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第724話 好みの女性からキモいと言われたら流石に堪えるか…

 増え過ぎていたベヒーモスを間引きした翌日。

 おいらはアネモネさんの『積載庫』からピーマン王子だけ降ろしてもらって、肉祭りに連れて来たの。

 領主のレクチェ姉ちゃんが、領民と気軽に接する様子を見せようと思ってね。


 領民と談笑しているレクチェ姉ちゃんを見ながら、領内の情勢や問題を把握するには領民の生を声を聴かないといけない。

 おいらがピーマン王子にそんなことを話している時のこと。

 おいらの存在に気付いたレクチェ姉ちゃんが、側に来て話し掛けてくれたんだ。

 レクチェ姉ちゃん、ピーマン王子のだらしなく肥え太った容姿を見て嫌悪感を隠し切れない表情をしてたよ。

 誰かと尋ねられたのでピーマン王子の素性を明かすと、直ぐにその人となりに思い至ったみたい。

 レクチェ姉ちゃん、父や兄と同じ類の人柄だろうと言い当てていたよ。

 …うん、それ、正解。前伯爵もレクチェ姉ちゃんの兄二人も今のピーマン王子に負けず劣らずの愚物だったものね。


「おい、お前らコソコソと何を言っておるのだ。

 余の悪口を言っているように聞こえたぞ。」


 キモいとか、愚か者だとか、直接的な表現は避けて遠回しに会話していたのだけど。

 流石に自分をディスっていることは気付いたみたいだね。


「これは失礼しました、殿下。

 わたくし、ここマイナイ領の領主、レクチェと申します。

 殿下がわたくしの父や兄に似ておりましたもので。

 つい、ご挨拶も忘れてマロン陛下と話し込んでしまいました。

 改めて、マイナイ伯爵領へようこそお出でくださいました。」


 レクチェ姉ちゃんはあからさまな愛想笑いを浮かべて、歓迎の言葉を口にしてたよ。

 ようこそと言いつつ、内心では全然歓迎していないって雰囲気だった。


「うむ、余はウニアール国の第三王子ピーマンである。

 そなたのようなうら若き娘が領主とは驚いた。

 先ほどから漏れ聞こえたところでは、父親と兄が居たようであるが。

 何故に、そなたが領主をしておるのだ?」


 美人のレクチェ姉ちゃんからようこそと歓迎の言葉を掛けられて気を良くしたのか、ピーマン王子はディスられたことを忘れたかのように機嫌を直した様子だった。 


「実は一昨年、この領地であわやスタンピードという事態に襲われました。

 それ自体は、マロン陛下が水際で撃退してくださったのですが。

 永年に亘り父が領主の務めである魔物の間引きを怠ったことが原因だと判明しまして。

 本来はお家取り潰しの上、領地没収もあり得る失態なのですが。

 マロン陛下のご温情によりお家存続が認められることになりました。

 その際の条件が、父の隠居と定期的に魔物を間引くことでした。

 ですが、兄二人はお家存続の条件である魔物狩りを拒みまして。

 そのため貴族籍を剥奪され領地から追放されることになったのです。」


 レクチェ姉ちゃんの話を聞き目を丸くしたピーマン王子。


「なに? 魔物狩りを拒否して貴族籍を剝奪とな?

 それは少々厳し過ぎるのではないか?

 何も領主が魔物狩りなどの汚れ仕事をしなくとも、お抱えの騎士が居るであろう。

 それで手が不足ならば、領民を徴用してやらせれば良いではないか。」


「いいえ、領主は領地、領民を護るために領民の血税で養われているのです。

 魔物狩りなど、その最たる務め。

 それを拒否するなど領主失格、貴族籍を剥奪されるなど当たり前のことです。

 そもそもレベルを持たぬ民を危険な目に遭わせる訳にはいかないでしょう。」


「ということは、そなたが定期的に魔物を間引いていると言うことか。

 美しく、深窓の令嬢としか見えない娘が魔物を狩っているなんて信じられん。

 うら若き娘が魔物狩りなどなどと、そなたは嫌だと思わないのか。」


 レクチェ姉ちゃんが定期的に魔物狩りをしていると知り、驚きを隠せないピーマン王子。

 

「いいえ、領民の安寧を護る大切な務めだと思えば少しも苦になりませんわ。

 それにこの周辺に生息する魔物は、酔牛や馬鹿などお肉が美味しい魔物が多いですから。

 年二回の魔物狩りの度に、肉祭りと称してお肉とお酒を領民に振る舞っているのです。

 そのお祭りで見せる領民達の楽しそうな表情を見ていると、やった甲斐があると感じますよ。」


 嘘偽りの無い表情でそんな答えを返したレクチェ姉ちゃんに、ピーマン王子はまたまた意外そうな顔をしてたよ。


「その白魚のような細い指で剣を握り、その細腕で剣を振るのであるか…。

 このちんまい小娘が易々と魔物を屠ることと言い、昨日から信じられない事ばかりだ。

 はっ、そなた、もしや、貴族の血に秘めらし力に覚醒したのではないか?」


 ホント、失礼な奴だな。

 レクチェ姉ちゃんのことは白魚のような指とか、細腕とか表現するに、おいらはちんまい小娘なのかよ。

 それはともかく、まだ諦めきれていないのか。

 ピーマン王子は秘めらし力に目覚めたのではないかと尋ねたのよ。


「秘めらし力? 何ですか、それ?」


 首を傾げるレクチェ姉ちゃん。


「今、ウニアール国の落ちこぼれの間で流行っている都市伝説みたい。

 何でも、貴族の血には特別な力が秘められていて。

 それが覚醒すると、それまでとは桁違いの力を出せるんだって。

 落ちこぼれの連中が書いた与太本が伝説の起源らしいけど。」


 事情が呑み込めないようなので、おいらが説明してあげたよ。


「落ちこぼれ言うな。

 何をやっても優秀な連中に勝てない余や仲間達が。

 辛い現実から目を背けるために、細やかな夢を抱いただけではないか。

 狂暴な魔物を一撃で屠り、自力で王位を取り戻すような。

 才能溢れるお前に何が分かる。」


 おいらの言葉にカチンとみたいで、ピーマン王子は逆ギレ気味にそう言い放ったんだけど…。

 おいら、才能溢れるなんて言われたのは初めてでびっくりしたよ。

 才能なんて考えたことも無かったし、そんなもの有るとも思わなかった。


 すると、レクチェ姉ちゃんが珍しく怒りで顔を真っ赤にして。


「陛下の対するその無礼な言葉は赦せません。

 それを言って良いのは、努力した者だけです。」


「えっ、そなた何を?」


 突然怒りをあらわにしたレクチェ姉ちゃんに、ピーマン王子は戸惑ってたよ。


「陛下は生後間もなく、逆賊ヒーナルのため国を追われ。

 市井で慎ましやかにお育ちになられたのです。

 その間、食べるために必死に努力をしたと聞き及んでいます。」


「そうなのか?

 貧乏くさい女王だとは思っていたが、本当に貧乏だったのだな。」


 慎ましやかな生活をしてたのは事実だし、餓死しそうにもなったけど…。

 必死に努力していたかと言われると、どうなんだろう。

 幸いにして、打ち捨てられてた大量のスキルの実に出くわしたからね。

 まあ、ぬくぬくと育った貴族のボンボンよりは努力をしているだろうけど…。


 それにしても、ピーマン王子の言葉、失礼だな。


「その点、殿下は何ですか? 何をやっても優秀な連中には勝てない?

 殿下は周りの方々に勝とうと努力をなされたのですか?

 私にはとても努力したようには見えません。

 だって、そのキモい体型、わたくしの父や兄そっくりなのですもの。

 怠惰な生活をして、酒と美食に耽っていたのが目に見えるようです。」


 今までの遠回しな表現は避けて、キモいとストレートに言っちゃった。

 レクチェ姉ちゃん、前伯爵や二人の兄ちゃんを嫌っていた様子で嫌悪感丸出しで告げたの。


 レクチェ姉ちゃんにキモいと言われて、ピーマン王子はショックを受けた様子だったよ。 

 面と向かってキモいだなんて普通に失礼だし、ましてピーマン王子は王族だものね。

 みんな、思っていても口に出せないよ。


「余は同年代のそなたから見てキモいのか?」


「はい、王族である殿下に面と向かって告げる者は居ないでしょうけど。

 率直に言って、そのブヨブヨとした脂肪の付き方には生理的嫌悪感を感じます。

 殿下がお召しになられても、十中八九のご令嬢はしり込みするかと。」  


 余程の嫌悪感を抱いているのか、歯に衣着せぬ返答をするレクチェ姉ちゃん。

 普段は礼儀正しく、街の人達に人気のあるレクチェ姉ちゃんとは思えない辛辣さだったよ。

 そう言えば、こいつ、袖にされた貴族令嬢を無理やり手籠めにしようとした挙げ句辺境送りになったんだっけ。

 

「そんな…。

 ゴマスリーも、オベッカも、貴族はふっくらしとるものだと言っておったぞ。

 良く太った体は贅沢が出来る証拠だから、異性を惹き付けるのだと。

 その証拠に余の周りにいる者は、似たような体形の者ばかりであった。」


「ええ、目に見えるようです。

 二人の兄の取り巻きも、皆締まりのない体つきをしてましたもの。

 皆が食べるのに事欠く状況なら、食べるに困らない人はモテるかも知れませんが…。

 幸い、この大陸にはパンの木が有り飢餓に苦しむ人は皆無です。

 そんな状況で、その醜い体つきがモテると言われても…。

 逆に問いますが、殿下はご自分のような体形の女性と私のような体形の女性。

 どちらの方が、お好みでしょうか?」


「うっ…。」


 ピーマン王子は、レクチェ姉ちゃんの問い掛けに言葉を詰まらせたよ。

 きっと、自分のような体形の女性を想像したんだね。

 そして、ピーマン王子はレクチェ姉ちゃんみたいな女性が好み。

 最初にレクチェ姉ちゃんを見た時から、美しいとか言ってたもの。


       **********


 図星を指されて言葉を詰まらせたピーマン王子を目にして、表情を和らげたレクチェ姉ちゃん。


「王侯貴族の血に特別な力などあるはずがないです。

 王族だって、貴族だって、平民だって同じ人族なのですから。

 切り傷から出てくるのは同じ赤い血でしょう。

 私達が魔物を倒せるのは、マロン陛下から頂戴した『生命の欠片』のおかげです。

 それと鍛錬を継続的に行うことですね。

 幾らレベルを上げても、鍛錬をしないと体がついて行きませんから。」


 噛んで含むように伝えると。


「そうか、やはり、王侯貴族の血に特別な力など無いのか…。

 きっかけは『生命の欠片』で、後は鍛錬なぁ…。

 考えてみれば、余は努力とか鍛錬とかした覚えが無い。

 アネモネが何時も口煩く言うが、全て聞き流しておった。

 何故、王侯貴族が汗などかく必要があるのかと…。

 しかし、そなたにキモいと言われたのは堪えた。

 余も、見目麗しい女性には振り向いて欲しい故。

 少しは努力と言うものをしてみようかの。」


「今からでも遅く無いですよ、殿下。

 先ほどから、失礼なことを申し上げたことを謝罪します。

 本来なら他人を外見で判断するのはいけない事なのです。

 太り易い体質の方だっている訳ですし。

 ですが、王侯貴族に限って言えばどうしても批判的になってしまって。

 貴族の義務も果たさずに怠惰な生活をしている者に特徴的な体形ですから。」


「謝る必要はない。

 そなたの言う通り、余は怠惰な生活を続けてきたのだから。

 この体に付いた贅肉が、その証だと言われると情けなく感じる。」


「失礼ですが、ご両親やご兄弟も殿下と同じような体形で?」


「いいや、両親も、兄上も、姉上も皆どちらかと言えば痩せ型だのう。

 贅肉が有り余っているのは、一族の中で余だけだ。」


「なら、悲観しなくても大丈夫です。

 殿下も王族の男子ですし、レベルはお持ちなのでしょう。

 それを活かせば、健康的な体形になることが可能だと思います。

 まずは、低レベルの魔物から倒してみてみましょう。

 毎日欠かさず魔物狩りを続ければ、きっと痩せることが出来ます。」


「そうか、そなたに言われるとやる気が湧いて来た。

 余も、これから贅肉を落とすように努力しよう。

 そなたからキモいと言われないで済む体つきになりたいものだ。」


 そっか、ちっちゃい子供のおいらに言われるより、好みのタイプのレクチェ姉ちゃんの言葉の方が心に響くんだ…。

 ピーマン王子って単純だね。 まあ、それでやる気になってくれたのなら良いけど。

 それじゃ痩せることを目標に、精々、冒険者研修と街道整備の現場実習を頑張ってもらうとしようか。

お読み頂き有り難うございます。

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