第655話 色々と対策が施されていたよ…
惑星テルルで『宗教』ってモノが、どんなに害悪だったかを教えてくれたマリア(マロン)さん。
でもその一方で、そんなモノが蔓延る背景には為政者の怠慢があると諭してくれたんだ。
民が『宗教』なんて気休めに依存しなくても良いように。
民が明日に希望が持てる社会、毎日が楽しく充実した生活を送れる社会。
そんな社会を築く義務が、為政者にはあるのだと。
「まあ、実はあんまり心配してないんだけどね。
人間にとって最大の脅威は飢餓でしょう。
飢饉が起こらないように、色々と対策は施したから。」
人は食べないと生きていけないからね、酷い飢饉に見舞われたら絶望する人は多いだろうね。
「うん? それは『パンの木』だけじゃないの?
今の言葉だと、他にも飢饉対策があるようだけど?」
アカシアさんに見せたもらった映像の中で、飢饉対策として『パンの木』を開発したことは知ったけど。
他にもあるとは、先日の映像には出て来なかったよ。
「うん? マロンちゃん、毎日乗っているじゃない、ウサギ。
あれ、魔物だと誤解されているようだけど…、違うわよ。
ウサギは食料用の家畜として、野生のものを品種改良したの。」
「へっ?」
「だって、あの森の周辺では牛や猪は見当たらなかったのよ。
食用に向く動物で沢山いたのがウサギだったの。
ウサギはとっても繁殖力が強いでしょう。
食肉用として飼育するのに好都合だったの。
でも、一羽当たりから採れるお肉が少ないでしょう。
だから、お肉が沢山捕れるように品種改良したの。」
どうやら、その品種改良ってのが熊ほどある巨大な体らしい…。
「でも、ウサギを飼育しているなんて聞いたこと無いよ。」
「ああ、それね。
私、ウサギの能力を舐めていたわ。
あの子達、穴を掘って逃げ出すのよ…。」
柵を飛び越えて逃げ出すことには注意していて、檻のように上まで覆った牧場で飼育してたらしいのだけど。
ある朝、気付いたら牧場に大穴が開いていて、一羽残らず逃げ出した後だったらしいの。
「あの子達、期待以上の繁殖力でね。
あっという間に、その辺中に広がったの。
もう、飼育なんてする気にならなかったわ。
食べたければ、草原で狩って来れば良いのだから。」
マリアさん、言ってたよ。 飢饉対策としては好都合だって。
飼育するとなると、コストが掛かるし、所有権も発生するから。
いざ飢饉になった時に全ての人に円滑に行き渡るか分からないけど。
その辺の原野で勝手に繁殖するのなら、誰でも自由に捕獲する事が出来るからって。
ただ、誤算だったのは、人が想定外に体力不足になっていることだって。
四十万年前にウサギの品種改良した当時は、イブでも容易く狩りをしていたみたい。
ウサギが強くなった様子も見られないので、人の体力が落ちたのだろうってマリアさんは言ってたの。
「その点、マロンちゃんと周囲の女の子は凄いわね。
まさか、ウサギを飼い慣らして馬代わりに使っているとは…。」
食用に品種改良したウサギが、騎乗用に使われるとは想定外だとマリアさんは笑ってたよ。
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「まだ、他にも飢饉対策をしてあるの?」
おいらの知らないことが、他にもあるなら聞いておかないとね。
いざと言う時に役立つかもしれないし。
「あるわよ。マロンちゃん達が『スキルの実』と呼んでいる果実。
あれ、特殊スキルを身に着けるだけのモノだと思っているでしょう。
違うわよ、実はあれ完全バランス栄養食なんだ。
人体に必要な栄養素がすべて含まれていて。
取り敢えず、あれだけ食べていれば死ぬことは無いわ。」
何と、びっくり。
父ちゃんが行方不明になって餓死しそうになった時、『ゴミスキルの実』を食べたのは正解だったんだ。
あれが完全栄養食だから、体を壊すこと無く生きながらえることが出来たんだね。
『スキルの実』を生成させる目的で創り出した植物型の魔物は、いずれも繁殖力が強いので。
マリアさんは、飢饉対策としても活用できると考えたそうなんだ。
栄養面のバランスが取れるように、『スキルの実』に一手間加えておいたんだって。
「でも、そんな事は伝わって無かったよ。
物知りな方だと思う父ちゃんだって、多分知らないんじゃないかな。
おいら、そんな話聞いたことが無かったから。」
「ああ、それね。
きっと、獲得できる『スキル』のことばかり注目されてたからよ。
加えて食糧事情が極限まで悪化したこと無いのも理由の一つだと思う。
あの果実を食料として見る必要が無かったんじゃないかな。
いま、この大陸の人々はスキルを獲得する薬だと思っているのでしょう。」
シューティング・ビーンズがドロップする『ゴミスキルの実』は、誰も見向きもしないけど。
それ以外の『実』は、一つ銀貨十枚とか、三十枚とか結構値が張るものね。
飢饉みたいな非常時の食料にするなんてことは、誰も考えてなかったんだろうね。
もっとも、この大陸では幸いにしてその必要も無かったみたいだし。
ヒーナルが人為的に起こしたこの国以外では、飢饉なんて発生してないから。
「あとは、戦争と疫病対策ね。
この二つも人々に絶望をもたらす厄災だものね。
疫病については妖精族に、万能薬を持たせたおいたわ。
万能薬と言っても、生体の異常を修復するナノマシンだけど。
自己増殖型で、水の中で無限に増え続けるの。」
それって、『妖精の泉』の水じゃん…。 あれも、マリアさんが創り出したものなんだ。
「でも、あれって、アルトも中々分けてくれないよ。
定期的の貰っているのは、おいらとタロウくらいだもの。」
だからこそ『妖精の泉』の水ってとても貴重な物とされ、伝説にまでなっているんだから。
「当たり前よ。
あんな万能薬を安易に与えたら、人族の進歩が止まっちゃうじゃない。
人族が独自に医療水準を高める努力を阻害しないように。
妖精族には指示しておいたの。
人の手に負えない疫病が蔓延した時だけ与えるようにと。」
マロンさんはこうも言ってたよ。
妖精族の判断で自分が保護している者に与えるのは禁じていないし。
質の悪い疫病が蔓延する蓋然性がある場合に、予防的に用いることも禁じていないと。
それで妖精の加護がある人だけが泉の水を貰えるという伝説が、あちこちに残っているんだね。
現在、おいらの国で悪い病気が蔓延しないようにと、アルトが泉の水を分けてくれてるんだ。
外国から質の悪い流行り病を持ち込ませないために、入国前の外国人全員に泉の水を飲ませるとか。
泡姫さんを媒介にして質の悪い病気が流行らないようにと、風呂屋のお客と泡姫さんに泉の水を飲ませるとか。
それって、マリアさんの指示が妖精族に伝承されているからなんだね。
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疫病対策として施してたことの説明が終わると。
「あとは、戦争ね。 これはアカシアちゃんから聞いているんじゃない?」
マリアさんは確認するように問い掛けて来たの。
「うん、アカシアさんに教えて貰ったよ。
仲の悪いグループ同士を距離的に離れた場所で暮らすようにしたんでしょう。
そして、お互いの生活圏を侵さないように、間に魔物の領域と妖精の森を配置したんだ。」
おいらの答えに満足した様子で、マリアさんはニッコリ笑顔を見せたよ。
「正解、ちゃんと理解しているようで嬉しいわ。
アカシアちゃんから聞いているわよ。
マロンちゃん、教えてもらう前に気付いていたんだって。
アカシアちゃん、褒めてたわ。聡明な子供だって。」
この街を訪れるに当たり、マリアさんはアカシアさんから知らされていたらしい。
おいらが『魔物の領域』が人為的に配置したものではと質問したことを。
「ただね、誰もがマロンちゃんみたいに聡明な訳でも無いのよね…。
私ね、驚かされたわ。
人の愚かさと、行動力の凄さに…。
当初、私はその辺を見誤っていたわ。」
そんな呟きを漏らしたマリアさんの表情に陰りが見えたよ。今さっきの笑顔が嘘のように。
過去に何か、マリアさんの予想外な事が生じたみたいで、それを悔やんでいるみたいだった。
お読み頂き有り難うございます。




