第7話 スキルの実
「そっか。
でも、レベル五の魔物を倒せば、経験値が入るんだろう。
努力すれば、いけるんじゃないか?」
まだ、まだおっしゃんは、レベルを上げることを諦めきれない様子です。
「そう思うのであれば、街の外に出てウサギでも狩ってみれば良い。
私らと同じレベルゼロだけど、クマのような巨体だぞ。
それが、牙を剥いて襲ってくるんだ。
隻腕の私にはとても無理だと思ったね。」
ウサギ、この町の屋台の串焼きはたいていウサギの肉だね。
魔物狩りを生業にする冒険者が、二、三人掛かりで狩る魔物だ。
「なんだよ、クマみたいってのは。
ウサギって言えば、ちっこくって角がある魔物じゃないのかよ。
そんなバケモノ、倒せる訳がないじゃんか。」
また、訳のわからないことを言うおっしゃん。
ウサギに角が生えている訳ないじゃん。
「そう思うだろう。
レベルゼロですらそうなんだから、一般人にレベル五の魔物が狩れる訳ない。
レベル五の魔物を倒そうとしたら、兵が二十、三十人掛かりで対応する必要があるね。」
にっぽん爺の話を聞いて、おっしゃんは萎んじゃったよ。
「じゃあ、俺はどうやって生きて行けばいいんだ?
知識チートでマヨネーズでも作れってか?」
「ああ、それは悪手だね。
その辺の事は追々詳しく教えてあげるよ。
話すと長くなるからね。
一番確実なのは、マロンみたいに、シューティング・ビーンズを狩るか。
もしくは、スライムを捕まえる事だね。
毎日、こつこつ、それをやってお金を貯めるんだ。
お金が溜まったら、スキルの実を買う。
それで自分に役立つスキルを育てるんだ。
私は、そうやって今まで生活してきたからね。
スキルを育てたおかげで、この体でも不自由なく生活できているよ。」
「おっ、スキルの実?
やっと、ファンタジーぽくなって来たじゃん。
それって、どんなものだ。」
「スキルの実ってのは、植物系の魔物を狩るとドロップするんだ。
そんなのを見てると、本当にゲームみたいなんだけどね。
スキルの実を食べると、スキルが生えてくるんだよ。
マロン、シューティング・ビーンズを狩ったなら持っているんじゃないか。」
にっぽん爺が、おいらにスキルの実を見せろと振って来た。
もちろん、持っているけどね。
おいらはテーブルにスキルの実を並べたんだ。
にっぽん爺に言われて、おいらは持っていたスキルの実をテーブルの上に並べてく。
スキルの実は、にっぽん爺の説明通り、植物系の魔物を倒すると落とすんだ。
おいらが持ってるのは、さっき狩ったシューティング・ビーンズが落としたモノ。
「アンズ、プチトマト、姫リンゴ、キンカン?
おまえ、何時の間に四種類も魔物を倒したんだ?」
「うん?
これ、全部、シューティング・ビーンズが落としたんだよ。」
「うんな訳ないだろう。
何処の世界に、一つの植物に全く違う実が生るって言うんだ。」
赤、橙、黄色と、色を形も違うスキルの実を並べて行くと。
おっしゃんは、そんないちゃもんを付けて来た。
何処の世界って…、現にここにはあるんだもん。
「へっ?
これ、シューティング・ビーンズになる訳じゃないよ。
シューティング・ビーンズの実は、さっきの豆だもん。
にっぽん爺も言ったじゃない、植物系の魔物を狩ると落とすって。
地面に落ちてるんだよ。」
そう、おっしゃんの間違いは、これが魔物に生っていると考えてるところ。
これ、魔物を狩ると、それがいた地面に何時の間にか落ちてるんだ。
しかも、一つの魔物が何種類もの、似ても似つかないスキルの実を落とすの。
何処から現れるのかも知れない、スキルの実はそんな不思議な物体なんだ。
でも、何より不思議な事は、スキルの実を食べるとスキルが身につくこと。
しかも、それを食べ続けると、スキルが成長していくんだ。
何でそんな事が起こるのかは誰も知らないみたい。ホント、不思議…。
改めて不思議だと思いつつ、並べたスキルの実を眺めていると。
「おお、異世界らしいところあるじゃん。
これがスキルの実か、美味そうじゃんか。
どれ、どれ。」
おっしゃん、勝手においらのスキルの実に手を伸ばし、口に運ぼうとしやがった。
「あっ、ダメ!」
「こら、君、やめんか!」
おいらとにっぽん爺の声が重なるけど…。
「別に良いじゃん、一つくらいケチるなよ。
俺、朝から何にも食ってなくて、腹、減ってるんだ。」
おっしゃんは、おいらたちの制止を無視してスキルの実をかじりやがった。
「ニゲっ、何だ、この苦さは!
水! おい水をくれ!」
そう、美味しそうな見た目に反して、ここにあるスキルの実はとっても不味いんだ。
でも、スキルの実のヤバいところは、そこじゃなくて…。
「君、人の話は最後まで聞きなさいって言われなかったかい。
日本で、学校の先生や親から。
ほれ、これを飲みなさい。」
にっぽん爺は、テーブルの上の水差しから、カップに注いだ水を差し出して言ったの。
お読み頂き有り難うございます。
同時に、5話から第8話を投稿しています。続けてお読み頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。