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第746話 こっちは予想以上の真人間になったよ

 さて、土木建築工事実習の二日目。

 午後からは空堀を掘り、その残土を突き固めて土壁を造る作業に取り掛かったの。

 作業は穴掘り、土砂運搬、土壁構築の三班に分かれて進められた。

 掘削班が掘った土を、二人一組となった運搬班がもっこで運び、土壁係が午前中に造った木枠の中に積み上げて突き固めるの。

 これまで一カ月間、冒険者研修で毎日素振りや魔物狩りをしてきたからね。

 その甲斐あって大分体力も付いたようで、皆一様に自分に与えらた仕事を黙々とこなしていたよ。


「ほら、もたもたせんと、サッサと掘れ!

 そんなんじゃ、ノルマこなす前に日が暮れちまうぞ。」


「マジ、勘弁して欲しいでおじゃる。

 麿は土壁造りが良かったおじゃる。

 何でよりにもよって土掘り班でおじゃるか…。」


 まっ、泣き言を言ってる奴もごく一部にいるけど…。


 基本、作業員が仕事をサボらないように監視するのは騎士の役目で、そのためにこの現場にも十人ほど騎士を連れて来たのだけど。

 何故か、おじゃるの側では料理長が監視しているんだ。

 もちろん、料理長には厨房の仕事があるから四六時中って訳ではないけど、手透きになると現場に出ておじゃるを見張っているの。

 おじゃるの奴、監視の目を盗んでちょくちょくサボるものだから、料理長に目を付けられたらしい。


「この仕事が体力を付けるのに、一番良いからに決まってっるだろうが。

 お前がこの中で一番体力が無いんだからな。

 泣き言を言ってる暇があったらサッサと掘れ!」


 空堀と土壁造りは一月ほど続く予定なので、その間、担当する仕事をローテションすることになってるんだけど。

 料理長が班分けをしている技師にねじ込んでいたんだ。おじゃるを掘削班にしっろって。

 一番重労働な土掘りで、おじゃるに体力を付けさせるんだって。

 ついでに料理長は言ってたよ。おじゃるにはしばらく土壁造りはやらせるなって。

 怠け者のおじゃるにさせたら、あいつが担当した部分の壁が崩壊しかないと技師を脅してたよ。

 版築は強度を上げるためにしっかり突き固める必要があるけど、あいつは絶対に手を抜くだろうって。

 凄いね。料理長ったら、たった一日でおじゃるの気質を見抜いたみたい。


「ひぃ…。ここに鬼が居るでおじゃる…。」


 おじゃるの奴、涙目になりながらスコップを動かしていたよ。


         **********


 おっと、いけない。

 おじゃるがあんまり笑わせてくれるから、つい、モブに目が行ってたよ。

 肝心なピーマン王子はと言うと…。


「ほら、そこ、手が停まっているぞ!

 こっち、こっちに土を頼む!」


 今日は土壁造りを担当しているようで、腕まくりをして仲間に指示を飛ばしていたよ。

 そして、目の前にもっこの土が運ばれてくると、それをスコップで適度な枯草と混ぜ合わせて木枠の中に放り込んでた。


 何度かそれを繰り返したあと。


「よし、取り敢えずはこんなもんか。

 それじゃ、突き固めるか、気合いを入れてくぞ!」


 ピーマン王子は、ぶっとい丸太に木の棒を四本取り付けた槌のような物を引き摺って来たんだ。

 後で聞いた話では、四人突きとか蛸胴突きとか呼ばれる地固め用の道具らしい。


 積み上げた土の上に他三人と一緒に登ったピーマン王子。


「こいつ、重いから、息を合わせるんだぞ。

 『せーの』の合図で振り下ろすんだ。」


「「「へい、合点だ」」」


 腐っても王族なのか、リーダーシップを発揮して。


「せーの!」


「「「よいっしょ!」」」


「せーの!」


「「「よいっしょ!」」」


 ピーマン王子は、音頭を取って他の三人と息を合わせながらテンポよく盛られた土を突き固めていったんだ。

 しばらくそれを繰り返すと、木枠の中に積まれた土は圧縮されて元の半分くらいまで高さを減らしてたよ。 


「ふっ、こんなもんか。

 技官殿、こんな感じでよろしいですか?」


 出会った頃の横柄さを感じさせない低姿勢で、技師の判断を仰ぐピーマン王子。

 すっかり人当たりも良くなっていたんだ。

 声を掛けられた技師は、ピーマン王子達が突き固めた部分の強度を慎重にチェックして…。


 やがて。


「はい、結構です。この調子で頑張ってください。」


 『合格』判定を下したの。

 それを聞いたピーマン王子は、良く日焼けした顔に笑みを浮かべ。


「よし、おまえ等、続けていくぞ!

 おーい、運搬係、土をこっちへ頼む!」


 運搬係に手を振って、嬉しそうに土の搬入を催促してたよ。

 その姿は、まんま何処ぞの工事現場のおっちゃんだった。

 支給された作業着に身を包み、腕まくりをした上に、頭には汗拭き用の布を捩じって巻いているんだもん。

 少なくとも、今のピーマン王子を王族だと紹介しても俄かに信じる人は少ないと思うよ。


 健康的な小麦色に日焼けして、引き締まった体のピーマン王子は出会った頃とはまるで別人だもん。

 不摂生でブヨブヨと太って、病的に青白い顔をしていたかつての面影は全く見られないよ。

 以前のキモい姿も、王族だと紹介したら信じない人が多かったと思うけど。

 どうせ信じてもらえないなら、現場のおっちゃんのような今の姿の方が余程好感が持てると思う。


        **********


 ごく一部のおバカを除き、皆、せっせと働いて日暮れ前。


「よーし、作業止め。今日はここまでだ。

 騎士の方々が、泉の横で湯を沸かしているから。

 汗を流してゆっくり休め。

 明日も作業は続くからな、晩飯をしっかり食って英気を養っとけ。」


 総監督役の所長の号令でその日の作業が終わったの。

 おじゃる達食事当番は夕方前に料理長に連れられて狩りに行ったよ。


 ピーマン王子が頭に巻き付けていた汗拭きを解いて顔の汗を拭っていると。


「随分と活き活きしていますわね。

 肉体労働なんて王侯貴族の仕事ではないと、不満をこぼすかと予想してましたわ。」


 ペピーノ姉ちゃんが声を掛けたの。


「姉上、見ていらしたのですか。

 まあ、冒険者研修の最初のうちは、そんなことも思ってましたが…。

 どうやら、こうして体を動かしている方が性に合っているようです。」


 ピーマン王子は言ってたよ。

 今までは肉体労働なんて下々のやることだと思っていたし、肥満体のため体を動かすこと自体が煩わしかったと。

 でも、ペピーノ姉ちゃんに脅されて、渋々、冒険者研修に取り組んだところ。

 痩せて体が軽くなったら、体を動かすのが億劫ではなくなったそうで。

 そのうち、体を動かして汗をかくことに爽快感すら感じるようになってきたんだって。


「昨日、仮設建物を組み立てた時も思いましたが。

 自分が汗水垂らして作ったものが形になる時の達成感が何とも言えません。

 生まれて初めてです、仕事にやりがいを感じたのは。」


 目を輝かせてペピーノ姉ちゃんに訴えるピーマン王子。

 そんな王子を目にして、ペピーノ姉ちゃんは細い目をいっそう細めたよ。


「そう、あなたはもう心配いらないようね。

 で、ここでの実習を終えたら、どうするつもりかしら?

 父上に土下座でもして、『図書館の試練』の試練に挑む?

 それとも、言い付け通り領地開拓を成して臣籍降下する?」


 そして穏やかな口調で尋ねたの。


「まだ実習が始まったばかりなので、その後のことは分かりません。

 ただ、やはり、頭を使うのは性に合わないようなので…。

 『図書館の試練』は止めておきます。

 もう、王族の地位に固執するつもりは無いし。

 自分には向いていないことも理解しました。」


 ピーマン王子、先のことは分からないと言いつつ、王籍からの離脱は決意した様子だった。


「そう、分ったわ。

 王族を離れることは了承します。

 では、あと三ヶ月の内に身の振り方を考えておきなさい。」


 ペピーノ姉ちゃんは、ピーマン王子が王族から離れる事を認めちゃった。

 そういえば最初に言ってたね。ピーマン王子達の生殺与奪を含めて一切を委任されているって。

 ペピーノ姉ちゃんが認めれば、それが決定事項になるのか…。


 ペピーノ姉ちゃんの言葉に、ピーマン王子は何か心に秘めたものが有るような表情となり。


「承知しました。

 姉上が納得する身の振り方を示したいと思います。」


 そんな答を返したの。

 『納得する身の振り方』と口にした時、何故かおいらの方を見ていたよ。

 こいつ、何か、面倒事に巻き込むんじゃないだろうな…。

お読み頂き有り難うございます。

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