表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十九章 難儀な連中が現れたよ…
633/848

第633話 おとり捜査って…

 鉄砲を船に戻してきた『教団』の男達は入国手続きを済ませると、早速『歓び隊』のお姉さん方と合流していたよ。


 入国管理事務所のホールにある長椅子に座ると、何やら打ち合わせを始めてた。

 おいらはコッソリと連中に近付いて聞き耳を立てることにしたの。


「なんだい、随分と待たせたけど。

 なんかあったのかい?

 私らと一緒に下船した連中が居ないじゃないか。

 それに鉄砲も持って無いし。」


 『歓び隊』のお姉さん、男達の人数が少ないことを不審に思ったみたい。


「いや、俺にも訳が分からんのだが。

 先発隊の連中が消えちまったんだ。 

 武器預り所を鉄砲で制圧しようとした途端にな。

 先発隊の鉄砲も消えちまったもんだから。

 これ以上、厄介なことになったら堪らんと思ってな。

 一度船に戻って、鉄砲を置いて来たんだよ。

 そんな訳で待たせて悪かったな。」


 男が事情を説明すると。


「あんたら、得物が無くて大丈夫なのかい。

 何時も『神の杖』とか言って虚仮脅しに使っているんだろ。

 神の威光とか騙って、カモをビビらせるのに必需品じゃなかったか。

 一発撃って見せれば、愚民共はひれ伏すとか言ってたじゃん。」


 どうやら人目が無いところへカモを連れ込んで、鉄砲を撃って見せるらしいね。

 壁に穴でもあけて見せて、恐怖でカモを支配するつもりなんだ…。

 それを布教活動だなんて称しているのだから、質が悪いことこの上ないよ。


「まあ、無ければ無いで何とかなるさ。

 それより、さっさとアジトになる空き家を借りに行こうぜ。

 一度連れ込んじまえば、簡単には逃げ出せないような物件を借りんとな。

 それさえ上手くいけばこっちのもんだ。

 多勢に無勢で取り囲んで、たっぷりと過去の因果を吹き込んでやれば良いさ。

 二、三日も監禁してやれば、落ちない奴はいねえよ。」


 手っ取り早く鉄砲で脅すのは諦めて、例の『先祖の悪事』のせいで祟られているってデマを信じ込ませるんだね。


「おや、未開の先住民を相手に随分と迂遠な事をするじゃないかい。

 ちんたらやってたら、司祭連中からせっつかれるだろう。

 原住民が四の五の言うようなら、最初に何人かズドンと見せしめにしろって。

 そう指示されていたと記憶してるんだけどね。

 その方が手っ取り早く、骨の髄まで搾れるからってさ。」


「仕方ねえだろう。

 貴重な鉄砲をこれ以上失う訳にはいかねえんだ。

 そんなに潤沢にある訳じゃないんだからよ。

 司祭にも少し時間が掛かると説明して、許可は貰って来たよ。」


「ちっ、仕方ないね。

 んじゃ、最初は手っ取り早く美人局で稼ぐとするかい。

 非モテの気の弱そうなキモ男でも引っかけて搾り取れば良いさ。」


 どうやら、連中、『先祖の悪事』ネタで壺を売るのは時間が掛かると踏んだようで。

 美人局で金を稼ぐことにしたらしい、カモからは一度金を巻き上げるだけじゃないそうだよ。

 全財産巻き上げた上で、その後は『教団』の手先として扱き使うらしいの。

 親族や友人を騙して連中のアジトへ連れて来いと、カモに強要するんだって。


        **********


 当面の活動方針を決めた連中は、入国管理事務所を出るとしばらくは街を見て回ってた。

 どうやら、繁華街の地理を把握しつつ、カモが居そうな場所を探っていたみたいで。

 「この辺はダイエットに関心を示しそうなオバハンが多い」とか、「この辺は如何にもモテなそうなキモ男が多い」とか。

 そんな風に、一区画、一区画、街往く人達の様子を窺っていたんだ。

 

 おいら達はアルトの『積載庫』に乗せてもらって、連中を尾行したんだけど。

 頭上から監視しているとは思いもしないんだろうね。

 連中、完全に油断して悪事の算段を口に出していたよ。


 そして、繁華街の外れにある人通りの少ない裏路地。

 薄汚れた宿屋の前で、連中は足を止めたの。


「ここなんか良いんじゃないかい。

 あんまり繁盛している様子じゃないし。

 立ちんぼが客を連れ込むにはびったりの宿じゃないかい。

 ここなら、カモも油断するんじゃないかな。」


 お姉さんは、街娼がお客といたすには丁度良さそうな宿だと評していたよ。

 日頃から街娼を利用しているような男なら。

 この宿を利用しておけば、美人局だと警戒されることは無いだろうって。


 お姉さんの提案に異論を述べる人も無く、連中、その宿に入っていったんだ。

 それからしばらくして『歓び隊』の五人が宿から出て来たの。

 どうやら、これからカモを探しに行くみたい。

 僅かに時間をずらして出て来た五人の男が、少し離れて後に続いたよ。

 この男達が、それぞれお姉さんの恋人役となってカモを脅すんだね。

 五人共、如何にもスジ者って雰囲気の厳ついニイチャンだったもの。


 十人が出て行ったので、宿に残っているのは男が十五人だね。


 おいらは護衛のトルテをトシゾー団長のもとに走らせたんだ。

 ここを摘発するため、騎士を十人程手配するようにと言付けたの。

 残りのジェレ姉ちゃん達三人の護衛騎士には、宿の見張りを命じておいた。

 宿に残っている十五人を逃がさないようにね。


 そして、おいらは街に向かった十人を尾行することにしたんだ。

 一緒に行動するのは、ウレシノとカラツ、それにタロウとマリアさんの四人だよ。

 あと、アルトが空を飛んでついて来てくれる。


 そして王都の中央広場まで来ると…。

 『歓び隊』のお姉さん方は、立ち止まって何やら物色を始めたの。


 その時のこと。


「ほら、タロウ君、出番よ。

 しばらく、この広場をブラついてちょうだい。」


 そんな指示を出して、マリンさんがタロウの背中を押したんだ。

 タロウは戸惑いの表情を見せたけど。

 サッサと行けと手の甲で促すマリアさんを見て、指示に従うことにしたみたい。

 如何にも何のアテもないって雰囲気で、タロウは広場をブラつき始めたの。


 すると、『歓び隊』のお姉さんの一人が小走りでタロウに寄って行き…。


「ねえ、君、一人?

 今、暇?

 私、お小遣いが心許なくてね。

 少しだけ援助して欲しいかなって…。

 これだけもらえれば、何でもしてあげる。」


 ガバッとタロウの腕にしがみ付いたお姉さんは、手のひら五本の指を広げて見せたの。 

 何と、『歓び隊』のカモ認定第一号はタロウだったよ…。


「彼女、凄い嗅覚ね…。

 あっという間に喰い付いたわ。」


 おいらの隣でマリアさんが感心してたよ。


「嗅覚?」


「そう、タロウ君てパッと見冴えない風貌だし。

 気弱そうで、ああやって誘われたら断る勇気が無さそうでしょう。

 おとり捜査には適任だと思ったのよ。

 絶対に食い付いてくると。

 でも、餌を撒いた途端に食い付くとは驚きだわ…。

 感心するほど凄い嗅覚…。」


 マリアさん、一応タロウのお嫁さんだよね。そんな身も蓋も無いことを言って…。


 一般の人々に迷惑が掛からないのは助かるけど…。

 『歓び隊』のお姉さん言ってたじゃん、ターゲットは『非モテの気の弱そうなキモ男』だって。

 そのお姉さんが、いの一番に飛びついたのがタロウだよ。 


「マリアさんはそれで良いの?

 あの状況ってさぁ。

 今この広場にいる男の人の中で、タロウが一番の『非モテの気の弱そうなキモ男』。

 『歓び隊』のお姉さんから、そう認定されたようなものなんだけど。」


 その辺をどう思っているか尋ねてみると。


「良いのよ。

 私はヘタレで、気弱なタロウ君が好きなんだもの。

 人を好きになるツボは、人それぞれなのよ。

 蓼食う虫も好き好きって言うじゃない。」

 

 マリアさんはそう答えてカラカラと笑っていたよ。

 まあ、マリアさんが気にしないのなら、おいらはとやかく言わないけどね。

 

お読み頂き有り難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ