第678話 目指せ、スパリゾート!…だって
さて、おいらが王都に造らせた公衆浴場を何故タロウが仕切っているかと言うと。
それは、建物を着工して間もなくのことだよ。
「何ですと、公衆浴場を無料で民に開放すると仰せですか。
いけませぬ、そのような事は断じて許可できませぬぞ。」
入浴料を無料にすると言うと宰相が猛反対したんだ。
「何でダメなの?
アレを建てたのは、殆どおいらが稼いだお金だよ。
それとおいらが提供した労働力。
国の資金に手を付けてないんだから、タダにしても良いじゃん。」
そう、おいらが穴掘りで手に入れた石材と余剰石材を売ったお金で造ったんだもの。
おいらの主張が通っても良いと思うんだ。
「陛下、アレを誰が維持運営するとお考えですか。
施設は造って終わりではありませぬぞ。
施設と言うものには運営費と維持費が掛かるのです。
これから将来にわたり人件費、燃料費、修繕費、その他諸々の費用が掛かりまする。
建設費が掛からなかったと言って、無料で開放する訳にはいきませぬぞ。」
宰相が言うことも分からないでは無いんだけど。
「ダメだよ、それじゃ。
この街の人は元々お風呂に入る習慣なんて無いんだ。
お金なんて取ったら、利用者が出て来ないかも知れないじゃない。
マリアさんが言ってたよ。
体を清潔に保つことが疫病の予防に効果的だって。
そのためには、王都にいる人みんなに使ってもらえるようにしないと。」
「では、どうやってあの施設の維持運営費を捻出するおつもりで?
増税でもしますか?」
宰相がそんな事を言うものだから…。
「分かった、おいらに考えがあるよ。」
そんな訳で、公衆浴場を無料開放すべくおいらは一計を案じたんだ。
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それから、やって来たのはタロウの屋敷。
おいらが用件を話すと…。
「それで、ギルドに公衆浴場の運営を押し付けようと? 報酬無しで?
入浴料をタダにした上、報酬無しじゃ、ギルドが丸々赤字じゃねえか。
しかも、修繕費もギルドで負担しろなんて無茶なこと言ってるし。
冒険者にタダ働きでもさせようってのか。」
『ひまわり会』に運営を丸投げしようとしたことに、タロウが腹を立てていたよ。
「良く考えてよ、おいらはあの公衆浴場の運営をひまわり会に一任すると言ってるんだよ。
王宮から報酬を支払わない代わりに、家賃無料で。
しかも、条件はお風呂と公共スペースを無料開放するってことだけでね。」
「うん? どう言うことだ?」
おいらは儲け話を持ってきたつもりなのに、タロウったら全然気付いて無いみたいなの。
すると、タロウの隣で話しを聞いていたマリアさんが。
「ダーリン、その話、有り難く受けなさいよ。
せっかく、マロンちゃんが儲け話を持って来てくれたんだから。」
公衆浴場の運営を引き受けるようタロウに勧めたんだ。
「儲け話なのか? 俺には良く分かんないんだが?」
「あの宮殿みたいな建物、浴場とロビーをタダにすれば他は自由に使えるのよ。
具体的にはこの広い二階のスペース、飲み屋をやっても、食事処をやっても良いの。
こっちにある二階の大広間なんて、ちょとした興行が出来るじゃない。
演奏会とか、演劇とか。」
テーブルにおいらが持って来た一階、二階の見取り図を広げて、マリアさんはタロウに説明したの。
特に二階の見取り図を指差しながらね。
因みに一階の見取り図には、無料開放して欲しいスペースをおいがら斜線で示してあるよ。
「そうか、公衆浴場全体をスパリゾート〇ワイアンズみたいにすれば良いのか!
そこまでは無理でも、流行ってる日帰り温泉施設くらいにできれば御の字だな。」
「スパリゾートハワ〇アンズが何かは知らないけど。
家賃は取らないから。
施設を使って利益を上げて、それを王都の民に還元してくれたら良いよ。
但し、家族連れが気軽に利用できる施設にしたいから、いかがわしい商売は止めてね。」
「そんな、ギルドが今やってる『風呂屋』と競合するような事はしねえよ。
こっちの施設は健全路線で儲ければ良いんだろう。」
そんなやり取りがあって、公衆浴場の運営をひまわり会に委託することになったんだ。
浴場と公共スペースを無料で開放すること、ひまわり会が修繕を負担すること。
その代わりに、家賃を無料にすると言う条件でね。
加えてお湯を沸かす薪もおいらが無償で提供することになったよ。
薪になりそうな物は、ヌル王国や武装商船からたんまり巻き上げたからね。
船体とか、大砲の台座、小さなところでは鉄砲の銃座とか。
船については、状態が良くて商船と使えそうな船は『積載庫』に保管しておくけど。
ボロ船も沢山あったから、ボロ船は薪として利用することにしたんだ。
積載庫にある薪が尽きたら、トレントの木炭を提供しても良いしね。
木炭の値崩れを防ぐために出荷調整してたら、積載庫の中の在庫が凄いことになってるし。
一階は殆ど無料で使えるけど、唯一有料なのはロビーの隅っこに設けられた売店。
さっき、ギルドの女性職員がイチゴ牛乳を持って来てくれたところね。
イチゴ牛乳が一番の看板商品らしいけど、他にも軽食や軽めのお酒なんかが売っているの。
お風呂に入った後、ロビーで寛ぐ人にお金を落としてもらうんだって。
他にも、体を洗う布を忘れた人のために洗い布とか、替えの下着なんかも売ってるよ。
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そんな訳で、タロウの要望を一部取り入れて設計の変更があったけど。
この日、無事開業に漕ぎ着けたんだ。
ギルドの女性職員から貰ったイチゴ牛乳を飲んでいると。
「タロウ、頼まれていたモノ、連れて来たわよ。」
アルトがタロウの目の前に飛んできたの。
「姐さん、骨を折らしちまって悪かったな。
本当に助かるよ、感謝しているぜ。」
タロウがアルトにお礼を言うと。
「気にしないで良いわ。
この子達に安定した仕事をくれるのだから。
その代わり、きっちり報酬は払うのよ。
それと責任もってあんたの屋敷で保護しなさい。」
アルトはそう告げると、ロビーに耳長族のお姉さんを出したよ。その数十五人。
耳長族の里から奏者を募ってもらったそうだけど、タロウの希望通りの人数が確保できた様子だった。
このお姉さん達が、公衆浴場の専属楽師になって二階の大広間で演奏会をするんだ。
もちろん、演奏を聴くのは有料だよ。
タロウは二種類の演奏会を計画しているみたい。
手頃なお値段で演奏だけを聴ける演奏会と、豪華な食事をしながら演奏を聴くディナーショーだって。
ディナーショーは価格設定をとっても高くするとか言ってたよ。
「それと、注文通りこの子達も連れて来たわ。
こっちは連れて来るのに苦労したわよ。
何とか、一月だけ都合をつけてもらったわ。」
すると今度は。
「マロンちゃん、久し振りね。
なんか新しい施設のこけら落としに私達のショーをしたいんですって。
任せておいて、マロンちゃんのおかげで実家とは独立した貴族になれたんだもの。
恩返しだと思って頑張っちゃう。」
ハテノ男爵領騎士団の人気者ペンネ姉ちゃんが、第一隊の四人を引き連れて現れたよ。
ペンネ姉ちゃん達三姉妹はパスタ男爵家のご令嬢なんだけど。
トアール国でおいらと一緒に行動していた時、王都を襲撃したワイバーンの群れに遭遇して。
それを撃退した功績で、姉妹三人がそれぞれ独立した貴族家を創設できたんだ。
その時のことを恩に感じているみたい。
騎士団に所属する騎士を一月も借りるだなんて無茶だと思ったけど。
ハテノ男爵領では騎士を大分増員したものだから、人繰りに多少の余裕は出来たとのことで。
領主のライム姉ちゃんは快く派遣してくれたらしいの。
それより問題だったのは、辺境の町の冒険者ギルドだったらしいよ。
ペンネ姉ちゃん達第一小隊の歌や踊りは、辺境の町で一番人気の興行だからね。
ペンネ姉ちゃん達のショーを見るために、周辺の町や村からやって来る人が沢山いるの。
そんなお客さん向けの宿屋とか、送迎をしている駅馬車とかを、冒険者ギルドが経営しているんだ。
ペンネ姉ちゃん達第一小隊の公演が休演すると、稼ぎが減ると泣きつかれたんだって。
仕方がないので、アルトはライム姉ちゃんに頼んだらしいよ。
騎士団長のクッころさんをしばらく辺境の町に回してくれって。
クッころさん、騎士団の中ではペンネ姉ちゃんに次いで人気者だからね。
ライム姉ちゃんの専属護衛騎士として、クッころさんはこのところ領都から離れられなかったんだ。
それでここ数年、クッころさんの歌や踊りは領都でしか目にする事は出来なかったの。
そのクッころさんを連れて来るってことで、辺境の町の冒険者ギルドはペンネ姉ちゃん達の休演を呑んでくれたんだって。
そしてもう一組。
「マロンお嬢様、お久しぶりです。
本当に女王様になっちまったんですね。
びっくりしやしたぜ。
女王様のご指名が掛かったとなりゃあ、俺達も箔付けが出来ますし。
気合いを入れて演じさせて頂きやす。」
そう言ったのアルトお抱えの芸人集団『STD四十八』のリーダーをしてる『花菱責めのサブ』。
タロウは公衆浴場のこけら落としの公演にこいつ等も呼んだの。
こいつ等の息のあった剣舞は見ごたえがあるからね。
かつては王都の鼻つまみ者だったこいつ等も、今じゃすっかり人気者だし。
役者も揃ったし、それじゃあ、公衆浴場のオープンと行きましょうか。
お読み頂き有り難うございます。




