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第702話 リサイクルだって…

 往生際悪く逃げ出そうとしたカゲベー会総帥のチープン。

 取り逃がしたら厄介そうなので、逃走用の地下通路を海水で満たしたらあっけなく溺死したよ。

 

 冒険者管理局と騎士団の連携により、カゲベー会の幹部達も一人も取り逃がすことなく捕縛できたし。

 悪事の証拠となる書類や物品も手に入れることが出来たんだ。


 内偵をしていたチランの言葉通り、カゲベー会の幹部連中は息をするように噓を吐くような連中ばかりで。

 取り調べに素直に応じる者は一人も居なかったみたいだけど、チープンの死を知ると諦めて自供を始めたそうだよ。

 拉致監禁、人身売買、禁止薬物販売等、これでもかってくらい悪事を働いていて幹部全員文句なしに死罪だって。


 凶悪犯罪の犯人は公開の場で死罪の前例に倣って、王都の中央広場で全員の首を刎ねたんだ。

 処刑場には臨時の告知板を設置して、それぞれの名前と素性それに罪状を公表したの。


「へえ、マロン様が王位に就いてから王都も随分と住み易くなったが。

 まだこんな悪党が残っていたんだね。

 しかし、カゲベー会かい? そんな冒険者ギルドがあったなんて知らなかったよ。」


 告知板を見ながら、馴染みのオバチャンがそんな事を言ってたよ。


「そうよね、私も知らなかったわ。

 こんな悪党共が王都で暗躍していただなんて怖いわね。

 何でも、数年前にあった料理店の一家惨殺事件もこの連中の仕業らしいわよ。

 行方不明になってた店主、奴らに拉致されて働かされていたみたい。

 この前、末っ子の娘さんと一緒に救出されたって。」


 そんな相槌を打った友達のオバチャン。

 

 裏でコソコソ悪事を働くことに徹していたせいか、カゲベー会の存在は堅気な生活をしている人には驚くほど知られてなかったの。

 『陰に潜んで(K)、ゲバ棒を振るう(G)、無頼者(B)』の会って名前は伊達じゃなかったみたい。

 白日の下に晒された連中の罪状を知り、凶悪な犯罪組織が王都の闇に潜んでいた事実に戦慄を覚えた人が多かったって。


 中には、死罪を免れた罪人達も居て…。


 カゲベー会の刑の執行状にサインをしていると。


「ねえ、マロンちゃん。

 『メンズサロン・ワグネール』のイケメン達の処分はどうなるの?」


 シフォン姉ちゃんがそんなことを尋ねてきたの。


「うんとね。取り調べの結果、強制労働二十年が妥当だとなってる。

 やってることが悪質だけど死罪にするほどじゃないそうだよ

 おいらとしては二十年の街道整備じゃ甘いような気がするけどね。」


 連中のしたことで一番の重罪は禁止薬物の販売。後は禁止区域での風俗営業くらいなんだ。

 それだけじゃ、死刑には出来ないそうだよ。


「そうね、何人もの若い娘さんを苦界に落として街道整備じゃね。

 酷い目に遭わされた娘さん達が浮かばれないわ。

 ねえ、マロンちゃん、あいつら私に預けてくれないかな。

 死んだ方がマシって労働をさせてあげるから。

 タロウ君が言ってたの、貴重な資源はリサイクルしないとって。」


 役人が下した刑罰が甘いと不満を言ったら、シフォン姉ちゃんがそんな提案をしたんだ。

 でも、一応、強制労働刑は街道整備と決めたのはおいらだしね。そう簡単に変えることは出来ないよ。


「いったいどんなことをさせるつもりなの?

 内容によっては宰相に相談してみるけど。」


 おいらがシフォン姉ちゃんのプランを尋ねると。


「うーん、マロンちゃんにはちょっと…。

 ウレシノさん、代わりに聞いてくれるかしら?

 妥当だと思ったら、マロンちゃんに具申してちょうだい。

 私の意見を宰相と相談するようにって。」


 何故かシフォン姉ちゃんはウレシノに向かってそんなことを言ったの。

 おいらが頷くと、ウレシノはシフォン姉ちゃんと部屋の隅で話し始めたよ。


 そして。


「大変結構な提案だと思います。

 自分達が今までどれだけ酷いことをやっていたか、身を持って知ることでしょう。」


 ウレシノはとても肯定的で、宰相と相談させて欲しいと言ったんだ。

 おいらに言えないってところが気になるけど、二人が乗り気だし。

 後は、宰相の判断に任せることにしたよ。


 後日、訂正された刑の執行状が回って来たんだ。


『以下の者、強制労働二十年の刑とする。

 刑の執行場所:新開地内刑務所』


 新開地内に何時の間に刑務所が出来たんだろう?

 そんな疑問が頭をよぎったけど、サインしたよ。

 シフォン姉ちゃんの提案に、宰相が乗ったのだろうから


          **********


 そして、また少し月日が流れて…。


「よっ、マロン陛下、久し振り。」


 街を歩いていると、肩に妖精を乗っけたおじさんが声を掛けて来たんだ。


「あっ、頭領久し振りだね。こっちに戻って来たんだ。

 どう、商売は順調にいってる?」


 声を掛けて来たのは、唯一オードゥラ大陸との交易を行っている船の船長だよ。

 肩に乗っている妖精はフェティダ。

 この大陸とオードゥラ大陸の往来を阻む妖精の結界『霧の海』を越える手助けをしているの。


「おう、おかげさんで順調そのものだぜ。

 あっちじゃ、甘味料三品もトレントの木炭も大好評だ。

 本当、マロン陛下とアルト様には足を向けて眠れないぜ。」


「それは何よりだね。

 長い航海で疲れたでしょう。

 せっかく、こっちに家を買ったんだからゆっくり休んだらいいよ。」


「おう、そのつもりだぜ。

 今回の航海もたんまり稼がせて貰ったしな。

 ゆっくり休む余裕も出て来たよ。

 ところで、あの公衆浴場ってのは良いもんだな。

 たっぷりの湯に浸かると疲れが取れるよ。

 あれもマロン陛下が作らせたんだって聞いたぜ。

 まだ小さいのに大したもんだ。」


「気に入って貰えて嬉しいよ。

 ひまわり会に運営を任せたんだけど。

 タロウが色々と企画を考えてくれて好評なんだ。

 最近は、近隣から王都に遊びに来るお客さんも増えているみたい。」


「ひまわり会と言えば、港の船乗りの間じゃ『新開地レジャーランド』がすこぶる評判だぜ。

 俺はもう歳だから、あんな遊びは卒業しちまったが。 

 若い連中は噂を聞くやいなや、家にも帰らず直通馬車に飛び乗ったぜ。」


 頭領の船に乗る船乗りさん達は、全員冒険者登録証を持つ冒険者で。

 自らトレントを狩って手に入れた甘味料を、オードゥラ大陸へ運んで相場で売っているの。

 原価が掛かっていないのでぼろ儲け状態で、全員がこの王都に家を買ったんだ。

 引退したらこの街で暮らしたいってね。


 そんな船乗りさん、せっかく買った家にも帰らず『新開地レジャーランド』に入り浸っているらしい。

 

「せっかく稼いだお金を余り無駄遣いしないようにね。」


「まあ、なんだ。

 長い航海、禁欲生活が続いたからな。

 あんまりとやかくは言わないことにしているんだ。

 俺の仲間は限度ってモンを知っている連中ばかりだからあまり心配してないよ。

 それに若いもんから聞く限りじゃ、明朗会計で良い店ばかりみたいじゃないか。

 他国から来た船乗り達にも、あそこが楽しみで来たって言ってる連中が多いぜ。」


 頭領が港で耳にした話では、『新開地レジャーランド』で遊ぶことが目的で、この港との交易船に乗り込む船乗りさんもいるらしい。まあ、それほど評判になるなら悪いことじゃないね。


      **********


 頭領の話を聞いて、また『新開地レジャーランド』を訪ねることにしたよ。

 開業後は一度も様子を見に行ってないからね。

 

 もちろん、夜はダメだって言われたよ。

 十五歳未満の人は見ちゃいけない世界だからって、トルテやタルトが止めるんだ。


 と言う訳で訪れたのは昼下がり。


 開業後は初めて訪れたけど、昼間なのにお客さんで賑わっているのに驚いたよ。

 服装から察するに、お客さんの中心は陸に上がって休息している船乗りさんのようだった。

 どうやら、陸に上がった船乗りさん向けに昼間から営業しているお店があるみたいだね。


 すると、少し予想外の光景が目に入って来たの。

 男性客に混じって、女の人が道を歩いていたんだ。

 近寄ってネームプレートを見るとビジター(お客)と書いてあったよ。

 どうやら、ここで働いている人ではなく、お客さんのようだった。

 それも一人や二人じゃなくて、結構たくさんいたよ。しかも、みんな、同じ方向へ歩いて行くの。


 いったい何処へ行くのかと思って、後を追うと。


「ありゃまあ、マロン陛下じゃないかい。

 こりゃ拙いところを見られちゃったね。

 私らがここにいたこと、ナイショにしてちょうだいよ。」


 広場で井戸端会議をしているオバチャン達の集団にぶつかったよ。今日は四人グループで遊びに来たみたい。


「別に言い触らしたりしないよ。

 ところで、女の人の通りが多いようだけど…。

 ここって、大人の男の人の憩いの場だと聞いてたよ。」


 この道を通っている女の人の目的地を遠回しに尋ねると。


「ああ、あそこだよ。

 『メンズクラブ・新開地プリズン(牢獄)』。

 お手頃価格で若いイケメンがご奉仕してくれるのさ。」


「あら、ダメよ。

 マロン陛下におかしな知識を吹き込んだら護衛の方に叱られるわよ。

 ごめんなさいね、陛下。

 あそこは私達、淑女の憩いの場なのだけど。

 あそこで何をしているかはナイショなの。」


 あったよ、『新開地内刑務所』。どうやら、オバチャン達の目的地はそこらしい。

 シフォン姉ちゃん、あの犯罪者達にいったい何をさせているんだろう。


 『メンズクラブ・新開地プリズン(牢獄)』なるお店の前に行くと。


「陛下、入ってはなりませぬぞ。

 そこはサバトが行われる忌まわしき場所です。

 陛下の清らかな心が穢れてしまいます。」


 ウレシノはシフォン姉ちゃんからお店の内容を聞かされていたんだね。

 おいらが立ち入ろうとしたら制止されたよ。


「分かったよ、お店には入らない。

 でも、あの罪人達にいったい何をさせているの?

 あんなにオバサン達を集めちゃって。」


「ああ、まあ、あの御婦人方に癒しを与える仕事をさせています。

 連中、十代半ばから二十代初めの若い娘を食いものにしてましたので。

 その罰として、ご婦人方に無償で奉仕をさせています。」


 イケメンなのをいいことに若い娘を食いものにしていた報いを味あわせるのが目的らしくて。

 主に四十代、五十代のご婦人相手に無償で奉仕作業をさせているんだって。

 無償と言っても、罪人に払う給金が無いと言うだけでお店がタダと言う訳じゃないよ。

 罪人達に食べさせるために食費や施設の維持費が要るから。


 お店の入り口に掲げられた看板を見ると。


『どのようなご奉仕でもお申し付けください。

 百二十分銀貨十枚(これ以上は一切かかりません)

 当施設は罪人の強制労働施設で、施設維持費以外一切頂いていません。』


 と書かれた価格表が掲示されていた。

 その隣には。


『本日開催。

 無作法なイケメンのお仕置きショー。

 観賞料銀貨三枚。』


 って、書かれた貼り紙も会ったよ。


「これは?」


「ああ、これは自分の立場も弁えずにお客様に粗相をする愚か者もおりまして。

 そういった者が現れる度に、公開でお仕置きを行っています。

 恥ずかしながら、お仕置きの担当はノノウ一族の者がさせて頂いております。

 拷問のプロもおりますので…。」


 ここでもノノウ一族が…。

 ウレシノの話では、このお仕置きショーが好評らしくて今いるオバチャンの大多数がこの観客らしい。

 ショーはお仕置き対象者が出た時だけの開催だけど、その数日前にひまわり会の掲示板に広告が張られるらしいの。

 『メンズクラブ・新開地プリズン(牢獄)』開業以来、今まで五回ほどあったらしいけど。

 初回を観に来た人が噂を広げて、二回目からは満席、三回目からはひまわり会本部で前売り券を売るようになったって。


 ウレシノは言ってたよ。


「自分の母親より年上のご婦人の言いなりにさせられたうえ。

 少しでも逆らおうものなら、拷問ですからね。

 さぞかし自分のしてきた行いを悔いていることでしょう。」


 まあ、それで連中が心底反省してくれるのだったらいいけどね…。

 そっか、イケメンって、貴重な資源だったんだ。

お読み頂き有り難うございます。

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