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第711話 それって、情けないにも程があるでしょう…

 魔物の領域で助けたニイチャン、横柄な態度で感謝の言葉の一つも無いの。

 貴族らしいけど、妖精族と面識がある様子でアルトを目にして忌々し気な顔をしてたよ。


 モモンガに襲われて血塗れになっていたものだから、アルトにケガを治して欲しいとお願いしたんだけど。

 アルトは、それに応えて『妖精の泉』の水を大量にニイチャンの頭上から降らせていたよ。


「ぺっ、ぺっ、何なのだこれは?

 雲一つないのに、こんな豪雨が降るなんて…。」


 濡れネズミになったニイチャンは、ぺっ、ぺっと口に入った水を吐き出しながら不思議そうに首を傾げてたの。


「アルトがニイチャンのケガを治してくれたんだよ。

 もうどこも痛くないでしょう。

 それ、怪我や病気に効く不思議な水だから。」


 怪我が治ったことに気付いて無い様子だったので、教えた上げたよ。

 すると、ニイチャンは噛み付かれて血が出ていた腕や太股を見て…。


「おお、怪我が治っているではないか!

 相変わらず妖精って生き物は珍妙なことが出来るものだな。

 もうどこも痛みを感じないぞ。」


 怪我が治って急に上機嫌な表情になるニイチャン。

 治してもらっておいて、珍妙なって表現は如何なものかと思うけどね。


「で、ニイチャンは誰? 

 妖精さんの知り合いがいるみたいだけど。

 何処から来たのかな?」


「何て躾のなっていないガキだ。

 他人に名前を尋ねるのなら、自分から名乗るのが礼儀だろうが。

 これだから、礼儀作法を弁えていない平民は嫌いなのだ。」


 むっ、どっちが礼儀を弁えていないんだよ。


「それは、立場が対等な場合でしょう。

 ニイチャンはおいらに助けられたんだよ。

 おいらが尋ねなくても、自己紹介して『有り難う』の一言でも言うのが礼儀でしょう。

 礼儀を弁えていないのはニイチャンの方だよ。」


「何なんだ、貴様は。

 よくも、平民が余に向かってそんな口の利き方が出来るな。

 不敬も良いところだぞ。」


 まだそんな横柄な態度を取るつもりなんだ…。


「あっ、そう。

 そう言う態度を取るんだ…。

 ほら、あの餌。好きにして良いよ。」


 おいらは手懐けたモモンガをけしかけてやったよ。

 おいらの許可が出て嬉しそうにニイチャンに飛び掛かろうとするモモンガ。


「待て! 分かった、分ったから、そいつをけしかけるんじゃない。

 悪かった、余が悪かったから、謝まる。」


 ニイチャンは泡を食ってモモンガを引くように懇願してきたよ。

 その要求を聞き入れて、おいらはいったんモモンガを引かせたよ。


 そして、おいらは何時でもモモンガをけしかけられる態勢を取ったままで。


「そう。分かったのなら、言うことがあるでしょう。」


「わっ、分った…。

 余はピーマン・フォン・ハーフェンシュタット。

 ウニアール国の第二王子だ。

 先ほどは危ないところを助けてもらって礼を言う。」


 モモンガをけしかけられたら堪らんと、ピーマン王子は渋々感謝の言葉を口にしたの。

 立派な甲冑を身に着けていると思ったら、こいつ、王族だったんだ。


「おいらはマロン。

 こっちの妖精さんは、おいらの保護者アルトローゼン。

 トアール国のシタニアール国側辺境にある妖精の森の長だよ。」


 ピーマン王子はおいらを平民だと思っているようなので、敢えて身分は明かさずに自己紹介してみたよ。 

 その方が面白そうだし。


「何だ、レンテンローゼーンではないのか。

 あの口喧しい妖精が、こんな所までお小言を言いに来たのかと思ったぞ。

 まったく、妖精って奴はどれも似たような姿形をしおって。

 見分けがつかんでは無いか。」


 アルトを見ながら、そんな忌々し気なことを呟くピーマン王子。

 どうやら、レンテンローゼーンさんのひんしゅくをかうような事を仕出かして度々お説教をされているみたいだね。

 でも本当に迂闊な奴、おいらの言葉を聞いて最初に反応するのがそれなんだ。

 アルトの森はこの大陸の遥か南の方だよ、何でこんな所に居るのか気にならないのかな。


       **********


「それで、ウニアール国の王子様が何でこんな所に居るの?

 しかも、たった一人で。お供の騎士とかは居ないの?」


 高々レベル二かそこらのモモンガに苦戦するような人が一人でフラフラする場所じゃ無いよ、魔物の領域は。


「ふ、ふ、ふっ、良くぞ聞いてくれた。 

 狂暴な魔物を討伐して国民に余の武勇を知らしむべく。

 余が誇る精鋭、憂国騎士団を率いて魔物の領域に乗り込んできたのだ。」


 声高にそんなことを披露するピーマン王子。


「うん? でも、ニイチャン、一人じゃない。

 その憂国騎士団って精鋭は何処に行ったの?」


 おいらの問いにピーマン王子は苦々しい顔付きになり…。


「魔物の領域への進攻途中に、狂暴な魔物の急襲を受けたのだ。

 白い悪魔が何処からとも無く、いきなり現れおった。

 虚を突かれた吾が騎士団は統率が乱れ。

 各人の奮闘むなしく、戦略的撤退を余儀なくされたのだ。

 散開して魔物の襲撃を振り払ったのだが…。」


 なんかもっともらしいことを言ってるけど、要は魔物に負けててんでんばらばらに逃げて来たってことだね。


「それでニイチャンは騎士達と逸れてこの森をうろついていたんだ。

 この辺りがウニアール国側からどのくらい離れているか知らないけど。

 よく一人で無事だったね。」


 そもそもここって、魔物の領域のどの辺なんだろう。

 こんな弱々なピーマン王子が無事に生きているということは、ウニアール国の町か村が近くにあるのかな。


「それは馬の奴が遮二無二駆けおったからだ。

 草原で魔物に追われた時、怯えた愛馬が余を乗せたまま森に逃げ込んだのだ。

 だが、あの駄馬、森に入って左右を見回したかと思えば。

 またぞろ、余の言うことも聞かずに一目散に駆け始めおった。

 それから三日三晩、休むことなく駆け続けた挙げ句に。

 ついさっき、とうとう力尽きて動けなくなってしまった。」


 ピーマン王子は振り落とされないように必死に馬にしがみ付いていたらしい。

 おかげで三日間一睡もできず、寝不足だと愚痴ってたよ。


 馬が三日三晩、休むことなく駆け続けたって?

 馬って、歩くような速さでも一時間に一回は休ませると聞かされたけど…。 


 きっと馬は本能的に悟ったんだね、そこが魔物の生息する森だと。

 それで、一ヶ所に留まってたら危ぶないと感じて走り始めたってところかな。

 一刻も早く魔物が多い場所から離れたいと、無我夢中で走り回って力尽きたんだろうね。


 でも、騎士団って名乗る限りは、騎士の数は一人や二人では無いはず。

 それを軽く蹴散らすなんて、いったいどんな魔物に遭遇したんだろうね。

 白い悪魔だなんて言ってたけど、ウニアール国にはそんな獰猛な魔物が居るんだ…。


       **********


 その時。


「マロン陛下、こんな所にいたんですか…。

 困りますよ。俺達、近衛を置き去りにして先に行っては。

 陛下に限って、万が一ってことも無いでしょうが。

 何かあったら俺が宰相やムースからどやされるんですからね。」


 木々の間をすり抜けるのに余程難儀したのか、髪に何枚もの木の葉を付けたジェレ姉ちゃんが現れたんだ。

 その後ろには、憔悴した様子のタルト達護衛騎士の姿も見えたよ。もちろん、オラン、タロウ、ウレシノの姿もあった。


「げっ! 白い悪魔!

 余が率いた憂国騎士団はその忌々しい魔物に蹂躙されたのだ。

 貴様ら一体何者だ、そんな獰猛な魔物に乗り回すなんて。

 いったい、何処の蛮族だ!」


 ピーマンは、おいらの護衛騎士達を指差してそんなことを叫んでいたよ。

 蛮族だなんて失礼な、あんなに可愛い乗り物なのに。

 てか、ウサギが白い悪魔だって?


「ねえ、ニイチャン、もしかして騎士団はウサギに負けたの?

 ウサギって、レベルゼロ、最弱の魔物だよ。

 コツさえつかめば、普通の人でも簡単に狩れるのに。」


「貴様、何を言ってる。

 そんな獰猛な魔物がウサギのはずあるまいが。

 ウサギってのは大人しい小動物であろう。

 その白い悪魔は、突然群れで現れて馬の腹に喰い付いたんだぞ。」


 こいつ、ウサギも知らないで魔物の領域に足を踏み入れたのか…。

 最初に狂暴な魔物を討伐して武勇を知らしめるなんて息巻いていたけど。

 ウサギに負けるような連中が、いったいどんな魔物を狩るつもりだったんだろう。


 それはともかく、ウサギに襲われたとしたら、一つだけおかしなところがあるんだ。


「ウサギの群れに襲われたの?

 ウサギって一羽一羽の縄張り意識が強くて。

 巣穴と巣穴の間は大分間隔を取っているはずなんだ。

 群れで襲って来るって話は聞いたことが無いんだけど…。」


 おいらがピーマン王子の言葉に対して疑問を口にすると。


「マロン陛下、今丁度、ウサギは巣立ち前の時期ですよ。

 ウサギは一度に五、六羽の子供を産みますが。

 子ウサギが巣立ちする前に狩りの仕方を教えるんです。

 一度に六、七羽のウサギに襲われれば、群に襲われたと言えなくもないかと。

 馬が側を通った瞬間に、ウサギが巣穴から飛び出してきて下腹に喰い付けば。

 突然群れが現れたと感じるのも無理からぬことじゃないですか。」


 護衛騎士のタルトがそんなことを教えてくれたよ。

 するとなにかい。

 憂国騎士団って連中は、生後間もないウサギの群れに蹂躙されたってことなの?

 親ウサギから狩りを習っている最中の。


 なんてショボい連中なんだ。

 精鋭が聞いて呆れるよ、完全に名前負けしているじゃん。

お読み頂き有り難うございます。

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