第728話 怖い裏話を聞いちゃったよ…
予想通りと言うか、お約束と言うか…。
ピーマン王子の取り巻きゴマスリーとその仲間四人は、ウサギ相手に手も足も出なかったよ。
冒険者研修初日の娘さん達がウサギを倒したのを目にして、自分達もと意気揚々と挑んだのだけど。
完膚なきまでに打ちのめされて、自分達の雑魚さ加減を曝け出すことになったの。
それでもゴマスリーは自分の無能さを受け入れたくない様子だったけど。
一足早く目が覚めたピーマン王子はゴマスリー達に現実を受け入れるよう諭し、これから頑張れば良いと励ましてたよ。
そんなピーマン王子に。
「ピーマン、あんたはもう大丈夫なようね。」
アネモネさんは、見直したって表情で声を掛けたの。
「ああ、余はレクチェ殿にキモいと言われて目が覚めた。
それに先程の娘達がウサギを狩るのを見て思い知らされたのだ。
今の余の体ではあのような機敏な動きは出来ないと。
ゴマスリー達は太っているのは豊かさの証と言っておったが。
それは単に怠惰な自分達を正当化する言い訳に過ぎないと悟ったのだ。
これから精一杯精進して、人並みの体つきになりたいと思う。
二度と同世代の異性からキモいとは言われたくないからな。」
いや、根拠の無い選民意識を持っていたことの方を反省して欲しいんだけど…。
レクチェ姉ちゃんにキモいと言われたことが相当応えたようだね。
まあ、それでも堅気な生活をしようと思ってくれたなら格段の進歩ではあるけど。
「そう、それじゃ、これからどうするつもり?
辺境へ戻って真面目に領地開拓をする気になった?」
「先ずは、ここでマロン女王への誓約を果たさねばな。
明日からモリィシー殿の指導に従って研修に励むつもりだ。
余達は国王陛下より『生命の欠片』を賜っているのだ。
いつまでも年端の行かない娘達に負けている訳にはいかないからな。
それから、マロン女王の勧める街道整備の現場で実地研修を受けて…。
誰に見せても恥ずかしくない領地を造れるようになりたいと思う。」
アネモネさんの問い掛けに、ピーマン王子は堂々と決意を示したの。
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「そんな…。
殿下、麿達は貴族でおじゃるよ。
汗水たらして働くのは嫌でおじゃる。
何が悲しゅうて、そんなことをしないといけないでおじゃる。」
このおじゃる、ピーマン王子の決意を聞いてもまだそんな寝言を…。
「あんたね…。
ウニアール国では、貴族の家に生まれた者が貴族なんじゃないわよ。
貴族の家に生まれた者は、貴族になるための努力を課せられるの。
それが『図書館の試練』であり、領地開拓なの。
それを突破して、初めて一人前の貴族と認められるのよ。
幼少の頃から両親に聞かされてきたでしょう。
成人までに試練を突破できないと貴族籍を剝奪されるって。
今更何を言っているのよ。」
アネモネさん、同じことを何度言わせれば気が済むんだと呆れてた。
まあ、知り合って十日と経ってないおいらだって、何度も聞いた内容だしね。
こいつ等、言葉を理解できない犬並みの知恵しかないんじゃないかと疑うよ。
「そんなの嘘でおじゃる。
麿は貴族籍を剥奪された者が実際に居るとは聞いたことが無いでおじゃる。
実際には袖の下を使って、貴族籍の剝奪を免れているに違いないでおじゃる。
そうでもしないと皆が皆、あんな難しい『図書館の試練』を突破できるはずが無いでおじゃる。
きっと、麿も成人が近付けば父上が何とかしてくれるに違いないでおじゃる。
殿下も騙されてはいけないでおじゃる。
あと一年もすれば、知らぬ間に試練を突破していることになっているでおじゃる。」
このおじゃる、言うに事欠いて今度は『図書館の試練』そのものが建て前だなんて言い出したよ。
「こいつ、何処までおバカなのかしら…。
いいこと、試練に突破できない者など出そうものなら家の恥も良いところよ。
そんな愚か者を出したら当主は貴族の世界で笑い者になるでしょう。
だから、どの家も子息子女の教育に躍起になってるの。
その結果として試練に突破できない者が極めて少なかったのよ。」
それも、魔物の領域でアネモネさんから一度聞いたよ。
「それで、誰もがあんな難しい試練を突破できたと言うでおじゃるか。
家庭教師から説明を受けても、麿にはサッパリ理解できなかったでおじゃる。
それは、麿が特別に頭が悪かったと申すでおじゃるか。」
おじゃるの問い掛けに、アネモネさんは気拙そうな表情になり…。
「とは言え、十もあれば数人は突破できそうもない子が出るのも確かだわ。」
「やはり、試練を突破できない貴族の子もいるのでおじゃろう。
その者達は当主が袖の下を使って試練を通しているのでおじゃろう。」
アネモネさんの言葉を聞き、我が意を得たりといった表情で尋ねるおじゃる。
でも…。
「そんな子は大概成人前に病気か不慮の事故で亡くなるのよ。
そして、貴族の世界ではその子について語るのがタブーになっているわ。」
アネモネさん、「なんなら、あんた試してみる?」なんて怖いことを言ってたよ。
ウニアール国の暗部を垣間見たような気がする…。
「それこそ、そんな訳が無いではないか。
慈悲深い父上がそんなことを容認する訳が無い。
試練に突破できないと言う理由だけで、子の命を奪うなんて…。」
今度はピーマン王子が否定的な言葉を口にしたのだけど。
「そっ、国王は試練に突破できない者を間引くのを禁じているわ。
でもね、貴族の当主としては是が非でも家の恥を晒したく無い訳で。
試練突破は無理と判断した子を成人前に葬っちゃって。
事後的に病死と報告されたら後の祭りじゃない。
まあ、従来は数年に一人くらいしか居なかったから…。
国王も見て見ぬ振りをしてきたのよ。
でも、今回は百人以上って前代未聞の試練不合格者が出そうでしょう。
大量殺人を見過ごすことは出来ないからね。
苦肉の策として、ピーマン王子に辺境開拓を命じたのよ。」
辺境開拓が上手くいくようなら、貴族身分に残るチャンスもあるし。
ダメなら、『公』の場で貴族身分を剥奪して平民として市中に放逐する。
そうすれば、少なくとも闇で当主に暗殺されることは無くなるだろうって。
まあ、貴族籍を剝奪を公表されて家の恥が晒されちゃったら、その後に殺害する利益は無いもんね。
家の恥は晒される前に対処するのが大事なんだから。
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「では、麿達に辺境開拓を命じたのは国王のお慈悲だと言うでおじゃるか。
麿達は王都に留まっていると父上に害されるところだったと…。
そんなの信じられないでおじゃる。」
アネモネさんが打ち明けた言葉を聞いて呆然とするおじゃる。
「なんなら、あんた、一日だけ、家に帰ってみる?
忘れ物を取りに来たとか、適当な理由を付けて送ってあげても良いわよ。
翌朝、私が迎えに行った時にどうなっているか見ものね。
突然の病に倒れてなければ良いけど。」
アネモネさんが冷笑を浮かべてそう言うと、おじゃるは青い顔して首を振ってたよ。
「でも、今の話、少し納得できないよ。
アネモネさんの話では。
『図書館の試練』に突破できない人は数年に一人でしょう。
何で、ここに百人以上の人が居るの?
計算が合わないと思うよ。」
おいらが素朴な疑問をぶつけると。
「それがマロンちゃんの国の前王の影響なのよ。
あの愚王が王位を簒奪したのが十年前。
ちょうどここにいる連中が勉強に躓く年頃だったのよ。
普通なら躓いても発奮して勉強に取り組むんだけど…。
そんな時、隣国に『貴族は遊んで暮らせば良い』なんて公言する愚王が出た訳よ。
子供なんて易きに流れるものでしょう。
貴族は努力する必要なんてないと言い出す始末でね。
一部の怠け者が、その愚王の言葉に感化された結果がこれよ…。」
ホント、ゴメン。ヒーナルの愚か者が迷惑をお掛けして。
怠け者達が徒党を組んで憂国騎士団なんておバカなものを結成した時、ウニアール国の大人達は頭を抱えたそうなの。
でも、王様は言ったらしいよ。
そんなのちょっとした若気の至りで、分別が付く歳になれば目を覚ますだろうと。
特に二年前、おいらがヒーナル王を廃した情報がウニアール国に伝わると。
国王は、もう間もなく憂国騎士団なんておバカな集団も解散するだろうと期待したそうなの。
でも、憂国騎士団の連中は予想以上に重症で、ことここに至ったらしいんだ。
お読み頂き有り難うございます。




