第741話 街道整備も大分進んでいるようで
公衆浴場でお風呂に入っている時に、ペピーノ姉ちゃんからどうやって真水を作っているのかを尋ねられて答えに窮したけど。
ペピーノ姉ちゃん付きの妖精イチゲさんが上手くはぐらかしてくれたので助かったよ。
正直、『積載庫』のことについては余り漏らしたくなかったからね。
なんて言っても、『積載庫』で作っているのは真水だけじゃないもん。
王都の特産物で、おいらの大事な収入源になっているトレントの木炭が『積載庫』で作れるのだから。
そんな便利な『積載庫』の正体が、実はゴミスキルの最たるスキルだと知れたら一大事だよ。
なんて言っても、誰でも簡単に倒せるシューティング・ビーンズが『スキルの実』をドロップするんだもの。
きっと、あっという間に商売敵で溢れちゃう。
取り敢えず、イチゲさんのおかげで『積載庫』も件はナイショにすることが出来て…。
公衆浴場で英気を養ってもらった翌日、ピーマン王子達を次なる研修場所、街道整備の現場に送ることになったんだ。
とは言え、街道整備の現場は馬車で二ヶ月近くを要する遠方だからね。
馬車でちんたら行ったら、約束した期間の残り三ヶ月が往復だけで終わっちゃう。
なので、妖精さんの『積載庫』に乗せてもらって時間節約を図ることにしたんだ。
ピーマン王子達はアネモネさんに乗せてもらい、おいら達を乗せたアルトが先導する事になっているの。
おいらが連中を連れて行くと知ると、街道整備局の人達がこれ幸いと追加資材の運搬を依頼してきたよ。
荷馬車なら運搬に二ヶ月掛かるところ、アルトが飛べば二日と掛からずに運べるからね。
そんな訳で頼まれた荷物を『積載庫』に詰め込んで、おいら達は南の辺境にある街道整備の現場へ向かったの。
アルトに飛んでもらって一日が過ぎる頃、沢山の作業員がせっせと働く姿と綺麗に整備された街道が見えてきたよ。
街道は計画通り全面石畳で馬車が二台余裕を持ってすれ違い出来るようになっていて。
更に、その両側には荷車を引いても通れるだけの幅を持つ歩道が付けられてるの。
これが王都まで繋がれば、物流がぐんと良くなるはずなんだ。
それから更に国境へ向かって進み、街道整備の現場事務所に着くと。
「陛下、遠路遥々お運び頂き恐縮でございます。
宰相から知らせは頂戴しております。
何か、他国の貴族に対して研修を施せとのことですが?」
そんな言葉で所長が出迎えてくれたよ。
冒険者研修を受けさせている一月の間に、宰相が早馬を使って連絡してくれたそうなんだ。
相手が他国の貴族と聞いて、どう対応したものかと戸惑っている様子だった。
「うん、他国の貴族と言っても別に気を遣うことはないよ。
不良貴族の更生を請け負ったようなものだから。
ビシバシと鍛えてあげて。」
過去にも、前マイナイ伯爵の不出来な息子二人とか素行の悪い貴族を送り込んでいたので。
今まで通りに厳しく鍛えて欲しいと伝えたよ。
それに続くように、ペピーノ姉ちゃんが自己紹介をして。
「この度は愚弟ピーマンとその取り巻きがご面倒をお掛け致します。
如何なる特別扱いも不要でございます。
どうぞ、他の作業者と同等に扱ってください。」
特別の気遣いは無用と、おいらの言葉を肯定したんだ。
そして、ペピーノ姉ちゃんはこれまでの経緯を説明してたよ。
連中の素行が悪くて王様をはじめ宮廷の人達が手を焼いていたこととか。
最後のチャンスとして辺境開拓を命じたら、すっぽかして居なくなったこととかをね。
「おや、おや、それは大変でしたね。
では、ペピーノ殿下のご意向に沿えるよう尽力いたします。
先ずは性根を叩き直すことから始めればよろしいでしょうか?」
そう言った所長は、例によって料理長を呼ぼうとしたんだ。
ここの料理長、おいらの爺ちゃんの治世では宮廷料理長をしてたらしいけど。
熊みたいな人で、凄い武闘派なんだ。
この工事現場に送られてくる人達の中には、王都のならず者が少なからずいたから。
先ずは、厨房で規則正しい生活リズムと基礎体力を身に着けてもらっているんだ。
朝は日の出前に起きて朝食の準備をして、昼間は食材となる魔物を狩るの。
魔物狩りから、運搬・解体まで毎日繰り返す訳だけど。
現場は何百人も居るからね。
相当数の魔物を狩って、解体しないといけないから体力も付くんだよ。
もちろん、サボろうものなら、鬼の料理長の鉄拳制裁が待っているの。
料理長は、常日頃から体を鍛えている上、かなりの高レベルらしくて。
王都のならず者が束になって掛かっても太刀打ちできないんだ。
どんな跳ねっ返りでも、料理長の下で一月も修行すれば借りてきた猫のように大人しくなるの。
「あ、それだけど。
連中には一月冒険者研修を受けさせたから。
基礎体力と規則正しい生活習慣は身に付いているはずなんだ。」
「そうですか。
では、直ぐに現場に投入しても大丈夫そうですね。
それなら、好都合です。」
おいらの言葉を聞いた所長は、良いことを思い付いたって顔で言ってたよ。
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「実は街道整備もかなり進捗しまして。
現在、南側国境から王都へ向けて三分の一ほど工事が完了しています。
ついてはこの整備拠点を王都寄りへ移転することになりました。
そのための建設技術者がそろそろ着任する予定なのですが…。」
所長はおいらを見て何か聞いて無いかって顔をしたんだ。
「ゴメン、忘れてた訳じゃないけど。
この人達、預かってきた。」
おいらは、アルトの『積載庫』から技師三人を降ろしてもらったの。
宰相から追加の技師なので一緒に連れて行けと言われてたんだ。
「これは好都合です。
でしたら、今回お預かりする百名は全員拠点造りに回しましょう。
魔物除けの掘や土塁、宿舎や事務所の建設。
土木工事と建設工事、領地開拓に必要な技術の双方が習得できますぞ。」
新たに連れてきた三人の技師は今いる施設に代わる拠点を建設するために呼び寄せたらしいの。
所長の計画では、現在街道整備に携わっている作業員の一部を建設に充てるつもりだったらしいけど。
おいらが百人ほどの実習生を連れて来たので、渡りに船だと思ったらしい。
そうすれば、今街道整備に充てている人を減らさずに済むので工事のペースが落ちないで済むって。
なので、おいら達はまたすぐに移動することになったよ。
この施設の移転予定地は既に決まっているそうで、善は急げだなんて所長は言ってたよ。
やって来たのは周りに民家の一軒もない草原のど真ん中。
目の前には、畑のあぜ道かと思える細くて凸凹の道が続いているの。
どうやら、その道が南の国境から続いている街道のようなんだ。
「おお、これなら食材にするウサギや猪は幾らでも狩れそうだな。
若い連中は肉さえ食わせとけば、文句言わないから好都合だぜ。
所長、良いところに整備事務所を置くことにしたな。」
周囲を見渡してそんな言葉を口にしたのは、誰あろう料理長。
おいら、冒険者研修でそれなりに連中の矯正はして来たと伝えたけど。
所長は今一つ不安のようで、料理長を厨房係兼連中の指導係として連れて来たんだ。
今の整備事務所の食堂には料理人が十人ほどいるので、料理長が抜けても何とか回せるんだって。
この建設現場では、料理長の指導の下、連中の中から十人程度が当番制で料理係をするらしい。
所長は言ってたよ。
どの道、領地開拓をする間は連中が自炊しないといけないので、料理は出来るようになった方が良いって。
まあ、確かに国に帰って領地開拓をするにしても、誰も手伝ってくれないのだから。
当然のことながら、食事の支度も自分達でしないといけないだろうね。
現状、連中に料理のスキルなんて期待できそうも無いから、この三ヶ月で覚えさせるのは理に適っている。
そうしないと、連中、早々に餓死しそうだもの。
ペピーノ姉ちゃんも所長の言葉を聞いて、その気遣いに感謝してたよ。
お読み頂き有り難うございます。




