第572話 親娘の再会は、全然感動的じゃなかった…
王族以外立ち入り禁止区画にある事で、安心しきってますから。
その男って頭を使う仕事が嫌いで、書斎など使わないでしょう。
書斎に保管してある極秘書類、全て見放題でしたよ。」
極秘中の極秘事項であるノノウ島やシラカワの里に関する情報は、厳重に施錠された金庫に保管されていたそうだけど。
金庫の鍵と二重錠の役割をしているダイヤル番号をメモした紙、それを一緒にして机の一番上の引き出しに入れてあったそうなんだ。
せっかく厳重に施錠されているのに台無しだって、ジャスミン姉ちゃんは嘲笑っていたよ。
「しかし、何でまたジャスミン様はそのようなモノに目を通しておられたのですか?
失礼ながら女性のジャスミン様が読まれても、余り楽しいものとは思えないのですが。」
「えっ、私、その男の変態趣味に従って政略結婚の駒などに使われたくないですもの。
王族に生まれたからには、政略結婚も仕方が無いとは理解していますが。
ノノウ一族を使って、無理やりにでも私が産んだ子供を王位に就けようなんて。
そんな悪事に加担するなんて虫酸が走りますわ。
と言うことで、隙を見て他国へ亡命するつもりだったの。
国の極秘情報を餌にしてね。」
まあ、王家の乗っ取りの駒なんて気が乗らないよね。
しかも、ジャスミン姉ちゃんが子を成すことが出来ない場合は、殺して身代わりを立てる計画まで立てているんだもの。
それを知っていれば、こんな国、愛想を尽かすのも無理ないと思うよ。
宰相は、ジャスミン姉ちゃんの話を聞いて、何とも言えない微妙な顔つきになったよ。
そして…。
「陛下、これはアルト様のおっしゃる通り身から出た錆ですな。
日頃から悪趣味なことをしているから、王女に愛想を尽かされるのです。
まあそれ以前に、書斎の施錠を怠るとか、金庫の鍵を放置するとかは問題外ですな…。」
宰相はダージリン王に軽蔑の視線を向けていたよ。もう、何度目かのため息を漏らしてた。
「何を言っておるのだ。
無垢な生娘を無理やり犯して、孕ませることこそ男子の本懐だろうが。
そして、死ぬまでそれをやり通すのが王者の振る舞いぞ。
属国の姫に儂の子供を産ませ、その子供を属国の玉座に座らせる。
この世界の津々浦々まで、儂の血脈が支配者として君臨するのだ。」
ホント、悪趣味…。まあ、今日でその野望も途絶えたけどね。
「陛下…。
その海賊のような考えは改めるようにと、常々申し上げているでは無いですか。
陛下が、そのような無法者同然のことを公言するものですから。
我が国は、何時まで経っても海賊の末裔と周囲の国から嘲笑されるのですよ。
ここまで国が大きくなったからには、少しは品性と言うものを高めませんと。」
宰相が王様を諫めると。
「海賊の末裔の何処に恥じるところがあるんだ。
東に金銀財宝が有れば奪いに行き、西に美女が居れば犯しに行く。
そして、南に肥沃な大地があれば食い物を奪う。
何処の国でもやっていることであろう、別に海賊でなくても。」
いや、何処の蛮族の国だよ、それ。この大陸ってそんな野蛮な国ばかりなのかな?
「ねえ、宰相さん。
この国では子供に教えないの? 泥棒はしちゃいけないことなんだって。」
まんま盗賊のセリフなんだもの、王様の言ってることって。
もしかしたら、この国では泥棒を推奨しているんじゃないかと疑っちゃうよ。
「面目次第もございません。
我が国でも当然盗みは犯罪ですし。
盗みはいけないことだと、親も子供にちゃんと躾けているはずです。
ですが陛下は、国家による略奪を盗みとは思っていないようなのです。
個人と国家は違うと考えていると言うか…。
いえ、陛下の場合は単に海賊気質が抜けてないだけですね。」
ダージリン王のセリフに、仮にも王が口にして良い言葉じゃないと宰相も呆れてた。
「まあ、良いわ。
この愚王は言っても分からないようだし。
これからは、奪われる立場になるのだから。
今まで、自分がどんなことをしてきたのか、その身をもって知れば良いでしょ。」
王様の言葉に呆れたアルトが冷たく言い放つと。
「そうですな。
事ここに及んで、まだ、このような暴言を吐けるとは。
我が王ながら、感心してしまいます。
これは、何度かご自身で痛い目を見た方が良いのでしょうね。」
宰相もアルトの言葉に相槌を入れてたよ。
そうだよね、さっきこの国が置かれている状況を理解して落ち込んでいたのに。
性懲りも無くあんなことを言ってるんだもの、一度近隣諸国から袋叩きに遭った方が良いのかも知れないね。
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