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第726話 小娘にも劣るってのは沽券に係るみたい

 魔物の領域の奥で拾ったウニアール国の貴族連中を冒険者研修施設に連れてきた日のこと。

 施設の広場に連中をアネモネさんの『積載庫』から降ろしてもらい、父ちゃんが研修の説明をしていると。

 丁度、その日研修初日だった研修生の一団が、研修施設の指導役のお姉さんに先導されて通り掛かったんだ。

 娘さんばかり二十人の研修生は、王都の外に広がる草原にウサギ狩りの実習に行くところだったの。

 父ちゃんは、そのウサギ狩り研修の光景を連中に見学させることにしたんだ。


 狩場へ向かう道すがら、研修初日の娘さん達は皆、警戒感を露わにしてたよ。

 まあ、如何にも不摂生をしているって体型のキモい男百人の集団がぞろぞろと後を追って来るんだものね。

 若い娘さんなら警戒するのも無理はないよ。


「ああ、後の一団は警戒する必要ありませんよ。

 あの集団は、皆さんと同じ冒険者研修の受講生ですから。

 今日は皆さんの研修光景を見学したいとのことです。」


 指導役の説明を聞いて、研修生のお姉さん方は安心した様子だったよ。

 見た目に怪しい集団だけど、冒険者管理局の局長が引率しているから粗相を働くことはないとも伝えていたしね。


 んで、やって来ました王都のすぐ外、街道から外れた岩がちの草原。

 指導役のお姉さんはウサギの巣穴の近くで立ち止まると。


「それでは、冒険者研修初日のカリキュラムを始めましょう。

 最初に皆さんにはウサギ狩りを体験して頂きます。

 今日は初日ですので、五人一組の班で協力して狩ってもらいます。

 先ずは私達指導員がお手本を見せますのでよく見ていてくださいね。」


 先導してきたお姉さんがそう告げると、研修生が逸れないように各所に散っていた指導員が集まってきたの。


 その様子を憂国騎士団の連中は遠巻きに見ていたのだけど。


「何を狩るのかと思えばウサギでおじゃるか。

 あんな小動物を狩るのに五人掛かりとは…。

 冒険者研修などと言っても、非力な女子では所詮その程度でおじゃるか。」


 連中の中からそんな言葉が聞こえたんだ。

 うん? おじゃるはピーマン王子から聞いて無いのかな?

 魔物の領域に入って早々、自分達を壊滅させたのがウサギだと。

 おじゃるの口振りでは、小動物のウサギだと思っているように聞こえるよ。

 そう言えば、ピーマン王子もあれを白い悪魔だなんて呼んで、最初はウサギだと認めようとしなかったね。

 もしかしてプライドが邪魔して説明出来なかったのかな、自分達を蹂躙したのは最弱の魔物ウサギだとは。


 そう思ってピーマン王子の顔色を窺うと、おじゃるを睨んで苦々しい表情を浮かべていたよ。

 どうやら、おいらの想像通りのようだね。


 おじゃるがそんなことを言ってる間にも、、五人の指導員はウサギの巣穴の間近まで近寄って行き。

 指導員のお姉さんが石ころを一つ拾い上げ…。


「先ずは、こうしてウサギを巣穴からおびき出します。」


 と言って、手にした石ころを巣穴の中に放り投げたの。

 

「ウキー!」


 程なくして、大きなウサギが目を血走らせて巣穴から飛び出して来たよ。


「うっ、あれは先日の白い悪魔ではおじゃらぬか。

 ウサギを狩ると言っていたでおじゃるが。

 あの娘、巣穴を間違えたでおじゃるか。」


 そんな言葉をもらしたおじゃるは、血の気が引いたような青い顔をしてたよ。

 魔物の領域で襲われた時の恐怖を思い出したのかな。


 そんなおじゃるの恐怖心など関係なく、指導員のお姉さんは危な気無くウサギの攻撃を躱し。

 研修生にお手本となるよう、五人で連携してウサギを仕留めたの。


「このように五人でウサギの注意を逸らすようにして。

 攻撃を一人に絞らせないのが大事です。

 そうすると必ずウサギに隙が出来ますので。

 落ち着いて対処すれば難しくはありませんから。」


 指導員のお姉さんはそう告げると、各班草原に散って実際にウサギを狩るように指示していたよ。

 今日は二十人なので五人組の班が四つでき、各班に一人指導員のお姉さんが付いていた。


          **********


 自分達を蹂躙したウサギをお姉さん五人がいとも容易く討ち取ったの目にして。


「信じられないのでおじゃる。

 あの白い悪魔を若い娘五人で倒したでおじゃる。」


 おじゃるが呆然としていると。


「ゴマスリー殿、そないに狼狽えることはござらへんで

 あの指導役の娘は高レベル持ちに違いあらしまへん。

 きっと、指導役は貴族ん娘が努めてるのやろう。

 見ていよし。

 平民の娘やら、あの白い悪魔にズタボロにされることやろう。」


 そんなおじゃるを励ます声も聞こえたの。

 まだ、自分達が弱々なのだと認めたくない様子だね。 


 でも、現実はこいつらの思っているようにはならず…。


「えいっ!」


「やったー!ウサギ一匹ゲット!」


「これって、売ったお金を貰えるんでしょう。

 当面の生活資金ができるから助かるわ。」


 連中の目の前で、最初のグループがウサギを倒して歓びの声を上げていたんだ。


「もし、モリィシー殿。

 あの冒険者志望ん娘達も貴族なんか?

 初体験で討伐でけるとは、ぎょうさんレベルを有しいやるにゃろう。」


 そんな娘さん達を見て、連中の一人が父ちゃんに問い掛けていたよ。


「いや、みんなごく普通の平民の娘さんだぞ。

 当たり前だけど、レベル持ちなど一人もいないぜ。

 ウサギくらいなら、レベルゼロでも楽勝で狩れるぞ。」


 父ちゃんはごく当たり前の返事をしたんだけど。


「そんなの嘘でおじゃる。

 麿達はあの白い悪魔に太刀打ちできなかったでおじゃるよ。

 あの娘達はさぞかし高レベルに違いないでおじゃる。」


 おじゃるは父ちゃんの言葉を信じられないみたいだった。


 すると。


「ゴマスリー殿、もしやわいらが襲われたんはウサギおへんかも知れまへん。

 姿が似とるやけで別ん魔物あらへんでっしゃろか。

 平民ん娘やて倒せる魔物如きにわいらが敗ける訳あらしまへん。」


 連中の一人が自分達が敗けたのはウサギじゃないなんて言い出したよ。


「おお、きっとそうでおじゃる。

 モリィシー殿、お願いがあるでおじゃる。

 試しに麿達にもウサギを狩らせてたもうでおじゃる。」


 しかも、おじゃるはそれに同調するし…。

 珍しく怠け者のおじゃるが自分から狩りをしたいと申し出たんだ。

 平民の娘でも狩れるウサギに蹂躙されたとなるとメンツに関わるとでも思ったのかな。

 魔物の領域で遭遇したのは、何か別のより凶暴な魔物だってことにしておきたいようだね。

 ここでウサギを倒すことで、自分の薄っぺらいプライドを守りたいみたい。


 自分達が敗けたのはウサギだと伝えてなかったピーマン王子は、成り行きを気拙い表情で眺めていたんだけど。

 おじゃるの申し出を耳にし、「あの馬鹿者が…。」と苦々しそうに漏らしていたよ。


        ********** 


 おじゃるの望みを聞いた父ちゃんはと言えば。


「まあ、元々、ウサギ狩りは研修初日のカリキュラムに汲まれているものだし…。

 ウサギ狩りをしたいという前向きな姿勢は良いのだが…。

 お前達、相当体が鈍っているだろう…。」


 そんな歯切れの悪い言葉で答えながら、おいら達の方へ視線を送ってきたの。

 その目は「やらせても良いか? 怪我をするけど。」と、おいら達に向かって問い掛けていたよ。


「やりたいと言うのだから、やらせてみれば。

 このおバカ達に自分のヘボさ加減を思い知らせる良い機会よ。

 怪我をしたら、私が治療するから心配しなくても良いわよ。

 まったく、何処からその自信が出てくるのやら…。」


 戸惑う父ちゃんに、アネモネさんは呆れ果てたって顔をして答えてた。

 連中の身の程ってものを思い知らせる絶好のチャンスだって。


 父ちゃんはアネモネさんの言葉に頷くと。


「それじゃ、試しにお前がリーダーとなって五人組でウサギを狩ってみろ。

 いざとなったら俺がフォローに入るので死ぬことは無いだろう。

 誰をメンバーに加えるかはお前に任せる。」


 父ちゃんの返事を受けて、おじゃるはさっそく仲間を集めていたよ。


「殿下はどうされるでおじゃる。

 殿下がご出馬されるのであれば、麿は殿下の駒になるでおじゃる。」


 おじゃるは、そう言ってピーマン王子にも誘いを掛けたのだけど。


「余はいささか体調が優れぬ故、今日のところは遠慮しておこう。

 ゴマスリーよ。

 分隊長のそなたに指揮を任せる故、みごとウサギを討ち取って見せよ。」


 ピーマン王子の方は身の程を弁えることを学んだ様子で、今の自分ではウサギに勝てないと理解しているみたいだった。

 それらしい言葉を並べて、ウサギ狩りを回避していたよ。


「御意でおじゃる。

 では、憂国騎士団、第一分隊出撃でおじゃるよ。

 麿達が小娘共に劣っている訳無いことを証明するでおじゃる。」


 指揮を任せると言われたおじゃるは、ウサギの巣穴を求めて意気揚々と草原の中を進んで行ったよ。


 まあ、どんなことになるか想像付くけど。連中、どんだけ笑わせてくれるか楽しみだね。

お読み頂き有り難うございます。

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