第701話 こんなとこにまで影武者がいたよ…
違法な色街営業をシノギとする冒険者ギルド『カゲベー会』の摘発に入ったおいら達。
カゲベー会系のイケメン酒場で内偵をしてたチランの手引きで、総帥チープンが潜むと言う地下へ降りたんだ。
すると、そこには宮殿かと見紛うような豪華な空間が造られていたよ。
そこへ姿を見せた全裸のお姉さん、チランは声を上げられないようにすかさず口を塞いだの。自分の唇で…。
お姉さんに何で裸なのかを尋ねると、返った来た答えは呆れたものだった。
疑り深いチープンは、この地下空間で働く全ての人に裸を義務付けたらしいの。武器を隠し持つことが無いようにと。
「俺達は冒険者管理局の者だ。
今、風俗営業法違反の罪で摘発に入ったところでな。
あんたを始めここに捕らわれている者は全員解放するので安心してくれ。
今、騒がれると困るので、しばらく静かにしていてくれるか。」
父ちゃんは裸のお姉さんにそう伝えると、管理局の女性職員に服を着せて休ませるように指示していたよ。
今までの経験から、慰み者として若い娘さんが捕らわれていることを念頭に女性用の衣服を用意させたんだって。
ただ、男性用の衣服までは用意してなかったみたい。男の人まで裸で仕事させられてるとは、流石に予想外だったらしい。
「えっ、助けて頂けるのですか?
でも、私達が逃げだせば家族に危害を加えられるかも知れないんです。
あのチープンって人間のクズは、怖ろしいくらいに執念深いですから。」
お姉さんは助けに来たと聞いて一瞬喜びの笑みを見せけど、直ぐに表情を曇らせたんだ。
ここに捕らわれて来た時に、家族構成や両親の仕事、更には幼い弟の遊び場などまで言い当てられ。
逃げだそうとしたら皆殺しにすると脅されているそうなの。
「安心して良いよ。今日を限りにカゲベー会は解散。
チープンと幹部達は全て捕えて、晒し首にするから。
それだけの罪を犯しているし、その証拠も掴んでいるからね。」
おいらが口を挟むと、お姉さんは何でこんなとこに子供が居るのかと不思議そうな顔をして。
「お嬢さんはいったい? ここに捕らわれていたのでは無いのですか?」
まあ、町娘のような服装だし、ここには捕らわれた娘くらいしかいない様子だからね。
「おいら? おいらはマロン。一応この国の女王だよ。
今日は育ての親の父ちゃんがここを摘発すると言うから。
父ちゃんのカッコイイところを見物しに来たんだ。」
「女王陛下…。ということは、私達、本当に助かるんですね。」
女王のおいらが乗り込んできたと知り、お姉さんは心の底から安心したように表情を緩ませたよ。
役人だけでは、何処までカゲベー会を追い込めるのか不安だったのだろうね。
おいらが出張ったことで、王宮が本気になってカゲベー会を潰しに掛ったと理解したみたい。
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それから、父ちゃんは騎士と部下にこの地下宮殿はしらみ潰しに捜査するように指示してた。
管理局の女性職員には捕らわれている人の保護も命じていたよ。
百数十人の突入隊を動員してここの摘発に入ったのだけど、約半数は地上階の制圧を命じたので。
この地下空間の制圧に率いて来たのは約五十人。
地下宮殿はさほど広い空間でも無かったので、程なく制圧が完了したよ。
制圧といっても、抵抗なんて全くなかった。
地下宮殿に居るのは女給さんとチープンの慰み者となっている若い女性が殆どで。
男性は料理人と数人の小間使いしか居なかったから。
それも年寄りばかりでチープンに逆らえないような気の弱そうなお爺さんばかりだったの。
それほどまでに、自分に危害を加える恐れのある者は側に起きたくなかったんだね。
そして、地下宮殿のもっと奥にある部屋に踏み込んだよ。チランの得た情報によるとチープンの私室らしい。
例によって巨大な戦斧で父ちゃんが扉を粉砕すると…。
「貴様ら! 何者だ! ここが何処だか解っているのか!」
部屋に踏み込んだ父ちゃんたちを睨みつけて、六十歳くらいの男が怒鳴りつけてきた。
スキンヘッドをした目付きの悪い男で、不機嫌な視線をこちらに向けてたの。
「カゲベー会総帥チープンだな。冒険者管理局の者だ。
罪状は色々あるが、取り敢えず風俗営業法違反で捕縛させてもらうぜ。」
父ちゃんがそう告げると、抵抗や逃亡を防止するた剣を抜いた騎士十人がチープンを取り囲んだよ。
「ひっ!」
声にならない悲鳴を上げて、顔面蒼白になるチープン。
抵抗する気も起きない様子で、チープンは椅子に腰かけたまま項垂れてしまったよ。
「よし、そのまま、大人しくお縄に付くんだ。逃げ出そうなんて思うなよ。
さて、これで一件落着だな…。」
無抵抗なチープンを目にして、安堵の表情でホッと息を吐く父ちゃん。
でも…。
「父ちゃん、そいつも影武者じゃない?
チランから聞かされてたチープン像と違い過ぎるよ。
プリジーゴンだって、イケメン酒場はカゲベー会と無関係だとシラを切ろうとしたんだよ。
チープンだったら、当然そう言うはずだし。
息をするように嘘を吐く男らしいから、他にも色々と言い逃れすると思うんだ。」
おいらにはチープンって男がしおらしく捕まるタマだとは思えないんだ。
もっとふてぶてしくて、例え確たる証拠があってもシラを切り通すと思うよ。
すると、おいらの後ろに控えていたウレシノが、おもむろに懐から懐剣を抜き。
「命が惜しければ、正直に言いなさない。
お前は本物のチープンですか?
もし、ニセモノなら、ホンモノは何処にいる?」
目の前のチープンらしき男の首筋に懐剣の刃を当てると、首の皮一枚スッと切って見せたの。
痛みに顔を歪ませるチープン、首筋の傷から少しだけ血が出ていたよ。
「まっ、待ってくれ! 言う、正直に言うから殺さねえでくれ!
俺はニセモノだ。
家族を人質に取られてここで奴の振りをさせられてるだけなんだ。
俺の役割はカチコミがあったら、奴の代わりに殺されることなんだってよ。
俺が殺されたら、家族には手を出さないって約束なんだ。」
必死の形相で自分は影武者だと主張するチープンもどき。
「なら、ホンモノの居場所を吐きなさい。
嘘じゃなければ、被害者と言うことで無罪放免でも良いわよ。」
尚も懐剣を突き付けたまま、問い詰めるウレシノ。
チープンは息をするようん嘘を吐くとの事なので、影武者だという自供を完全には信用していないみたい。
「知らねえ。
奴が何処にいるかなんて、単なるマト役の俺が知る訳ないだろう。」
プーチンもどきは涙目でそう主張するけど、ウレシノは信用してないようで。
懐から紐を取り出すと、身動きが取れないようにしばりつけたよ。
何でも亀甲縛りという縛り方で自分じゃ絶対に解けないらしい。
「取り敢えず、こいつは捕縛して更に尋問するとして。
マロン陛下の想像通り、ホンモノは別の場所に潜んでいるようですね。」
プーチンもどきを騎士に向かって突き飛ばすと、ウレシノは他を探さないとと言ったんだ。
「しかし、もう他に部屋は無いぞ…。
チラン君、この地下宮殿の詳しい情報は無いのかい?」
「俺っちも、ここの建設に携わったという職人を突き止めて聴いてきたんだけど。
チープンって奴は用心深い男で、区画毎に建造する職人を替えてたみてえなんだ~。
俺っちが探し当てた職人は、地下に隠し部屋があるとは言って無かったぜ~。」
ここで壁に突き当たって困っていたんだけど…。
「あのう…。一つだけ、思い当たる場所があるんですけど。」
そんな時に声を掛けてくれたのは、チランが唇を奪ったお姉さんだった。
今はちゃんと服を着て、笑顔が戻っていたよ。
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お姉さんに連れて来られたのは、ここで働かされている人達の使うトイレだったの。
「私、ここで少し仕事をサボろうと思って、一番奥の個室に籠ったんです。
少しうとうとし始めた時のことなのですが…。
突然、個室の更に奥にある掃除用具入れから音がしたと思ったら。
人の気配がして、掃除用具入れから出て行くのが分かったのです。
一体誰がと思い、個室の扉の隙間からコッソリ覗くと。
総帥くらいの背丈の服を着た男性がトイレから出て行って…。」
ここは地下宮殿の一番奥まった場所で、人が余り来ないから仕事をサボるのに適した場所らしい。
しかも、ここで働かされている人達は人質に危害が及ぶのを恐れてか余りサボる人はいないそうで。
このトイレがお姉さんの憩いの場所だったんだって。 意外と図太いね、このお姉さん。
で、掃除用具入れから出て来る不審人物と出くわした訳だけど。
そもそもこの地下宮殿で衣服を着ているのは総帥だけだから、お姉さんはアレが総帥だったのではと言うんだ。
それを聞いた父ちゃんは、掃除用具入れの壁を戦斧で力任せに叩いたの。
あったよ、更に地下に続く階段が…。チープンって、掃除用具入れに何か思い入れでもあるんかね。
お読み頂き有り難うございます。




