第620話 何でそんなにおバカなの…
無茶してイノシシを狩った反動で、あちこちの筋肉が引き付けを起こしてのたうち回っているマロンさん。
そんなマロンさんに、アカシアさんは緩い電撃を放っていたんだ。
「どう? これで少しは痛みが和らぐのじゃなくて?」
「あっ、そこ、気持ち良い…。」
電撃を受けているにも関わらず、マロンさんは苦しむどころか何故か気持ち良さそうにしてたよ。
「あれ、何をやっているの?
アカシアさんがマロンさんに電撃を放っているようだけど?」
おいらが誰に尋ねるとも無く呟くと。
「アレは、電気を使って治療してるんじゃないか。
俺の家でも、親父やお袋が使ってたぜ。
どういう仕組みかは知らねえが。
肩こりに効くんだってよ、低周波マッサージ機。」
タロウの故郷では電撃を起こす機械があるらしい。
そんな物騒なモノで肩こりを治療するの?
肩こりなんて、タロウに揉ませれば良いじゃん。
「あら、あなた、本当に物知りね。意外だわ。
人の神経や筋肉には、低周波数の電流に反応する性質があるの。
低周波電流が流れると筋肉が収縮、電流が止まると筋肉は弛緩するのよ。
あの時はその性質を利用してマロンの治療をしたの。」
どうやら、あの緩い電撃には本当に痛んだ筋肉を治療する効果あるらしい。
アカシアさんは、冴えない風体の割にやるじゃないとタロウに感心してたよ。
まっ、あんまり褒めているようには聞こえなかったけど。
そうこうする間にも、映像の中のマロンさんは起き上がり。
「酷い目に遭った…。
でも、一応は目的通りの効果が確認できたわね。
運動不足のこの体にはキツかったけど…。
これも少しづつ投与した方が良さそうね。
ひ弱な体であの動きは無茶だわ。」
体に付いた土ぼこりを落としながら、そんな評価をくだしてた。
「しかし、立派なイノシシね。
これをお土産に持って帰れば。
きっと、悪ガキ共もマロンを見直すわ。」
アカシアさんはそんなことを言いながら、『不思議な空間』にイノシシを仕舞ってたよ。
そんな感じで、『クリティカル発生率アップ』と『クリティカルダメージアップ』のスキルも揃ったみたいだね。
**********
「イブ、少しママの研究に協力してくれるかな?」
映像の中の場面が変わり、研究室の中でマロンさんがイブに向かって尋ねたの。
例によって、マロンさんはアンプルを手にしてた。
「なあに、ママ?
それを飲めば良いの?
また、凄いことが出来るようになるのかな?」
マロンさんの言葉を聞き、イブが興味津々で尋ねてきたよ。
イブは『不思議な空間』を使えるようになってとても喜んでいたから。
また凄い力が貰えるのではと、期待している様子だったの。
「ええ、待たせたわね。
これを使えば『スカート捲り』を躱せるわよ。
ママも試したから、効果は保証するわ。
ただね、一度に摂取すると体の負担が大きすぎるから。
この前と同じで少量に分けたの。
イブには、それを摂取して欲しいのよ。」
三つのスキルの実用化のため、子供が摂取しても体に負担が重くないかを確かめたい。
そのためにイブで実験させて欲しいと、マロンさんは率直にお願いしたの。
「うん、やる。
ママが作ったものだもの。
体に害のあるモノの訳がないわ。
それで、あの二人のイタズラが避けられるのなら。
私、喜んで協力する。」
マロンさんに絶対の信頼を置いている様子で、イブは即答で応諾してたよ。
アンプルを受け取ったイブは、さっそくその中身を服用してた。
そして、また、映像は切り替わり、少しだけ月日が流れている感じだった。
「じゃあ、イブ、これから実験を始めるわよ。
規定量の服用は済んだから効果が出ているはずよ。
取り敢えず、向こうの花壇でお花の世話をしててちょうだい。」
これから服用したアンプルの効果を確認するとだけ告げると、マロンさんはイブを離れた場所に行かせたの。
会話の聞こえない距離までイブが離れるのを確認すると。
「アカシア、良く聞いて。
イブには実験の内容は説明してないから。
油断している隙を突いて電撃で攻撃してちょうだい。
くれぐれも威力は控え目で頼むわよ。
当たっても怪我なんかしないようにね。」
マロンさんは、アカシアさんに対してそんな指示を出していたんだ。
『回避』のスキルが無意識でも発動する事を確認するために、敢えて実験の内容はイブに知らせてないんだって。
そんな段取りに基づいて、アカシアさんはイブの不意を突くべくこっそりと近付いて行ったの。
そんな時だよ、予想外のことが起こったのは。
建物の陰からアダムが近付いて来たんだ。
イブに気付かれないように忍び足で。
そして…。
「今日のパンツはどんなガラかな?
ねこパンツかな、シマシマパンツかな?」
イブの背後に回ったアダムが鼻歌交じりにスカートを捲り上げようとしたの。
「えっ?」
その瞬間、下から力任せに振り上げたアダムの両手をイブは紙一重で躱したんだ。
それは無意識な動作だったみたいで、自分の動きにイブが一番驚いている様子だったよ。
でも、イブの動作はそれに留まらず…。
勢い良く振り上げた両腕を躱されたことで、体勢を崩し前のめりになったアダム。
その首筋をイブの手刀が捕らえたんだ。
「うきゅう…。」
手刀が当たった時に『クリティカル発生率百%』のスキルが発動したようで、アダムは情けない声を上げて倒れたの。
「ア、アダム、大丈夫?」
アダムを抱き起して肩を揺さぶるイブ。
手刀をくらって気を失ったアダムに、イブがとても慌てていたよ。
「あら、私がやるまでも無く実験終了ね。
マロンの作ったナノマシン、ちゃんと効果を発揮してるじゃない。」
その様子を見て、イブに攻撃を加える予定だったアカシアさんは攻撃するのを中止してた。
「イブ、心配しなくても良いわ。
アダムはちょっと気を失っているだけよ。
特に怪我をしている訳じゃないから安心して。」
駆け付けたマロンさんが、アダムの様子を観察して大事がないことを確認したんだ。
実際、その後すぐにアダムは目を覚ましていたよ。
**********
「ママ、その果物はなに?
とっても美味しそうな匂いがする。」
イブがマロンさんの机の上に置かれた果物を見て尋ねたの。
そこにはお馴染み三種類の果実、アンズ、プチトマト、キンカンが置かれていたよ。
「これ?
これはイブが服用したアンプルの中身と同じ成分を含んでいるのよ。
あの大豆もどきに遺伝子操作を加えて作らせたの。
イブにはもう不要かも知れないけど…。
果物として食べても美味しいから、好きに食べて良いわよ。」
うん、間違いなくゴミスキル三種類の『スキルの実』だね。
「わーい! ママ、ありがとう。」
イブは嬉しそうに、アンズを手にするとかぶりついたの。
そして、ニッコリと笑顔を浮かべ…。
「これ、甘酸っぱくて美味しい!
そうそう、ママ、素敵な力をくれて有り難う。
あれから一度もスカート捲りされてないの。
アダムもノアも懲りずに捲ろうとするけど。
全部、体が避けてくれるんだ。」
アンズを美味しそうに食みながら、その後のことを報告してたの。
アダムとノアは性懲りも無く、その後何度もスカート捲りに挑んでくるそうだよ。
その度に躱されて手刀で返り討ちにされているそうだけど、二人共全然諦める様子が無いんだって。
いったい、何が二人をそうも掻き立てるんだろう。たかがパンツごときで…。
イブの報告を聞いたマロンさんは、学習しようとしない二人のことを呆れてたよ。
一方で、ナノマシンの持続性についての実証実験が出来るからまあ良いかとも零してた。
こうして、シューティング・ビーンズが落す『スキルの実』四種類が完成したんだ。
しかし、直接の開発動機が悪ガキ二人のスカート捲りを撃退することだったなんて…。
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