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第723話 やっぱり、そう見えるんだね…

 ピーマン王子をベヒーモスから助ける時、どんなことでも言うことを聞くって誓わせたので。

 おいらは、しばらくの間冒険者研修と街道整備の現場実習をさせることにしたよ。

 おいらの国の前王ヒーナルが悪影響を与えてこんな愚物が生まれたって聞かされたら、放置しておく訳にもいかないからね。

 冒険者研修と街道整備で厳しく鍛えれば、曲がった根性も少しは真面になると思うんだ。


「小娘、貴様、麿達が貴族に留まれるように協力してくれるでおじゃるか。」


 このおじゃる、おいらが女王だと明かしてもまだ小娘扱いするのか。

 しかも、助けてもらう立場なのに、態度でかいな…。


「うん、おいらが用意するカリキュラムをこなせばね。

 多分、ニイチャン達の国で貴族に要求される最低限のノウハウは身に付くと思う。」


 領地を魔物から護ることと、自ら開墾作業を行って領内の開発を進めるという最低限の義務はね。


「はぁー、仕方ないでおじゃるな…。

 貴族の地位だけは失いたくないでおじゃる。」


 おじゃるが渋々おいらの要求を受け入れると。


「しゃあないな。

 きばるんはかなんやけど。

 今から図書館の試練をクリアするのんは望み薄やしな。

 他ん手段があるんなら、それにすがるしかあらへんか。」


 そんな言葉を口にして、憂国騎士団の連中も納得した様子だったの。


「まさか、こいつ等がマロンちゃんの要求を呑むとは…。

 本当に藁にも縋る気持ちなのね。

 私もこいつ等の監督責任者としてついて行くわ。

 こいつ等がマロンちゃんに迷惑かけたら拙いし。

 何よりも、このおバカ達が何処まで真っ当になるか興味あるから。」


 そんな訳でアネモネさんも一緒に来てくれることになったの。


「じゃあ、悪いけど。

 アネモネさんの『不思議な空間』にニイチャン達を入れておいて。

 おいら、今久し振りの休暇中で残り三日も休みが残っているの。

 やっと取れた休暇なんで、最後まで楽しみたいから。」


「分かったわ、その間、監禁しとけば良いのね。

 せっかくの休みなんでしょう、存分に楽しめば良いわ。

 こちらは急ぐことでも無いし。

 マロンちゃんに鍛え直してもらわないと。

 このおバカ達使い物にならないからね。」


 アネモネさんはおいらの気持ちを理解してくれたようで快く連中の監禁に応じてくれたよ。


「おい、こら、ちょっと待て。

 余達は三日間もあの何にもない空間に閉じ込められるのか?」


 どうやらピーマン王子達は『獣舎』に入れられて辺境まで運ばれてきたみたいだね。

 ベッドも何も無いだだっ広いだけの空間で、色々垂れ流しにされても大丈夫なように出来ているの。

 本来の目的は名称が示す通り、獣を収納する空間だけどアルトはもっぱらならず者を閉じ込めるのに使っているんだ。

 ピーマン王子達、ならず者と同じ扱いだったんだね。


「安心しなさい、三日間、ちゃんと食料は差し入れてあげるから。

 自由に走り回れる広さがあるんだから、少しは運動でもしたら。

 あと、おやつに『器用さ』のスキルの実を置いとくわ。

 領地開拓をするのに少しでも器用さが高い方が良いでしょう。」


 あのう〇この臭いがする実を用意するって、それなんの拷問なの…。


「おい、やめろ。あんなもの人の食べる物では無いだろうが。」


 アネモネさんの言葉にピーマン王子は猛烈に反発したけど。


「ええい、ごちゃごちゃ言ってないで。

 三日間、大人しくしていなさい。」


 アネモネさんは問答無用で、ピーマン王子と憂国騎士団の連中を『積載庫』に放り込んじゃった。


       **********


「はあ、ベヒーモスのお肉ですか?

 それでもう一度、『肉祭り』を開催しろと?

 この領地の民に対する施しには感謝致しますが…。

 ベヒーモスと言えば厄災級の魔物ですよね。

 そのような危険な魔物のお肉を何処で手に入れたのでしょうか?」


 アネモネさんにピーマン王子達をしまってもらうと、おいら達はマイナイ領に戻ることにしたんだ。

 予定外のベヒーモスとの遭遇で、美味しいと評判のお肉が十分以上に手に入ったからね。


 それで今は、領主のレクチェ姉ちゃんの許を訪ねてベヒーモスのお肉をお裾分けしたところなの。


「朝の運動にと思って、魔物の領域の奥へ狩りに行ったんだけど。

 アルトがベヒーモスの大群を見つけてね。

 放って置くとスタンピードを起しそうだったみたい。

 それで適当な数を間引いてきたんだ。

 五十頭以上間引いたから、当面、スタンピードの心配はないって。」 


 カタン!


 おいらの言葉を耳にして、レクチェ姉ちゃんは手にしたペンを取り落としたよ。

 気付くと、レクチェ姉ちゃん、青ざめた顔で目を丸くしてた。


「街の背後に広がる魔物の領域に、ベヒーモスまで生息していたんですか…。」


「そうみたい。

 おいら達は草原でアルトが引っ張って来た個体を狩っただけだから。

 全部でどのくらい生息してたかは見てないんだけど。」


「それは、玉体を煩わせまして申し訳ございません。

 私共の不手際を何とお詫びして良いものか。

 重ねて、領地、領民を救って下さり有り難うございました。」


 魔物の領域にスタンピードが起こるくらいベヒーモスが生息していたと聞き。

 レクチェ姉ちゃんは平身低頭してたよ。


「気にしないで良いよ。

 良い運動になったし、何より美味しいお肉が沢山手に入ったから。

 と言う訳で、これはお裾分けだから街のみんなにも振る舞ってあげて。」


「お心遣いに感謝致します。

 では、早速明日にでも、『肉祭り』第二弾を開催しましょう。

 マロン陛下ももちろん参加してくださるのでしょう?」


「せっかくのお祭りだもの、参加しない手はないよ。

 おいらはいつも通りこの格好で、街の人に混じって楽しませてもらうよ。」


 そんな訳で、数日と空けずに肉祭り第二弾が開かれることになったんだ。        


        **********


 そして、翌日の夕方。


「何故に、余がこのような貧乏くさい服装をせねばならないのだ?」


 如何にも町人って格好をしたピーマン王子がそんな愚痴をこぼしたの。


「このお祭りは街の人のために催しているんだもの。

 如何にも貴族でございって格好の人が居たら煙たがられるだけだよ。

 ほら、見て。

 あれがこの街の領主レクチェ姉ちゃん。

 あんなラフな服装で、街の人達と談笑しているでしょう。

 ああやって街の人から生の声を聴くのも領主の大切な仕事なんだよ。

 かしこまった格好をしてたら、街の人も気後れしちゃうじゃない。」


 おいらが街の人に囲まれて和やかに談笑するレクチェ姉ちゃんを指し示すと。


「なに、あの若い娘がこの地の領主であるか。

 美しい娘ではあるが、あんな貧乏くさい服装なので町娘かと思っていたぞ。

 この地の領主は領民にこんな施しをした上にそんなことまでしておるのか。

 街の様子など、下っ端役人に報告させればよかろうに。

 何も、自ら街の者共に混じって話を聞かんでも…。」


「それじゃ、ダメなんだよ。

 人伝に聞くのと、自分の耳で聴くのは大違いだよ。

 人伝だと微妙なニュアンスは伝わらないし。

 うっかり大切なことを落としたり。

 中には都合の悪いことを伝えないかも知れないじゃない。」


「そんなものかのう。

 余は領主なんて、領館の奥でどっしり構えておれば良いと思うが…。」


 それじゃ、街の実情に疎い領主になっちゃうじゃないと思っていると。


「マロン陛下、楽しんでおられますか?

 陛下が下賜してくださったベヒーモスのお肉とても好評ですよ。

 私も、こんな美味しいお肉初めて食べました。

 ベヒーモスって、酔牛よりも脂が甘くてとても美味しいのですね。

 それにとても柔らかいし。」


 おいらに気付いてレクチェ姉ちゃんがやって来たよ。


「うん、すっごく楽しんでる。

 おいらもベヒーモスのお肉を食べたのは二回目だけど

 ホント、美味しいよね。

 街の人にも気に入って貰えたみたいだし、狩った甲斐があったよ。」

  

「それは良かったです。

 ところで…。

 陛下のお隣にいらっしゃる方は何方様でしょうか?

 お歳の割に肉が付き過ぎていて、少々不健康に見えるのですが…。

 大変失礼ですが、陛下がお側に置くような方には見えません。」


 ピーマン王子を見てそんなことを尋ねてきたレクチェ姉ちゃん。

 おいらには聞こえないようにか、小声で「父や兄を想起させ不快ですわ。」なんてことも呟いてた。

 まあ、不摂生を絵に描いたような体形をしているものね。キモいと言わないだけ自制心が働いてるね。


「このニイチャン? ピーマン王子だよ。

 ウニアール国の第二王子だって。

 昨日魔物に襲われているところを助けたの。

 少々、社会常識に疎いところがあるので勉強してもらおうかと思って。

 今日も、レクチェ姉ちゃんが街の人達と交流する様子を見て貰ってたの。」


「ああ、やはり、父や兄みたいなタイプの方でしたか。

 全身から醸し出される雰囲気が似ていると思っていました。

 父や兄のようになる前に更生できると良いですね。」


 おいら、かなりオブラートに包んで言ったつもりなんだけど。

 レクチェ姉ちゃん、おいらの言葉とその外見だけでピーマン王子の本質を見抜いたみたいだね。

 前マイナイ伯爵や兄貴二人と同じ類の人柄だって。

お読み頂き有り難うございます。

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