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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十九章 難儀な連中が現れたよ…
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第651話 夢見る乙女はマジだったよ…

 教主のオバハンとその取り巻き幹部達を捕縛して、騎士団の騎士達が連行して行ったよ。

 広場に集まった野次馬達も、口々に「良いモノ見せてもらった」なんて話しながら三々五々散っていったの。


「さてと、ダーリン、仕事も一段落したみたいだし。

 ここ数日、余り寝てないみたいで疲れたでしょう。

 おうちに帰ってのんびりしましょうね。

 私が膝枕してあげる。」


 ヨイショと言いながら舞台に上がって来たマリアさんが、タロウを連れて帰ろうとしたよ。

 いや、タロウ、まだ、『ひまわり会』の業務時間だから…。


 と言うよりも。


「マリアさん、いえ、マロンさん。

 何をシレっと帰ろうとしているの。

 おいら、色々と聞きたいことがあるんだ。

 お茶でも出すから、付き合ってちょうだい。」


 おいらは、マリアさんの袖を掴んで引き留めたの。


「あら、嫌だ。私は一般人よ。

 王宮へお邪魔するなんて畏れ多いわ。

 喉も渇いてないから、お気遣いなく。

 楽しい余興を肴に、しこたま昼酒を飲んだし。」


 マリアさん、露骨に嫌そうな顔をして王宮へは行きたくないと拒んだの。


「まあ、まあ、そう言わないで。

 可愛い娘の子孫が、お話を聞きたいとお願いしてるんだよ。

 少しくらい、話を聞かせてよ。」


 おいら、逃がすまじと腕にきつく抱き付いて、お強請りしてみたの。


「うっ、…。」


 マリアさん、無理やり腕を振りほどく訳にもいかず、観念したみたい。


「はっ…。

 本当は素性を明かすつもりは無かったのだけど…。

 まさか、こんなに早く気付かれるなんて。」


 マリアさんは渋々といった感じで、王宮へのお招きを承諾してくれたんだ。


     **********


 王宮の最奥、王族のプライベート区画に招き入れると。


「あら、この辺りは四十万年と変わって無いのね。

 ちゃんと手入していたのでしょうけど。

 良く維持できたものね。

 物持ちが良いにも程があるでしょう。」


 マリアさん、懐かしそうに周囲を見回しながらそんな呟きを漏らしてたよ。

 歴代の王家が大事に使って来たのだろうけど、想像以上に古い物だったので吃驚したよ。


 リビングルームに腰を落ち着けると。


「色々と聞きたいことはあるけど。

 『マロン』さん、まだ生きていたんだね。

 変だと思っていたんだ。

 アカシアさんの森の中にお墓が無いと聞いたから。」


 先日見せてもらった映像で、『マロン』さんはあの施設内で生まれ育ったと言ってたので。

 最期はあの施設内に葬られるのが自然だと思ってたんだ。

 なのにアルトは施設内に墓所は無かったと言ってたから、ずっと気に掛かっていたの。


「そうなのよ。

 あれは、私が五十歳を過ぎた頃のことよ。

 子供達が皆独立して、あの森から出て行った時にね。

 私、ハタと気付いたの。

 十八の時から子育てに忙殺されて、沢山の子供を送り出したけど…。

 自分は、女の子らしいことを何一つしてないじゃないかって。」


 十八歳の時に、アダム、ノア、イブの三人を人工培養で生み出すことに成功したマリアさん。

 その後、二十億年の漂泊を経てこの星に辿り着くと、使命感に駆られ黙々とテルルの民の末裔を作り続けたの。

 この辺の事情までは、アカシアさんから映像を見せてもらったので知ってたけど。


 この星に着いてから十数年経った時、アダムとノアの対立が余りに目に余るので二人の派閥を引き離したんだ。

 アカシアさんに頼んで、二つの派閥の子供達を相互に干渉できないくらい遠くへ捨てて来たんだけど。

 その後も、この森で暮らす人族が一定の数に達すると、新たな場所に集団移住させたらしいの。


 アカシアさんを始め初期に目覚めた妖精族のみんなが、人の居住に適した土地を探し。

 『山の民』の皆の手で、その土地に家や公共の施設を建ててもらって移住させたそうなの。

 パンの木の苗、果樹の苗、野菜の種、それに生活に必要な家財道具や農具一式を与えて自活させたんだって。

 もちろん、アダムやノアのグループも捨てたと言っても、ちゃんと同様の施しはしたそうなの。


 それぞれの集団と集団は十分に距離を取って配置し。

 それぞれの集団を隔てるように、妖精の森や魔物の領域を設けたそうだよ。


 人工培養により生み出した子供を育て、生きていくための知識を与える。

 それを手伝ったのがイブらしくて、イブは最後までマリアさんの助手を務めたらしい。

 そして、人族が一定数産み出され、その後は自然繁殖で増えると確信を持てた時に培養槽での繁殖を止めて。

 十代半ばまで成長した最後の集団を率いて、イブがこの街を拓いたそうなんだ。


 イブを送り出した後、一人ぼっちになってしまったマリアさん。

 寂しさを紛らわすために、『森の民(耳長族)』を生み出したと聞いてたけど。

 歌舞音曲が得意な『森の民』に囲まれてそれなりに楽しい日々を送っていたそうなんだ。

 だけど、ある日、何とも言えぬ虚しさを感じたらしいの。


「虚しさ? 女の子らしいことって?」


「恋よ! 

 そりゃ、テルルにいた時は、同世代の男の子はいないし。

 人類滅亡の危機に瀕していて、恋なんて考えもしなかったわ。

 でもね、私は自分の使命を果たし終えた時に思ったの。

 このまま死んでしまって良いのかって。

 テルルの民の末裔がこの地で根を張り、子孫を増やして行けば…。

 やがて男の子も増えるわ。

 そしたら、自分にだって恋をするチャンスがあるかもって。」


 とは言え、マリアさん、自分がオムツを替えてあげた男の子と恋に落ちる気は毛頭無くて。

 マリアさんの素性を全く知らない、後世の男の子と恋をする事に希望を託したそうなの。


「それで、アカシアさんの『不思議な空間』で寝てたの?

 時間を停めて?

 それじゃ、マロンさんがそんなに若い姿なのって…。」


 今目の前に居るマリアさんはどう見ても二十代半ば、とても五十歳を過ぎてるようには見えないよ。

 さっき教祖のオバハンの時間を進めて見せたけど、まさか『積載庫』の中で時間を巻き戻したとか言わないよね。 


「ええ、だって五十過ぎのおばさんじゃ、無理じゃない。

 素敵な恋をしたいなんて言ったら笑われちゃう。

 それからは自分自身のため、研究に没頭したわ。

 人類のためじゃなくてね。

 そして、究極のアンチエイジングに成功したの。」


 何と、マリアさん、自分の専門分野生命化学の知見を総動員して取り組んだらしい。

 テルメアが何とかとか、細胞の活性化が何とかと言ってたよ。

 自身の若返りのために、あの施設に残されてた資源の大部分を費やしてしまったそうなんだ。

 もう、テルルの民の血を残す使命は果たしたので、資源を使い切ってしまっても問題無いだろうって。


「そのくらい、問題無いわ。

 昔から『命短し恋せよ乙女』と言われてるのに。

 その貴重な半生を人類のために捧げたんだもの。

 余り物の資材を退職金代わりに貰うくらい安いモノよ。

 それより、どう、凄いでしょう。

 外見、身体機能共に、正真正銘の二十代前半の体よ。

 本当はもう少しイケたんだけど。

 流石に、永遠の十七歳は図々しいかと思って。

 このくらいで勘弁してあげたわ。」


 そう言ったマリアさんは、自慢気に張りのある胸を突き出して見せたんだ。

 永遠の十七歳って…。だいたい、誰に勘弁してあげたの。


      **********


 若返りに成功したマリアさん。

 さっき言ってたように、この大陸の人々から自分の記憶が風化してしまうまで眠りに就くことにしたんだって。

 この星に着いたときと同じように、アカシアさんの『積載庫』の中で時間を停めてね。


「まあ、こうして若い姿に戻ったのは。

 自分も人並みな幸せを経験したかったからだけど。

 永い眠りに就いたのは、それだけが理由って訳でもないの。

 やっぱり、自分が生み出したテルル人の行く末が気になるじゃない。

 ちゃんと、この大地に根を張って繁栄している姿を見届けないとね。」


 マリアさんは、およそ百年に一回起こすようにとアカシアさんに指示したらしいの。

 百年毎に数日目を覚まして、アカシアさんからこの大陸の民についての報告を受けていたそうなんだ。

 時には、近くの町まで行って直接人々の暮らしぶりを見聞したりもしていたらしい。


「それじゃ、今がちょうどその百年目のタイミングだったんだ?」


「少し違うかな?

 前回、眠りに就いてからまだ七十年程しか経っていないから。

 アカシアちゃんに、幾つかお願いしてあった起床のトリガーがあったの。

 その一つに、大量殺戮兵器を見つけた場合があって。

 今回、火縄銃が見つかったってことで、起こしてくれたのよ。」


 戦争でテルルを失ったマリアさんは、この星でテルルの惨禍を繰り返さないようにと考えているようで。

 危ない兵器が開発された時は、その普及と発展を阻止するために何らかの対応を取るつもりだったらしい。


「じゃあ、そのためにこの街を訪ねて来たの?」


「いいえ。

 この街の来たのは、その件とは関係ないわ。

 アルトちゃん、ムルティちゃん、それにマロンちゃん。

 あなた達の対応で問題ないと思うから。

 結界で侵入を阻み、現物と資材、それに技術を取り上げたのでしょう。

 後は、向こうの大陸の情報を定期的に入手できるようにしておけば。

 幾らでも対応可能ですもの。」


 マリアさんは言ってたよ。

 それだけやっておけば、鉄砲の発達を何十年か遅らせることが出来るだろうって。

 交易船で情報だけ入手しておいて、拙いと思ったら介入すれば良いって。


「それじゃ、何で?」


「決まっているでしょう。

 ダーリンと会うために来たのよ。

 素敵な恋をするために!」


 そう言って、マリアさんはタロウの腕に抱き付いたんだ。

 いや、それこそ、「なんで?」だよ。だって、タロウだよ…。

    

お読み頂き有り難うございます。

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