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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
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第577話 王都ローティーは大混乱だったよ

 おりしも夕暮れ時となったヌル王国の王都ローティー。

 街の飯屋や飲み屋には明かりが灯り、広場では食べ物の屋台が並んでいたよ。

 きっと普段なら、仕事を終えた人達が一杯ひっかけて一日の疲れを癒しているんだろうけど…。


 今晩ばかりはそうもいかないようで…。


「何だ、お前らは! こら、勝手に食うんじゃねえ!

 これは売り物だぞ!」


 パンに肉と野菜の炒め物を挟んで売っていた屋台が、三匹のサルに襲われて商品を奪われていたよ。

 勿論、サルと言っても本物の猿じゃなくて、王宮前広場から逃げ出した貴族の子弟たちだよ。

 もはや、本能の赴くままに行動するサル以外の何ものでもないけどね…。


「タロウ、あれお願い。」


 おいらがサル退治をお願いすると。


「まったく、人使いが荒いな…。

 行って来るけど、嫁さん三人のことは頼んだぞ。

 サルが襲って来たらちゃんと護ってくれよ。」


 タロウは不満気に見えたけど。


「任せておくのじゃ。

 タロウの夫人に不埒を働くような輩は私がとっちめてやるのじゃ。」


 オランの返事を受けて、タロウは渋々屋台の方へ向かって行ったよ。


「ほら、このバカ共、街の人に迷惑を掛けるんじゃねえ。」


 タロウが、不意打ち的に屋台の商品を貪るサルの一匹を後ろから殴り倒すと。


「「ウキー!」」


 残りの二匹が怒りに任せてタロウに襲い掛かって来たんだ。

 まっ、それも瞬殺だったけどね。


        **********


 サル三匹を倒したタロウが、屋台のご主人に怪我が無いかを訪ねると。


「おう、兄ちゃん、助かったぜ。

 兄ちゃん、見かけによらず強ええな。

 それにしても、こいつら、いったい…。

 見た目は人間みてえだが、やってることはサルみてえだ。」


 タロウの足元に転がるサル共を見てご主人が言ってたよ。

 幸い、サル達は餌を漁るのに夢中で、ご主人に危害を加えることは無かったみたい。


「こいつ等か?

 一応この国の貴族の子弟だぞ、三人共。」


「これが貴族だって? なんかの間違いじゃないのか?」


「いや、こいつ等、俺が住む国に攻め入って来たんだ。

 返り討ちに遭って、キツイお仕置きをされたらこうなっちまった。

 まあ、絶対に怒らせてはいけない連中を怒らせた報いだな。」


「ほう、向かうところ敵無しだなんて、でかい面してたうちの軍が敗けたか。

 いつも威張り散らしておいて、このザマとは良い恥晒しだな。

 屋台を無茶苦茶にされた腹いせに仲間に言い触らしてやるぜ。」


 この国でも、貴族って連中は民から良い印象を持たれていないようで。

 タロウの話を聞いたご主人は貴族の子弟が晒した醜態を周囲に吹聴すると言ってたよ。


 屋台のご主人とタロウの会話に聞き耳を立てていると…。


 バーン!と乱暴に扉が開かれる音がして、ゴロゴロと何人ものサル共が転がり出て来たよ。


「バカ野郎! 一昨日来やがれ!

 うちは、パンツ一丁で金も持たずに来る奴はお断りだぜ!」


 包丁を手にした恰幅の良いオヤジさんが、サル達を撃退していたよ。


「流石、ブイガン亭のオヤジだぜ。

 若い頃、ショーリンジ地方に料理の修行に行ってただけのことはある。」


 すると、タロウと会話していた屋台の主人がそんな言葉を口にして感心してたの。


「いや、料理の修行、関係ないだろう。」


「ああ、あんた、他所の国から来たと言ってたか。

 ショーリンジ地方で料理の修行をすると、素手でクマを絞めることが出来るようになるんだ。」


 何でも、山深い地方でクマやイノシシの料理が美味しいと評判らしいよ。

 自分の食材は自分で調達するのがその地方の料理人の流儀らしく。

 料理人の見習いはクマやイノシシを素手で捕まえるところから修行が始まるらしい。

 野生のクマを素手で仕留められるようになって、やっと料理の修行に入れるみたい。

 十年も修行すると、誰もが筋骨隆々の人間兵器みたいになるんだって。


 そりゃ、この国の軍属じゃ相手にならないね。

 鉄砲でしか戦ったことが無く、肉弾戦の訓練すらしてないらしいから。


 広場を見ていると、他にも用心棒らしき武骨な兄ちゃんに撃退されているサル共もいたよ。


      **********


 かと思えば…。


「プーアル様、乱暴はおやめください。

 御父上のところへ帰りましょう。

 こんな下賤の食べ物など口にしなくても。

 伯爵家に戻れば、豪勢な食事を満足のいくまで堪能できますぞ。」


 一軒の食事処から転がり出て来た銃騎士達が、ボロボロの格好で店の中に呼び掛けていたよ。

 こちらは、食事処を襲撃したサル共を捕縛しようとして返り討ちに遭ったようだね。


「ウキー!」


 すると店の中から出て来たサル山のボスが銃騎士達を威嚇してたよ。

 サル山のボスこと、プーアル伯爵の息子は、骨付きのロースト肉を齧りながら雄叫びを上げてたの。


「おい、どうする?

 おまえ、鉄パイプかなんか持ってきてあいつを殴り倒したらどうだ?」


「俺にやれってか?

 嫌だよ、サルみたいになっちまってるけど、プーアル大将軍のご子息だぞ。

 鉄パイプなんかで殴ったら、後でどんな処分に遭うか分かったもんじゃねえ。

 やるなら、お前がやれば良いじゃないか。」


 どうやら、相手がプーアル伯爵の息子なので全力で捕縛することを躊躇っているらしい。


 仕方がないから、おいらが取り押さえることにするよ。

 こいつ等を野放しにした責任の一端はおいらにもあるからね。


「こら、サル! 大人しくしないとお仕置きするよ!

 もう、十分食べて気が済んだでしょう。」


 おいらがボスザルに近付いて警告すると。


「ウキー!」


 ボスザルはおいらを敵認定して襲い掛かって来たんだ。


「大人しくしろって言っているでしょう!

 せっかく五体満足で返してあげたのに、怪我をすること無いでしょうに。」


 まあ、言って聞かないなら痛い目を見るしか無いのだけどね。

 おいらは、掴みかって来たボスザルの手を払うと同時に、足払いを掛けて転がしたの。

 おいらとしては軽く払ったつもりだけど、きっちり『クリティカル』が働いてくれてね。

 ボスザルの手首、足首を粉砕しちゃった。

 踏ん張りの利かなくなったボスザルは、襲い掛かって来た勢いのまま地面に倒れ込んだの。

 広場の地面は石畳となってるから、もの凄く痛そうだったよ。


「すげえ、あの娘、我が軍屈指の猛者を一撃で沈めちまったぜ…。」


「でも良いのか、大怪我をさせちまって?

 あれプーアル大将軍のご子息だぜ。」


 銃騎士達がそんなことを言ってるけど無視だよ。

 街の食事処を襲撃して食べ物を強奪してるんだもの、このくらい当然の報いだよ。

 

        **********


 この国の銃器騎士も、ボスザルを相手に手をこまねいていた腰抜けばかりではないようで。

 食事処や酒場に押し入ったサル共を次々の捕縛して行ったよ。


 ただ…。


「きゃー!やめてー、何するのよー!

 こら、脱がすんじゃない!」


 若い娘さんが目の前でサル共に襲われているのに、何故か捕縛しようとしない銃騎士達も居たの。

 ニヤけた顔で呑気に見物しているんだ。

 それどころか、「そこだ!一気に()っちまえ!」とか言ってサル共を声援しているけしからん奴までいたよ。


 しかし、何故だろう?

 娘さんを襲撃しているサルって、不思議なことに全員が履いていたはずのパンツを脱ぎ棄てているんだ。

 もしかして、パンツすら邪魔になるくらいサルになり切っちゃったのかな?


「ウレシノ、スルガ、あの娘さんを助けてあげて!」


「はい、お任せを!」


 広場のあちこちで娘さんが襲われているんで、護衛騎士だけでは手が足りなくなったよ。

 なので、元工作メイド達も動員したんだけど


「はい、は~い、オイタは駄目ですよ~。」


 流石、体術や暗殺術の訓練を受けているだけのことはあったよ。

 工作メイド達は手慣れた様子でサル達をあっと言うに締め落して回ったの。


「何方か存じ上げませんが、有り難うございました。

 何処の馬の骨とも分からない変態に、危うく純潔を奪われるところでした。」


 余程怖かったのか助けられた娘さんは、感謝の言葉と共にウレシノにガバッと抱き付いたよ。

 おいら達は無事で良かったと安堵していたんだけど。


「チッ、もう少しで生娘の本番ショーが見られるところだったのに…。」


 何か、不機嫌なそうな声が現場に居た銃騎士から聞こえて来たんだ。

 言ってる意味が分からなかったけど、こいつらなんかムカつく。

 娘さんが襲われているのに助けに入らなかったし。


 こいつ等、職務怠慢で宰相に突き出してやろうか…。

 そんなことを考えていると、また悲鳴が聞こえて来たんだ。


 腹は立つけど、こいつ等に構っている場合じゃなかったの。

 この晩、解き放たれたサル共が暴れまくって、王都は大混乱だったよ。

お読み頂き有り難うございます。

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