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第707話 やっぱり妖精さんは歌や踊りが好きみたい

 初日はもう一度酔牛の群れを間引いて狩りを終えたの。

 その後、ローデンさんの森に戻ると、レクチェ姉ちゃん達は野営の準備を始めたんだ。

 眠るための天幕を張って、夕食の支度をするための火を熾してと。

 おいら達と一緒にアルトの『積載庫』の中で寝ればと勧めたけど、レクチェ姉ちゃんはこれも訓練だからって。


 毛皮の敷物を敷いているとはいえ、固い地面の上に眠るのは大変だろうなと思ったけど。

 慣れて来ればそんなことは気にならないと、レクチェ姉ちゃんは言ってたよ。

 ローデンさんの森なら、魔物の心配をせずに眠れるだけ有り難いってね。

 確かに、この森の中ならローデンさんの結界に阻まれて魔物が侵入してくることは無いからね。

 森の外に野営するとなると、夜中魔物に警戒しないといけないから安心して休めないと思う。


 それに泉の水を使わせて貰えるのも助かっているそうだよ。

 怪我を治せるだけではなく、炊事にも使わせて貰えるから。

 本来なら行動中の飲み水を持ち運ぶ必要があり、その分荷物の重量が増えるし。

 水を持参しないとなると飲用可能な水場を探す必要があるけど、それは容易なことでは無いの。

 飲める水が湧いている場所は、えてして魔物の水場にもなってるから。


 そんな訳で、安心して眠れて、飲み水もあるローデンさんの森はまたとない絶好の野営地で。

 これ以上の贅沢を言うとバチが当たるとレクチェ姉ちゃん達は言ってたよ。


 狩った酔牛のお肉がメインの夕食が済むと、食後のお茶の時間になったの。

 肉とパンの実だけの食事だと美容に悪いなんて、ボヤく騎士の姉ちゃんが居たから。

 『積載庫』の中に備蓄しておいた焼きたてのパンケーキとメイプルシロップをデザートに提供したよ。

 それと『積載庫』の中に溢れるほど溜め込まれていた各種『スキルの実』もね。

 王都にいる間は毎日欠かすことなく、トレントを狩っているものだから収穫量が凄いの。

 市場に流すとそのスキルの実の価格が暴落して、冒険者のみんなが困っちゃうから積載庫に退蔵するハメになってたんだ。


「ラッキー! 

 野営の最中に焼きたてのパンケーキが食べられるなんて夢みたい。

 マロン陛下が一緒で良かったー!」


 なんて、喜ぶ騎士に混じって。


「あら、こんなに分けてもらえるなんて悪いわね。

 助かるわ、この辺じゃ、『スキルの実』を落とす魔物がいなくてね。

 時々、遠出して狩りに行かないといけなかったのよ。」


 食べる分とは別に大量のスキルの実を手土産として渡したら、ローデンさんがとても喜んでいたよ。

 肉食を嫌い、もっぱら果実を主食とする妖精族なら喜んでもらえると思っていたけど。

 近くにトレントの生息地が無いようで、思いの外喜んでいるみたいだった。


       **********


 焚火を囲んで和やかにお茶の時間は流れて行き…。


「ほら、ミンミン、頼むわよ。

 ローデンを楽しませてあげて。」


 アルトがミンミン姉ちゃんのことをせっつくように言うと。


「はい、アルト様、お任せください。」


 予め打ち合わせをした通り、ミンミン姉ちゃんをはじめとする父ちゃんのお嫁さん四人がそれぞれ楽器を手にしたんだ。

 そして奏でられる辺境の街ではすっかりお馴染みの調べ。

 耳長族の民族音楽らしいけど、辺境の街ではその調べに乗せて『STD四十八』が剣舞を披露しているの。


「懐かしい…。

 『森の民』の曲なんていったい何年振りかしら。

 ホント、生き残っていたのね…。」


 そんな呟きを漏らしたローデンさん、歌舞音曲に秀でた耳長族の演奏を耳にして改めて実感したみたい。

 絶滅したと思っていた耳長族がちゃんと血脈を保っていたことを。


 アルトは今回マイナイ伯爵領を訪れるのに当たって、父ちゃんのお嫁さん達に指示していたんだ。

 ローデンさんに紹介したいから、その際に何曲か演奏するようにって。

 ローデンさんも他の妖精さん同様、耳長族の歌舞音曲が好きだったらしいから。


 ミンミン姉ちゃん達が何曲か奏でるうちに、森にいる他の妖精たちも集まって来て。

 演奏に聞き惚れる妖精さん、演奏に合わせて歌い出す妖精さん、中には演奏に合わせて空中で踊り出す妖精さんまで。

 それぞれにミンミン姉ちゃん達の演奏を楽しんでいるようだったの。


 おいら、お近付きの印にと追加で『スキルの実』を妖精さん達の前に積み上げたよ。


「レクチェ、あんた達も何か歌いなさいよ。

 人族の歌ってのも、長いこと耳にしてないわ。」


 ミンミン姉ちゃん達の曲の合間に、ローデンさんがそんなリクエストをすると。


「ええっと、私、歌はあまり得意では無くて…。

 『森の民』の方の素晴らしい演奏の後ではいささか…。」


「レクチェ様、良いではないですか。

 日頃お世話になっているロードデンドロ様のご要望です。

 この際、多少、調子が外れているのもご愛敬ですよ。

 幼い頃にご領主様を囲んで良く歌ったあの歌でも歌いましょう。」


 余り気乗りしない様子のレクチェ姉ちゃんに、幼馴染のラフランさんが歌えと勧め。


「姫様、一緒に歌いましょう。

 子供の頃、良く歌ったあの歌を。」


 他の騎士達もそれに同調したんだ。

 

 騎士達に促されて、歌い始めるレクチェ姉ちゃん。

 言葉通り騎士達も一緒になって歌い始めたよ。


 この辺りの童謡のようで初めて耳にする歌だったけど、ミンミン姉ちゃん達は即興でそれに合わせて演奏し始めたよ。

 それを聴いたローデンさんは大喜びだった。


         **********


 そして、夜は更けていき。


「なあ、ローデンの姐さん。

 ウノの街に『森の民』の楽団を置いて来たんだが。

 この狩りの帰りにでも、一緒に街に聴きに来ないか?

 今売り出し中の人族の歌手も連れて来たぞ。」


 宴もそろそろお開きって頃合いでタロウがローデンさんを誘ったの。


「『森の民』の楽団? そんなものあるの?」


 そんな問い掛けをするローデンさんに。


「おう、マロンが王都に公衆浴場を創ってな。

 そこでの催し物として『森の民』の楽団に演奏会をしてもらっているんだ。

 それに加えて、王都の住民から歌姫を選んで歌ってもらうとかな。

 今回は、その宣伝とこっちにある温泉施設の余興に連れて来てみたんだよ。」


 タロウは公衆浴場で催している演奏会や『スタア誕生』などのイベントの紹介をしたの。

 そして、こっちの温泉施設の空いているスペースを使って同じようなイベントをしようと考えているとも言ってた。


「へえ、それは面白いわね。

 『森の民』の演奏が定期的に聴けるなんて楽しそうだわ。

 そうね、せっかくのお誘いだし、久し振りに街へ行ってみようかしら。」


 タロウに誘われて、ローデンさんは耳長族とマーサコさんのミニ公演を聴きに行く気になったみたい。


「タロウさんの計画、とても素敵ですわ。

 父が砂金採りの人達からお金を巻き上げようとしたこともあるのですが。

 ウノの街は、風呂屋とカジノ以外の娯楽が少ないのです。

 もう少し健全な娯楽があればと、私も思案しているところなのです。

 定期的にイベントをしてくださると有り難いです。」


 タロウの話を聞いて、ローデンさんより乗り気だったのはレクチェ姉ちゃん。

 特に『スタア誕生』に興味津々だったよ。

 マイナイ伯爵領の看板になるような歌姫が出てくれると有り難いって。


「それなら、ローデン。あんたが『スタア誕生』の審査員をやったら?

 私、王都のイベントの審査委員長なのよ。

 それと領主のレクチェも、優勝者の表彰とかで関与すれば良いんじゃない?」


 アルトがそんな提案をすると。


「そうだな。アルト姐さんの提案に大賛成だぜ。

 アルト姐さんがプロデュースした連中はみんな成功しているしな。

 妖精族は芸能関係に強いみたいだから、ローデン姐さんにも協力してもらえれば有難いや。

 それとレクチェ様の協力が得られれば、イベントに箔が付くってもんだ。」


 タロウはムチャクチャ乗り気だったよ。


「そうね、長いことこの森に引き籠っていたけど。

 たまにはウノの街まで出掛けるのも良いかもね。

 その『スタア誕生』って催しをするなら引き受けても良いわよ。」


 タロウの期待に応えるように、ローデンさんは快く引き受けていたよ。


「それなら、いっそ、肉祭りの会場でも公演をしたら?

 これから催すイベントの宣伝を兼ねて。

 マーサコさんを大々的にお披露目すれば。

 自分もって、後に続こうとする娘さんが出て来るかも知れないじゃない。」


「マロン、それ、ナイスだ。

 アルト姐さん、いつもの舞台を出してもらえるか。

 肉祭りの会場でイベントをやることにしよう。

 良いだろう? レクチェ様?」


「はい、勿論です。

 領民が楽しめる催しなら、喜んで許可します。」


 おいらが提案した肉祭り会場でのイベントはとんとん拍子に決まったよ。


 早くウノの街へ戻って詳細を詰めるため、翌日から狩りのペースを上げることになったんだ。

 とは言え、間引く魔物を減らすことは出来ないからね。

 初日はレクチェ姉ちゃん達による狩りがメインだったけど、二日目以降おいら達が本格的に狩りに加わることにしたの。

 おいら、オラン、タロウに加えて父ちゃんが本気出せば、目標数の魔物を狩るのはあっという間だと思う。

お読み頂き有り難うございます。

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