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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十九章 難儀な連中が現れたよ…
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第660話 人類の英知が、自然の恵みに駆逐されたらしい…

 家へ帰ろうと誘うミンミン姉ちゃんに、嫌と返した妹のミンメイ。

 王宮へ遊びに来ると恒例になっているお風呂に入らないと帰らないと主張したの。

 それを聞いたマリア(マロン)さん、自分も入ると飛びついたんだ。


 そんな訳で、みんな揃ってお風呂に行ったよ。


「おおっ! 凄いお風呂ね。

 四人どころか十人以上余裕で浸かれるじゃない。

 研究所の独身寮の大浴場でもこんなに広くなかったわ。」


 マリアさんはそんな言葉を呟くと、手早く服を脱ぎ捨てると早速浴室に入って行ったよ。

 そして、洗い場で体を洗い始めると。


「あら、マロンちゃん、石鹸は無いのかしら?」


 なんて尋ねてきたの。


「石鹸って、そう言えば以前タロウが言ってたね。

 体を洗う時に使う物だっけ?

 目の前にある丸っこい木の実、それを使って体を洗うんだ。

 濡らした布の上で、磨り潰せば泡が出るよ。

 おいら達は、『泡々の実』と呼んでる。」


「おや、本当に良く泡立つのね…。

 見た目は、ムクロジの実に似てるわね。

 やっぱり成分はサポニンかしら…。

 ねえ、マロンちゃん、これで体を洗って痒くなったりしない?」


 おや、この実を見るのは初めて見たいだね。

 おいら、てっきりこの便利な植物も、マリアさんが創ったのかと思ってたよ。


「うん、痒くなることなんてないよ。

 何時も、ミンメイを洗ってあげてるけど。

 ミンメイも痒みを訴えることは無いし。」


「あら、そうなの。

 かぶれないとは、お肌に優しい成分なのね。

 泡立ちも良いし、良い匂いもする。

 これ良いわね、初歩的な石鹸よりは数段良いかも。」


 手のひらに乗せた泡の臭いを嗅いで、マリアさんはそんな感想を口にしたの。


「おいら、『パンの木』をマロンさんが創ったと聞いたから。

 てっきり『泡々の実』もマロンさんの作なのかと思ってたよ。」


「違うって。

 生物の遺伝子操作で品種を改良するのに、どれだけ手間が掛かると思って。

 それに比べたら、石鹸なんて初歩のものなら手作りでも簡単に作れるもの。

 私、最初に生み出した子供達に石鹸の作り方は教えたし。

 ライブラリーにも書き残しておいたわよ。

 なのに、何で伝わっていないのかしら?」


 そう言えば、最初にあった頃、タロウも言ってたね。

 異世界チートとか言って、石鹸作って大儲けしようと思ってたって。


「ああそれ、私知っているわよ。

 アカシア母さんから聞いたことがある。

 その実が生る木、『森の民』が初期に入植した森に自生してたのよ。

 そして、キレイ好きの私達妖精族がその実の使い道に気付いたの。

 それが、偶々懇意にしていた人族から拡がって…。

 石鹸みたいに作る手間は掛からないし。

 ぶっちゃけ、その頃の石鹸より、遥かに使い勝手が良かったものだから。

 石鹸を駆逐しちゃったらしいわ。」


 当時の石鹸は獣脂と灰汁から作っていたそうだけど、臭いが酷く汚れ落ちも余り良くなかったらしいの。

 その点、木を植えておけば『泡々の実』は幾らでも生るし。

 実を磨り潰すだけで使える上に汚れ落ちが良く、ほのかに良い香りもするから。

 色々と重宝な『泡々の実』が、石鹸に取って代わられるのはあっという間だったって。


「何それ、良かれと思って色々な知識を書き残しておいたのに。

 全然伝わらなかったのかしら。

 いったい、ライブラリーはどうなっているかしら。

 灰汁の代わりに石灰石や貝殻、獣脂の代わりに植物油。

 臭いが嫌なら、違う材料を使う方法だってちゃんと書いておいたのに。」


 港町のここならともかく、内陸のトアール国じゃ、貝殻なんて手に入らないと思うよ。

 それに、石灰石なんてモノも、聞いたことが無いし。

 でもまあ、多少石鹸が良くなっても、結果は変わらなかったんじゃないかな。

 だって、『泡々の実』は作る手間が掛からず、タダ同然で手に入るんだもん。


 もっとも、マリアさんがテルルで使っていたものは、遥かに品質の良いものだったらしい。

 それなら『泡々の実』に駆逐されることは無かったろうって。

 だだし、それを作るには大規模な設備が必要で、今の技術水準では到底無理みたいだけど。


「ああ、ライブラリーね…。

 そう言えば、この国はどうなっているのかしら?

 トアール国は王都に一つ残っているわよ。

 他は、統一の時のいざこざで全部燃えちゃったみたい。」


 アルトから全部灰になったと聞いて、マリアさん、肩を落としていたよ。


 ライブラリーと言うは、以前にっぽん爺が図書館と言ってた施設のことかな。

 『にっぽん』から来た当初、この世界のことについて色々学んだとか言ってたね。


 そう言えば、この国はどうなっているんだろう? 後で宰相に聞いておこう。


        **********


 苦労して作ったライブラリーが灰燼に帰したと聞いて落ち込んだマリアさんだけど。

 体を洗い終えて湯船に浸かると。

 温かいお湯が心地良かったのか、気分も持ち直した様子だった。


「はあ、良いお湯ね、生き返った気分だわ…。

 でも贅沢ね、こんな大きな湯船いっぱいにお湯を張るなんて…。

 この街はじゃ真水は貴重なんでしょう。

 真水の汲める井戸が数えるほどしか無いと聞いてるけど。

 こんなに水を無駄に使っていると知れたら、民の反感を買うんじゃないの?」


 弛緩した表情でそんな言葉を口にしたマリアさん。


「うん、井戸からこれだけの水を汲んだら恨まれちゃうね。

 でも、この水、海水から塩を取った残りだもの。

 王宮で使う塩はおいらが作っているし。

 国に流通している塩の一部もおいらが提供しているんだよ。」


 おいら、『積載庫』の機能を利用して作った塩を市中に流すことで、民が誰でも安く塩を手に入れられるように努めているんだ。

 ヒーナルの治世下、御用商人のエチゴヤが塩の流通を独占して値を吊り上げていたんで、そんな事をする輩が出て来ないようにね。

 海水から塩を取り除いた後、膨大な量の真水が積載庫に残るので、それをお風呂に使っているんだ。

 因みに、お風呂を沸かすために使っている燃料は、やっぱりおいらが作った『トレントの木炭』だからね。

 このお風呂に関して、銅貨一枚たりとも民の血税には手をつけてないよ。


 もっと言えば、このお風呂がある別棟を建てた資金だって、おいらが魔物を狩って貯めたお金だしね。

 別棟の建築から、お風呂の維持まで全ておいらの自前だよ。


「マロンちゃん、まだ小さいのにしっかりしているわね。

 しかも、『不思議な空間』をフル活用しているとは大したものだわ。」


 おいらが国のお金を使わずにお風呂を維持していると知り、マリアさんは感心している様子だった。

 そして、パッと笑顔を浮かべると。


「でも、そっか、海水から真水を作っちゃえば良いのか。

 目からウロコな気分だわ。今度私もやってみよう。」


 明日からタロウのトレント狩りに付き合うとか言ってたよ。

 多めにトレントを倒してもらって、自宅のお風呂用の燃料にするんだって。

 それでおいらと同じように、海水から真水を作ってお風呂に入ると意気込んでいたよ。


      **********


「ところで、マロンちゃん。

 このお風呂、いやに大きいと思ってたんだけど。

 護衛の騎士やメイドさんまで一緒に入浴しているの?

 こういうのって、大抵、王族専用なのじゃ?」


 周りを見回して、今更ながらマリアさんはそんなことを言ってたよ。

 ウレシノなんか、おいらの背中を流すこともせず、鼻歌まじりに湯船に浸かっているし。

 タルトやトルテも、洗い場で体を洗いながらおしゃべりに興じているしね。

 

 仕事をしているのは、ミンメイの体を洗っているカラツくらいだからね。

 ミンメイは今までおいらが洗っていたんだけど。

 カラツを召し抱えてえから、ミンメイをお気に入りのカラツに役目を取られちゃったよ。


「だって、おいらとオラン、それにミンメイとミンミン姉ちゃんしか使わないんじゃ。

 それこそ、真水と燃料の無駄じゃない。

 おいら、ずっと市井で暮らして来たから、身分なんて気にしないし。

 おいらの側で働いてくれている人達は身綺麗にしてて欲しいし。

 何より、お風呂に浸かって疲れを取って欲しいじゃない。」


 因みに、見た目女の子のオランも一緒に湯船に浸かっているよ。

 ウレシノの奴、オランのことがお気に入りで。

 おいらの背中は流さないのに、オランのことは隅々まで丁寧に洗っていたよ。


「マロンちゃん、本当に良い子ね。

 イブの子供の頃を見ているみたい。

 あの子も優しくて気が利く良い子だったわ。

 ホント、血は争えないわね。」 


 おいらの言葉を聞いて、マリアさんは目を細めていたよ。

 でも、それは少し違うと思うよ。

 もし、おいらが良い子だとしたら、それは父ちゃんの育て方が良かったんだと思う。

お読み頂き有り難うございます。

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