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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記
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第72話 遅れて来た騎士

 スタンピードが終結した日、クッころさんがノイエにレベルを分けてもらった後のこと。


 おいら達は揃ってお風呂に行くことにしたんだ。

 まだ、午前中だけど、この三日、朝から晩まで『虫』と戦っていてお風呂に入る時間が無かったから。

 病原菌に感染しないように、体液も含めて虫には一切触れないようにしてたけど…。

 それもでも、やっぱり『虫』と戦って気持ち悪かったからね。

 早々にお風呂に入って、体を洗い流したかったんだよ。


 そしたら、ノイエも一緒に行くと言ってついて来たんだ。


「ねえ、妖精もお風呂に入ることなんてあるの。

 その翅、水にぬれても平気なの?」


 おいらが素朴な疑問を投げかけると。


「失礼ね、妖精はみんなキレイ好きのなのよ。

 日頃、水浴びは欠かせないわ。

 あんたが森で拾っていく『泡々の実』が生る木。

 あれだって、わざわざアタシ達が植えたモノなのよ。

 それに、アタシのこの翅、撥水性だから水に濡れても平気よ。

 そうじゃなければ、雨の日に空を飛べなくなっちゃうじゃない。」


 そんな答えを返してくれたノイエ。

 『泡々の実』が生る木は、元々あの森に自生していた木じゃないみたい。

 キレイ好きの妖精が、身を清めるために他から苗木を持って来て植えたって。

 それに、翅だけじゃなくて、ヒラヒラのドレスも撥水性の布で出来ているんだって。

 雨の日でもへっちゃらだって、ノイエは言ってたよ。便利だね。


     ********


 そんな会話をしながら、街の広場に差し掛かった時なんだ。


「我らは、王国騎士団の者である!

 我らが来たからには、もう安心だぞ!

 スタンピードなど、鎧袖一触で蹴散らして見せるわ!」


 立派な体躯の馬に跨った騎士が、広場に入って来て叫んだんだ。

 クッころさんが町に来た時と同じく白銀に輝く騎士甲冑を身に着けているんで、騎士なんだろうね。

 でも…。


 広場に入って来た十人の騎士は、馬上で周囲を見回して。


「ねえ、隊長、この町、妙に平穏ですぜ。

 もう、とっくにスタンピードが襲来していても良いはずですが…。

 全く、そんな様子は見られませんぜ。」


 さっき声を上げた騎士に、横にいた騎士がそんな声を掛けてたよ。


「おう、そうだな。

 どこにも、魔物の襲撃を受けた様子は見られんな。

 いったい、これはどうしたことだ。

 もしや、我が隊は貧乏くじを引かされたか…。」


 隊長と呼ばれた騎士が、周囲を見回しながらそう呟いていた。


「ありゃ、騎士様、どちらから来なさったんかい。

 お勤めご苦労さんだよ。」


 町の平穏な様子に戸惑っている騎士達に、果敢に例のオバチャンが声を掛けたよ。

 貴族階級の騎士に気軽に声を掛けるなんて、相変わらず怖い物知らずだね。


「なあ、町の者よ。

 ちと尋ねるが、この町を汚らわしい虫けらの魔物が襲って来はしなかったか?」


「ああ、スタンピードかい。

 あれなら、町の外に出ると見える『妖精の森』の長さんが撃退してくれたよ。

 私しゃ、家にこもってたんで見てないけど。

 森の空を真っ黒に染めた『虫』共が次々と撃ち落とされる光景は、圧巻だったらしいよ。」


 オバチャン、おいらが話したことをそのまんま、騎士さんに言ったよ…。

 オバチャンには、おいら達が一部撃退したことは言わないで、全てアルトが撃退してくれたって言ってあるからね。


「ちょっと待て、おまえは何でスタンピードの発生を知っておるのだ?

 スタンピードなんてものは、襲ってきて初めて気付くものであろうが。

 今回のスタンピードなど、まだ発生して五日しか経っておらんのだぞ。

 他の町や村から噂が流れて来るにしたって早すぎるであろうが。」


 スタンピードって、凄い速さで迫ってくるから知った時は手遅れってことが多いからね。

 自分の町が襲われるような場所でスタンピードが起こって、こんなに呑気にしている所はないよ、普通は。


 こんな呑気に出来るスタンピードの話は自分とは無縁の場所のことで、それも発生からかなり月日が過ぎてから。

 商人や冒険者が、他の町から噂を拾ってくるんだ。


「うん? 

 この町のモンはスタンピード起きたっていう日の翌日にはみんな知ってたよ。

 妖精の長さんと懇意にしているモンがいてね。

 スタンピードが起こったから、収まるまで家にこもってろって警告してくれたんだよ。

 それから三日間、この町のモンはみんな家にこもりっぱなしだったよ。

 今朝、スタンピードが終結したと聞いて、やっと普段の生活に戻れたところさ。

 妖精の長さんの警告があったんで、みんな命拾いしたよ。

 おかげで、この町は被害らしい被害も無くて済んだのさ。」


「なに、スタンピードが終結したとは真か?」


 遠方、おそらく王都から来たと思われる騎士さん達は、スタンピードが終結したという情報は掴んでいなかったみたい。

 まあ、妖精ネットワークを使って今朝知ったのだから、人の情報網では知る由も無いか。


「真かと言われても…。

 今朝、妖精の長さんがそう言っていたと聞いただけだからね。

 だけど、ほら、空を飛んでいる虫けらなんて一匹もいないだろう。

 長さんの言う通り、収まったんじゃないのかい。」


 隊長に問われたオバチャンは、妖精の森の方向の空を指差して言ったんだ。

 その話を聞いた騎士さんがどんな顔をしていたかは分からない。

 フルフェイスの兜を被って、バイザーを降ろしてるんで顔が見えなかったから。


 でも…。


「なんてこった。

 もう、スタンピードが終結しちまっただって? この町が全く襲われずに?

 けっ、こんな辺境まで足を運んだって言うのに、とんだ無駄足だったぜ。

 こんな所に、『妖精の森』があったなんて聞いてないぞ。

 その妖精の長って奴、余計なことをしてくれやがって。」


 なんてことを口走った隊長さん、その口調はとっても悔しそうだったよ。

 民を守る立場の騎士なんだから、普通なら町の人達が無事だったことを喜ぶものじゃないの。


 こいつら、なんか言動が不審だよ。

 いったい、何の目的でこの町にやって来たんだろう?

お読み頂き有り難うございます。

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