かったことがあるような…。」


 アネモネさんを見詰めて、記憶を辿るような仕種を見せたレクチェ姉ちゃん。


「もう、一年近く前に一度だけお目に掛かっているわ。

 私はウニアール国の王宮裏の森の妖精アネモネよ。」


「ああ、思い出しました。

 あの醜く肥え太った集団のお目付けを押し付けられた気の毒な妖精さんでしたか。」


 うん、間違いじゃないけど…。

 そんなにストレートに言われると、話しを持ち出し難いんだけど…。


「まあ、そうね…。

 それで、話しをしたいと言っているのはこいつなの。」


 アネモネさんは申し訳なさそうな表情で、その場にピーマン王子を出現させたの。

 話しをしたいのはその醜く肥え太った集団の一人だもの、気拙い思いもするよね。


 でも…。


「まあ、素敵な殿方…。

 わたくしにお話があるって、何処かでお目に掛かりましたかしら?」


 意外にも、レクチェ姉ちゃんは好意的な表情でピーマン王子を見詰めていたよ。

 まあ、目の前の精悍な青年が、あの不健康に肥え太った王子と同一人物だとは夢にも思わないだろうからね。


「この方、ピーマン殿下。ウニアール国第二王子なんだ。」


 レクチェ姉ちゃんは気付かないようなので、一応おいらの方から紹介しておいたよ。

 それが、ピーマン王子から頼まれたことだから。


「ピーマンです。

 今日はレクチェ嬢に結婚を申し込みに参りました。

 余の妻になってください。」


 おい、いきなりかよ。

 挨拶とか、前置きとか何かあるだろうに…。


「ええっと…。これは求婚でしょうか?

 先ほども伺いましたが、以前何処かでお目に掛かったでしょうか?

 それにわたくし、何かお気に召されるようなことしましたっけ?」


 いきなりのプロポーズに、状況が理解できないレクチェ姉ちゃんは戸惑いの表情を見せてた。


「思い出せぬか?

 余は、あの時、キモいと言われた王子であるぞ。」


「まあ、随分と御変わりになられて…。

 でも…、またなんでプロポーズなんてことに?

 わたくし、随分とご無礼なことを申したはずですが…。」


 レクチェ姉ちゃんは言ってたよ。不敬だと咎められることはあっても、好意を持たれる覚えが無いと。

 一国の王子に向かって、歯に衣着せずキモいって言い放ったからね。


「そなたに汚物を見るような目で見られ、キモいと言われた時。

 余の背筋にゾクゾクっとえも言われぬ衝撃が走ったのだ。

 あんな気持ちは生まれて初めてで…。

 あの瞬間、余の心はそなたに奪われたのだ。

 あれから余の想いは募るばかりで…。

 詰って欲しい、蔑んで欲しい、何なら踏んで欲しいと…。」


 堰を切ったようにキモい言葉で訴え掛けるピーマン王子。

 その言葉を聞いた途端、レクチェ姉ちゃん、席を立って後ろへ飛び退いたんだ。

 思いっ切り引いてたよ…。

 そして、汚物を見るような目でピーマン王子を睨んでた。


「その目だ、余はそんな目で見て欲しかったのだ

 余はきっとそなたに蔑まれるために生まれてきたのだと思う。

 どうか、余と一緒になってはくれまいか。」


 そんなキモい懇願をするピーマン王子。

 いや、レクチェ姉ちゃんとの仲を取り持って欲しいとは頼まれたけど…。

 これは完全に予想の斜め上を行ってる。こんなキモいことを口にするなんて聞いてないよ。


 これだけ真人間になればと問題ないと思って、反対しなかったのに…。 

お読み頂き有り難うございます。

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