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第713話 身内から愚か者と呼ばれているなんて…

 魔物の領域で助けたウニアール国の第二王子ピーマン。

 余りにも魔物を舐めているので、それを指摘したらピーマン王子は激怒したよ。

 人間、図星を指されると怒るってのは本当だったんだね。


 怒ったピーマン王子は、剣を失ったことも忘れて、おいらを手討ちにしようとしたんだ。

 得物が無いのだから、おいらに危害を加えられる訳もないんだけど。


 おいらに対する無礼な言動の数々に、近衛隊長のジェレ姉ちゃんがキレちゃって。

 ピーマン王子を後ろから羽交い締めにして、首筋に剣の刃を当てていたよ。

 マジ怒りで何時でも()れる態勢だったもんだから、ピーマン王子はびびって声も出なかったの。


「まあ、まあ、ジェレ姉ちゃんもそう怒らないの。

 おいら、身分は明かしてないんだから。」


「いえ、ですが、こ奴、剣に手を掛ける素振りを見せました。

 幾ら身分を明かしていないとはいえ。

 皆が『陛下』と呼んでいるのですから。

 余程の(うつ)け者でない限りマロン様のご身分が推測できるはず。」


 それ、暗にピーマン王子を余程の虚け者だとディスってるよね。

 羽交い絞めにされた腕が緩んで、張り詰めた緊張が緩んだ様子のピーマン王子。

 言葉を発する余裕が出来たみたいで…。


「何なのだ、貴様らは!

 余はウニアール国の第二王子ピーマンだと申しているだろうが。

 王族に対して刃を向けるのは大逆の罪であるぞ。

 余の騎士達がおったら即刻打ち首にしておるところだ!」


 暗愚と言うのはこいつみたいな者を表する言葉なんだろうね。

 激昂するあまり、ジェレ姉ちゃんの言葉を噛み砕いて考える余裕が無いのかな。


「この大虚けが! 手討ちにされるのは貴様の方だ!

 先に、このお方に手を上げようとしたのだからな。

 このお方はウエニアール国の現女王マロン陛下であらせられるぞ!」


 ジェレ姉ちゃんが一喝すると、ピーマン王子はピクっと身震いして体を硬直させたよ。

 余程の小心者と見えて、ジェレ姉ちゃんの殺気の籠った声に気圧されちゃったみたい。


「その小娘が女王?

 馬鹿を言え、一国の女王がそのような貧乏臭い格好をしている訳なかろうが。

 その辺にいる町娘だって、もう少し気の利いた服装をしているぞ。

 お前らだってそうだ。とても王の側に仕える者には見えんわ。

 揃いも揃って駆け出しの冒険者のような姿をしおって。

 そこにいるメイドに至っては訳が分からんわ。

 何で、こんな山の中でメイド服なんぞ着ておるのだ。」


 ピーマン王子は委縮して震える指先でおいら達を差し示しながら、何とか声を絞り出したんだ。

 おいらが女王だということを信じていないみたいなの。

 こいつは王侯貴族らしい『記号』が無いと納得できないらしい。

 見た目でしか他人を判断できないなんて、器の小さい人だね。

 ちなみに、ウレシノのメイド服は立派な戦闘着だよ。

 暗器とか、匕首(あいくち)とかを仕込める構造だし、生地も特殊な布で(やいば)を通さないんだって。


       **********


「ニイチャン、おいら達は鍛錬のために魔物狩りをしてたんだよ。

 魔物狩りをするのに、そんな重い甲冑を身に着けて来る馬鹿は居ないよ。

 魔物は人よりも数段素早いし、空からも襲って来る。

 重い甲冑は動きが遅くなるし、視野も狭くなるでしょう。

 何よりも、人間の数十倍、何百倍も力が強いんだ。

 魔物の突進を受けたらそんな甲冑は何の役にも立たないよ。

 魔物との闘いでは、攻撃を素早く避けることが肝要なの。

 だから、おいら達は動きやすい軽装をしてるんだよ。」


 魔物との闘いを理解してないようなので、おいら達が軽装をしている理由を教えてあげたよ。


「馬鹿とはなんだ! 馬鹿は貴様らの方だ!

 これは由緒正しい騎士甲冑だぞ。

 王侯貴族たるもの、戦場にある時は常にこれを身に着けていることが作法なのだ。

 動き難いからと言って、そんな平民のような格好をできる訳が無かろうが。」


 ピーマン王子にとっては今の格好が騎士としての様式美のようで、おいらの言葉に耳を貸そうとしなかったよ。

 ウニアール国の騎士達って、皆が皆、あんな甲冑を身に着けて魔物狩りしているのかな。凄く動き難そうなんだけど。


 それにしても、こいつ、一々態度が横柄だよね。

 おいらに助けてもらったことを忘れちゃったみたいだ。

 どんな褒美でも取らすと言ったことも当然のように覚えていないんだろうね。


 おいら、横柄な態度のピーマン王子を見ていて思ったよ。こいつ、ここに置き去りしてやろうかと。

 頼まれもしないのに魔物の領域を出るまで面倒を見てあげる義理は無いからね。


 そんなことを考えていた時だよ。

 草むらを掻き分けて栗毛色の馬が姿を現したと思えば。


「あっ、ピーマン、こんな所に居たのね。

 王都へ報告に行って戻ってみれば、駐屯地はもぬけの殻。

 いったい何処へ行ったのかと思っていたら。

 取り巻き共はケガだらけで戻って来るし。

 あんたは行方不明だと言ってるしで。

 もう、目眩がしたわ。

 毎度、毎度、手間を掛けさせるのもいい加減にしてちょうだい。」


 そんな愚痴をこぼしたの。


「えっ、馬が喋った?」


 呆気に取られて、思わずそんな独り言を呟いちゃったよ。


「馬が喋る訳ないでしょう。

 ここよ、ここ。」

 

 そんな言葉と共に馬の背の辺りからアルトのそっくりさんが姿を現したんだ。

 この妖精さんがレンテンローゼーンさんかなと思ったのだけど。


「おお、アネモネ、良いところに。

 この無礼者共を始末するのだ。

 こ奴ら、余に剣を突き付けたのだぞ。」


 そんな身勝手な指示を出すピーマン王子。

 どうやら、アネモネさんと呼ばれる妖精さんで、レンテンローゼーンさんとは別人らしい。


 ピーマン王子の指示を聞いて、こちらに目を向けたアネモネさん。

 この時、ピーマン王子は剣を手にしたジェレ姉ちゃんに拘束されたままだったの。


「あら、うちの愚か者が何か粗相でも致しましたか?

 ご無礼を働いたのなら謝罪いたします。

 そんな愚者でも一応王族ですので、どうか解放してくださいませ。」


 ペコリと頭を下げたアネモネさんは、ピーマン王子の拘束を解くように懇願したの。

 アネモネさんの頭の中では、失態を犯したのはピーマン王子で決まりらしい。


「おい、余を愚か者扱いするとは何事だ。

 それでは余に非があるみたいではないか。」


 ピーマン王子は愚者と呼ばれて不満そうだったよ。


「ジェレ姉ちゃん、ピーマン王子を解放してあげて。

 後はこの妖精さんにお任せすることにしよう。」


 おいらの指示に従いジェレ姉ちゃんは剣を鞘に納め、ピーマン王子の拘束も解いたの。

 ピーマン王子は脱兎の如くジェレ姉ちゃんの側から逃げだすと、アネモネさんを盾にするように後ろに回ったよ。


「さっそく要請を受け入れてくれて感謝致します。

 それで、この愚か者がどのような粗相を働いたかお聞かせ願えないでしょか。

 国王や母上に報告せねばなりませんので。」


 妖精さんが母上なんて言葉を口にするのは初めて耳にしたよ。

 アネモネさんはアカシアさんの子供じゃないのかな。


「ピーマン王子は、ここでモモンガの魔物に襲われてたの。

 ちょうど近くで魔物狩りをしていて、その場面に遭遇してね。

 苦戦しているピーマン王子を助けたんだ。

 それから、魔物に襲われていた経緯を聴いてたの。

 大物の魔物を狙ってここへ来たと言うけど。

 ウサギの魔物に蹴散らされたそうだし、訓練もロクにして無いみたいじゃない。

 余りに無謀だから、魔物の領域を舐め過ぎだって説教したら。

 ピーマン王子は逆ギレして、おいらに剣を向けようとしたんだ。

 それで、おいらの護衛騎士に取り押さえられたの。」


 そんなおいらの言葉を聞くと、アネモネは頭痛そうにこめかみに手を当て…。


「それは大変ご無礼なことを致しました。

 命を救われていながら、そのような恩知らずなことをするとは…。

 失礼ですが、お名前をお伺い出来ますか。

 後日、国王の方からお礼とお詫びをさせていただきたく存じます。」


 アネモネさんは平謝りでおいらの素性を尋ねてきたの。


「おいらは、マロン。マロン・ド・ポルトゥス。

 ウエニアール国で女王をしているんだ。

 周りの者はおいらの護衛騎士とメイドだよ。」


 素性を明かすと、アネモネさんは一瞬驚きの表情を見せた後、おいらをしげしげと眺めてた。

 そして。


「ウエニアール国の新王はお強いと聞いておりましたが…。

 本当にお強いのですね。

 もしや、そのモモンガは?」


「この子? ピーマン王子を襲っていたモモンガ。

 こんなに可愛いのに、殺しちゃうのは忍びないしね。

 おいらのペットにしようと思って手懐けたの。

 この森に入って二匹目だよ。」


 おいらの答えにアネモネさんは目を見張り。


「その場で魔物を手懐けてしまうなんて本当に強いのですね。

 しかし、常々愚かだとは思っていましたが、隣国の女王にご無礼を働くとは…。

 一つ間違えば国際問題になると言うのに。

 これはもう廃嫡だけではすみませんね。

 王族から追放して貴族位も剥奪しないと。」


「おい、こら、何を言いくるめられておるのだ。

 そんな粗末な格好をした町娘が女王のはずがないであろう。

 口から出まかせを言っているに決まっておるだろうが。」


 事後処理に頭を悩ませている様子のアネモネさんに、ピーマン王子が抗議すると。

 アネモネさんは軽蔑の(まなこ)でピーマン王子を見てため息を吐いたの。


 そして。


「ホント、愚かですね。

 あれほど他人を見た目で判断したらダメだと教えたでしょう。

 このお方の強さは尋常ではございませんよ。

 人間離れしていると言っても良いくらいです。

 恐らく史上最強と言われたトアール国の愚王に匹敵する強さかと。

 このような方が市井の一般人の訳が無いじゃございませんか。」


 トアール国の愚王、力に溺れてアルトの森に攻め込んだ挙げ句返り討ちに遭った王様。

 アルトにレベルを奪われその後トアール国が傾く切っ掛けになったことから愚王と呼ばれているけど。

 レベル七十以上を誇り、実戦経験も豊富だったから、戦闘力の高さじゃ史上最強と伝わっているんだ。


 アネモネさんは他人のレベルを推し量ることが出来るようで、おいらがレベル七十を超えていることに気付いたみたい。


「このちんけな小娘が史上最強だと?

 馬鹿も休み休み言え!

 こんなちっぽけな体の何処にそんな力があると言うのだ。」


 ピーマン王子はまだそんなことを言ってるけど…。


「アネモネ、あなたも大変ね。そんな大虚(おおうつ)けの世話を任されて。」


 護衛騎士達の背後に隠れる形になっていたアルトがアネモネさんの前に姿を現したの。

 

「あっ、アルト叔母さん、久し振り。

 風の噂で、アルト叔母さんがウエニアール国の新王を庇護していると聞いてたけど。

 今日も一緒だったんだ。」


 アルト叔母さん? アネモネさんはアルトの姪っ子なの? 

お読み頂き有り難うございます。

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