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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十九章 難儀な連中が現れたよ…
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第641話 この人達の特性は、とても心強いよ…。

 策士策に溺れるって言葉はちょっと違うのかな?

 タロウの用いたインチキ占い師定番の詐術に、まんまと嵌められた老婆。

 老婆は土下座すると、過去の過ちを告悔し赦しを請い始めたの。


 それは王都の中央広場でのこと、当然、衆目を集める訳で。

 何事かと、興味をそそられた野次馬達が集まって来たんだ。


「おや、女王さん、今日も巡回かい? 精が出るねぇ。

 ところで、あれはいったい何事だい?

 見かけない婆さんが、タロウに土下座してるけど。」


 野次馬に混じって、馴染みのオバチャンがおいらに尋ねてきたの。


「ああ、あのお婆ちゃん、インチキ占い師なの。

 一昨日、入港した白い船があるでしょう。 

 あれって、隣の大陸を追われた大規模な詐欺組織の船なんだ。

 色々な手口で人を騙しては、お金を巻き上げてるらしいよ。

 インチキ占い師も詐欺の手口の一つで。

 先祖の悪行が悪運を招いていると脅して、壺を売りつけてるの。

 この広場にも結構いるから、気を付けてね。」


「ふーん、壺ね…。

 壺なんて売り付けても大した稼ぎにはならないだろうに。

 詐欺師は何でそんなものに手を染めるんだろうね。」


 オバチャン、壺なんて精々銅貨十枚くらいだと思っているんだろうね。

 騙して壺を売っても、大した金額にはならないと考えてる様子だった。


「壺と言っても、一つ銀貨百枚もするんだよ。

 しかも、百代前の先祖の悪行が祟っているとか脅して。

 ゴミ同然の壺を、百個も買わせようとするの。」


「銀貨百枚だって!

 壺なんて、銅貨十枚も出せば立派な物が買えるだろうに。

 何が悲しゅうて、銀貨百枚も出さにゃならんの。

 壺にそんだけ払えるほど懐に余裕があるなら。

 私ゃ、その分美味いモン食って、良い服でも買うよ。」


 至極真っ当なご意見を有り難うと思ったね。

 誰もが、このオバチャンみたい真面な感性をしていれば問題ないのだけど…。


「それが、そうでもないらしいの。

 そこを騙して買わせるのが、詐欺師のテクニックらしくて。

 とんでもなく沢山の人が被害に遭ったみたい。

 隣りの大陸では、破産したり、一家離散したり。

 中には自殺に追い込まれる人も相当数居たみたいなんだ。」


「へえ、とんでもない悪党が居たもんだね。

 しかし、おっかないね。

 港に泊まっているあの立派な船が悪党の巣窟だなんて。

 それで、土下座している婆さんも悪党の一味なんだね。」


「そうだよ、あの船も騙して巻き上げたお金で造られたらしいよ。

 タロウはあの老婆のインチキ占いを見破ってやり込めたんだ。」


 さて、おいらとオバチャンの会話だけど。

 例によって、オバチャンと言う人種は声が大きいんだ。人前だろうと気を遣わないの。

 しかも、オバチャンはオバチャンを引き寄せる習性を持っていて…。


「あら、やだ、そんな事があったの?

 怖いわね。私も気を付けないと。」


「そうそう、私も近所の友達に言っとくわ。

 質の悪い詐欺師がこの街に来ているから気を付けろって。」


「そうだ、その詐欺集団って何て名乗っているか知ってるのかい?

 知っていたら、教えておくれでないかい。」


 おいら達を取り囲むようにオバチャン達が集まって来て、井戸端会議を始めたよ。


「今、この国に来た連中は『幸福な家庭の光』って組織の構成員だよ。」


 オバチャンの問い掛けに答えると。


「『幸福な家庭の光』だね。よし、覚えた。

 近所の奥さんにも言っておくよ。その名前に気を付けろってね。」


 うん、相変わらずオバチャンネットワーク、頼りになりそうだよ。

 きっと、今日中にも口コミで教団の連中に対する注意喚起が伝わるね。


      **********


「隣の大陸では、詐欺師の集団が幾つもあってね。

 まとめて『教団』と呼んでいるけど。

 今回、入国した『幸福な家庭の光』はその一つに過ぎないの。

 それに、連中、名前を名乗るとは限らないみたい。

 正体を隠して近付いて来ることも多いようだから。

 『占い』とか、『印鑑』とか、『家系図』とか。

 そんなもので客引きされたら要注意だよ。」


 おいらが、例示した三つのシノギは悪運をこじつけるのに都合が良いんだって。

 印鑑であれば画数が不吉だとか、家系図であればこの人が地獄で喘いでるとか。

 適当な事を言ってお客さんを不安を煽り、壺を売りつけるらしいの。

 その後、さっきタロウが言われたみたいに、『教団』に引き摺り込まれて…。

 最終的には、骨の髄までしゃぶられるそうなんだ。


 おいらは追加でそんな注意をしていたんだけど…。

 それに反応するオバチャンの声は一々大きく。

 しかも、記憶するためにかオウム返しで、同じことを繰り返すものだから。


「おい、テメエ、なにが俺の名前は不吉だよ。

 何のことねえ、俺を騙そうって魂胆じゃねえか!」


 少し離れた露店から、男の人の怒声が聞こえたの。

 声の主を探ると、露店のお客さんらしき中年男性が露店の人に噛み付いてたよ。

 露店には、『印鑑、今日だけ限定価格一つ銀貨一枚』と大書された立て看板が置かれてた。

 その看板も、元値は銀貨十枚と書かれていて、それを赤字で一枚に訂正したものだったよ。

 やっぱり、九割引きって怪しいよね。そんなに引けるなら絶対に元値の方がおかしいもの。


 どうやら、名前の画数が不吉だとの定番ネタで脅されてたところだったみたい。

 まだ壺の話が出る前に、オバチャンの声が耳に届いて詐欺だと気付いたようだね。


「いえ、これは…。」


 お客さんに噛み付かれて、露店商は言葉に詰まってたよ。

 露店商はキョロキョロと左右を見回して、自分が衆目を集めているのに気付いたみたい。

 焦って逃げ出そうとするものの、目の前の机に躓いてペタンとこけたんだ。


 そして、机の下から出て来た白木の箱、それも一つや二つじゃなかったの。


「あっ、その箱、ここにある箱と同じじゃないかい。

 その箱の中身も壺じゃないかい。」


 オバチャンがその箱を指差して叫ぶと。


「おっ、本当だ。確かに中身は壺じゃないか。

 しかも、同じ箱を十も隠していやがった。」


 露店商は箱を死守しようとしてたけど、野次馬が箱を取り上げて中身を確認したんだ。

 オバチャンの指摘通り、箱の中から出て来たのは壺だったの。

 インチキ占い師がタロウに勧めていた壺とそっくりのね。


「この野郎、印鑑で誘い込んで、本当の目的は壺だったのか。

 親から貰った大事な名前にイチャモン付けた上に。

 こんなゴミみたいな壺を売り付けようなんて。

 とんでもない悪党だな。」


 危うく騙されそうだった中年男性は、こけた露店商を羽交い絞めにして怒りをぶつけてた。


 そして、オバチャンの大声恐るべしで、…。


「何よ! 

 彼が浮気ばっかりするのは、先祖の悪行のせいだなんて。

 全くの嘘っぱちじゃないの。

 何が、壺を買えば、彼が浮気しなくなるよ!」


 若い女性の怒りを帯びた声が聞こえたかと思えば。


「ま、まさか、あんた、俺を騙していたのか。

 俺の若ハゲは、百代前の先祖が働いた悪事の報いだって…。

 若ハゲに悩む俺の心に付け込むとはふてえババアだ。」


 嘆きと怒りを窺わせる男の声も聞こえ…。

 オバチャンの声が届いた広場のあちこちで、エセ占い師を糾弾する声が上がったんだ。


 もちろん、町人に扮して警戒に当たっていた騎士達が一人逃さず捕縛したよ。

 呆れたことに、この日、王都の広場で捕えた詐欺師は三十人余りに上ったの。

 ウレシノの事前情報通り、『占い師』、『印鑑屋』、『家系図屋』全て揃ってた。


 もっとも、一番呆れたのは、押収された『壺』の出来の悪さだけどね。

 例え安物と言っても、全て同品質なら数物として大したものなんだけど。

 ウレシノが言ってたように、ド素人の下っ端信徒が奴隷働きで作ったものだから…。

 全く同じ意匠にもかかわらず、どれも歪んでいて一つとして同じ物が無かったの。

 『粗悪品』を通り越して、『不良品』と言った方が正確だと思ったよ。

 無価値の『不良品』を銀貨百枚で売ろうなんて、何処まで図々しいのか。


 

 幸いなことに、お金を巻き上げられた人はまだ一人も居ないようだった。

 ホント、助かったよ。

 オバチャンの声の大きさに感謝だね。

お読み頂き有り難うございます。

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