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第708話 父ちゃん、カッコイイところを見せてくれたよ

 そんな訳で、魔物の領域での狩り二日目。


「どりゃっ! ほれ、次!」


 隻腕で大きな戦斧を振るい、魔物を一撃で屠る父ちゃん。


「オッサン、そんなに飛ばして大丈夫かよ。」


 とんでもないハイペースで『馬鹿』を狩る父ちゃんに、タロウが気遣う言葉を掛けるけど。


「なんの、なんの。

 最近はトレント狩りの指導ばかりで体が鈍っていたからな。

 勘を取り戻す良い機会だぜ。

 こんなことでもないと、最近はマロンに良いところを見せられないしな。」


 息を切らすこともなく答えると、父ちゃんはまた新たな獲物に向かって行ったよ。

 狩り初日の晩、お茶を飲んでいる時に肉祭りの会場でタロウが連れて来た歌姫達の公演をすると急遽決めたので。

 公演の準備のために早めに狩りを切り上げることにしたら、父ちゃんが俄然やる気になっちゃったの。

 少しでもおいらに良いところを見せたいんだって。


 そんな父ちゃんを目にしたマイナイ領の騎士達はというと。


「信じられない…。

 腕一本であんな大きな戦斧を楽々振るうなんて。

 しかも、攻撃も雑じゃないし。

 的確に馬鹿の急所を突いて一撃で屠っている。」


「あれ、マロン陛下の育ての親って方でしょう。

 根っからの冒険者と聞いてはいたけど。

 あんな凄い冒険者って実在したんだ。

 ならず者しかいないと思ってた…。」


 そんな言葉を漏らして呆然と立ち尽くしてた。

 父ちゃんの魔物を狩るペースが早過ぎて、自分達の介入する間が見い出せないみたいなの。


「皆さん、ここにいるとあの方達の足手まといになります。

 この場はあの方達にお任せするとにして。

 私達は場所を替えて、他の群れを間引くことにしましょう。」


 そんな指示を出すと、レクチェ姉ちゃんは狩場を変えることにして騎士を率いて移動していったよ。

 おいらと護衛の騎士達は父ちゃんの邪魔にならないようにして近くでチマチマ狩ることにした。

 だって、おいらが見ていると父ちゃんが張り切るから。


 そして、魔物の領域に入って三日後の昼食時。


「ホント、嘘みたいです。

 毎回間引きに五日掛る数の魔物を二日半で狩り終るなんて。

 グラッセ伯爵、ご協力に感謝致します。」


 目の前に積み上げられた魔物を見ながら、レクチェ姉ちゃんが感謝の言葉を口にしていたよ。

 今回、一番魔物を狩ったのは何と言っても父ちゃんだからね。

 その言葉通り、五日間の予定で魔物の領域に入った今回の魔物狩りは三日目の昼前に終了することが出来たんだ。


 そうすると後は帰るだけなので、予定していた昼食は取らずにウノの街へ戻ることにしたの。

 今回はローデンさんも町に遊びに来るので、レクチェ姉ちゃん達が狩った獲物はローデンさんの『積載庫』で運んでもらえることになったよ。獲物の運搬などのために持って来た荷車も一緒に。


       **********


 そして、翌日の夕方。

 街の中央広場では、レクチェ姉ちゃんが狩った酔牛や馬鹿の肉を盛大に振る舞う肉祭りが催されていたの。

 お酒もふんだんに振る舞われ、街の人達が良い具合に盛り上がっていたんだ。

 

 宴もたけなわのその時。

 広場の一画に置かれた舞台の上に、突如として衆目を集めるキワドイ服装のシフォン姉ちゃんが現れて。 


「皆さん、こんにちは~!

 お祭りは楽しんでいますか~!

 これから、王都で売り出し中のひまわり会が誇る歌姫。

 マーサコさんの歌を披露しま~す!

 伴奏は何と幻の種族と呼ばれる耳長族の皆さんで~す。

 これから一時、歌と楽器演奏を楽しんで下さ~い!」


 良く通る声でひまわり会主催の公演を開始すると告げたんだ。


 そして、何処からともなく現れる五人の耳長族と一人の少女。

 アルトの『積載庫』から出て来たとは考えも及ばない広場にいた人々、みんなキツネに摘ままれたような顔をしてた。

 最初に一曲耳長族のお姉さん五人が民族音楽を奏で始めると、喧騒に包まれていた広場が静まり返ったよ。

 耳をくすぐる優しい調べに、誰もが思わず聴き入ってしまったみたい。


 短い民族音楽が終わると演奏は途切れずにテンポの軽い曲調に変わり、そのリズムに乗せてマーサコさんが歌い始めたの。

 その透き通るような歌声は、圧倒的な声量で静寂に包まれた広場の隅々にまで響き渡ったんだ。

 広場に居た人々は誰もが言葉を失ったように、その歌声に耳を傾けてた。


 マーサコさんが一曲歌い終えると、聴衆は我に返ったようで広場が歓声に包まれたよ。

 ひとしきり歓声が止むのを待つと舞台では次の演奏が始まってた。


 人々が楽しむ様子を眺めながら振る舞いの酔牛肉を頬張っていると。


「おや、マロン陛下じゃないかい。今回もお忍びでご視察かい?

 今回はいつにも増して肉料理がふんだんにあるんだけど。

 もしかして、マロン陛下が提供してくださったんで?」


 前回知り合ったオバチャンが声を掛けてくれたよ。


「うんにゃ、今回は休暇だよ。

 目が回るくらい休み無しで働かされたからね。

 この街の離宮でのんびり温泉に浸かろうと思ってね。

 確かに、体が鈍らないように魔物狩りには付き合ったけど。

 肉が沢山あるのは、おいらの父ちゃんが頑張ってくれたからだね。」


 父ちゃんが沢山狩った魔物のお肉を、街の人達のためにと提供してくれたから。

 その分、いつもより多いのだと思う。


「おやそうかい。

 それは陛下の父ちゃんに感謝しないといけないね。

 陛下の御父上も慈悲深い方で有り難いね。」


「うん、おいらの父ちゃん、とっても慈悲深いんだ。

 それにとってもカッコイイの。

 オバチャンが感謝してたって伝えておくよ。」


「是非ともそうしておくれ。

 ところで、今舞台の上でやっているアレはどうなんだい。

 いきなりあんな催しが始まるものだから。

 わたしゃ、マロン陛下が仕組んだのかと思ったんだけどね。」


「あれは、おいらの護衛でついて来たひまわり会の会長が催したんだ。

 元々、ひまわり会の温泉施設の空きスペースの有効活用をしようって企画だったけど。

 せっかくだから、肉祭りに来た街の人達にも楽しんでもらおうって。

 ほら、この兄ちゃんが会長だよ。タロウって言うんだ。」


 おいらは隣で串焼き肉に舌鼓を打っているタロウをオバチャンの前に差し出したよ。


「ほう、あんたがひまわり会の会長さんかい。

 またえらい若いお兄さんだ。

 でも、あんた、中々やるね。

 あんたがひまわり会の会長になってから。

 ならず者冒険者は居なくなるし。

 少ない出費で温泉には入れるようになるしで。

 この街がぐんと住み易くなったよ。」


 何でもひまわり会支部長のバニラ姉ちゃんは他の職員と分担して毎日街の見回りをしているらしい。

 ならず者冒険者が街の人に悪さをしていないか、巡視しているんだって。

 堅気の人に絡んでいる冒険者を見つけては、懇切丁寧に指導(物理)して更生を図っているみたい。

 その成果が表れて最近では、ウノの街ではすっかり不良冒険者を見掛けなくなったそうだよ。

 ひまわり会の評判はすこぶる良いみたいで、オバチャンは冒険者ギルドってものを見直したって。


「そいつは良かった。

 でも、温泉に安く入れるのはご領主様のおかげだから。

 レクチェ様に感謝してくれ。

 レクチェ様はこの街の民が安く利用できるようにと補助金を下さっているんだ。

 本当なら、あんな安くは入浴出来ないんだぜ。」

 

 ひまわり会が経営する温泉施設は入浴料銅貨三十枚らしいけど、それでは施設の維持すら出来ないらしい。

 本来なら採算度外視でも銅貨五十枚は貰う必要があるんだって。

 その分をレクチェ姉ちゃんが補填して、街の人達が手軽に温泉を利用できるようにしているの。


「おや、そうだったのかい。

 そりゃ、ご領主様に感謝しないといけないね。

 前の領主はロクでなしで、息子二人も出来が悪くて。

 この街はお先真っ暗だと諦めていたけど。

 レクチェ様がご領主になられて本当に良かったよ。

 税は安くなるし、こうして肉祭りも復活した。

 温泉に安く入れるのまでご領主様の心遣いのおかげとはね。」


 オバチャン、レクチェ姉ちゃんが温泉に補助金を出しているのを知らなかったらしくて。

 明日、さっそくオバチャン仲間に拡散すると言ってたよ。


       **********


 街の人達とそんな会話を交わすうちにも、マーサコさんと耳長族の公演は続き…。

 

 マーサコさんが最後の曲を歌い終えると。


「ひまわり会が誇る歌姫マーサコさんに歌って頂きました。

 一昨日からひまわり会の温泉施設で、マーサコさんと耳長族の楽団のミニ公演を行っています。

 今回はPRを兼ねていますので、ご観覧は無料となっています。

 明日以降も五日間ミニ公演を行いますので、是非聴きに来てください。」


 司会役のシフォン姉ちゃんが再び舞台に立って、温泉施設を使ったミニ公演の宣伝をしたんだ。

 そしてそれに続いて、今後は有料になるけど定期的に公演を行うことを告知していたよ。

 もちろん有料にするからは曲目も増えるし、公演の時間もミニじゃなく長くなると説明してた。

 歌姫もマーサコさんだけでなく、これからどんどん増える予定だとも。


 そして。


「それで、今歌って頂いたマーサコさんですが。

 実は王都にお住いの普通のお嬢さんです。

 ひまわり会が行った歌姫の募集企画に参加していただき。

 見事厳しい競争を勝ち抜いて、ひまわり会専属歌姫の座を射止めたのです。

 そしてこの歌姫募集イベント、ここウノの街でも行うことを予定してまして。

 それには領主のレクチェ様もご協力頂けることになってます。

 開催準備に多少の期間は必要となりますが、我こそはと思う方は是非ともご参加ください。」


 シフォン姉ちゃんは『スタア誕生』の企画をウノの温泉施設で実施することを公表したの。


「えっ、もしかして、私でも歌姫になれるかしら?」


「何言ってんの。無理に決まっているじゃん。

 あんた、仲間内じゃ音痴で通ってるんだから。」


「そうよね。あんたじゃ歌姫は難しいでしょう。

 それに引き換え、この私、歌にはちょっと自信があるわよ。」


「確かに、あんた、歌は上手いけど…。

 そのルックスで歌姫?

 体重、三分の一に減らしてから出直して来いって言われのがオチよ。」


 シフォン姉ちゃんの発表を聞いて、若い娘さん達の中からそんな会話が聞こえてきたよ。

 まあ、歌舞音曲にはちょっとうるさい妖精族のローデンさんが審査員に加わる予定だから。

 そうとう要求されるハードルは高くなることだろうね。


「こりゃ良いわ。

 領主様が代替わりし、タクトー会のゴミ共も居なくなって。

 この街が住み易くなったのは何よりだけど。

 やっぱり、この街は田舎だからね。

 今一つ楽しみってモノが無かったんだ。

 そんな楽しそうな催しをしてくれるのなら大歓迎さ。」


 おいらと会話していたオバチャンもとても期待している様子だった。


 そしてその後も賑やかに牛祭りは続き、おいらがお眠になって帰った後も夜遅くまで盛り上がったみたい。

お読み頂き有り難うございます。

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