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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十九章 難儀な連中が現れたよ…
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第631話 ほら、悪さばかりしているから…

 港にペテン師集団の様子を見に行ったけど。

 通称『ルナの壺船』と呼ばれる悪趣味な船の前で見張っていても誰も下船してくる気配は無かったの。

 港でぼうっとしていても時間の無駄なので、いったん武器預り所に戻って来たよ。

 カウンターの奥に腰掛けて入国してくる人々を眺めていたんだけど。

 『教団』の連中がやって来たのは大分陽が高くなってからのことだった。

 どうやら、朝から勤勉に働くという意識は無い連中みたい。


 しかも、最初に入国しようやって来たのは…。


「陛下、来ましたよ。『教団』の連中です。」


 おいらの後ろに控えていたウレシノがそっと耳打ちしてきたの。

 でも、それはおいらの予想していたような連中じゃなくて。


「うん? あの教団ってお揃いの黒いローブを羽織っているんじゃないの?

 何か、出会った頃のシフォン姉ちゃんみたいなチャラい服装なんだけど。」


 そう、裾丈の短いヒラヒラなスカートと、下着が透けそうな薄いブラウスを来た若いお姉さん方だった。

 ブラウスなんて背中も胸元も大きく空いていて、大きな胸の谷間がハッキリと見えているよ。

 服の色合いも、ピンクとか、薄いレモンイエローとか、何かとっても軽薄な感じに見えるの。

 そんな、如何にも遊んでいますって雰囲気のお姉さんが五人事務所にやって来たんだ。


「ええ、あれが通称『歓び隊』、教団のハニトラ部隊です。

 先ずは、ガードの緩い殿方を誑し込んで勧誘するつもりでしょう

 ほら、後から来たのが取り囲んで入信を迫る連中です。」


 ウレシノが指差す先には、鉄砲を抱えたガラの悪い男達が事務所に入って来るのが見えたよ。

 その数、二十人。こっちも黒のローブじゃなくて、如何にもスジ者という装いだった。

 ギルドのお姉さんに待ち順に並んだ椅子へ案内されると、最初に来たお姉さん達とお喋りをしてた。

 ウレシノの話では、『歓び隊』のお姉さん方が脇の甘そうな男の人に誘いを掛けるそうなの。

 一緒に食事をしようとか、飲みに行こうとか、何処か静かな処でお話をしましょうとか。

 もっと、直接的に男の人の耳元で「良いことをしましょう」とか誘う場合もあるそうだよ。


 そして、ノコノコとついて行くと、そこに強面のニイチャン達が待っているそうなの。

 ぐるっと取り囲んで逃げられないようにして、教団への入信を迫るそうだよ。

 ウンと言うまで帰さないし、何なら何時間でも教義を聞かせ続けるらしいよ。

 強面のニイチャンに囲まれて入信を迫られ、その場しのぎに頷いてしまう人が多いんだって。

 それがアリ地獄の入り口だとも知らずに…。 


 それって、まんま美人局だね。お金を毟り取られるところも一緒だもん。

 まっ、一回こっきりの美人局よりも遥かに質が悪いみたいだけど。

 持っているお金は穢れているから、全財産を差し出しなさいとか迫るらしいから。

 壺を売るだけじゃなかったんだ…。


        **********


 例によって、悪い病気を持ち込ませないために、手続きの待ち時間に『妖精の泉』の水を飲んでもらい。

 ギルドのお姉さんによる武器の持ち込み禁止に関する説明とボディチェックを済ませる訳だけど…。


 『歓び隊』のお姉さん方は、すんなりと済ませて入国管理事務所へ移動したんだ。

 だけど、脅迫担当のガラの悪いニイチャン共はと言うと。


「今ご説明した通り。

 この国は武器の持ち込みを禁止しております。

 そちらは鉄砲でございますね。

 入国するのであれば、こちらでお預かりさせて頂きます。

 もちろん、出国時に返却いたしますのでご安心ください。」


 お姉さんが営業スマイルを湛えて丁寧に対応したのだけど。


「言い掛かりは止めてもらおう。

 これは鉄砲などではない。

 これは『神の杖』という神器であるぞ。

 我ら敬虔な信徒が神から授かったものである。

 一時たりとも、手放す訳には参らん。」


 ガラの悪い男は手放そうとしないんだ。


「ああ、そう言うのは良いですから。

 あなた方が何と呼ぼうがかまいませんが。

 機能が鉄砲である以上、国内への持ち込みは禁止です。

 お預けになるか、入国を取り止めるかを選択してください。」


 まあ、そんな詭弁、ギルドのお姉さんには通じない訳で…。


「貴様、何て不遜な事を…。

 神の遣いである我を愚弄するつもりであるか!

 言っておるであろう。これは神器であるぞ。

 貴様如き無知蒙昧の輩に触れさせる訳には参らん。」


 恫喝すればお姉さんが諦めるとでも思ったのか、男は声を荒げたの。


「あら、昨日とは違って随分と屁理屈をこねますね。

 昨日の四人は、無理やりこの部屋を突破しようとしたのですが…。

 今度は恫喝してやり過ごす算段ですか。

 何を言っても無駄です。

 規則は規則、そんな物は持ち込ませんよ。」


 お姉さんは怯む様子も無く軽くあしらったの。

 すると男は激昂して…。


「何だと、これだけ言っても分からぬとは。

 さては貴様、サタンだな!

 サタンであれば容赦しないぞ。

 貴様のその穢れた魂を救済してやろうではないか。」


 男は肩に掛けた火縄銃の銃口を受付のお姉さんに向けたんだ。

 何と、昨日と同じ轍は踏まないと考えたのか、既に火縄をセットしてあったよ。

 当然、弾も火薬も装填済みなんだろうね。


 すると、お姉さん、臆する様子も無く。


「こんなものを人に向けたら危ないでしょう。

 いったい何処のならず者ですか。

 いきなり命を取りに来るなんて…。」


 そんな言葉を口にしながら、銃身を掴むと上に振り上げたよ。

 そしてパンと言う炸裂音と共に、天井に何かがぶち当たる音が響き…。

 お姉さんは振り上げた勢いのまま銃身を持って火縄銃を奪い取ったよ。

 そのまま流れるような動作で、銃床部分を棍棒のようにして男の頬を殴りつけたの。


「うぎゃ…。」


 あえなくカウンターに倒れ伏す教団の男。

 流石レベル十オーバーだね、制圧する動きが淀みなかったよ。


「貴様、神の使徒に歯向かうか!

 神に逆らったこと、悔い改めさせてやる!」


 順番待ちの席に居た残り十九人の信徒が一斉に立ち上がって、お姉さんに銃口を向けたんだ。

 流石に拙いと思ったんで、おいら、とっさに連中の鉄砲を『積載庫』に没収したよ。


「何と、鉄砲が消えたぞ!」


 連中、手にしていた物を鉄砲と認めてたよ。

 突然消滅したものだから、狼狽してて咄嗟に『神の杖』という名称が出て来なかったみたい。


「おい、我らが神から授かった神器を何処へやったんだ!」


 何で、ギルドのお姉さんに聞くかな? お姉さんがそんなことできる訳ないのに。


「何処と言われても…。

 私が取り上げた物は、この通りここにありますし。」


 お姉さん、一瞬おいらの方に視線を向けたものの、ここは知らぬ存ぜぬで通すことにしたみたい。


 だから、おいらが助け舟を出すことにしたよ。


「神だか、便所虫だか知らないけど。

 おっちゃん達がそいつから授かったものだとしたら…。

 か弱い女の人に銃口を向けるなんて無法を働くから。

 そいつに見限られたんじゃないの。

 普通に考えたら人として最低の行為だもん。」


 おいらは、『積載庫』のことには触れずに至極当たり前なことを指摘してやったよ。

 連中、「うぐっ」とか悔しそうな声を上げてたの。

 これがぐうの音も出ないってことなのかな?


 まあ、神なんて適当にでっち上げたものだから、細かい設定なんてしてないだろうけど。

 建前上は慈愛に満ちた存在らしいからね。

 自分の意に沿わないだけで殺してしまおうなんて、暴挙を許す訳ないもん。

 そんな悪事に使われるなら、『神の杖』なんて没収されても不思議じゃないよ。


「ところで、サタンってなに?」


 ウレシノに尋ねると。


「ああ、それ、意味なんて全く無いです。

 教団の連中が敵にレッテルを貼るために創作した言葉遊びですよ。

 水溜りのように狭い教団の中でだけ通じる村言葉です。

 バカが何かほざいてると思っておけば良いです。」


 だって。教団の社会って井戸よりも狭いんだね。

 だけど意味が無いからこそ、自分の都合の良い場面で何時でも使えるだって。

 ウレシノは言ってたよ。


「定義をキッチリしたら、都合良く使えないじゃないですか。

 敢えて曖昧模糊なフワッとしたことにしてあるんです。

 そうすれば、連中がサタンと言えばサタンなのですから。」


 ホント、都合の良い言葉だね…。

 まあ、如何にもペテン師らしいと言うか。


お読み頂き有り難うございます。

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