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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
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第537話 最短距離で飛ぶなら、そこだよね…

 ヌル王国の襲撃を受けてから十日後。

 当初の予定通り、おいら達はサニアール国解放へ向けて出発することになったんだ。

 先祖返りしたサルが入った檻を回収し、準備万端さあ出発となり…。


「何で、俺がヌル王国なんて物騒なところへ行かないとならないんだよ。

 これは、国と国の揉め事だろう。

 俺は民間人だぞ。毎回毎回ドンパチに巻き込むんじゃねえよ。

 俺はチキンだから、荒事は苦手だっていつも言っているだろうが。」


 ひまわり会に迎えに行くと、タロウは行きたくないと渋ったんだ。


「あんた、私との誓いをもう忘れたの?

 命に代えても、マロンを護ると誓ったでしょう。

 今回、相手は飛び道具を使ってくるのよ。

 潔く弾避けになりなさいよ。」


 そう言えば、辺境の町がスタンピードに襲われた時にそんな誓いを立ててたね。

 タロウに『生命の欠片』を分け与え、『妖精の剣』を貸し与える条件として。


「うっ、それは、そうだが…。

 あの時とは状況が違うだろうが。

 あの時のマロンは身寄りのない孤児だったから。

 俺が護る意味もあったかもしれねえが。

 今は、この国の女王で専属の護衛が付いているんだぞ。

 俺よりもずっと強い護衛がよ。」


「何言っているのよ、万が一と言う事があるでしょう。

 枯れ木も山の賑わいって言うじゃない。

 あんただって、居たら居たで弾避けくらいの役には立つでしょう。

 つべこべ言ってないで、さっさと支度なさい。

 誓いを違えると言うのなら…。」


「分かった、分かったから…。

 頼む、その物騒な物を仕舞ってくれよ。」


 アルトの傍らに浮かんだ禍々しい光の玉に、タロウは顔面蒼白にして首を縦に振ってたよ。


「連れてくなら連れてくで、せめて前もって言ってくれよ。

 急について来いって言われても困るぞ。

 今回、俺は戦力外だと思っていたから何の準備もしてねえんだ。

 『ゴム』に『木炭』に『泉の水』。

 これから半年分補充しないと出掛けられないぞ。」 


 あっ、そっか、おいら、最初からタロウを頭数に入れてたから、何も言ってなかったよ。


「全く、もう出掛けようって時になって困った子ね 

 良いわ、その三つ、今回は特別にタダで分けてあげる。

 四ヶ月で帰ってくるつもりだけど、念のため半年分置いていくわね。」


 困った子ねと言いつつ、アルトも何も知らせてなかったことに気付いたのか。

 いつになく大盤振る舞いだったよ。

 それからすぐに、ひまわり会の倉庫を満杯にしてくれたんだ。


「シフォンに、カヌレ、それにミラベルまで…。

 おい、お前ら、俺がヌル王国まで行くって知ってたのか?」


 アルトの積載庫、『特別席』に入るとそこにはシフォン姉ちゃん達三人が寛いでいたんだ。

 タロウが行くことは今決まったのに、何で三人がいるのかと尋ねたんだ。


「えっ?

 今朝、アルト様がいらしてヌル王国へ行くから一緒に来ないかって誘われたの。

 てっきり、タロウ君は最初から頭数に入っているのかと思っていたんだけど…。

 まあ、良いんじゃない。

 海の向こうに行けるなんて、そうそうあることじゃないし。」


 シフォン姉ちゃん達も今朝誘われたみたいだけど、何の躊躇いも無く誘いに乗ったらしい。

 ヌル王国では荒事になるかもと、タロウは三人を連れて行くことに不安を感じていたようだけど。

 シフォン姉ちゃん、全然気にしてない様子だったよ。 


       **********


 その後、港でオードゥラ大陸との交易を始めようとしてる商船隊を収容すると。

 アルトはサニアール国へ向かって飛び立ったんだ。


「何やら、妖精さんは陸の上を飛んでいるようですが…。」


 ポルトゥスを出発して間もなく、シナモン王女が窓の外を見てそんな呟きを漏らしたの。


「そうだよ、アルトはハムンの街まで最短距離で行くって言ってたよ。

 直線で大陸を横切って進むって。

 空を飛ぶなら、何も海岸線に沿って進む必要は無いでしょう。」


「はぁ…、ですが、ウエニアール国と我が国の間には…。」


 おいらの返答を聞き、シナモン王女は浮かない顔をしてたよ。

 何か気掛かりなことでもあるのかと思っていると。


 それからしばらくして…。


「キャッ!」


 気弱なカルダモン王女が、怯えた表情で小さな悲鳴を上げたんだ。


「何あれ? 蛇に翅が生えているの?

 アハハ、何かキモい!」


 シフォン姉ちゃんはちっとも怯えることも無く、窓の外を飛ぶギーヴルを指差して笑ってたよ。

 ギーヴルはレベル四十以上ある攻撃的な魔物、本来なら笑って見てる場合じゃないんだけど。

 シフォン姉ちゃんは、ここが安全だと分かっているので呑気に構えているんだね。


「やはり、ここは魔物の領域…。

 人の手に負えない獰猛な魔物が闊歩していると聞いています。

 ハムンの街まで最短距離で飛ぶと伺った時、よもやと思いましたが。

 こんな所を飛んで、無事にハムンに辿り着けるのでしょうか。」


 どうやら、シナモン王女は進路上に存在する魔物の領域のことを不安に思っていたようだね。

 おいら、魔物の領域は何度も来ているから、シナモン王女が何を心配してるか全然気付かなかったよ。

 …慣れって怖いね。


「多分、問題ないと思うよ。

 アルト、魔物の領域へは何度も来ているし。」


「キャアーーーー!」


 おいらがシナモン王女の不安を解消しようと話し始めたところで、カルダモン王女の悲鳴が響き。

 カルダモン王女はシナモン王女に抱き付いたの。


 何事かと、窓の外を見ると…。

 二本の鋭い毒牙を露わにし、赤く長い舌をチロチロと伸ばしながらギーヴルがアルトを飲み込もうをしてたの。

 次の瞬間、光の玉がギーヴルの口に中に放り込まれたと思うと、その大きな頭が弾け飛んだよ。

 そして、パッと姿を消したギーヴルの巨体。アルトが『生命の欠片』を回収するため積載庫に収めたみたい。


「あら、巨大な魔物が消え失せた…。」


「ほら、アルトに掛かれば獰猛な魔物も瞬殺だよ。

 あんな感じで、襲って来る魔物は撃退しながら進むと思うから安心して。」


「妖精さんの力って、想像を絶するものですね。

 人知の及ばぬ存在とは聞いていましたが…。

 実際に目にするのは、生まれて初めてでして。」


 アルトの能力に改めて驚愕したシナモン王女だけど。

 その力を目にして、魔物の領域を行くことに対する不安が少し薄れた様子だった。

 それまでの強張った表情から緊張感が取れて、やっと寛ぐことができたみたい。


「あら、あら、おそろしいバケモノがいっぱいですね。

 この大陸には、あのような怖ろし気な怪物が沢山生息しているのね。」


 ジャスミン姉ちゃんは、外の様子をみてそんな呟きを零していたよ。

 例によってにこやかな表情で、全然怖そうな素振りは見せてなかった。


「ここは、この大陸に幾つかある魔物の領域の一つ。

 狂暴な魔物が沢山生息していて、人の立ち入りを拒んでいるんだ。

 今、アルトが倒したギーヴルだって、襲われたら小さな村なんて一溜りもないよ。

 この大陸に国と国の争いが無いのは、危険な魔物がいるからだと思う。

 魔物から国を護らないといけないから、人同士で争っている場合じゃないんだ。」


 加えて、国と国の間には大なり小なり魔物の領域が存在するから進攻なんて出来ないよ。


「そうですわね、あんなバケモノが人里を襲うのであれば。

 戦争なんてしている場合じゃ、ありませんね。

 それにこうして眺めていると、巨大な魔物や素早い魔物がたくさん。

 これでは、ヌル王国ご自慢の大砲や鉄砲も役立たずですわね。」


 会話を交わすうちにも何匹ものギーヴルの襲撃があり、その都度アルトが瞬殺してたの。

 上空から凄い速さで襲って来るギーヴルを目にして、ジャスミン姉ちゃんが言ってたよ。

 ギーヴルみたいな高速で動き回る魔物に、玉を当てるのは無理だって。


 すると。


「まあ、あの様子じゃ、鉄砲と言ってもどうせ火縄銃だろう。

 火縄銃なんて撃ち損じたら、次に撃つまで時間が掛かるし。

 奴ら、真上から急降下で噛み付いて来るから。

 当て難い上に、次の攻撃に時間が掛かるんじゃ。

 あっという間に、奴らの腹の中だろうな。」


 タロウが、ジャスミン姉ちゃんに相槌を打つような事を言ったんだ。

 その時、一休みするつもりなのか、アルトがおいら達の部屋に入って来て。


「そう言えば、タロウ。

 あんた、あの時にすぐに大砲の攻撃だと気付いたじゃない。

 『にっぽん』とかいう国でも、鉄砲や大砲を使っているかしら?」

 

 あの時って言うのは、最初にヌル王国の船団が攻撃して来た時のことだよね。

 船の側面に白い煙が見えた時、タロウはすぐに大砲の攻撃だと気付いて慌ててたよ。

 大砲の玉がギリギリ陸に届くくらいだと判ると、大したこと無いとか言ってたし。


 アルトの問い掛けに、タロウは自分は武器マニアじゃねえから詳しく無いぞと言いつつ。


「使ってるには、使ってるようだが、あれは随分な骨とう品だな…。

 あの手の大砲や鉄砲を使っていたのは、五百年くらい前のことだぜ。

 もっとも日本じゃ、百五十年前までは似たようなもんだったみたいだが。」


「あら、あら、ヌル王国が誇る新兵器も形無しですわね。

 五百年前の骨とう品だなんて。

 やはり、狂犬のように誰彼かまわずに噛み付くものではございませんね。

 そちらの殿方の故郷に喧嘩を売ったら、きっと手酷い目に遭いますわ。」


 ジャスミン姉ちゃん、タロウの言葉を聞いて面白そうに笑っていたよ。

 鉄砲・大砲という新兵器を手にして調子付いている自国を苦々しく思っている様子だからね。

 狂犬のようだなんて酷評してるし…。


「ねえ、タロウ、あの鉄砲や大砲にどう対処するのが一番だと思う?」


「うん? マロン、お前、大砲の玉を不思議空間に仕舞ってたじゃないか。

 また、ああすりゃ良いんじゃないか。

 鉄砲の玉だって、どうせ同じように仕舞えるだろう?」


「いや、いや、あれ、結構怖いんだ。

 でっかい鉄の塊が凄い勢いで飛んで来るんだもん。

 おいら、マジでちびりそうだったよ。

 出来れば、他の方法があれば良いなーって。」


「それなら、水をぶっかけてやれば良いんじゃねぇ?

 アルト姐さんが、広場で檻を丸洗いしたみたいにザバッてな。

 そうすりゃ、火薬は湿気って使いモンにならなくなるだろうし。」


 火薬って湿気ると役に立たなくなるみたいで。

 鉄砲を見かけたら問答無用で滝のような水を掛けちまえなんて、タロウは言ってたよ。

 最悪、火薬に何らかの防水がしてあっても、火縄を消してしまえば鉄砲は撃てないって。


「まあ、まあ、当然、弱点くらいはお見通しですわよね。

 アレを骨とう品と言い切るくらいですからねぇ。

 大陸の覇者なんて息巻いていても、所詮は井の中の蛙でしたわね。

 上には上があるものだと用心し、少しは謙虚な気持ちを持てば良かったのに…。」 


 ジャスミン姉ちゃんの口振りだと、タロウの言葉は的を射ているみたいだね。

 ヌル王国の王宮に乗り込んだらやってみよう、水攻め。

お読み頂き有り難うございます。

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