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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
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第592話 こいつ、何か妙なことを言ってるよ…

 それはオードゥラ大陸から戻って来て間もない時のこと。

 おいら達の側で働いてもらうことにしたウレシノが妙なことを言っていたんだ。


「ミンメイ様って天才ですか、あのお歳で私達の言葉が理解できるなんて。

 いえ、耳長族って私達普通の人間の四倍くらい生きるのでしたっけ。

 あの見た目で実は、十四、五歳とか?」


 いや、それじゃ、妹とは呼べないよ。おいらより年上になっちゃうじゃない。

 

「ミンメイは見た目通り、今三つだよ。

 耳長族はお年頃になるまでは、人と変わらない成長速度らしいよ。

 でも何でそんなことを聞くの?

 ミンメイって年相応で、片言の言葉しか喋れないでしょう。」


 アルトの話では耳長族は繫殖力が弱いから、子供を産める年齢が長く続くらしいんだ。

 幼少期の成長は人族と変わらず、十二、三歳から歳をとるのが遅くなるんだって。

 それは知能の発達面でも変わらず、三歳児は三歳児なりの知能しか無いの。

 だから、ミンメイは、今でも片言で簡単な言葉しか話せないよ。

 何で、天才だなんて感想を持ったのか不思議だよ。


「いえ、ミンメイ様はヌル王国語を理解しておられるようで。

 片言のヌル王国語でお話ししてくださるのです。

 おかげで、私はとても助かっています。

 私、まだ、この国の言葉が理解できないものですから…。」


「はっ?」


 ウレシノが意味不明な事を口にしたもんだから、おいら、マヌケな問い返しをしちゃったよ。

 何、ヌル王国語とか、この国の言葉とか?


「ウレシノ、こうしておいらと普通に話しているじゃない。

 おいらが書いた文書もちゃんと理解しているし。

 ウレシノの報告書もちゃんと読めるよ。」


「ええそれは、マロン様が私達に気遣ってヌル王国語でお話してくださるから。

 マロン様は何方からヌル王国語を学ばれたのですか?

 とても流暢で、ネイティブかと錯覚してしまいます。」


「へっ?」


 余りに予想外の返答だったので、またマヌケな声を出しちゃったよ。


「いえ、私もマロン様に召し抱えられた当初は言葉が共通なのかと思っていたのです。

 マロン様に付き従っていた方々が皆さんヌル王国語で話されていたので…。」


 ウレシノがそのことに気付いたのは、この街で暮らし始めて直ぐのことらしい。

 貴族に叙したウレシノとスルガの二人には、それぞれ元々男爵のものだった屋敷を下賜したんだ。

 私財没収、お家取り潰しとした貴族の家だったため、家財道具はそのまま残っていたけど。

 やはり、生活を始めるに当たっては、色々と買い揃えないといけない物品が有るからね。

 その日、ウレシノは、妹のカラツと一緒に街に買い物に出たそうなの。


        **********


「マロン陛下って太っ腹だね。

 身の回りの物を揃えなさいって。

 あんなに沢山の銀貨を下さるのだもの。

 しかも、そのための休みまで頂けて。」


「そうね、幾ら家財付きの屋敷だと言っても。

 見も知らない人が使っていたシーツまで使う気はしないものね。

 下着なんかも買い揃えないとね。

 カラツ、休暇は長くないから、必要な物は今日中に買い揃えるわよ。」


 そんな会話をしながら意気揚々と二人は街に繰り出したそうだよ。

 褒め言葉なのは理解しているけど、乙女に対して『太っ腹』は無いと思うな。

 おいら、デブじゃ無いもん。


「凄いね、お姉ちゃん、立派な王都。

 この大陸は大砲も造れない文明の遅れた土地だなんて。

 ヌル王国では聞かされていたけど。

 とても清潔で賑やかな街じゃない。

 食べ物もヌル王国よりずっと美味しいよ。」


「そうね、パンなんてあんなにフワフワで、バターもたっぷり使ってる。

 あんな美味しいパン、ヌル王国じゃ食べられなかったわ。

 それも驚くことに、庶民でも普通にあのパンを食べているのだもの。

 この国は本当に豊かだわ。

 マロン陛下のお言葉の通りだったわね。

 強い武器が造れるから、文明が進んでいる訳じゃないって。

 この大陸は戦争が無いから、武器が遅れているだけだと。」


 二人はこの街の賑わいに感心しつつ、貴族街から歩いて繁華街に向かったらしい。

 ウレシノの話ではその日初めて王都の中を自分の足で歩いたそうだけど。


 その途中、街に汚物が落ちていないことに感心したらしいよ。

 ヌル王国ではこの街のようにトイレや下水が整備されていないそうで。

 街のあちらこちらに排泄物が放置されているそうなんだ。


 そういえば、屋敷のトイレがとてもきれいで、悪臭がしないと感心してたよ。

 どうやら、まだスライムのことは知らないらしい。


 それはともかく、二人が繁華街にやってくると…。


「なに、これ? 文字が読めないよ。

 ヌル王国の文字と全然違うじゃない。

 どうしようお姉ちゃん、これじゃ、何の店か分からない…。」


 店に掛けられた看板の文字が読めなかったそうなんだ。

 カラツが最初にそのことに気付いたらしいの。


「あちゃ、失敗したわ。

 マロン陛下や周りの人達が、普通にヌル王国語を話しているから。

 てっきり、言葉が共通なのかと思ってたわ。」


 これにはしっかり者のウレシノも虚を突かれたみたい。


「そう言えばそうだね。

 オードゥラ大陸の中だけだって、国によって言葉が違うんだもの。

 海の彼方のこの国で同じ言葉を話しているはずないよね。」


 カラツはメイド修行の中で、アイン語やツバイ語に手を焼いていたらしいよ。

 工作メイドは他国にも潜入するんで、流暢に話せるようになるまで厳しく仕込まれるらしいの。

 なので、遠く離れたこの国で言葉が同じはずないと気付くべきだったって。


 二人が店の看板も読めずに途方に暮れていると…。


「あら、あなた、マロンちゃんの処に雇われた…。

 確か、ウレシノさんだっけ?

 隣りに居るのは妹さんだよね。

 今日はお買い物かしら、下着が必要なら是非見て行って。

 この店、入り難いよね。敷居が高い感じがして。」


 そう言ってシフォン姉ちゃんが顔を出したそうなの。

 シフォン姉ちゃん、店の構えが立派過ぎて二人が入るのを躊躇していると誤解したみたい。


 雇い入れたメイド達は、着の身着のままでノノウ一族の屋敷を焼け出されたからね。

 ヌル王国で雇い入れた時に、シフォン姉ちゃんのお店の下着を何枚ずつか支給したのだけど。

 当然、それだけでは足りないために、その日買い足そうと思っていたそうなの。

 タイミング良くシフォン姉ちゃんが声を掛けてくれて助かったって。


 二人は、シフォン姉ちゃんの店で下着や夜着を買い揃えることにしたそうだよ。

 品物を選んでいる途中に、身の回りのモノを色々買い揃えるつもりだと話したそうなの。

 そしてウレシノが、この国の文字を読めないことを言おうとした時。


「今日中に生活に必要な細々としたモノを買い揃えたいの?

 この街結構大きいから、当てもなく探して歩くのは大変よ。

 何を売ってるのか分からないお店や商店に見えない店構えの建物もあるから。

 そうだ、こんなにたくさん買ってもらったお礼に、街を案内しようか。」


 皆まで言う前に、シフォン姉ちゃんはそんな提案したんだって。

 シフォン姉ちゃんもこの街に来て二年足らずだけど。

 商売をしていたら街の事情には詳しくなったし、色々顔が利くようになったからと。

 

      **********


 ウレシノ達はシフォン姉ちゃんの言葉に甘えることにしたそうなの。

 最初は、仕事中のシフォン姉ちゃんの時間を取ったら申し訳ないと辞退したそうなんだけど。

 人懐っこいシフォン姉ちゃんに押し切られたらしいの。


「シフォンさんの言葉通り、買いたい物を売っている店を効率的に回れましたし。

 何よりも、シフォンさんの口利きでかなりの値引きをして頂けたので助かりました。

 ですが、シフォンさんとお店の方の会話が理解できなかったのです。

 どうやら、この国の言葉で話されているようで…。」


 この日、シフォン姉ちゃんの案内で欲しい物は全て買うことが出来たらしいの。

 シフォン姉ちゃんが上手に値切り交渉をしたので、大分安く買えたらしいよ。


 ただ、シフォン姉ちゃんが一方的にポルトゥスの紹介やお店の良し悪しなんかを話すものだから。

 ウレシノ姉妹が気になっていた言葉のことを相談する機会が無かったらしいんだ。

 確かに、シフォン姉ちゃんも、人の話しを聞かないところがあるからね…。


「その時は、シフォンさんのことをとても感心しました。

 流石、女王陛下御用達の仕立て屋さんだけのことはあるなと。

 マロン陛下のお側に居る方は何か国語も流暢に話せるのですもの。」


 街を回っている間、シフォン姉ちゃんは異国の交易商に声を掛けられたんだった。

 明らかに別の言語で話し掛けられているのに、流暢に会話していたそうなんだ。


 おいら、訳が分からなかったよ。

 だって…。


「さっきから話を聞いていて不思議だったのだけど。

 おいらにはウレシノの話す言葉も、父ちゃんの話す言葉も同じに聞こえるよ。

 そもそも、おいら、他の国の言葉なんて習ったこと無いし。

 なんなら、自国の言葉すら習ったこと無いもん。

 しいて言えば、小さい頃父ちゃんから話し方を教えてもらったくらいかな。」


 おいらの言葉を聞いて、ウレシノは目を丸くしていたよ。

 そもそも、オードゥラ大陸とはムルティの結界で隔てられていたんだよ。

 漂着する事が奇跡みたいなものなのに、ヌル王国の言葉を教えてくれる人なんている訳ないじゃん。


「でも、マロン陛下、ヌル王国語の文章を読めましたよね。

 文字が全くと言って良いくらい違うのに…。

 ご自分でも書かれていたし。

 ヌル王国では識字率は五割以下だと聞いてますし。

 流石に、文字は習わないと読み書きできないのでは?」


「へっ?」


 ウレシノがあまりに突飛な事を言うものだから…。

 おいら、また、マヌケな声を上げちゃったよ。


 だって、おいら、文字なんて習ったことないもの。

 あれって、物心つく頃に自然に読み書き出来るようになるんじゃないの?

お読み頂き有り難うございます。

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