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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
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第593話 こっちは最初から気付いていたよ…

 文字の読み書きは習わないと出来ないものだと、妙なことを言っているウレシノ。

 おいらは一瞬その言葉が理解できずにポカンとしちゃったよ。


「文字の読み書きって、ある一定年齢になれば自然と出来るようになるんじゃないの?

 個人差もあるみたいだけど、だいたい三、四歳頃かな。」


 おいらが自分自身の記憶や近所の子供達のことを思い浮かべながら言うと。


「そんな馬鹿なことある訳がないじゃありませんか。

 文字なんて、誰かが教えなければ認識出来ませんよ。

 普通は肉親が、絵本の読み聞かせをするなどして教えるものです。」


 ウレシノは言ったんだ。

 その読み方や意味を誰かが教えなければ、文字なんて単なる模様にしか見えないと。

 現にオードゥラ大陸では、大半の一般人は文字の読み書きできないそうなの。

 文字を読み書き出来るのは、一部の裕福層だけらしいよ。


 読み書きができる貧乏人は、大店に仕えている丁稚くらいのものだって。

 文字の読み書きが出来ないと商売に差し支えるから、強制的に覚えさせられるみたい。


 ヌル王国ではどんな風に読み書きを学んでいるかも、ウレシノは教えてくれたよ。

 貴族や一部の大金持ちは子弟に家庭教師をつけて指導してもらうそうで。

 そこそこ裕福な商人などは、お金を払って私塾と呼ばれる場所に通い教えてもらうらしい。

 まあ、共に最初は肉親による本の読み聞かせから始めるのが普通らしいけど。


「でも、おいら、物心つく頃には父ちゃんと旅をしてたし。

 本なんて読んでもらったことは無いよ。

 第一、本って凄く高くて、父ちゃんはそんなお金持ってなかったもん。」


「じゃあ、最初に文字を認識した時のことは覚えていますか?

 どうやって、文字の認識したのでしょう。」


「あっ、おいら、それは覚えているよ。

 父ちゃんに、『能力値』について教えてもらった時だよ。

 自分の能力値を確認しようとしたら、頭の中に文字が浮かんだの。

 でも、それ、最初から読めたよ。おいら、今でも覚えているもの。

 あの時初めて、『マロン』と言う文字を知ったの。」


 初対面の時のタロウじゃないけど、子供ながらに自分の能力値をみてショボいと思ったもん。

 うん? タロウ?

 そう言えば、タロウは中学とか言うところで色んなことを学んでいたとか言ってた。

 それにタロウを紹介した時、にっぽん爺は何と言ってたっけ…。

 確か、『言語に関してはご都合主義がまかり通っている。』なんてことを言ってた気がするよ。


      **********


 おいらは思うところがあって、タロウを呼びに行かせたの。


 そしたら…。


「いきなり直ぐに来いって、いったい何事だよ。

 一応、俺にだって仕事ってモノがあるんだぞ。」


 ジェレ姉ちゃんったら、タロウの首根っこを掴んで引き摺って来たの。

 どうやら、せっかちなジェレ姉ちゃんは、タロウがもたもたしていたんで痺れを切らしたみたい。


 仕事中に問答無用で連れて来られたらしく、タロウは不満たらたらだったよ。


「ゴメンね、そんなに急げとは言ってなかったんだけど。

 タロウにちょっと聞きたいことがあってね。」


「何だよ、大事な用件かと思ったじゃないか。

 お前の騎士ったら、有無を言わさず連れて来やがるから。

 それで、俺に聞きたいことってなんだ?」


 おいらが素直に謝ると、タロウは仕方ないなって顔をして機嫌を直してくれたみたい。


「タロウ、『にっぽん』って国じゃ読み書きは中学で習うものなの?」


「どうかしたか? 今更そんなことを聞いて。」


 おいらが『にっぽん』のことを尋ねるのが珍しかったのか、タロウは意外そうな顔をしてたよ。


「いや、『にっぽん』って言う国じゃ、文字の読み書きが自然に出来るようになるのか、どうかと思ってね。」


「はあ?

 いや、文字の読み書きが自然に出来るようになるって…。

 普通はそんなこと有り得ないだろう?

 俺の故郷じゃ、建前では読み書きは小学校で習うことになってたよ。

 実際は、その前の幼稚園で習う方が普通だけどな。

 小学校ってのは中学校の前に通う学校だ。」


 タロウは何を当たり前のことを聞くのかと言う表情で答えたの。

 どうやら、『にっぽん』という場所でも、読み書きは誰かに教えてもらうものらしい。


「じゃあ、もう一つ。

 タロウって、トアール国に来た時、普通に喋れたよね。

 『にっぽん』って場所とこの大陸では言葉が同じなの?」


「それこそ、有り得ないだろうが。

 俺の居た日本は異世界にあるんだぞ。

 どんだけ偶然が重なれば、同じ言葉になると思ってるんだ。」


「でも、タロウは最初からおいらと会話できたよね?

 言葉が違うのに話が通じたと言うの?」


「それこそ、異世界チート能力だろう。

 実際、これしか無くてショボいと思ったけど…。

 この能力が無ければ、俺、詰んでたよな。

 どんな言葉でも意思疎通できる能力って素晴らしいぜ。」


 どうやら、タロウは初めから気付いていたみたい。

 おいらの話す言葉とタロウの国の言葉が全然違うものだと。

 ただ、タロウの中では『異世界チート』と一言で完結していたようだよ。


「じゃあ、タロウはこの大陸の文字と『にっぽん』の文字との違いにも気付いてたの?

 良かったら、何でも良いから『にっぽん』の文字を書いてみて。」


 おいらは、タロウの前にペンと紙を差し出したの。

 すると…。


「悪い、無理だ…。

 何でだかは分かんないんだが、日本語が書けないんだ。

 頭の中では日本語を意識しているんだが…。

 何故か、書くとこの大陸の文字になっちゃまう。」


 タロウはそう言いつつ、紙に自分の名前を書いたんだ。この大陸の文字で…。


      **********


「不思議なことがあるものですね。

 タロウさんは異世界? 何処か他の国から来たようですが…。

 来るなり、この大陸の言葉を完璧に使いこなせるようになるなんて。

 習いもしてないのに。」


 タロウの話を聞いて、ウレシノはまた首を傾げていたよ。

 すると、ウレシノはハッとした表情を見せ。


「そう言えば、マロン様、先程のお話。

 初めて文字を認識したのは能力値を見た時と仰いましたが。

 その能力値とは何でございますか?」


 そう言えば、以前冒険者ギルドで聞いたことがあったよ。

 オードゥラ大陸の人は『スキルの実』を食べてもスキルが生えないと。

 それ以前に、能力値を見ることが出来ないって。


 おいらは、能力値の説明をして見方を教えてあげたの。


「うーん、何も頭に浮かびませんね…。

 その能力値と言うものが、言語理解に何らかの関りが有るかと思ったのですが。」


 やはり、ウレシノも能力値を見ることが出来なかったよ。

 それで、おいら、一つ確認してみることにしたんだ。

 ギルドの職員からそのことを聞いた時から疑問に思っていたことを。


「何ですか、これは? 金貨?

 ヌル王国では、金貨なんて大商人が大口の取引にしか使いませんが…。」


 おいらが『生命の欠片』を積み上げると、一枚手に取ったウレシノが呟いたの。

 この大陸に金貨は無いけど、オードゥラ大陸では希少貨幣として一応流通しているらしい。

 『積載庫』中を確認したらちゃんとあったよ、百万枚ほど。


「それ、金貨じゃないんだ。

 この大陸では金は殆ど採れなくて。

 宝飾品に使うのがやっとなの。

 その山に手を置いて、体の中に取り込むイメージを描いてみて。」


 おいらの指示通り、ウレシノは『生命の欠片』の山に手を置くと静かに目を閉じたよ。

 そして、言われた通りにイメージしているようだった。


「何も変わらないね…。」


「おう、そうだな。

 異世界人の俺にも取り込めたのに。

 何で同じ世界の人間が取り込めないんだ?」


 そう言って、おいらに返答を求めるタロウ。 いや、知りたいのはおいらだって…。


「何か、私がお気に召さないことをしましたか?」


 おいらとタロウの会話を聞いてウレシノが怪訝そうに尋ねてきたの。


「ああ、ウレシノは何も悪くないから気にしないで。

 じゃあ、タロウ、急に呼出しちゃったお詫びにそれ取っておいて。

 ウレシノにそれの使い方を見せてあげて。」


「悪いな、こんなにもらっちまって。

 有り難く、頂戴しておくぜ。」


 その山はレベル十相当で、レベル四十越えのタロウには端数程度なんだけど。

 それでも労せずに手に入るのは嬉しいようで、上機嫌に手を添えたの。


 何時ものように、『生命の欠片』はタロウに吸い込まれるようにして消えたよ…。


「おっ、久し振りに鐘の音を聞いたぜ。

 この前の休みにトアール国へ帰った時、派手にワイバーンを狩っただろう。

 あの時、もう少しで上がりそうになっていたんだ。

 こんなところで、二万枚も貰えてラッキーだったぜ。」


 どうやら、レベルアップ寸前になってたようだね。

 トアール国でエロスキー子爵邸へ踏み込んだ時に、ワイバーンを沢山狩ったから。


 目の前の『生命の欠片』が突然消えたものだから、ウレシノが目を丸くしていたよ。


「ええっと…。

 もしかして、タロウさんも、アルト様から授かっているのですか?

 マロン陛下と同じ、『不思議な空間』を。」


 ウレシノはタロウが『積載庫』にしまったのだと思ったらしい。

 タロウは、おいらに向かって無言で問い掛けていたよ。

 レベルの説明をしちゃって良いのかって。

お読み頂き有り難うございます。

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